第195話 動き出した五色の魔女






「本っ当に申し訳ございません……ッ!!」

「いや、別に怒ってないから……だから、とりあえず土下座はやめよう?」




――今から二時間前。


 アルス村から我が家へ一時帰宅した俺とグラファルトの二人は、襲い来る眠気を鎮めるべく寝室へと向かった。

 寝室の扉を開いたその先には何故かフィオラの姿があり、陽の差し込むベッドの上でスヤスヤと眠っている状態。


 予期せぬ事態に俺が困惑する中、グラファルトは魔力装甲で作った普段着であるダメージ加工が施されているオーバーオールとノースリーブの黒シャツを消し去り裸になった後、亜空間から俺の黒シャツを取り出して着替え終えると、そのままベッドの方へ歩いて行ってしまう。

 どうやら、フィオラに反応する事よりも眠りたいと言う欲望の方が勝った様だ。


 のそのそとベッドの上へと乗り、フィオラが寝ている場所の少し左側に置かれていた自分の枕を手にしたグラファルトは、フィオラから離れてベッドの左端まで行くと枕に頭を乗せて眠り始めた。

 その自由過ぎる行動に、なんか俺も「まあ、良いか」って気持ちになってしまって、余所行きの恰好から黒の半袖半ズボンに着替えて、フィオラを起こさない様にグラファルトの右隣りに移動した後、そのまま眠りについた。

 本当は一時間くらいのつもりだったが、どうやらいつの間にかグラファルトと抱き合う様に眠っていたらしく……人の温もりが心地よくて二時間も寝てしまいました。後悔はしていません。


 そうして仮眠を済ませた俺とグラファルトが起きると、フィオラはまだ寝たままの状態だった。シーツも掛けずに俺の枕に頭を乗せたフィオラは左側……つまりは俺達の方を向いて寝息を立てていて、起きる気配はない。

 このまま寝かせておいても良かったんだけど、二時間も経過している為、そろそろミラが待ちくたびれているかもしれない。フィオラ一人だけ置いていくっていうのも可哀想だし、アルス村へ行くかどうかだけでも聞こうという決断を下して、グラファルトは普段着へ、俺は余所行きである麻で作られた村人ファッションに着替えてからフィオラを起こすことにした。



――そして現在。




「本当に……も、申し訳ありません……」

「だから、別に怒ってないんだってば!」


 俺とグラファルトによって起こされたフィオラは、俺達の姿を見るや否やその顔を青くしてベッド上で土下座を始めた。

 うーん、どうすればいいのやら……。

 怒ってない、気にしなくてもいいと言ってるのに。


「――これ、栄光の……もうやめんか」


 俺がフィオラの対応に困っていると、胡坐を組んで座る俺の背後からグラファルトがのしかかって来た。

 グラファルトは俺の背にのしかかりながら、フィオラに話し掛け続ける。


「藍も気にしていないと何度も言っておるだろう? いい加減頭を上げんか。これ以上は、藍にとって迷惑にしかならんぞ」

「うっ……」


 グラファルトとに窘められると、フィオラはようやく下げ続けていた頭を上げてくれた。その顔は少しだけ赤くなっており、目元には涙を溜めている。


「る、留守を預かっている間のみんなの食事の管理を任されている身でありながら、この様な有様で、本当に申し訳なく……」

「フィオラ、何度も言ってるけど俺は本当に気にしてないから」


 いまにも泣きそうなフィオラの頭を撫でて、俺はなるべく優しく声を掛ける。


 いや、実際本当に怒ってないからなぁ。

 一応確認としてグラファルトに顔を向けると、グラファルトは俺と目を合わせて直ぐに首を縦に振った。


「栄光の、本当に気にする必要はないぞ? それに、今回の件は藍にも責任があるからな」

「えっ!?」


 何それ、聞いてない。

 予想外の言葉に思わずグラファルトへ目をやると、グラファルトは呆れた様に溜息を吐いてからその口を開いた。


「あのなぁ……そもそも、魔竜王であった我や<神の使徒>である六色の魔女達がわざわざ毎日睡眠をとる様になったのは、お前の影響なのだぞ?」

「ええ……」


 意味が分からない……。

 俺が首を傾げていると、グラファルトはその顔に苦笑を浮かべた。


「分からんという顔をしておるな? だが、事実だ。我も栄光のヤツも、そして他の魔女達や女神達も、皆がお前に影響されて変わり始めている。だが、それは決して悪い方にではない……生物として超越してしまった我らが人間らしい生活を出来るようになったのだ」


 そう言いながら、グラファルトは苦笑をやめて楽しそうに笑いだした。


「お前との毎日は本当に楽しい。お前は周りの皆を幸せにしてくれる。まぁ、ちょっとばかし心配になる事も多いがな。我らを変えた責任はしっかりと取ってもらうぞっ」


 みんなの生活を変えたつもりは無いんだけどな。でも、元々みんなはバラバラに暮らしていたんだっけ。だけど、俺がこの世界に転生してからは一緒に住む様になって――あれ、そう考えると確かに俺のせいかもしれない……。


 ぎゅっと背中に抱き着いて来るグラファルトから視線を動かし前へ向けると、そこには未だに顔を赤らめながらも、グラファルトの言葉に強く頷いているフィオラの姿が。


 はぁ……なんだか釈然としないが、一緒に住んでいるグラファルト達に言われたらどうしようもない。


「まあ、みんなから責任を取れと言われたなら取るけど……」

「その言葉、忘れるでないぞ?」


 うーん、安請け合いしてしまっただろうか……。


 その後、何度も謝罪の言葉を口にしていたフィオラを宥めて、なんとか納得してもらった。うん、まだ多少の陰りが見えるけど大丈夫そうだな。


 そうしてフィオラが落ち着きを取り戻したことで、ようやくアルス村での話をすることが出来た。


「アルス村で、魔法の講師……ですか?」

「うん、そう。人数が多いからミラ一人だと大変みたいで、フィオラ達にお願いできないかなってさ……大丈夫かな?」

「そうですね……アルス村に講師として向かう事には問題はありません。行くとしたら私とラーナ、子供にも教えるのならアーシェが適任ですかね。ですが……」


 そこまで言うと、フィオラはその表情を少しだけ曇らせる。

 あれ、何か問題でもあるのかな?


「何か気になる事でも?」

「いえ、その……私達三人だけで行きますと、ローゼとリアが……」


 ああ、その事ね。


「大丈夫だよ、元々全員に声を掛けるつもりだったから。もちろん、本人が行かないって言うなら引き続き留守番をしてもらう事になるけど」

「そ、そうですか。なら早速、全員を呼びますね!」


 俺の言葉にフィオラは安堵の笑みを浮かべてそう言った。

 みんなで出掛ける事が出来て嬉しいのだろう。仲間外れは良くないからな。



 フィオラが念話を終えると、直ぐにロゼ、アーシェ、ライナ、リィシアの四人が俺の部屋へとやって来た。

 え、どうやって入って来たかって?

 そりゃあ、当然ロゼがマスターキーを使って開けましたとも。


 ほんと……俺の部屋に鍵って必要なのかな?


 やって来た四人にもみくちゃにされながらも、何とか説明を終えることが出来て、俺から話を聞いた四人はアルス村へ行くことについて快諾してくれた。


 フィオラ、ライナ、アーシェは講師として。

 ロゼとリィシアはアルス村の設備等の改修役として赴くことに決まった。


 みんなで話し合って決めたとはいえ、結果的にロゼとリィシアの方が忙しくなりそうだ。俺で手伝えることがあったら積極的に手伝う事にしよう。


「さて、話が纏まった所でそろそろミラの所に戻るとするか」

「そうだな。常闇の奴も待っているだろうし……それに」

「ん?」


 話を途中でやめてしまったグラファルトに首を傾げると、何やら企んでいるようなにやけ顔をしてグラファルトは俺を見上げていた。

 な、何を言うつもりだ……?


「それにぃ――新たに妻となった常闇に、お前も早く会いたいのだろう?」

「「「「「ッ!?!?」」」」」


 その瞬間、グラファルトの言葉を聞いていた五人の空気が豹変した。

 そう言えば、言うの忘れてたな……。


「あ、あのな? その件について何だけど――「行きましょう」――え?」


 俺が説明をしようとした矢先、普段よりも少しだけ低い声音でフィオラがそう言った。


「これは一大事ですね。例え講師役を頼まれなかったとしても、アルス村へと向かわなければならない理由が出来ました」

「ふーん……ミーアがねぇ~」

「わたしも、ミラ姉にお話があるかな~」

「そうだね。僕はみんな程じゃないけど、どういう経緯でそうなったのかは気になるかな?」

「……むぅ」


…………あれ?


「くくくっ……それじゃあ、行くとするか」

「「「「「うん」」」」」

「あれぇ……?」


 そうして、グラファルトの”転移魔法”によって俺達はアルス村にある拠点へと転移した。


 なんか……雲行きが怪しくないか?






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