第212話 漆黒、神装、そして白銀




 女性陣(ウルギアを除いた)からお叱りを受けた後、円卓の席に戻った俺達は今後の意向について……つまり、【神装武具】の扱いについて話し合う事となった。


 当然の如く俺とグラファルトは”使いたい派”の人間だ。

 多少の懸念はあるが、幸いなことに俺とグラファルトは常人とはかけ離れたスペックを持っている。それに、俺とグラファルトの周囲には”六色の魔女”という、もし何かあった場合に迅速に対処できるであろう優秀な魔法使いが揃っているのだ。

 そう言った理由から、俺とグラファルトは【神装武具】を使う事に対してそこまで心配していなかった。


 しかし、そんな俺達に待ったを掛ける者達が居た。


 それはウルギアとファンカレア、そしてライナを含めた”反対派”の三人だ。

 俺達が楽観的に考えていると反論し、ウルギアは自分が制御できないスキルに不安を抱き、ファンカレアは使用後の副作用で何があるか分からないと懸念を抱き、ライナは『僕と同じ剣は使えないよ?』と二人とは別の角度で俺達を諭して来た。


 そうして二つの派閥が話し合っている間には、傍聴者であるライナを除いた”六色の魔女”達が紅茶とお茶請けのクッキーを飲み食いしながら話を聞いてくれている。


 俺達の話し合いは未だに平行線のままで、特にウルギアが猛反発していた。


「ですから、藍様に私が制御する事の出来ないスキルを使用させるわけにはいかないと、何度も説明しているではありませんか!」

「いや、制御が効かないとは言っても、要はウルギアが管理できないスキルっていうだけだろ? そもそもウルギアが制御している状況自体が特殊な訳だし、特殊だった環境が普通になるだけだから、特に問題があるとは思えないんだけど……」

「いいえ、藍様。その解釈は大きな間違いです。そもそも、私が制御できないスキルが藍様のステータス内に存在すること自体が異常なのですから。本来であれば【漆黒の略奪者】の使用も控えて頂きたいのですが……」


 うっ……左からの圧が凄い……。


「グ、グラファルトからも何か言ってくれよ……」

「藍……ウルギアの言う事にも一理あると思うぞ」

「なっ、お前何を!?」


 援護を頼もうかと思って隣を見ると、グラファルトは俺とウルギアのやり取りをニヤニヤと笑みを浮かべてそう言いだした。

 え、なに……すっごく嫌な予感がするんだけど。


「確かに、お前には既に【漆黒の略奪者】というウルギアが制御する事の出来ない特殊スキルがあるのだから、これ以上ウルギアの制御が効かない特殊スキルを増やすわけにはいかぬであろう?」

「お、お前まさか……」


 嫌な予感は的中した。

 俺がグラファルトの意図を先読みして恐る恐る呟くと、俺の呟きを聞いたグラファルトはニヤリと不敵な笑みを浮かべて高らかなに声を上げる。


「安心しろ! お前の代わりに我が思う存分【神装武具】を使う事にする!!」

「あっ! お前、裏切りやがったな!?」

「お前は皆から心配されているからなぁ~。我には【漆黒の略奪者】は扱えないし~? 何も問題はないであろう?」

「ぐぬぬ……」


 小さな体でめいいっぱいに胸を張るグラファルトは楽し気にそう言い切った。

 くそっ、腹の立つ言い方しやがって!


 そう、このままでは二人して【神装武具】を使えなくなると考えたグラファルトは、矛先が俺に向いているのを良い事に、俺を囮にして自分だけでも【神装武具】を使おうとしていたのだ。それはつまり、俺が【神装武具】を使える可能性が限りなくゼロになってしまう事を意味している。


 こうして、グラファルトのまさかの裏切りに合い、いきなり窮地に立たされてしまった俺だったが……その窮地は呆気なく終わりを迎える事となった。


「――おい、駄竜。なにを勘違いしている」

「貴様、またもや我を駄竜と……それに勘違いとはなんだ、勘違いとは!!」


 さっきまで勝ち誇った顔をしていたグラファルトだったが、ウルギアから発せられた一言でその表情を険しいものへと変えて、ウルギアを睨みつけていた。

 そんなグラファルトの威嚇にも見える形相を真っ直ぐに受け止めていたウルギアは、俺に向けていた笑顔とは全く違う冷ややかな視線をグラファルトへと送りその口を開く。


「これを勘違いと言わず何と言うのだ。確かに、私は藍様に【神装武具】と【漆黒の略奪者】の使用を控えて頂きたいと申し出たが……だからと言って、貴様が【神装武具】を使ってもいい事にはならない。寧ろ、藍様よりも貴様に使われる方が危険だ」

「なっ……何故、我の方が藍よりも危険だと言う事になるんだ!?」


 ウルギアの言葉にグラファルトは円卓を両手で強く叩きながら声を荒げる。

 その様子を俺を含めた八人が見守って居た。


「何故、だと? 貴様は貴様の持っている【白銀の暴食者】が、一体どのスキルを参考にして創られているのかを忘れたのか?」

「ッ……!!」


 ウルギアから聞かされた話の内容に、グラファルトの顔が強張る。

 聞いていた俺達の間にも、緊迫した雰囲気が流れ始めていた。


「――私の管理者権限を離れているスキルは三つある。一つは【漆黒の略奪者】、一つは【神装武具】、そしてもう一つ……」


 そう口にした後、ウルギアは腿の上に置いていた右手をゆっくりと胸辺りの高さまで上げて、俺の右隣りに立つグラファルトを指す。


――そして。

 重苦しい空気が漂う円卓の席で、ウルギアははっきりとそう言ったのだ。


「私の管理者権限を離れた三つのスキル、その最後の一つは……貴様のみが使用できる特殊スキル――【白銀の暴食者】だ」






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             明日はお休みです。


            【作者からのお願い】


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