第209話 ウルギアがやって来た②
ウルギアがやって来たことで、ようやく話を進めることが出来る。という訳で、俺達は直ぐ側にある円卓の席へと腰掛けた。
まあ、最初ウルギアが俺の背後に立っていたので、座らせるのに苦労したけど……。俺の両隣には「後ろに立たせて頂けないのなら、せめて隣に」と懇願して来たウルギアと、そんなウルギアに対抗心を燃やすグラファルトが座っている。
「……」
「……」
いや、二人とも……俺を挟んで睨み合うのはやめてくれませんかね?
本当に仲悪いなぁ……。
「なぁ、どうしてウルギアはグラファルトの事を毛嫌いしているんだ?」
「お忘れですか? そこの駄竜は藍様に危害を加えようとしていたのですよ?」
「うぐっ」
ウルギアの冷たい視線がグラファルトへと送られ、その視線を言葉と共に受けたグラファルトが円卓へと頭をぶつけて撃沈した。
あー……そう言えば、俺が黒椿の精神世界から戻ろうとした時も似たようなことを言っていた様な気がする。
「そこの駄竜は、愚かにも我が主である藍様の魂を消し去り、肉体を乗っ取ろうと企てていたのです。幾ら藍様が許されたとしても、私は絶対に許しません」
「あ、あれは、その……邪神がやった事でだな……」
「その邪神如きに精神を乗っ取られていたのはどこの駄竜でしたか?」
「うっ……」
ウルギアに反論しようとしたグラファルトだったが、すぐさま論破され再び円卓へと撃沈してしまった。
うーん、ウルギアとしては俺を思って怒ってくれている訳か。その気持ち自体は嬉しいし、これがもし宿敵とかだったなら俺も同じように恨んでいたのかもしれない。
だが……
「……ウルギア、その辺りでグラファルトを睨むのはやめてくれないか?」
「しかし、藍様――」
「ウルギアの感情を抑制しろとは言わない。それはウルギアの個性だと思うし、寧ろ大切にして欲しいと思ってる。でも、だからと言ってなんでも許せる程、俺の器は大きくないんだ」
ウルギアに分かりやすく、なるべく感情的にならない様に丁寧に話しながら、俺は自分の席から立ち上がり未だ円卓へと顔を沈めているグラファルトの背後へ移動した。
そうして、背後からグラファルトの事をひょいっと抱き上げて右腕で抱える。抱きかかえたグラファルトの顔を見ると、落ち込んだ様子でその瞳には涙を溢れさせていた。
多分、過去にしてきたことを思い出して後悔しているんだろうな。
グラファルトと長く連れ添って来て分かったこと。
大雑把で面倒な事が嫌いなグラファルトだが、その心は繊細で、俺と一緒に過ごす様になってからも度々過去にしてきた事を思い出して落ち込んでいる事があった。
そんな時は、なるべくグラファルトの傍にいるようにしている。
俺は落ち込んでいるグラファルトの頭を撫でながらウルギアに話し続けた。
「ウルギア――グラファルトは俺の妻だ」
「ッ……!!」
自分の体から、漆黒の魔力が溢れ出てくる。ちょっと威圧するだけのつもりだったのだが、どうやら俺はまだまだ修行が足りないらしい。
俺は目の前で怯えた様子で身構えるウルギアを見て、自分の心を鎮めるのと同時に体外へと漏れ出た漆黒の魔力を霧散させた。
「驚かせてごめん。でも、幾ら俺の為だと言われようとも、妻であるグラファルトを必要以上に責めることを俺は容認することは出来ない。多少の言い合いなら良いと思うけどね。お互いに傷つかない程度に収めて欲しい」
「わ、わかりました。藍様がそこまで仰られるのなら……」
「グラファルトもそれでいいな?」
確認の為にグラファルトの方へ顔を向けると、グラファルトは頬を少しだけ赤らめて小さく何度も頷いていた。え、もしかして”妻”って言われた事に対して今更照れてるのか? 可愛い奴め。
「――あの、そろそろ本題に入りたいのですが……」
「あ、ごめん」
照れた様子のグラファルトが可愛くてついつい頭を撫でて愛でていると、フィオラから声が掛かった。
その声に顔を向けると、周囲からの冷ややかな視線が突き刺さる。
はい、すみません。調子に乗りました……。
グラファルトを元の席へと戻してから再びみんなへと謝罪をして俺も元の席へと戻った。その時にはウルギアもグラファルトも落ち着いた様子で、変な雰囲気にならなくて正直ほっとしている。結構きつめに言ってしまったし、まだ細かな調整が効かない威圧を使ってしまったから心配してたんだよな。
グラファルトはお茶菓子のクッキーを食べ、ウルギアは俺が淹れた紅茶を大切そうに少しずつ飲んでいる。
そうして二人の様子を確認し終えた俺は、ミラ達へと視線を向けて話を始める事にした。
「それで、こうしてウルギアを呼んだのはいいけど、何を聞こうとしていたんだっけ?」
「あなたねぇ……」
俺の話を聞いていたミラが呆れた顔をして溜息を吐いていた。
色々とあったから本題を忘れちゃったんだよ……俺のせいではない。多分。
「まあ、いいわ。話はこっちで進めるから、あなたはちゃんと話を聞いていなさい。自分自身のことなんだから」
「はーい」
そんな訳で、ここから俺は話を聞くことに専念する事になった。
今回の議題は【神装武具】について。
ライナだけが持つオリジナルスキルである【神装武具】、それが何故俺のスキル欄にも記載されているのか……それをウルギアに聞くのが目的だ。それ以外にもミラ達が疑問に思う事を質問して行き、ウルギアが分かる範囲でその疑問に答えていくことになる。
そうミラから説明されている途中で「藍様に関する質問に対して勝手お答えする訳にはいきません」と口にするウルギア。そんな彼女に俺は「出来る限り答えてあげて欲しい」と頼んでおいた。
俺自身もスキル関してはあまり知らないからな。
これを機に俺自身についてもっと詳しく知れるかもしれない。
そうして今回の議題についての説明が終わった事で、いよいよウルギアへの質問が始まった。
「それじゃあまず、【神装武具】を創ったのはあなたで間違いないかしら?」
「はい。【神装武具】は我がスキル【改変】を用いて私が生み出しました」
うん、これに関しては予想通りだな。
その後にミラが「いつ頃に創ったのか?」と聞くと、ウルギアは「藍様が剣術を習い始めた頃に」と答える。どうやら、常日ごろから自身の保有する能力でミラ達のステータスを覗き、有能そうなスキルを見つけては【改変】を使ってスキルを増やしていた様だ。【神装武具】は剣術を習い始めた頃にライナのスキルを覗き見てその時に見つけたらしい。
「なるほどね……でも、いくら【改変】を使ったとしても、そう易々と特殊スキルを増やすことが出来るのかしら?」
「ミラスティア・イル・アルヴィスの懸念は尤もです。創世の女神ファンカレアより創造されたスキルを簡単に複製されるのは不安でしょう。ですが、これを出来るのは【改変】と【スキル合成】【スキル複製】と言った特殊スキルを持つ藍様か、様々な権能を持つ神々のみですのでご安心を。惑星に生きる者達には不可能な事ですので」
詳しく話を聞くと、そもそも【改変】を持っているだけでは新たなスキルを生み出す事なんて出来ないのだとか。
新たなスキルを生み出すには生み出すスキルに見合う同等のスキルか、大量の下位スキルを消費する必要があるらしい。
ウルギアは最初、【スキル合成】を使って下位スキルを統合し、生み出す予定のスキルと同等のスキルを生み出して【改変】していた様だ。しかし、新たに生み出したい特殊スキルに見合うスキルを【スキル合成】を使って作るのには限界があった。
その為、新たに【スキル複製】というスキルを作り出した様だ。
【スキル複製】は所有者の魔力を消費する事によって、指定したスキルを複製する事が出来る特殊スキル。
魔力消費量は複製するスキルによって変わる様で、特殊スキルを複製するには莫大な魔力が必要になるそうだ。俺に迷惑を掛ける訳にはいかないと判断したウルギアは特殊スキルを複製する事を瞬時に止めて、比較的に魔力消費量が少ない通常スキルの複製に専念したらしい。
異常とも思える通常スキル量の理由はこれだった。
「藍様、もし欲しいスキルなどがありましたらいつでも仰ってください。例えそれが如何なるスキルであろうとも、藍様の忠実なる僕であるこのウルギアが創り出して見せましょう」
「お、おう……」
その黄金色の瞳を更に輝かせて、ウルギアは胸を張りそう言った。
うーん、気持ちは有難いけど……流石に通常スキルが三万を超えるのはやり過ぎだと思うんだ。
頼むから、ウルギアには自重という言葉を覚えて欲しい。
自信満々に宣言するウルギアを見て、俺はそう思うのだった。
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
【作者からのお願い】
ここまでお読みくださりありがとうございます!
作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!
ご感想もお待ちしております!!
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます