第177話 道中の会話 前編
”死の森”と呼ばれる俺達が暮らしている森は、フィエリティーゼの南に存在している。正確には中央寄りの南……右下にはラヴァール大国、左下にはヴィリアティリア大国、そして上にはエルヴィス大国がある。一番近いのはエルヴィス大国だ。
強力な結界によって森全体が囲まれている為、外から入るには北側……つまりはエルヴィス大国側にある小さな入口から入るしかない。まあ、とは言え中央にある俺達の家がある場所には入れないみたいだけど。外に張られている結界とは別に俺が転生して直ぐに内側に結界を張ったらしい。つまり、いま”死の森”には結界が二つ張られている訳だ。
元々張られていた結界の役目は、森から血戦獣を外に出さないようにすること。どうやらこの森は”六色の魔女”が<使徒>の称号を手に入れる事となった厄災の蛇との戦いが起こった場所らしい。その為、血戦獣の様な危険な魔物が多く存在する原因は厄災の蛇なのではと言われていた。そんな危険な魔物を外に出すわけにはいかない為、建国前にミラ達が協力して結界を張ることにしたそうだ。
エルヴィス大国側にだけ入口があるのはレヴィラがフィオラに懇願したから。
『あそこには貴重な素材が山ほどあります!! お師匠様たちなしでも入れるようにしてください!!』
そう頼み込まれてしまったフィオラは、仕方なくエルヴィス側の結界の壁に外側から新たにイチョウ型の結界を設置した。
外から入るにはイチョウ型の結界を潜り、その先にある開閉式の扉を開けて入るしかない。このイチョウ型の結界の傍には常にエルヴィス大国所属の魔法師と騎士団が駐屯しており、問題があった場合に対処できるようになっているらしい。
まあ、今回はアルス村がある東側に転移したから北側にある駐屯地を見る事は無いけど。
現在、俺達は結界外の東側にあたる場所を歩いている。このまま右側に進めばラヴァールに左側に進めばヴォルトレーテに行けるらしい。徒歩だと一月以上掛かるらしいけど……。
アルス村は東に真っ直ぐ進んだ所にあるらしい。特に壁に囲まれている訳でも無く、しばらく進めば豊かな畑や牧場が見えるのだとか。
それにしても……
「しばらく歩いてるけど、森とは違って草木が生えてないんだな。フィエリティーゼではこれが普通なのか?」
十分くらい歩いただろうか? 森を出てからというもの足元は硬い土で覆われた大地が続き、周囲には草木はおろか動物すら見えない。フィエリティーゼでは森林地帯とかはあまりないのかな?
そう思い呟いた俺の言葉にミラが答えてくれた。
「いいえ、そういう訳ではないわ。私達が暮らしている森以外にもエルヴィスを中心として東に行けば竜の渓谷がある山岳地帯があるわね。あそこは”死の森”に匹敵するくらいの森林地帯の筈よ」
「うむ、確かにあそこは魔物も含めて生き物は多いな。我らが歩いているこの地に緑がないのは、新緑の娘が精霊に頼んでいるからだろう」
「リィシアが?」
話の意図が見えず首を傾げていると、ミラがグラファルトの言葉を繋ぐ様に説明してくれる。
「結界を張る前の話よ。当時は大国と呼ばれる国しかなかったから開拓も進んでいなくて、結界を張るにしても森の範囲が広すぎて無理だと分かったの。だから、厄災の蛇を倒した場所から大雑把に範囲を絞って、その範囲外にあった森は伐採したのよ。その際に、”精霊魔法”を使えるリィシアを介して上位精霊にお願いして、”死の森”から2kmくらい先まで植物を生やさない様にしてもらったの」
「へぇ、そうだったのか」
「だから、もう少しすれば――ほら」
話の途中でミラは歩くのを止めて前を見るように促した。
促されるままに前方へ視線を向けると、数十m先に硬い土の大地と緑の生い茂る草原地帯の境界線が見えた。首を左右に動かして見ると、境界線は綺麗に弧を描いて先まで続いてた。どうやら、あの境界線までが精霊にお願いした範囲なのだろう。
止めていた足を再び動かし境界線の所まで歩く。
そうして一歩踏み出せば草原地帯に入るという所で足を止めて、その綺麗な景色を眺めていた。
季節的には冬入りくらいだろうか。結界の外に出たから少しだけ肌寒く感じる。快晴の空に青々とした草原、この辺りに大きな街や国がないためか舗装された道は無く自然のみが前方には広がっていた。
「すごいな……」
「まあ、これも普通かと言われれば違うのだけれど……この辺りは国はないし、森への道を造る必要もないから。北に向かえばちゃんとした道もあるわよ?」
街と街、国と国を繋ぐための道は領主や国が人員と費用を出すため、しっかりと舗装されているらしい。ただ、村となるとそうはいかず、村人たちによる自主制になってしまう為ちゃんとした道が造られる事はないのだとか。特に小さな国となるとお金をケチって馬車や冒険者が踏み慣らしてくれるのを待つ所もあるらしい。
「アルス村に関してもそうよ。あの村は孤立していたから道らしい道はないわ。まあ、このまま進んで行けば畑か牧場が見えると思うから。行きましょう」
畑や牧場が見えれば村に到着らしい。
一応村人たちが住んでいる居住区の周囲には木製の柵がぐるっと囲む様に置かれているらしいけど、それだけでは魔物や盗賊の攻撃は防げない。
ミラとしては村の防衛設備をこの四日間の内にどうにかしてあげたいみたいだ。
先を進むミラに続いて、俺とグラファルトは硬い地面とお別れし短い草が生い茂る草原へと足を踏み入れた。
「そう言えば、藍」
「ん?」
森を出てから三十分くらいだろうか。
俺達三人は小休憩を取る為に草原に椅子とテーブルを並べて紅茶を飲んでいた。
傍からみたら何もない草原でテーブルを出している時点で変に思われるかもしれないが……まあ、誰も来ないとミラも言っていたし大丈夫だろう。
最悪バレたとしても”認識阻害魔法”が付与されたペンダントを付けているので、俺達の正体までは分からないはずだ。
ペンダントの効果で俺達の髪や瞳の色は変わっている。
髪はブロンド、瞳はスカイブルーといった様に。
顔の輪郭なんかも微妙に変わっているらしく、記憶に残りにくい顔立ちにしてあるそうだ。ペンダントを付けている者同士が互い見る分には姿は変わらない様にしてあるらしいので、正直助かっている。これには光の魔石と闇の魔石を錬金で合成した特殊な混合魔石を使っていると出発前にロゼに自慢された。ペンダントの複製に苦労したらしいので、帰ったら改めてお礼を言っておこうと思う。
小さなテーブルを三人で囲んで居ると、右隣りに座るグラファルトから声を掛けられた。紅茶を右手、クッキーを左手に持ち口の中に放り込むと、グラファルトはクッキーを飲み込んでから話し始める。
「出発前にファンカレアと話していた件についてだが……本当に大丈夫なのか?」
「ああ……あの件ね」
グラファルトの言葉に左隣に座るミラが困ったと言わんばかりに溜息を溢してそう呟いた。いやまあ、溜息を吐きたくなる気持ちは分からなくもないけど……。
「とりあえず、出来る事はやったし大丈夫だと思うぞ? どっちにしろ、俺に出来る事はもうないからなぁ」
「そうなのか。我は寝ていたからいまいち状況を把握しきれなかったのだが、結局何があったのだ?」
「……聞きたいか?」
確認の為に聞いてみると、グラファルトは首を縦に二回振った。
チラっとミラに目配せをすると苦笑を浮かべながら「話してあげたら?」と言われたので話すことにする。
それは遡ること一日前――白色の世界での出来事だ。
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すみません、体調が優れず今日は短めです。
【作者からのお願い】
ここまでお読みくださりありがとうございます!
作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!!
ご感想もお待ちしております!!
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