第184話 魔・竜・猛・進・!
「…………いま、なんと言った?」
「いや、あの……ですね?」
あれーー、なんか機嫌悪いぞ!?
ボルガラとモルラトの家を後にした俺は、アルス村の拠点である三階建ての家へと帰ってきた。
歓迎会が始まる前に話しておこうと思いミラの部屋の前まで行ってノックをしてみたが、ミラから返事が返って来る事はなく、数分待ってみても扉が開く気配はない。出かけたのかなと思いその時は諦めて、俺の名前が書いてあるネームプレートが掛けられた部屋の中へ入ることにした。
部屋の中はミラが言っていた通りで、”死の森”にある我が家の自室とそっくりに造られていて、入って直ぐの居間にある四方にソファが並べられているテーブル席にはグラファルトが居た。
いつもならテーブルの長い辺の側に置かれている長ソファに寝転がり昼寝をしているグラファルトだが、今日は珍しく短い辺の側に置かれている一人掛けのソファに腰掛けていた。
そこで俺は、昔からの付き合いであるグラファルトならミラの昔の話も知っている筈……もしかしたらミラがアルヴィスの末裔について話したりしていたのではないかと思い、グラファルトにも相談してみる事にした。
そうして、さっきまでの出来事を説明したのだが……
「なるほどなぁ? つまり貴様は、我が話すべきか話さぬべきかこんなにも悩んでいる時に既に別口から話を聞いていたと……」
「あの……グラファルト?」
「はぁ~~……これでは長々と悩んでいた我が馬鹿みたいではないか!!」
「ご、ごめんなさい……」
テーブルを叩いて正面に座る俺に怒鳴るグラファルトに思わず謝ってしまった。
あれ、やっぱり奥さんには勝てないのかな……怒鳴られた瞬間に謝ってしまった。でも、怒鳴ってる奥さんも可愛い……。
「……なにをニヤニヤしているのだ」
「いえ、何でもないです」
おっと、グラファルトに睨まれてしまった。
俺は表情筋を引き締めてにやけそうになる顔を抑える。
その後もグラファルトの愚痴を聞いては謝り、怒られれば謝りと繰り返して何とか機嫌を直して貰えた。
「そういえば、ミラはどこに居るんだ? 部屋には居ないみたいだったけど」
落ち着いた所で話題をミラの行方についてへと移した。
「ああ、常闇なら客室に居るぞ?」
「え、なんで?」
「我がそこに連れて行ったからだ」
「はぁ……?」
要領を得ないグラファルトの話に首を傾げていると、グラファルトは俺が居ない時に何があったのかを話してくれた。
俺たちの家の前でボルガラが『魔法が使えない』と言った時、グラファルトには心当たりがあったらしい。しかし、それでもまだ確信には至っていなかったらしく、俺に伝える前にミラと話をしようと客室の一つを使い話していたそうだ。
そうして、グラファルトから話を聞いていたのだが……。
「――それ、本当なのか?」
「うむ……常闇はそう言っていたぞ?」
「ええ……つまり、ミラは自分が恨まれていると思っているのか?」
俺の言葉にグラファルトはゆっくりと首を縦に振った。
グラファルトの話によれば、ミラは自分がアルス村の村人たちから恨まれていると思っているらしい。その理由は様々だが、一番の理由はミラが使ったという”呪い”が原因であり、呪いを掛けたミラはまさか現在に至るまで呪いが続いているとは思ってもみなかった様だ。
これに関してはやっぱりというか、予想通りだなって感じだ。
ミラが呪いの影響が続いていると分かったのは事前調査の時。アルス村の存在は知っていたが、変に騒がれる事を嫌ったミラは”認識阻害魔法”を使いフィオラの知人としてアルス村へと訪れた。
そして、村の環境や村人たちの農作業の様子を眺めていて不審に思い、フィオラを介して村長に話を聞いたらしい。その結果分かったのが『魔法が使えない』という事実であり、その原因が呪いの影響であるとミラは直ぐに気づいたらしい。
「でも、それならどうしてこの村での滞在を選んだんだ? 村人に恨まれていると思っているなら、俺なら接触は避けると思うんだけど……」
「……あやつは責任を感じておるのだ。自分の所為で魔法が使えないアルヴィスの末裔たちに、せめてもの償いとして何かしたいのであろう。この滞在の中で、困っている事があれば”ミーティア”として助けるつもりなのかもしれないな。まあ、お前の話によればもうバレている様だが。それに、お前も知っておるだろう? 常闇がどういう性格であるのか」
「……うーん」
なんだかややこしいことになって来たな。
ボルガラ達はミラに恨まれていると思っていて。
一方のミラはボルガラ達に恨まれていると思っている。
ボルガラ達にはミラは恨んだりしていないと言っておいたけど……ミラは結構頑固なところがあるからなぁ……。
「ミラをどう納得させればいいのか……出来る事なら歓迎会までにわだかまりを解消しておきたかったんだけど」
「なら、お前が常闇に話せばいいではないか」
「いや、俺の話を聞いてもそう簡単に信じてくれないだろう?」
「そうか? お前の話だったら常闇も聞くと思うがな……」
いや、何を根拠にそんな事言えるのか、全くわからないんだけど。
その後も何かいい方法はないかと考え続けるが、結局時間だけが過ぎて行く。
グラファルトは考えている途中で「もういい!!」と言って部屋を飛び出して行ってしまった。短期と言うか、面倒ごとが嫌いというか……。
まあ、今はグラファルトの事よりもミラの事だ。
「うーん、やっぱり根気よく話すしかないよな」
グラファルトじゃないけど、ミラとはそれなりに信頼し合っている自信がある。ミラに否定されたとしても、ボルガラ達の言っていた言葉や過去の文献に載っていた話を一生懸命伝える事が一番効果的かもな。
「よし、そうと決まれば――」
覚悟を決めた俺はミラを探しに行こうと自室から廊下へと出て客室の扉が並ぶ通路へと向かった。
そうして中央にある階段を挟んだ右側の通路を進み、客室の扉が並ぶ場所まで近づくと階段近くの扉から何やら大きな声が聞こえた。
「~~か!! いい加減に――」
「……グラファルトか?」
何事かと思いドアノブに手を伸ばすと、ガチャッという音と同時に物凄い速さで扉が俺の右肩辺りに直撃する。
「うおぉ……ッ!?」
「あ」
突然肩を襲った激痛にしゃがみ込むと”あ、やっちゃった”と言った感じの短い言葉をグラファルトが漏らす。
顔を上げると、そこには内側のドアノブをしっかりと握っているグラファルトの姿があり、グラファルトはバツが悪そうな顔を浮かべると俺から視線を逸らした。
「す、すまぬ……」
顔を逸らしたグラファルトをジーッと睨み続けていたら観念したようにグラファルトは謝罪の言葉を口にした。
まあ、そこまで怒っている訳ではないけどさ……痛みも直ぐに引いたし。ただ、我関せずと言わんばかりの態度が癪に触り睨み続けてしまっただけで。
俺は直ぐに立ち上がり、何を大騒ぎしていたのか聞こうとしたのだが、グラファルトは俺が立ち上がるとドアノブを掴んでいた右手で俺の左腕を掴み、部屋の中へと引っ張った。
「ちょっ!?」
「いや~、常闇の奴をどうお前の元に連れて行けばいいのか悩んでいたが、お前の方から来てくれて助かったぞ! それじゃあ、後は任せる。歓迎会までには何とかするのだぞー」
俺を引っ張り入れた後、代わるように廊下へと出たグラファルトは俺にそう言い残して扉を閉めてしまった。
……常闇の奴を?
思い出した言葉に、扉の方に向けていた体を恐る恐る振り返ると……部屋の中にはミラの姿があった。
扉を背にして右側に置かれているベッド、そこに腰掛けている状態のミラは枕を胸に抱いて俯いていた。
……あいつ、面倒になって全部押し付けやがったな!?
多分、うじうじと悩んでいる俺にしびれを切らしたグラファルトは、客室に居るミラを俺達の部屋に連れて行こうとしたんだろう。だが、それをミラが嫌がりそれでも何とか連れて行こうと説得している所で俺が現れた。そして、俺がやって来たことでミラを移動させるという面倒が無くなったグラファルトは、俺を部屋へ押し込み全部丸投げした状態で何処かへ行ってしまったという訳だ。
よし、旅の間グラファルトは飯抜きだ。
自分で狩りも出来るだろうし、生肉でも喰っていてもらおう。
そして、俺は目の前で作り置きしておいた料理を食べる。
想像しただけで楽しくなって来た。
って、今はそれどころじゃないな。
とりあえずはミラに話をしないと。
「や、やあ……」
「…………」
む、無視された……。
というか、大丈夫なのか? 全く反応がないけど……。
「あ、あの……ミラ?」
「…………さい」
「え?」
「……ご、ごめんなさい」
「ッ!?」
心配になって少しだけミラの近くへと寄り声を掛けると、消え入る程に小さな声でミラは謝罪の言葉を溢した。抱き寄せていた枕の上の部分にポツリポツリと何かが落ちる。落ちたそれは枕に不揃いな丸い染みを作り出し、それがミラが溢した涙だと分かるまでにそう時間は掛からなかった。
えっと……どうしてこうなった!?
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なんだかんだでランくんは優しいから「飯抜きだ」と言ってもあげちゃいそうですよね。
アルス村のお話は今までとは違い割とハイペースで進んで行く予定です。
【作者からのお願い】
ここまでお読みくださりありがとうございます!
作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!!
ご感想もお待ちしております!!
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