第194話 フィオラさんお昼寝中


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 おそらく、作品内では初のフィオラ視点(間違ってたらごめんなさい!)です。


 フィオラはリィシアの事を”リア”と呼んでいる為、フィオラ視点で”リア”と呼ばれているのは”リィシア”です。

 過去のお話で、フィオラがリアではなくリィシアと呼んでいる箇所があったら本当にごめんなさい……!


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――ランくん達は、今日からこの家を離れて旅をしています。

 三泊四日なので、あと四日は帰って来ません。

 いいえ、もしかしたら何か問題が起きて更に日数が伸びる事も……。


「…………はぁ」


 ランくん達の帰りがいつになるのか……それを考えるだけで溜息が出てしまいます。


「――七回目」

「え?」

「フィオラお姉ちゃんが此処で溜息を吐いた数。今ので七回目」

「そ、そんなにしてましたか?」


 末の妹であるリアが私の名前を呼んでそう言いました。

 今日はリアと共に家の三階にある蔵書室で読書をしていたのですが、どうやらリアは本を読みながら私の溜息の回数を数えていたようです。

 ううん……私はそんなに溜息を吐いていたのでしょうか?


「してた。断言する」

「そ、そうですか……」


 断言されちゃいましたね。

 はっきりとした口調でそう呟くリアが嘘を吐いている様には見えません。それはつまり、本当に私が七回も溜息を吐いていた事を意味していて、その原因は――


「――お兄ちゃんのことを考えてたの?」

「ふぇっ!?」


 私がいま心の中で言おうとしていた事を、リアが代弁するかのように呟き始めた所為で思わず変な声を出してしまいました。

 うぅ、リアは出会った頃の年齢で言えば末の妹ですが、長いこと生きてきた私達にとってそんな序列は些細な事です。だからという訳ではありませんが、数百年前からリアは時より、こうして確信を突く様な問いを真っ直ぐに投げ掛けて来る様になったんですよね……。

 で、ですが!! 私だってお姉ちゃんなんです。ミラスティアお姉ちゃんが居ない今――ここは次女としての威厳を保たねば……ッ。


「ち、違いますよぉ? わ、私は決してランくんの事を考えていた訳では――「嘘。フィオラお姉ちゃんは家族に対して嘘を吐くのが下手。フィオラお姉ちゃんが嘘を吐く時には、必ず右目が一回だけ素早く瞬きをするって、ミラお姉ちゃんに教えて貰った」――うぐぅッ!?」


 ダメでしたぁ!!

 直ぐに否定されてしまいましたぁ!!

 そして何故か私の嘘を吐くときの癖が姉妹間で情報共有されていましたぁ!!


 うぅ……ミラスティアお姉ちゃんめぇ……。


 蔵書室にある読書席に座っていた私は開いていた本に顔を埋めて項垂れます。

 すると、本が閉じる音がしたと思ったら直ぐに小さな靴音が響き、ふわりと小さな何かが私の頭の上に乗せられました。


「別に恥ずかしい事じゃない。私もお兄ちゃんの事はよく考えてる」


 優しく呟かれた声に顔を上げると、正面に座っていたリアがわざわざ私の右隣りへと移動して、私の頭を撫でてくれていました。


「フィオラお姉ちゃんは普段から我慢する事が多い。もっと主張するべき」

「で、ですが、私は貴女たちの姉として……」

「そういうのはもういい」

「えっ……」


 それはそれで寂しいのですが……!? 

 めんどくさいお姉ちゃんでごめんなさい……!!


 リアから告げられた言葉にショックを受けていると、リアは柔らかな笑みを浮かべて言葉を続けます。


「私の中では、ミラお姉ちゃんも、フィオラお姉ちゃんも、ロゼお姉ちゃんも、アーシェお姉ちゃんも、ラナお姉ちゃんも……全員等しく、大事なお姉ちゃんなのに変わりないから。だから、フィオラお姉ちゃんがもう無理にお姉ちゃんとして振る舞う必要はない。これからは、自分に正直になって? 私達の為にじゃなくて、フィオラお姉ちゃん自身の為に生きて欲しい」

「リ、リアぁ……」


 私は我慢する事が出来ず、右隣りに立つリアに座りながら抱き着いてしまいました。

 嗚呼、私の妹はなんて良い子なのでしょうか?

 てっきり遅めの反抗期かと思い込んでいたお姉ちゃんを許してください……。


 泣きながら抱き着いて来た姉の事を、リアは優しく受け止めて「よしよし」と声に出しながら撫でてくれました。

 あれ、これではまるで私の方が年下みたいではありませんか……?

 しかし、恐るべきリアの包容力です!!

 リアに抱き着いた私は、もうリアから離れることが難しくなっていました。頭では離れようとしているのですが、体が言う事を聞きません。そうして未だに抱き着いたままの私は、リアに頭を撫でられる度に心が落ち着いていくのを感じています。


 うぅ……自分の心に素直になるのは良いのですが、こんな姿は弟子であるレヴィラには見せられませんね。

 ですが、折角リアが私の為に言ってくれた言葉を無下にするのもちょっと…………よし。それなら、この家に住む人以外が居る時には今まで通り控える事にして、気心の知れた仲であるみんなと居る時にだけ私の思いを第一に優先する事にしましょう! それなら、レヴィラに対しては師としての威厳を保つことが出来ますし、リアの言葉を無下にしないで済みます。


 こうして私は新たな決意を胸に、これからはなるべく我慢しないで自分の本心を大事にしていくことに決めたのでした。







 蔵書室での出来事から翌日。

 私は誰にも気づかれない様にこっそりと一階へ降りて、一つの扉の前に立っています。


「ふぅ……い、いきますっ」


 覚悟を決めた私が手にしたのは、部屋に入る為のスペアキー。留守番となったみんなの食事を管理して欲しいと頼まれた時に、一緒に渡されたそのカードキーを……私は扉に付けられた挿入口に入れました。


 カードキーを挿し込んでから数秒後。

 カチャっという音が扉から鳴ったのを確認してから、私はドアノブを捻り扉を開きます。


 キィ――パタンッ。


 その音が鳴り止むと同時に、私は扉を背に床へとへたりこんでしまいました。



 は、入っちゃいましたぁ!!!!

 特に用事がある訳でも無いのに、私はランくんの部屋に入ってしまいました!!

 ごめんなさい、ランくん!! 私は悪い子です!!


 心の中でランくんへの謝罪を終えて、私は扉を開けて先に広がる居間へと足を進る事にしました。


 うわぁ……ローゼが改装したと言っていましたが、こんな風になっていたのですね……。


 あ、エンシェントシープのウール素材を使ったソファがあります!

 あれ、こっちの一人掛け用ソファに使われている黒いウール素材、染めたのではなくて元から……ッ!?

 これ、ハイエンシェントシープのウール素材じゃないですか!?

 逃げるのではなく、戦う事で生き抜いてきたエンシェントシープが進化を遂げた特殊個体――ハイエンシェントシープ。

 その価値は値段では計れないと言われていて、エンシェントシープのウール素材を百キロ集めたとしても、百グラムのハイエンシェントシープの素材には敵わないと謳われる伝説の素材……。

 ローゼ、これはちょっと張り切り過ぎではないですか!?


 私の知らない所でローゼが色々とやり過ぎている事を確認しつつも、今更言っても仕方がないと思った私は、たとえこれからどれだけ希少な素材が使われていたとしても”ローゼの個人資産だから気にしない”と自分に言い聞かせる事にして、お部屋見学を続けることにしました。こういう時はあれこれ考えたって仕方がないのです。ローゼは自分がその素材を使いたいと思ったら意地でも引かないタイプですから。


 そうして私はキッチン、トイレ、浴室と見学して行き……居間に付けられた四つの部屋へと続く扉のうち、最後の扉に手を掛けました。


「……~~ッ」


 こ、ここが……ランくんがいつも寝ている寝室ですか……。

 浴室を見学した時も少しだけ緊張してしまいましたが、寝室は浴室の何倍も緊張してしまいます……どうしてでしょうか?


 寝室の奥に大きなベッドが一つ置かれています。ローゼが『いずれの事を考えてー、家に住む全員が寝転がれる広さを用意したー』と言っていたのを覚えています。そ、それはつまり……そういうことなのでしょうか!?

 い、いずれは私も、藍くんとそう言う事を、こ、ここで……~~ッ!?


 な、何を考えているんですか私は!?

 一旦、心を静めなければいけませんね……心を、静めて……


「…………」


 深く息を吸い込んで、深呼吸を繰り返します。

 しかし、そうして深呼吸をしている最中も、私の視界には目の前の大きなベッドが映る訳でして……ちょ、ちょっとくらい、寝てみても大丈夫ですよね?

 そうです、いずれは私もと考えるくらいならば、お試しという事で寝てみても良いのではないでしょうか!?

 そ、そうと決まれば……。


 私はゆっくりとその足を進めてベッドへと近づきます。

 ベッドの目の前まで辿り着いた私は、左端まで移動するとベッドに右手を置いて沈ませてみる事にしました。


「わぁ……」


 や、柔らかいです……。

 ですが、ただ柔らかいわけではありません、適度に少しだけ力を込めて押し込んでみると抵抗する様な反発力を少しだけ感じました。

 こ、これは……我慢できません!!


 履いていたスリッパをその場で脱ぎ、私はベッドに膝を沈ませて……遂にベッドに乗ってしまいました。


「……あっ」


 両膝を沈ませて直ぐに私の力はベッドに吸収され、力なく体がベッドへと沈んでいきます。

 うぅ……このベッドは恐ろしいです……!! 私の部屋のベッドとは全く違うではありませんか!!


 ランくんがこの世界へやって来てから、私達”六色の魔女”の生活もガラリと変わりました。

 今までは眠らなくても活動できていた私達が、ランくんと一緒にお昼寝をしたいという理由で睡眠に拘り始めて、気づけば毎日ちゃんと眠らないと疲れが残る体になってしまいました。


「そうです……これはランくんの所為なんです……」


 自分に言い聞かせる様にそう呟いた私は、もう開き直る事にしました。

 そうして、左から右へとゴロゴロと寝転がり遊んでいると右側に置かれている枕に顔がぶつかってしまいました。


「うぶっ……ッ!?」


 こ、これってまさか……ランくんの枕なんじゃ!?

 ぶつかった枕に顔をうずくめると、そこからは大好きなランくんの匂いがしました。

 ああ、この匂い……落ち着きます……。


「ふぁ……んっ……」


 い、いけません……先程まで動き続けていた所為か、徐々に、眠く…………。


 そうして、私の意識は遠のいていき……抗う事の出来ない眠気に襲われた私は、そのまま眠ってしまいました。


「……ッ……だ……」

「……せ……か……」


 遠くの方から、聞き慣れた声が聞こえた気がしたのは……気のせいでしょうか?











――――――――――――――――――――――――









「――ッ。おぉ……俺の部屋だ」

「だが、アルス村の部屋の構造と変わらぬ所為か、あまり帰って来たという気持ちにはならぬな」


 アルス村の拠点からグラファルトの”転移魔法”で森にある我が家へ帰って来た。

 普通に玄関前から入ろうと思っていたのだが、グラファルトが家で留守番をしている皆を驚かせようと提案され、それも面白そうだなと思い自室の部屋に転移して来たのだ。

 ロゼが作ったこの家の個室は、一室一室が認証システムを導入しているので、部屋の主しか外から中へ転移出来ない様になっている。つまり、この部屋の使用者として登録されている俺とグラファルト以外はこの部屋には転移出来ない。


 まあ、マスターキーを持っているロゼとか、スペアキーを隠し持っていたミラなんかは自由に出入り出来るんだけどね……。


「さて、それじゃあみんなに挨拶しに行くか?」

「うーん、折角だから一時間くらい仮眠して行かぬか? 我はもう眠くて眠くて……」

「……そう言えば、俺もあんまり寝てないんだよな」


 眠そうに目を擦るグラファルトを見ていると、自然と俺も眠くなって来た。

 朝食も食べて、体も動かしたから、良い感じにまた眠気が襲って来ているのかもしれない。


「……寝るか」

「うむ」


 そうして俺達はフラフラと寝室へと続く扉の前に立ち、ドアノブへと手を掛けた。


 扉を開いたその先には寝室があり、自然と視線はベッドの上へと向けられる。


「…………」

「…………」

「すぅ……すぅ……」



――え、何でフィオラが俺の部屋で寝てるの?






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   【作者からのお願い】


 ここまでお読みくださりありがとうございます!


 作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!!


 ご感想もお待ちしております!!


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