第197話 アルス村の改革―魔法編―



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 す、すみません!

 予約ミスで投稿時間がいつもより早くなっています!


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 おはようございます……。


 朝の6時です。


 深夜2時過ぎに床に就いた俺は、今日は遅めに起床すると心に誓って眠ったはずなのに、亜空間から懐中時計を取り出して時間を確認したら朝の6時でした。


 では、何故こんなに早い時間に目が覚めたのか?

 その答えは単純で……起こされたんです。


「ラーンー、ごーはーん~!!」

「ランくん、そしてグラちゃんもおはよう! いい朝だねっ!!」


 この赤と青のハングリーモンスターズによって。


 眠っていた俺とグラファルトの寝室に飛び込んできたロゼとアーシェ。

 鍵は掛けていたけど、この家の設計者であり建築者でもあるロゼがマスターキーを持っている為、マスターキーを使って入って来た様だ。


「ん……もう飯の時間かぁ?」

「……お休み」

「「ええ~!!」」


 いや、早すぎるだろ!? どんだけ元気が有り余ってるんだこの二人は……。

 隣で眠っていたグラファルトもロゼたちの大声に目を覚ましてしまう。

 こうなれば俺がぐっすりと眠る事が出来る訳も無く、二人に起こされる形で起床した俺は着替えてから一階のキッチンへと趣き、朝食の準備を始める事となった。







 朝食を終えた後、俺達は各自の目的に伴って別行動をとる事になる。


 今日は村の大人たちに魔法を教える事になっているので、ミラとフィオラは噴水がある中央広場へと向かうらしい。残りの滞在時間のほとんどを二人は講師として行動する事になる。


 グラファルトとライナは食後の運動と称して、フィオラが張った結界の中で戦闘訓練をする様だ。結界に関しては訓練が終わり次第グラファルトが【白銀の暴食者】で処理するらしい。一応ライナは講師役として来ているからお昼前には二人もこっちに合流するらしいけど、数日振りの訓練に二人は嬉々として準備体操をしていた。


 ロゼ、アーシェ、リィシアの三人は村の外周を見て回り、防御壁の制作とアルス村全体の補強作業を行うとの事。

 アーシェは子供達へ魔法を教える場合にのみ教える事となっている所謂特別講師だ。しかし、アルス村の村長であるボルガラと村の大人たちで話し合った結果、村の子供達には”その子供の親が教える”という事で纏まったらしい。フィエリティーゼでは、親から子へと魔法の使い方について教えるのが常識らしく、その話をミラから聞いた村の代表たちの中には子供を持つ者も多かった様で、”それならば自分たちも魔女様から教わった事を親である自分が子供へ伝えたい”という意見が多く出たのだとか。その事をミラがアーシェに伝えると、アーシェは別に怒る事もなく『知らない人に教わるよりも、お父さんお母さんから教わった方が安心だと思う!』と笑顔で言ったそうだ。

 講師役ではなくなったアーシェが暇を持て余していたので、俺から頼んで一番大変であろうロゼとリィシアの手伝いをしてもらう事にした。俺の頼みに嫌な顔一つもせず快諾してくれたアーシェは本当に良い子なんだと思う。

 その事を本人に伝えて、笑顔でピースを向けていたアーシェの頭を撫でたら顔を真っ赤にして俯いてしまったけど……あれは悪い事をした。幾ら何でも子供扱いは良くなかったなぁ……後で謝っておこう。


 あ、ちなみに俺はミラとフィオラの二人と一緒にいる。

 理由としてはロゼたちの方はもう手伝いは要らないと思ったのと、まだ眠い体で戦闘訓練は勘弁して欲しいと思ったからだ。


 そして現在。


「ふぁ~あ……結局あまり眠れなかったな……」

「朝から大変だったわねぇ」

「妹達が申し訳ありません」


 家を出て噴水がある中央広場へと続く道へ歩いている道中。俺が盛大にあくびをしていると、右隣りを歩くミラが苦笑交じりに俺を労ってくれて、左隣を歩くフィオラが申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にした。


「いや、別にフィオラが謝ることじゃないだろ? フィオラは何も悪くないんだから」

「それは、そうですが……」

「まあ、昨日の内に料理は大量に作り置きしておいたし、幸いなことに俺は今日と明日はフリーだから。みんなには申し訳ないけど、限界が来そうだったら昼寝でもさせてもらうよ」


 昨日の睡眠時間を代償に大量の料理を作った俺は、朝食の後でその全てを魔導冷蔵庫に入れて置いた。これで俺が居なくてもご飯を食べれるので、今朝の様に起こされる事はないだろう。最初からこうしておけば良かった……。 


「今日は魔力についての説明と魔力操作の基礎だけだから、そこまで忙しいわけではないし……別に私たちが授業をしている間は、寝ていても良いわよ」

「そうですね。もしあれでしたら、家に戻って仮眠をとって来ていただいても構いませんよ?」


 うーん、二人の提案は大変魅力的ではある。

 でも……。


「いや、授業の様子もきになるし、広場の端っこで見学させてもらうよ。天気も良いし、”変温魔法”で寒さも感じないからもしかしたら寝ちゃってるかもしれないけど」


 正直、ミラとフィオラが俺以外にどういう風に授業を行うのか気になっていた。というのも、俺は地球からフィエリティーゼへとやって来た異世界人である為、覚える事も多くその授業量も多かった。

 今回は魔法に関する授業だけみたいだけど、それでも自分の時と違う内容になっているのか興味がある。


「そう。それじゃあ、椅子でも用意しておくわ」

「ランくんに見られながらの授業ですか……少しだけ緊張しますね」


 俺の言葉に頷いたミラはそう言うと、優しげに笑みを浮かべた。その隣ではフィオラが少しだけ顔を赤らめている。

 そうして二人と共に歩き続けていると、あっという間に中央広場に辿り着いた。

 そこには既に村長のボルガラと、その妻であるモルラトを先頭に朝の仕事を終えたアルス村の大人たちが集まっていた。

 アルス村の大人たちの数は全員で一八〇人、今日はその半数である八〇人が授業を受ける事になる。講師一人につき四〇人か……地球の感覚で考えれば学校の二クラス分の人数だし大丈夫だと思うけど、内容は実践的な要素もあるからなあ。一応、ライナ達に早めに合流して貰えるように念話を入れておくか。


 そう考えて俺がライナに念話をしていると、ボルガラとモルラトの二人はミラとフィオラの二人と顔を合わせており、魔法の授業についての話し合いをしていた。


「ミラスティア様、本当にこんな大人数で押しかけてしまって大丈夫ですか?」

「心配要らないわ。フィオラも居るし、後からライナも合流する予定だから」

「一応、早めに合流してくれって伝えておいたぞ」

「あら、ありがとう。それじゃああなたはここに座っていなさい」


 俺にお礼の言葉を口にした後、ミラは噴水の側に移動すると亜空間から二人掛け用の柔らかそうなクッションが置かれた足つきソファを出してくれた。

 ……え、ここに座るの? 大きくない?


 視線を左に移せば授業を受ける為にやって来た村人達がミラの亜空間魔法を見て「おお……」と声を漏らしていた。


「てっきり、一人用の椅子かと思ってた」

「仮眠するかもしれないのだから、これくらい大きい方が良いでしょう?」

「ああ、そう言う事ね。ありがとう」


 ミラの厚意に素直に感謝して、俺は村人達の視線をひしひしと感じながらもソファへと腰掛けた。


 うわ、柔らか……。

 多分だけど、エンシェントシープではない、と思う。質感は似てるけど、色が違うから。確かこれって、俺の部屋にも置かれてた気がするな。俺の部屋にあるやつは一人掛け用のソファだけど。

 あのソファ、座り心地も良いし黒くてカッコイイから気に入ってるんだよな。グラファルトと取り合いになるくらいだし。まあ、素材については良くわからないし、思い出したらロゼにでも聞いてみよう。



 そうして俺がソファに座ったのを確認すると、ミラとフィオラは村人達へと視線を移して授業の開始を宣言した。


 授業の最初に行われたのは、初代アルス村の住人達がミラに施された”呪縛魔法”を解呪する事からだった。村人達には封印を解除すると言う名目にはなってるけど。

 魔法を掛けた本人であるミラが村人達を対象に魔力を込めた声で”解放リリース”と呟くと、村人達の頭上でガラスが割れる様な音が響く。


 その直後、村人達の体の周囲から【闇魔力】以外の五色の魔力が溢れだした。


「う、うわぁ!?」

「な、なんだこれは!?」

「ミ、ミラスティア様ぁ……」


 自分の体から溢れ出る魔力に困惑し、声を上げる村人達。

 そんな村人達を前にしても、ミラとフィオラは慌てる事無く冷静に村人達を見つめていた。


「まあ、予想通りね。今まで強制的に抑えられてきた魔力が一気に溢れ出したのね……フィオラ」

「はい!」


 ミラに名前を呼ばれたフィオラは、白く煌めく魔力を体外へと放出して右手を村人達へ翳しだす。翳した右手に魔力を集めだすと、フィオラはその魔力を村人達の周囲へと広げていった。そうして広がり続けた魔力は、次第に村人達を覆うドーム型の結界へと姿を変える。


 突如として結界に覆われた村人達はその状況に混乱し周囲をキョロキョロと見渡していた。その中には【青魔力】を持つボルガラと【白魔力】を持つモルラトの姿もあり、二人は他の村人達よりは落ち着いてはいたがそれでもその表情は不安そうであった。


「フィ、フィオラ様……これは一体……?」

「その結界の中にいる者は、魔力を抑制されます。本来の力の十分の一も発揮できないでしょう」

「通常であれば敵となる相手に対して使う魔法なのだけれど、魔力の制御が効かない相手に対しても有効なのよ。解放出来る魔力が抑制されれば、体外に放出される魔力も制限される。フィオラの”結界魔法”は他の子達よりも強力だし、魔法を使う事もままならないと思うわよ?」


 ボルガラからの質問に答える様に、フィオラとミラは村人達全員に聞こえる様に”拡声魔法”を使いながら説明していた。


 あの、ミラスティアさん……? 最後に俺の方を見るのはやめてくれませんかね?

 まあ、人という枠組みからは外れつつある自覚はあるけどさ……。


 ミラの説明のお陰か、自分達の体を見て確認できたからなのかはわからないが、村人達を襲っていた不安や恐怖は少しづつ落ち着いて来た様だ。


 そうして落ち着きを取り戻した村人達を前に、ミラとフィオラの二人は魔法に関する基礎知識から説明し始める。

 そもそも魔力とはなんなのか、この世界に存在する魔力色と呼ばれるスキルについて、魔法を行使する際に使用者に求められることとは?

 そう言った常識的な内容を中心に授業を進めて、知識として村人達の頭に記憶しておいてもらうのが目的らしい。後で復習できる様に一人につき一冊、エルヴィス大国の学園で使われている”魔法学―初級編―”という教科書を渡していた。


 でも、あれだな。

 正直、俺が一番最初の頃に教わっていた内容と同じだったので、興味をひかれる内容かと言われれば微妙……。


 そう思い始めてしまったのが悪かったのか、二人が授業を行っている最中にも関わらず、俺はソファの右側に体を寄せてそのまま重くなる瞼を閉じてしまった。

 そうして、二日連続であまり眠れなかった体は今まで不足していた睡眠を貪る様に俺の意識を刈り取って行った。






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 ちなみに、藍くんが座っているソファの素材は194話にて書かれていたハイエンシェントシープです。

 高いです。とても高いです。王族でも中々手が出せないくらいに高いです。


 

            【作者からのお願い】


 ここまでお読みくださりありがとうございます!


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