第207話 いらっしゃい、ウルギア




 準備が出来たというウルギアに頼んで詠唱文を考える時間を貰った俺は、それから十数分程ひたすらに考え続けていた。

 そうして、ようやく自分でも納得のいく詠唱文が完成したので、ウルギアやお茶を飲んで談笑していたミラ達へと声を掛けて【女神召喚】をする事を伝える。


 なんだか、自分の下手くそな詩を発表するみたいでちょっと恥ずかしいが、自分の素直な気持ちを込めたので許して欲しい。


 円卓が置かれた場所から離れて、ひらけた草原へと移動する。

 俺はみんなよりも数歩前へと足を進めて、早速目の前にある虚空へ右手を翳し、漆黒の魔力を解放した。そして、考えて決めた詠唱文を唱える。


「”――我は望む、神の座を退き、我が力として忠誠を誓いし者よ。その想い、その誓いは我が魂に刻まれた”」


 おっ、なんか黒椿やファンカレアの時よりも魔力の減りが少ないな?


 三人目ともなると慣れたもので、魔力の減り具合なんかに気を向ける事が出来るくらいには余裕が持てていた。

 最初の召喚は黒椿、【精霊召喚】と【女神召喚】は原理は同じらしいので間違っていないはずだ。黒椿の時はちょっと体が怠くなるくらいに魔力を持って行かれた。これは多分だけど、黒椿が精霊から創世の女神へと昇華したからではないかと思っている。”創世”とは神々の頂点に君臨できるくらいの力だとファンカレアと黒椿が言っていたし、それほどの存在を召喚するには膨大な魔力を消費すると言う事なんだろう。


 その予想に確信を抱いたのは、ファンカレアを呼び出した時だ。

 みんなの手前、平気なフリをしていたけど……黒椿に続いてファンカレアを呼び出した時、ちょっと膝を着きそうになった。まあ、グラファルトが暇を見つけては血戦獣を【白銀の暴食者】で倒して魔力に還元してくれていたから魔力欠乏症にはならずに済んだけど。”創世”クラスの女神を二人召喚すると言うのは、いくら常日頃”異常だ”と言われていた俺でも倦怠感を感じるくらいにはきつかった。


 ちなみに、ファンカレアと黒椿の二人と婚姻の儀を結んだあとの夜。二人を召喚した時の事についてそれとなくグラファルトに話すと、溜息を吐かれ「そんなの我だって同じに決まっておるだろ?」と呆れた様に言われてしまった。そうですよね、すみません。


 閑話休題。


 それに比べれば、ウルギアに対する魔力消費は少ないよな? それとも、俺とグラファルトの魔力量がまた上がったりしているだけ?

 まあでも、ウルギア本人が”元神族”と言っていたし、今は神族ではないから黒椿とファンカレアとは違って消費する魔力量が少ないのかもな。


 さて、ふと浮かんだ疑問に気を取られてばっかりいないで、詠唱を終わらせよう。


「”――我はここに願う、君との邂逅を。影より我を支えし者よ、いま……その姿を現せ!”」


 その言葉と同時に目の前に集まっていた漆黒の魔力が魔法陣へと姿を変えて地面へと広がり始めた。

 そうして魔力で出来た魔法陣は、忽ちその色を漆黒から変えていき……宇宙色とでも表現すればいいのだろうか? 銀河の様に煌めく星々が漆黒の闇を照らす様に光り輝いている。

 魔法陣から同じ様に宇宙色の魔力が広がり始めて次第にそれは人型へと変わり始めた。


 今までとは違うその状況に全員が困惑の表情を浮かべる。

 あれ、失敗した訳じゃないよな?


 そんな不安を抱きつつも成り行きを見守って居ると、ぐにゃぐにゃと歪んだ宇宙色をした人型は俺よりも少しだけ低い背丈へと姿を変えて、やがてその形を安定させていった。


 あれ、ちょっと待って……。


 形が固まったからか、やがて宇宙色の人型は手先や足の先からその色を変えていき……綺麗な白い肌へと変化していく。

 そうなると、俺達の視線はその変化を追うように手先から胴体へと移動していくわけで……。


「~~ッ!?!?」

「ら、ランくん!! 見ちゃダメです!!」


 慌てた様子で俺の目を塞ぐファンカレアによって、俺は目の前で起こる人型の変化を最後まで見る事は出来なかった。

 俺が目を塞がれている間も変化は続いていき、しばらくするとミラ達と会話をする聞き慣れた声が聞こえて来る。


「――質問があります。何故、我が主である藍様に私の姿をお見せする事が許されないのですか?」

「いや、あなたねぇ……藍だって男の子なんだから、裸の女性と会わせる訳にはいかないでしょう?」

「……ですが、そこの駄竜とミラスティア・イル・アルヴィスは藍様といつも裸で――」


 ちょっと待てい!! 聞き捨てならない声が聞こえて来たんだが!?

 え、ウルギアさんもしかして全部見てたのか!?

 そうだとしたら、今後は是非とも控えて頂きたいのですが……!!


「なっ!? ちょっと待て! 貴様、いま何と言った!?」

「はぁ……流石は駄竜だな。私の話す会話すら覚えられないとは」

「覚えておるわ!! 我が言いたいのは、貴様は藍の生活についてどこまで知っているかという事だ!!」

「ふっ、そんなの全てに決まっているだろう。藍様に関する事はすべて把握している……あの忌々しい精霊との出来事以外はな」


 ウルギアの発言に慌てた様子で声を上げるグラファルトは、その後もウルギアに噛みついて行った。どうやらこの二人は相変わらず仲が悪いらしい。


「限度と言うものがあるだろう!? 我らにだってプライベートな時間は必要だ!」

「ふん、駄竜の言葉を聞いてやる義理はない」

「いや、グラファルトの意見には俺も賛成なんだけど……」

「流石にプライベートな時間まで覗かれるのはねぇ……」


 グラファルトの意見を溜息交じりに否定するウルギアの声が聞こえて、思わず俺がプライベートの時間は必要だと言うと、俺に続けてミラも覗き見はやめて欲しいと口にした。


 しかし、俺達の話を聞いても渋るウルギア。

 そんな彼女を目が見えない状態で説得し続けること十数分……


「……仕方がありません。藍様とミラスティア・イル・アルヴィスがそこまで言うのなら、今後は控える事にしましょう」


 声からして渋々と言った感じではあったが、何とか納得してくれた様だ。

 ふぅ、これで一安心……と思っていたら、納得のいかない様子の人物が一人まだ居た。


「――おい待て、我も藍や常闇と同じことを言い続けていただろうが」

「…………ふん」

「よし、わかった。【白銀の――」

「グ、グラちゃん落ち着いて……!!」

「ふっ……与えられた力で私に勝とうなど、笑止千万。貴様の限界をここで教えてやろう」

「わー!? そっちの人も落ち着いてー!!」


 怒りに任せて【白銀の暴食者】を発動しようとするグラファルトとグラファルトを煽るウルギア。そんな二人の会話の間には、慌てた様子のアーシェの声が響いている。

 その後もいがみ合っている様な声が聞こえたり、それを宥める様な声が聞こえたりしていたのだが……俺の視界は相も変わらずファンカレアに塞がれて真っ暗なままだった。


 いや、喧嘩するは自由だと思うけどさ……早く服を着てくれませんかね?








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 短めですみません……。

 今日は、比較的症状が落ち着いていたので、日頃からちょっとずつ進めていた今回のお話を急ピッチで仕上げました。


            【作者からのお願い】


 ここまでお読みくださりありがとうございます!


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