第208話 ウルギアがやって来た①





「……なるほど、人前では布を体に纏う事が、フィエリティーゼや地球での常識なのですね」

「まあ、細かく説明していたらキリがないでしょうし、一先ずはその認識で構わないわ」


 グラファルトとウルギアのひと悶着が落ち着いて、ようやく衣服の話へと移る事が出来た。衣服は不要だと言い張るウルギアにミラ達が衣服の重要性を諭し続けて、ようやくウルギアが納得してくれた様だ。


「では――これでどうでしょうか?」

「わぁ~!! お姉さんの服、綺麗だね!?」

「ありがとうございます、アーシエル・レ・プリズデータ。藍様が地球に滞在していた頃の記憶を基に、藍様から頂いた魔力を使い作りました」

「へぇ……私やリィシアのドレスとはまた違って、そう言うのも良いわねぇ」


 おお、なんかオシャレが大好きなアーシェと普段から身だしなみに気を使っているミラが楽しそうに話している。

 まあ、未だにファンカレアによって両目が塞がれているので、俺の視界は相も変わらず真っ暗な訳だけど……。


「あの、ファンカレア? 話を聞く限りだと、ウルギアはちゃんと着替えた様だし、そろそろ手を放してくれると……」

「へっ? あっ! す、すみません!!」


 俺の声を聞いたファンカレアは慌てた様子で両目を塞いでいた手を離してくれた。

 ファンカレアの手が離れると、真っ暗だった視界に一気に光が差し込んでくる。その眩しさに目を細めるが、数秒我慢すると慣れて来て普通に目を開くことが出来た。


 慣れて来た視界の中で、俺はミラ達と会話をしている一人の女性を見つけた。

 紺色が下へ行くにつれて青白く色が変わるグラデーションカラーのドレス。そのドレスの所々には星々のように大きさの異なる白い粒子が煌めいていた。

 ドレスは後ろの方が前よりも長いフィッシュテールタイプだ。前方の中央、太ももの半分辺りの位置くらいから切れ目が入っていて、スラリと伸びる白い脚がよく見える。


 そのドレスを着こなしているのは、俺と同じくらいの身長を持つ綺麗な顔立ちをした女性。黄金の瞳に可愛いと言うよりは美しく綺麗な顔立ち、出るところは出ていて締まるところは締まっている、女性なら誰もが憧れるであろう体型。

 ただ、普通の人とは違う所が一つ……それは髪の毛だ。


 地面に着いてしまいそうなほどに長い髪。その毛先が、風も吹いていないのにゆらゆらと波打つように動いている。そして、その髪色はドレスの色と似ていてまるで星々が煌めく夜空の様に綺麗だ。


「えっと、ウルギア……だよな?」

「ッ……はいっ」

『!?!?』


 まあ、この空間には家族しかいないから見覚えのない人物が一人居れば、それは間違いなくウルギアだよな。

 それでも一応確認の為にと思って声を掛けたんだけど……さっきまで生気の感じられない無表情で会話をしていたウルギアは、俺に名前を呼ばれると花が咲いた様に笑顔を見せて俺の方へと駆けて来た。


 うわ、近くで見ると本当に美人だ。

 動いたことで立っていた時よりも長い髪が揺られて靡く。揺れる度にキラキラとした粒子の様な物が髪からこぼれ出ていた。

 というか、ウルギアってこんな風に笑うんだな……。


 そんな風に見惚れていると、周囲が異様に驚いている事に気が付いた。

 ん? なんだ?


「あれ、みんなどうしたの?」

「いえ、その……」

「その子が笑うとは思ってなかったのよ」


 俺が聞くと、フィオラが言いにくそうに口をもごもごとさせて、その様子を隣で見ていたミラが代わりに答えてくれた。

 笑うと思ってなかったって……そう言えば、さっき初めてウルギアの姿を見た時、笑ってなかったな。


 詳しく話を聞いてみると、俺がファンカレアに視界を遮られている間も、ウルギアが笑う事はなかったらしい。幾らアーシェやミラが褒めたとしても、丁寧にお礼を口にするだけでずっと無表情だったのだとか。

 まあ、それでも感謝されている事には変わりないと言う事で、アーシェとミラは気にしていなかったらしいのだが……。俺が一声かけただけで無表情から満面の笑みへと表情を変えたウルギアを見て、みんな驚いていたらしい。


 そんな話を聞いた後で、俺は視線をミラがいる右側から正面へと移す。


「藍様、こうして直接お会いすることが出来た事、大変嬉しく思っております」

「あ、うん……とりあえず立とうか?」


 そこには俺の正面で跪くウルギアの姿があり、顔を上げている彼女の表情は……やっぱり笑顔だった。

 これはあれだろうか……やっぱり俺がウルギアにとっての主だからとか、そういう事なんだろうか? もし、そうだとしたら無理して笑う必要はないんだけどな。

 俺が立つように促すと、相変わらず笑顔を見せたままウルギアは「はい」と答えて立ち上がった。


「えっと、どうしてウルギアは俺にだけ微笑み掛けてくれるんだ? もし、無理に笑っているんだとしたら、気にせず楽な表情でいてくれていいからな?」

「……別に無理はしていませんよ?」


 あれ、そうなのか?

 じゃあ、どうしてミラ達には笑顔を見せたりしないんだろうか。もしかして、みんなの事は苦手なのかな?

 ちょっと不安になってウルギアに聞いてみると、別にそう言う事でもないらしい。


「ミラスティア・イル・アルヴィスやアーシエル・レ・プリズデータは私の服を褒めてくださいましたし、他の方々も笑顔で歓迎してくださいました。なので、嫌いになる要素は特にありません」

「そ、そっか~。良かったぁ……」


 ウルギアの話を不安そうな顔で聞いていたアーシェは、嫌われていないと言う事実を聞いて心底安心したようだ。


「じゃあ、どうして俺にだけ笑顔を?」

「偉大なる主である藍様には、常に最高の状態である私を見ていて欲しいのです。そして、私の全ては貴方様の為にあります。貴方様の為に改変したこの肉体の最高の状態は、貴女様だけに使うべきだと判断いたしました」

「あ、はい……」


 ちょっ、昔に戻ってないか!?

 ウルギアとはなんだかんだで軽口を言い合えるくらいには仲良くなれたと思ってたんだけど……なんで!?


 その原因は、俺が聞くまでもなく饒舌になっているウルギアの口から語られる事となる。


「はぁ……やっぱり藍様は素敵です。流石、我が至高なる御方……その佇まい、口調、行動、どれをとっても眩しいくらいに美しい……!! 本来であれば肉体を持たない私が貴方様にお会いすることなど叶わないと思っていましたが……この様な機会を頂けて、本当に幸せです。きっかけを作ってくださったファンカレア、それにライナ・ティル・ヴォルトレーテにも心からの感謝を」

「ひゃ、ひゃい!!」

「あ、あはは……なんだか凄くユニークな人だね」


 顔を赤らめてとろけた様な表情で俺に語り続けていたウルギアは、おもむろにその表情を無へと変えると後ろに控えていたファンカレアとライナに頭を下げて、感謝を述べた。

 まさかこの流れでお礼を言われるとは思ってもみなかったのだろうファンカレアは、不意を突かれた所為でいつもよりも高めの声を上げている。そんなファンカレアの隣に立つライナは、苦笑を浮かべながらもお礼に対して片手をあげて返していた。


「ウ、ウルギアの気持ちは良く分かった。けど、出来れば俺だけじゃなくてミラ達にも無表情ではなく、笑ったり怒ったり……感情を隠すことなく接してくれないか? その方が俺は嬉しいから」

「わかりました。全ては藍様の御心のままに」

「あ、うん……あと、お前の事をみんなも”ウルギア”って呼んでも大丈夫かな? 黒椿は勝手に呼んでるみたいだけど、他のみんなには一応ウルギア本人から許可を貰うまで待って欲しいって話してて、スキル名じゃない呼びやすい名前の方が良いと思うんだ――「わかりました、全ては藍様の御心のままに」――あ、はい……ありがとう……」


 俺がお願いをすると、すぐさまその場に跪いてウルギアは頭を下げる。

 いやだから、そういうのをやめようねって言ってるんだけどな……。

 その後はいきなり満面の笑みを浮かべたウルギアに話し掛けられて、みんなが引き攣った笑みを浮かべていたり、相変わらずグラファルトにだけは無表情……いや、若干冷ややかな視線を送り喧嘩腰で話したり、とにかく大騒ぎだった。


 でも、みんなは快くウルギアを受け入れてくれた様で、ウルギアも誰彼構わず噛みついたりする様子もない。

 まあ若干一名、仲が悪そうな人物もいるが……これなら普通に会話が出来そうだな。


 こうして、俺はウルギアとの邂逅を無事に終えることが出来た。

 後は、今後の話し合いが上手くいくことを祈ろう……その前に、グラファルトとの喧嘩を止めないとな。







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 遅れてすみません!

 ウルギアさんの見た目に関して表現する言葉を探していたら思っていたよりも時間が掛かってしまいました……。


 喘息の症状についてですが、この頃は小さな咳は出ていますが、徐々に落ち着いて来たと思います。

 なので、もしかしたら早い段階で毎日投稿に戻れるかもしれません。


            【作者からのお願い】


 ここまでお読みくださりありがとうございます!


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 ご感想もお待ちしております!!


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