第211話 ウルギアがやって来た④
「――私には、特殊スキル【神装武具】の管理者権限がないからです」
ウルギアから告げられた事実に、その場に居る全員が驚愕する。
「ど、どういうこと!? ウルギアちゃん……って呼ばせてもらうね? ウルギアちゃんは、【神装武具】を創ったんだよね!?」
「はい、アーシエル・レ・プリズデータ。藍様の保有している【神装武具】は、私が創り出したものです」
「それなのに、ウルギアちゃんには【神装武具】を管理する事が出来ない……?」
「はい、その通りです」
ウルギアとアーシェのやり取りを聞いていた他の面々は首を傾げる事しか出来ない。かくいう俺もその中の一人だ。
「ウルギア、管理者権限がないって言うのはどういうことなんだ?」
「はい、【神装武具】を創り出して直ぐの事です。私は【神装武具】というスキルの性質を知り、藍様に危険が及ぶ可能性がある事を知りました。先程ファンカレアが口にしていた使用者への負担の件です。ですので、その様な懸念があるスキルを藍様に使用して頂く訳にはいかないと判断した私は、直ぐにスキルを【改変】しようと試みました。ですが……その試みは、失敗に終わりました」
苦々しい表情を浮かべたウルギアは、悔しさからか膝に置いていた両手を握りしめて拳を作っていた。
「私が【改変】を行うよりも前に、いつのまにか【神装武具】の管理者権限を奪われていたのです」
「奪われていたって……一体誰に? 黒椿か?」
頭の中で真っ先に思い浮かんだのが黒椿だった。
ウルギアから管理者権限を奪える様な存在、それも俺の魂の回廊を好きに動き回れる人物なんて、黒椿くらいしか思いつかなかったからだ。
しかし、俺の質問に対してウルギアは首を左右に振って答える。
「確かに、あの精霊であればそれくらいの所業は容易く行えるでしょう。ですが、私から【神装武具】の管理者権限を奪った相手はあの精霊ではありません」
「どうしてそう言い切れるんだ? もしかして、ウルギアは管理者権限を奪った相手に心当たりがあるのか?」
「はい」
どうやら黒椿の犯行ではない様だ。
そして、犯人に関してはウルギアに心当たりがあるらしい。
その相手についてウルギアに聞いてみると、躊躇することなくウルギアは応えてくれた。
「藍様の良く知る人物……いえ、スキルだと思いますよ?」
「へ? 良く知るスキルって……おい、まさか!?」
「はい、藍様のご想像通りだと思います。私から管理者権限を奪ったのは藍様の保有スキルの一つ――【漆黒の略奪者】です」
ウルギアのその言葉に、円卓を囲んで居た全員が再び驚愕の顔を浮かべた。
【漆黒の略奪者】が……【神装武具】の管理者権限を奪った?
「つまり、【漆黒の略奪者】……プレデターが管理者権限をウルギアから奪ったって事か……」
「プレデター?」
「あれ、ウルギアはプレデターの事を知らないのか?」
「名前だけは知っています。藍様が良く精霊と話す際に口にしていたので、ですがその詳細については分かりません」
俺がそう聞いてみると、ウルギアはその首を小さく縦に振って頷いた後にそう口にした。
てっきり既に会っているものだと思ってた……黒椿からも聞いてないのか。
その後、俺はウルギアにプレデターについて説明した。ウルギアに向けて話していたのだが、円卓を囲んで居たミラ達にもプレデターについては話していなかった事に気づき、ついでだからとみんなに向けて説明する事に。
「なるほど……つまりは、私と似たような存在が藍様の魂の回廊の中に存在すると言う事なのですね?」
「ああ、そっか。元は神族だけど、今のウルギアは【改変】が自我を持っている存在ともいえるのか」
「そうですね……。なるほど、藍様の話を聞いて今まで【漆黒の略奪者】を【改変】出来なかった理由がようやく分かりました。私と同様に自我を持つスキルである【漆黒の略奪者】は、【漆黒の略奪者】の能力を自在に操り、私の支配に抵抗する事が出来たのでしょう」
つまり、ウルギアの【改変】にプレデターが操る【漆黒の略奪者】が抵抗していた為、今までウルギアは【漆黒の略奪者】を管理する事が出来なかったと。
そして、プレデターは何を思ったか【漆黒の略奪者】の能力を使って【神装武具】の支配権も奪ったって事か? でも、そんな事が可能なのかな。
「――可能です」
あ、出来るんだね……って、何でウルギアは返答できるのさ!? 口に出してないよね!?
「私は藍様の魂に宿るスキルですので、藍様の心の声、思考、そういった藍様に関する全ての事柄を把握する事が出来ます」
「そ、そうですか……」
俺のプライベートがぁ……。お願いだから俺が口に出したこと以外の内容を誰かに話すのとかはやめてね?
「わかりました」
「……はぁ」
まあ、とりあえず……【神装武具】の管理者権限を奪った犯人はわかった。
問題は、どうしてウルギアから管理者権限を奪う必要があったのかだけど……。
「正直、管理者権限を奪った理由についてはさっぱり分からないな」
「それには私も同意見です。藍様のお話が確かであるのならば、【漆黒の略奪者】が自我を持った存在――プレデターでしたね? そのプレデターが藍様に危害を加えるとは考えにくいです。何か別の理由があるとすれば本人に直接聞くのが早いのではないかと愚行致しますが?」
「それが出来たらいいんだけど……俺からプレデターに連絡を取る手段がないんだよなぁ」
死祀の事件以降、プレデターとは一切連絡を取れていない。俺から連絡を取ろうと試みた事はあるが結局無駄に終わってしまった。黒椿に相談したこともあるけど『僕にも分からないなぁ……』と言われてしまったし。『調べてみる』とも言ってくれていたけど、その黒椿自体も行方不明だしなぁ。
「とりあえず、理由については保留かな」
「わかりました。全ては藍様の御心のままに」
「お、おう……。それで――何でみんなはそんなに怖い顔をしているのかな?」
そう言ってウルギアへ向けていた視線をゆっくりと移動させる。プレデターについて説明をした辺りから怖くて見れなかったけど、いつまでも放置しておくわけにはいかないからな……。
視線を向けた先には怖い笑みを浮かべる俺とウルギア以外の面々がいる。その作ったような笑顔を見た瞬間に背筋が凍りそうになったが、なんとか笑顔を崩さない様に取り繕う。
そうして無言で笑顔を向け合う時間が数分過ぎた辺りで、先陣を切る様にミラから言葉が発せられた。
「――ねぇ、藍?」
「な、なんでしょうか……」
「私はこれでも、あなたとは長い時間を共に過ごして来たと思うの。大切な家族として、今はより深い関係として、あなたの傍に居るわ」
「……はい」
何だろう、凄くいい話だと思うんだけど……悪寒が止まらない。
「だからこそ、私はとても悲しいわ……大事に思っていた相手に隠し子が居たなんて……」
「いや、隠し子って――「なぁに?」――ごめんなさい……」
駄目だ、怖い……ッ。
反論しようとしただけで紫黒の魔力を解放して来たよあの人!?
「藍、常闇だけではない。我も怒っておるのだぞ?」
「グ、グラファルト……」
「別に子供が居る事に関しては問題はない。だが、その存在を隠して来たことが問題なのだ!」
「いや、でもさ――「あ?」――何でもないです……」
だからぁ……ッ!!
なんで俺の婚約者や奥さんはこんなに怖いんですか!?
さっきまでは俺に抱えられただけで顔を赤らめていたのに! お前そんなドスの聞いた声どっから出してるんだよ!? ただのヤ〇ザじゃねぇか!!
「藍くん、私も隠し事は良くないと思います……それも、こんなに重大な隠し事をするなんて」
「ファ、ファンカレアもなのか……」
「当然です! 私だって藍くんの奥さんなんですから! いいですか? 夫婦と言うのは、やましい事など一切ないオープンな関係でなければいけないのです!」
「別にやましいことなんて――「藍くん?」――はい、もう黙ります……」
ファンカレアまでもが恐妻化した!? これ絶対他の奥さんズの影響だろ!?
結局、その後も奥さんズを筆頭にしたウルギアを除く女性陣のお小言は止む事無く、仕舞いには円卓の席を離れてひらけた場所に正座させられるしまつ……。
くっ……これが多くの妻を持つ男の宿命か……。
「「「藍(藍くん)!?」」」
「はい!! ごめんなさい!!」
はぁ……こんな事なら、プレデターの事をもっと早くに話しておくんだった……。
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遅くなって申し訳ありません!
最近は症状も落ち着いてきたので、お試しとして連日の投稿です。
一夫多妻では、よくありそうだなぁと想像しながら書きました。
【作者からのお願い】
ここまでお読みくださりありがとうございます!
作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!
ご感想もお待ちしております!!
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