第203話 はぁぁぁぁ……
「――それじゃあ、ご褒美として僕の全力を見せるとしようか」
「おお! いよいよだな!」
和やかな雰囲気のまま、合流したファンカレアを交えて雑談をしていると、会話が途切れた所でライナがそう切り出した。
元々それが目的であったので、昨日から期待に胸をふくらませていたグラファルトは、その朱色の双眸を輝かせてライナを見つめている。
ライナが見せてくれる力……それは、"六色の魔女"が<使徒>の称号を与えられた際に、ファンカレアから手渡されたものらしい。
「僕達が<使徒>になった時に一度、ファンカレアと会える機会があってね。いやぁ、懐かしいなぁ。当時はまさか、こんなにも気軽に話せるようになるとは思ってもみなかったよ」
「ふふふ、そう言えばあの頃はミラ以外の皆さん、まだ私の事を"創造神様"とか、"ファンカレア様"と呼んでいましたね」
「いや、あれはミラスティア姉さんが特殊だっただけだからね? 世界の創造神様に会ったりしたら、平伏するのが普通の反応だから」
楽しそうに笑顔で話すファンカレアに、らいなは苦笑を浮かべてそう返した。
そうだよな。普通はその場に平伏して拝むよな……俺の時はどうだったっけ?
――ごめん、君の大きな胸に釘付けだった……。
おっと、この話はもうやめようか。
し、仕方がないよ。
だって、俺はフィエリティーゼの住人ではない転生者だし、白色の世界に送られる直前までは、地球で意識が朦朧している状態だったから……きっと、混乱していたんだ。
――二つのバスケットボー……。
混乱していたんだ!!
「どうかしたんですか?」
「な、なんでもない」
邪念を振り払うように頭を左右に振っていると、ファンカレアが心配そうに声を掛けてきた。正面に立つファンカレアは胸の前で両手をぎゅっと握った状態であり、そうなると必然的にファンカレアの大きな胸が強調されていらっしゃる訳で……。
ごめんなさい。
健全な男としては、どうしてもその大きな胸に目がいってしまうんです。
「と、ところで……ライナの話の続きは?」
「ああ、そうだったそうだった。それじゃあ話を戻そうか」
いくら健全な男だとしても女性の胸を凝視するのはいけないと思い、俺は慌ててファンカレアから視線を逸らしライナの方へと顔を向けた。俺の言葉にライナはうんうんと頷いて、本題である力を授かった時の話に戻る。
「<使徒>として僕達はファンカレアと顔合わせをした。そして、厄災の蛇の討伐と世界の危機を救った事に対する報酬として、一人につき一つ、望んだとおりのスキルを貰える事になったんだ」
「それもただのスキルではありません。私の”創世”の魔力を織り交ぜて創造した、オリジナルスキルです。ただし、制限も掛けさせて貰っていますけどね」
「制限?」
俺が疑問に思った事を口にすると、ファンカレアは丁寧に説明してくれた。
ファンカレアが”六色の魔女”に与えたそれぞれのスキルには、使用するにあたって様々な制限があるらしい。各自のスキルによってその制限は違うらしいので、今回はライナのスキルについての制限を教えて貰うことにした。
ライナのスキルの場合は三つの制限があるらしい。
一つ、使用する際には創造神であるファンカレアの許可が必要だと言う事。
二つ、使用時間の制限があり30分経つと自動的にスキルが解除される。
三つ、一度使用すると再使用までに60日掛かる。
「え、60日!? それって今使っちゃって大丈夫なのか?」
使用制限の内容を聞いて思わずライナにそう聞いてしまった。
60日って……つまりは一月だよな?
そんなに間が空いてしまう様なスキルを俺達のご褒美の為に使わせてしまって良いのだろうか……?
そう思いライナに聞いたのだが、ライナはにっこりと笑みを溢して「大丈夫」と答えた。
「ちゃんとファンカレアにも許可は貰っているからね。まあ仮に何かあったとしても、今のフィエリティーゼにはミラスティア姉さんも居るし、君たちも居るから」
「それに、制限を掛けているのはあくまで地上での乱用を防ぐ意味合いもあります。今回は私が創り出した異空間での使用になりますので、制限自体は特例として解除してありますよ」
「そっか、なら良かったよ」
二人の説明を聞いて、俺はホッと胸をなでおろす。
そうしてライナの手にしたスキルの使用制限について聞き終わった後、いよいよスキルのお披露目となった。
スキルを使用するには特殊な詠唱が必要らしい。
俺とグラファルトとファンカレアの三人は、ライナに「詠唱中は膨大な魔力が溢れだすから」と言われて少しだけ距離を置くことにした。
5mくらい離れた場所から、一応念の為にと言う事でファンカレアが三人を守るように展開した透明な結界の中に入りライナの様子を伺う俺達。
「それじゃあ、始めるよ!」
声を上げるライナはそう言うと、俺達に向かって片手をあげて振り始めた。
俺達はライナに返事をする様に手を振りかえして答える。俺達が手を振りかえしている様子を確認したライナは満足そうに頷くと、その身に宿る魔力を吐き出す様に閃光の魔力を解放し始めた。
「凄いな……」
「うむ、昔に全力で戦った時よりも成長しておる。まあ、我と藍の魔力量の方が多いが、常人の領域を超えておるのは確かだな」
「グラファルト、藍くんと貴女の魔力量は異常ですからね? それはもう神の領域と言っても過言ではない程なのですから、二人の魔力量とライナの魔力量を比べるのは流石に如何なものかと……」
ああ、聞こえない、聞こえない。
何か俺が神の領域に至っているみたいな話が聞こえて来た気がするけど、全く聞こえないなー!!
隣から聞こえて来る不穏な会話から逃げる様に目の前の光景に集中し始める。
ライナが解放した魔力は次第に彼女の目の前に収束され始める。【遠視】を使ってよく見ると、黄色い閃光の魔力に混じって黄金色に輝く粒子の様な物が幾つも見える。これって……あれだよな?
「なあ、ファンカレア。ライナの魔力の中に混ざって見えるあの粒子みたいなやつって……」
「ええ、あれは私の魔力の一部ですね」
確認の為にファンカレアに声を掛けて聞いてみると、やっぱりそれはファンカレアの持つ黄金の魔力だった。
「神が授けた力を行使するには、莫大な魔力が必要となります。それを補う為にスキル自体に私の魔力を一定量注いであるんですよ」
「なるほどなぁ」
再使用までに60日掛かるという理由の一つがこの魔力の消耗によるものらしく、一度使用した後、フィエリティーゼの大気中に僅かに漂うファンカレアの魔力を少しずつ補充するのにそれくらいの時間が掛かるからという事らしい。
まあ、それだけだと本人の魔力量がスキルを使用するのに十分に足りてしまう場合、何度でも使用できてしまうのでそれ以外にも60日経過しないと使用できないような細工をしている様だ。
まあ、今回は特例らしいので、そういった細かい条件はこの空間を出た直後にリセットされるようになっているらしいけど。
「――”我が名は、ライナ・ティル・ヴォルトレーテ”」
ライナの目の前に収束されていた魔力はやがて1m程の球体へと姿と変えて、ライナが詠唱を始めると球体を挟む様に上下に魔法陣が現れた。
「――”五人目の使徒が此処に命じる、創世の女神ファンカレアよ、我が忠誠に応えたまえ”」
『――創世の女神ファンカレアからの許可を受託しました』
「ん?」
なんだ? いまの声。
ライナが詠唱をしている最中に、突如として空間全体に響くような声が聞こえた。
耳に残る凛とした女性の声。でも、どこかで聞いたことのあるような……。
左に立つグラファルトを見ると、彼女も不思議そうに首を傾げている。
そうして二人で首を傾げていると、俺の右に立つファンカレアが少しだけもごもごとしながら説明をしてくれた。
「あ、あのですね……あの声は、わ、私の声なんですぅ……」
「えっ!? あ、言われてみれば……」
そうだそうだ。初めてファンカレアに会った日に、創造神としてフィエリティーゼへ声を掛ける様子を見せて貰った時、あの時の声と一緒だ。
顔を赤くして話すファンカレアの説明によると、スキルの使用許可を出した際に何か一言必要かなと考えて、流れの中に組み込んだということらしい。
いや、恥ずかしがるくらいならそんな設定をしなければよかったんじゃないかな……。
ちなみに、許可を出さない時には音声が流れる事はなく、魔法陣が砕けて失敗になるらしい。
「――”いま、審判は下った”」
その一言が放たれた直後。
魔法陣に挟まれていた球体が胎動を始める。
動き出したそれは、やがて2m程の長さを持つ大剣へと姿を変えていった。
「――”顕現せよ、我が願い!! 全てを薙ぎ払う閃光の剣!!”」
刹那、上下に展開された魔法陣から黄金の落雷が大剣へと降り注がれる。
大剣は落雷を吸収し、やがてその光に包まれていた姿を露わにしていく。
「――”道を切り開け……我がスキル、【
「「………………え?」」
恐らくスキルの名前であろうその言葉をライナが口にすると、上下に展開されていた魔法陣は粒子となって形を消し去る。大気に漂う魔法陣であった黄金の粒は、ライナが掴んだ大剣へと降り注がれた。
170cmはある筈のライナが持っても大きいと思えるその大剣の周囲にはゆらゆらと揺らめく黄金の魔力が見える。
いや、うん……凄くカッコいいと思う。
思うんだけど……。
それよりも気になって仕方がない事が一つだけあって、俺は思わずグラファルトと目を合わせた。
目が合ったグラファルトの方も、どうやら俺と同じ気持ちなのかその額に汗を垂らし苦笑を浮かべている。
――――我がスキル、【神装武具】よ!!
いや、まさかな……気のせい、気のせいだ。
だって、そんな筈がない。
ファンカレアだって、オリジナルスキルだと言っていたし、そんなまさか……。
そう思いながらも不安は消える事無く、結局確かめたい衝動に負けて、俺はおもむろに「ステータスオープン」と唱えていた。
俺がステータスを確認していると、隣で同じく気になっていたのであろうグラファルトがぐいぐいと近づいて来て、俺と同じくステータス画面を覗き始める。
「「ッ…………はぁぁぁぁ…………」」
そうして、ステータスを確認した俺達は盛大な溜息を吐くことになった。
確認したステータス、その特殊スキルの中に――
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特殊スキル:………【神装武具】………
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はっきりと、その文字が書かれていたのだった。
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【設定変更のお知らせ】
話の主軸が変わる様な変更点ではないのですが、一月の日数を60日に統一しようかなと思います。その方が覚えやすいですし、実際……今回の話を書いている時に、作者自身が日数の計算を誤っている事に気が付きました。
一応過去のお話で、作者が覚えている範囲の日数に関するお話に関しては編集してあります。
もし、「ここも違くないですか?」「こっちにも間違いがありました!」など気づきましたら、ご報告していただけると助かります。読者の皆様にはご迷惑をおかけして申し訳ございません。
【作者からのお願い】
ここまでお読みくださりありがとうございます!
作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!
ご感想もお待ちしております!!
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