第169話 三年目:レヴィラさんからのお願い




 お風呂上りに遭遇したまさかの事態。

 ミラとフィオラが叱りつけている相手は、フィオラの弟子であるレヴィラ・ノーゼラート本人らしい、グラファルトとライナは自信あり気にそう言っていた。


 でもなぁ……。


「本当にレヴィラさんなのか? なんか凄い泣いてるし、うっすらとしか見えないけど、土下座しようとしてるんだけど……」


 俺は一度だけレヴィラさんに会った事がある。

 といっても、その時は【偽装】という特殊スキルを使っていたらしく俺の目には年老いたエルフの男に見えていたから、ちゃんと会った事があるとは言えないが。

 それに話をしたわけでもないし、俺の中のレヴィラ・ノーゼラートという人物像はフィオラから受けていた授業内容のみになる。


 授業はあくまでフィエリティーゼでの常識を知識として頭に刷り込む目的があった為、教師役であるフィオラやミラの主観抜きで進められる。

 その為、俺の中のレヴィラさんの情報と言えば、”フィエリティーゼに五人しかいない魔女の弟子の一人”、”魔法の研究を長年に渡り続けて来た天才であり、彼女のおかげで魔法文明は大きな成長を遂げた”、”彼女が戴冠した際には全てのエルヴィス国民がその姿を見る為に王宮へと押し掛けた”、といった様に多くの逸話を残した”偉人”というイメージだったのだが。


 そんな尊敬も出来る様な人物が、いま俺の視界の先で土下座をしようとしている……。それに、漏れ聞こえて来る話の内容があまりにその、残念過ぎて……。


『レヴィラ、私は過去に何度も言いましたよね? 貴女はお酒が入り過ぎると周囲の人々に迷惑を掛けるから気を付けるようにと……忘れたとは言わせませんよ?』

『それに話を聞けば藍を王宮に連れて行きたいって……フィオラから説明された筈よね? いま、あの子は外に出れるような状態じゃないと……教えられた筈よね?』

『こ、この度は私がよ、酔っぱらってしまい、その上お師匠様達に多大なるご迷惑を……』


 この瞬間、俺の中のレヴィラ・ノーゼラートという人物像は大きく変わってしまった。

 イメージとかけ離れたレヴィラさんの実態に俺が唸っていると、グラファルトとライナは然程気にする事もなく本邸へと続く渡り廊下を歩いて行ってしまう。あまりにも自然な動作に俺も思わずグラファルト達に続きそうになるが、やっぱり玄関前の様子が気になってしまう。


 気づいてしまった手前、放って置くのもなあ……。それに、聞こえて来た話から察するに俺も無関係という訳ではなさそうだし、このまま放って置けば何時間掛かるか分かったもんじゃない。


 結局、放って置くことは出来ないと判断した俺は渡り廊下の窓を開き外へ出ると、そのまま玄関前へと向かい仲裁役として三人の間に入る事にした。

 そこにはエメラルドグリーンの髪をツインテールにした少女が正座をしていて、涙を流しながら謝罪するという光景がある。見た目は幼い少女であるがその耳は長く先に先に聞く程に細くなっている。フィオラから教えられた通りのエルフの特徴と一致していた。

 何も知らなければこんなに小さな子が泣きながら謝っているのを見て、フィオラとミラに思う所が出て来るのだろが、姿を見る前に話の内容を先に聞いていた俺は”原因は泣いている本人にあるみたいだし、常習犯っぽいからなぁ”とその光景を見ても苦笑することしか出来ない。


 ただ、玄関前でこれが続くのはちょっと……と思い、とりあえずミラとフィオラには一旦止めてもらって、部屋の中で話をする様に促した。俺が仲裁に入ったことで、怒り心頭の二人も落ち着きを取り戻し、それ以上何かを言う事は無く玄関の扉を開けて中へと入って行った。

 そして、玄関前には俺とレヴィラさんが残されたのだが……。


「あの、改めて……制空藍、です」

「…………ぐすっ」


 一応謁見の間で自己紹介はしているが、本当の姿ではまだした事が無かった為、改めて自己紹介をした。しかし、レヴィラさんは下を向いて泣いたままで全く話を聞いていない様子。

 仲裁に入ったはいいものの、これからどうすればいいのか分からず、とりあえずミラかフィオラに聞いてみようかと思って扉に手を掛けると、後ろから誰かに掴まれる。まさかと思って後ろを見れば、予想通りレヴィラさんが俺の背中に隠れるように立っていて、「どうしたんですか?」と聞いてみると。


「あんなに怒ってたお師匠様達は久しぶりに見たわ……死ぬかと思った……でも、貴方が居れば、お師匠様達から怒られずに済むから……」

「いや、だとしてもですね? このままだと歩きずらいので……」

「……うぅ」


 ずるくない?

 この人、見た目が幼い事を知っていてやってるとしか思えない……。でも、実際に背中側の服を掴む手は微かに震えてるし、怖かったのは確かなのだろう。俺が仲裁に入る前の雰囲気は少しだけピリついていたような気もするし、レヴィラさんの言っている事もあながち間違いではないのか?

 結局、俺はレヴィラさんを引き離すことが出来ず、背中に隠す様な体勢のまま転移装置を使って二階へと移動するのだった。








 二階のダイニングにて、俺とミラとフィオラ、そしてレヴィラさんを含めた四人で話をする事に。ダイニングに着いてからもレヴィラさんは俺から離れることなく背中に隠れ続けていた。

 その様子を怪訝そうな顔で見ていた二人に玄関前でのやり取りを説明したところ、自分たちが想像していたよりも怒っていた事に気づいたミラとフィオラはレヴィラさんに近づき「もう怒らない」と約束をする。二人の言葉を聞いてようやく落ち着きを取り戻したレヴィラさんは安堵した表情を浮かべ、長テーブルの席へと着いた。


 まあ、それでもまだ不安なのか俺の隣に座ってるんですけど……。


「――それで、レヴィラは何しにここまで来たんですか? まさかとは思いますけど、本当にランくんを王宮へ招きたいだなんて言いませんよね?」


 俺とレヴィラさんの正面にミラとフィオラが座った所で話はレヴィラさんがやって来た目的についてに移る。

 それについては、俺も気になっていたので視線をレヴィラさんへと向けた。三人からの視線に一瞬たじろぐレヴィラさんだったが、一度深く息を吸い込むと意を決した様に事の顛末を話し始める。


「実は、私の教え子でもあるエルヴィス大国第三王女、シーラネルの誕生日が来月でして――」


 レヴィラさんの話によると、誕生日の近いシーラネルにディルク王が「何か欲しい物はないのか?」と聞いたところ、返ってきた答えが物ではなく「ラン様に会いたい」……つまり、俺に会いたいというお願いだったそうだ。

 あの惨劇の最中、ほとんど会話をしていない筈の彼女がどうしてそんなにも俺に会いたいと思うのか疑問ではあるが、今は関係のない事なので置いておこう。


 シーラネルの願いを聞いたディルク王は流石に一人では決める事のできない案件だと判断し、その日の内にレヴィラさんへ相談しに向かったそうだ。そうして話はレヴィラさんへと伝わり、最初は無理だと断っていたレヴィラさんもディルク王とその場に居合わせたマァレル王妃の必死な懇願と、教え子でもあるシーラネルの事を思い「直接会うのは無理だと思うけど、間接的に会うことなら出来るかもしれない」とディルク王とマァレル王妃に伝え、あとは任せる様にとも言ってしまったらしい。


 つまり、今日レヴィラさんがここに訪れた理由は、さっきの話にあった”間接的に会う”という事について師であるフィオラに相談しに来たという事だった。

 誤算だったのは、ディルク王達との話し合いが終わった後でお酒を飲んでしまった事だろう。途中までは感心した様に頷いていたミラとフィオラもお酒の話が出た瞬間、落胆した様に大きなため息をついて肩を落としてしまった。


 さて、話を聞く限りだと俺も関係者らしい。


 間接的に会うってどういう事なんだろうか……?







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 時間が取れなくて中途半端に終わってしまって申し訳ありません!

 次回は間接的に会う方法についてのお話と渡す際のお話を書けたらなと思います……。


  【作者からのお願い】


 ここまでお読みくださりありがとうございます!


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