―呪われし娘と神装武具(レガリア)編―

第200話 序章 私は、生まれた理由を求めていた。





――私が生まれたのは、本当に偶然だったんだと思う。


 誰かに願われた訳でも無く、自ら望んだ訳でも無い。


 いつの間にか、私はそこに居た。


「……?」


 真っ暗な空間に生まれた私は、休む暇もなく私の体を構成する二つの魔力から様々な情報を自らの脳に刻み込まれた。

 私という存在が生まれた要因ついて、この真っ暗な空間について、そして――私の、パパとママについて。


 私という存在が生まれたのは、ママである創世の女神――黒椿と、パパである地球からフィエリティーゼへと行くことを運命によって決められていた存在――制空藍、この二人の魔力が強く混ざり合ったあの瞬間であった。


 でも、それは”自我を持つスキル”としてではない。

 私は……あくまで居候に過ぎないのだ。


 自我を持つスキルは、確かに生まれた。

 【漆黒の略奪者】……それはパパの一面であり、心の奥底に潜んでいた感情。パパの願い――”たとえ他の何を犠牲にしようとも、大切なモノを守りたい”と言う強い感情が、特殊スキルである【漆黒の略奪者】に宿り自我を持ったのだ。


 私は……その残りカスでしかないのだと思う。

 パパとママの魔力を分け与えられただけの存在。

 二つのスキルを統合した際に残った余剰分の魔力を使って生まれた私という存在は、そのまま放置されていたら数日と持たず消えてしまう様な存在だった。


 その事実を知った時は――ちょっとだけ、ううん。すっごく悲しかった。

 でもね、それでも良いと思ったんだ。

 例え数日だけの命だとしても、それでも……私はここに生まれたんだから。


 私という存在が、確かにここに居る。

 先も見えない真っ暗な世界で、確かに両足を黒い地面につけて立っている。

 例え、生まれた理由が無かったとしても……それでも…………。


 そんな時に、私は出会った。


『オレ以外の気配を感じると思ったら――これは一体どういうことだ?』


 暗闇の広がる真っ暗な空間に頭上から一つの強い光りを持つスポットライトが当たる。私の視線の先を照らすスポットライトに当てられて、その人はそこに立っていた。


「……パ、パ?」

『は……?』

「~~ッ」


 思わず呟いてしまった私は、その時初めて”恥ずかしい”という感情を知った。

 その見た目は確かに、刻まれた記憶の中にあるパパにそっくりだったが、その身に纏う気配は少しだけ違う。

 何より、特殊スキルによって支配されているこの空間に存在できるのは、イレギュラーである私以外にたった一人しか居ない。


――【漆黒の略奪者】。


 パパの感情の一つから生まれたその存在は、炎の様に揺らめく漆黒の魔力を纏いながら、パパと瓜二つの姿をしてそこに立っていた。


 こうして私と【漆黒の略奪者】は出会い、そこから私達は行動を共にする様になる。


 【漆黒の略奪者】は、本当にパパにそっくりだった。

 私について説明をして私の存在について理解すると、彼は直ぐに【漆黒の略奪者】の支配権の一部を一時的に譲渡してくれた。

 これにより、譲渡されている間だけではあるが私という存在は【漆黒の略奪者】の一部として残り続ける事が出来るようになり、あと数日で消えるはずだった私は生きながらえる事が出来る様になった。


 その説明をしてくれた時に一度だけ、【漆黒の略奪者】は私の頭にポンっと手を置いて微笑んだ。


『まあ、あくまで延命処置だから、根本的な解決にはなってないけどな』

「……ありがとう」


 その笑顔が、私に刻まれている記憶の中のパパとそっくりで……胸の中がぽかぽかと暖かくなっていくの感じたのを覚えている。



 そうして、【漆黒の略奪者】の一部として活動を始めて直ぐに……私はママと会う事ができた。


「――ママ?」

「……え?」

「ッ!! あー!! ママだぁ!!」

「うぇ!? ちょっと、待って!?」


 嬉しかった。

 記憶でしか見る事が出来なかったママと触れ合えて、本当に嬉しかった。


「え、えぇ……僕の魔力と藍の魔力が合わさって……」

「うん! だから、ママ!!」

「うぅっ……」


 混乱しているママを気にする事もなく、私は大好きなママに抱き着く。でも、嫌われている訳ではないと言う事は直ぐに分かった。

 だって、抱き着く私の事をママも抱きしめてくれていたから。


 でも、不思議な事にママは【漆黒の略奪者】に宿るもう一人のパパには気づかなかった。どうやら、ママの持っている権能の【叡智の瞳】は万能という訳ではないみたい。知りたいと願う事が絶対条件である【叡智の瞳】を使ってパパの魂を覗いていた時、偶然にも私の事を見つけたらしい。そうして私の存在をいち早く確認するべく、【叡智の瞳】の使用を中断してやって来たのだと教えてくれた。あくまで予想でしかないけど、もう一人のパパに気づけなかったのは私に気を取られていたからなのかな。

 だから、私が代わりに教えてあげようと思ったんだけど……


(オレの事は言わなくていい)


 本人からそう言われてしまった。

 理由を聞いてみると、『制空藍にそっくりな姿をしたオレを見たら、あいつがオレの事を消そうとするかもしれないからな』と言っていた。


 その結果、ママには私が【漆黒の略奪者】だと勘違いされて、色々とお願いされてしまったけど……でも、そのお陰で私はパパに会う事が出来た。


 ママにお願いされてたから最初はパパの姿を真似て接触したけど、でも……我慢出来なくて、結局最後はバラしちゃったな。あの時のパパの驚いた顔は、本当に面白かった。

 その後でママに会いに行った時にちょっと怒られちゃったけど……でも、ママは私に甘いから直ぐに許してくれた。


 パパとママに会えて、本当に嬉しかった。

 本当は、もっともっと触れ合いたい。

 沢山甘えたい、頭を撫でて欲しい、ギュッて抱きしめて欲しい。


 でも、それはもう――永遠に叶わない。






























 魂の回廊の奥深く。

 そこで私は絶え間なく【漆黒の略奪者】の力を使い、隔絶したこの空間から出ようとするを奪い続けていた。


――それは、五〇〇をも超える怨嗟。

 パパが暴走した際に取り込んだ呪われた魂の集合体だ。【改変】を用いたとしても、この数の呪われた魂を消し去ることは出来ない。だから、私がパパを守るんだ。


 全ての呪われた魂を【漆黒の略奪者】を使って私の体に取り込み続ける。私自身を依代として封印し続けるんだ。


 たとえ、私が消えてしまうことになったとしても、パパの命は救われる。私が消えるその時は……私の体内に宿るこの呪われた魂達も消えることになるんだから。


 それを理解しているからか、呪われた魂は少しずつ私の体に侵食し始めていた。どうやら、私の体を乗っ取る事で自由を得ようとしている様だ。


――苦しい。悲しい。寂しい。悔しい。忌々しい。痛い。憎い。辛い。


 ドス黒い感情が、私の中に溢れるように湧き上がってくる。


 でも、負けない。

 絶対に負けない!!


 私は漆黒の魔力を使い隔絶された空間を作り出した。そして、空間内に漆黒の魔力で創造した黒い鎖を張り巡らせ、自分の体ごと縛り付けることで呪われた魂を封じ込めた。


 これで、私の全てを侵食したとしても、呪われた魂は自由に動くことすら出来ない。


 お前たちの好きにはさせない。

 お前たちに、パパとママの幸せを奪わせたりしない!!


 これが、私のできること。



 そうだ。

 私はきっと――この瞬間の為に生まれてきたんだ。


 これが私の生きる理由。


 私という存在が生まれてきた理由なんだ。









――そう、なんだろうな……。














(――よう。まだ意識はあるか?)

(……パ、パ?)

(残念だが、違うな)

(あぁ、そっか……そうだよね)


 封印され続けてもう三年が過ぎていた。


 あぁ、駄目だな……三年前と、同じ間違いをするなんて。


(どうやら、限界が近いようだな)

(うん。正直、もう左右の腕の感覚がないんだ……鎖で縛られていた当初はあんなに痛かったのに、今は何も感じない。もう、腕は侵食されちゃってるみたい)

(そうか……)


 もう……優しいなぁ。

 本当のパパじゃないって分かってるけど、心配するようなその声はパパと同じで、不思議と心が温かくなっていく気がした。


(本当はオレもそっちに行ければ、少しは元気づけられたのかもしれないけどな)

(駄目だよ。折角私が封印したのに【漆黒の略奪者】が来たら、私の事なんか放っておいて君を襲いに行っちゃうから)


 そうだ。

 この呪われた魂たちの目的は、恨みを晴らす事。

 そしてその恨みの対象はパパ――正確には、パパの持つ略奪の力なんだから。

 最初、【漆黒の略奪者】が私の役を代わりにすると言ったけど、それを私が断った。【漆黒の略奪者】が呪われた時、パパの身に何が起こるか分からないからね。


 それに、パパの一面である君に……私は消えて欲しくないから。


 貰った優しさは、今でも覚えてるよ。

 頭を撫でてくれ事も覚えてる。

 パパみたいに心配してくれてありがとう。


 大丈夫、私がみんなを守るから。






(……どうやら、もう直ぐそこまで来ているらしい)

(そっか。結局、君は止めてくれなかったんだね)

(止める理由もないからな。あいつには呪いも反応を示さないだろうし)


 そうだね。

 あの人には――ママには、呪いも反応しないだろう。


 それに、ママは女神様でもあるから。

 数が多いだけのただの呪いに浸食されることもないと思う。

 だからこそ、【漆黒の略奪者】もママが近づいている事に気づいていたのに止める事無く通したんだろうな。


 ああ、会いたくないなぁ。


 見られたくないなぁ……。


 ママは、きっと悲しむだろうなぁ……。


 私の体を見て、助けようとするかもしれない。

 でも、ママには助ける事は出来ない。ママはあくまで、パパの為に生きる精霊であり女神様だから。


 私を助ける事は出来ないんだから。


(あはは、会いたくないなぁ……)

(まあ、オレはそこに居ないから会わなくて済むけどな)


 もう、相変わらずだなぁ……。

 

 でも、その変わらない態度がいまは有難いかな。



――ガシャンッ!!


「――! ――!!」

「ああ、もう辿り着いたんだね……ママ」


 正面に見える大きな門。

 門を封じる様に張り巡らされた鎖が大きく揺れて、閉ざされた門の先から聞き覚えのある、大好きな人の声が聞こえた。


(それじゃあ、オレはここまでだな。後は、親子で楽しんでくれ)

(うん、ありがとう……あのさ、約束通りパパには)

(わかってるよ。約束通り、オレから制空藍にお前の状況について話すことはない)

(……ありがとう、【漆黒の略奪者】)


 うん、その言葉を聞いて安心した。

 だって、パパって優しいから。

 私の状況を知ったら、絶対に助けようとするはず……それこそ、自分のことを犠牲にしてまでも。


 そんなの嫌だもん。

 グラファルトにも、迷惑を掛けたくないからね。


 私はパパが大好き。ママが大好き。パパを大好きだと思ってくれているみんなが大好き。

 だから、私はパパを守るの。


 この命を懸けてでも守り続ける。

 それが、私の――。


「わた、しの」


 …………あれ?


 どうして、私は――。



「――プレデタァァァァ!!」

「ッ……いらっしゃい、ママ」


……胸の中に沸き上がる違和感と向き合うのは後回しだ。

 今は、笑顔で迎えないとね。


 砕け散る鎖と門。

 開け放たれた門の先には、私のママ――黒椿が黄金の瞳を輝かせて立っていた。


 そんなママを、私は笑顔を向けて迎え入れる。

 私の目の前までやって来たママを確認して直ぐに、砕かれた鎖と門を直した。


 元に戻された鎖と門を見て一瞬だけ視線を私から外したママだったけど、直ぐに私へと視線を戻して鋭い視線を向けて来る。


「全部、全部説明して。そして僕と一緒に帰るんだ」


 うん、怒ってるよね。


「ちゃんと説明する。でも、一緒に帰るのは……無理かな」

「ッ……なんで……」


 私の言葉に、ママはその顔を悲痛なものへと変えてしまった。

 ごめんね……そんな顔をさせちゃって。


 一緒に帰る事は出来ないけど、時間はまだあるから。


 だから、お話しよう?


 私が、私じゃなくなる最後の時まで。







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 【変更点のお知らせ】

 アルス村でのお話が20話を超えていたので、章を分ける事にしました。

 アルス村でのお話は”辺境の村――アルス”としてお送りします。



 そして、記念すべき200話目は、シリアスな展開から始まります。


 呪われし娘と神装武具編……ここに開幕!!



             【作者からのお願い】


 ここまでお読みくださりありがとうございます!


 作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!


 ご感想もお待ちしております!!


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