第159話 二年目:名も無き精霊のラプソディ②
目が覚めると俺は自室のベットの上にいた。
外はまだ少しだけ暗い、多分夜明け前くらいかな?
それにしても……懐かしい夢を見た。
あれは俺がまだ10歳だった頃、地球では黒椿との最後の思い出だ。
いま思えば、不可思議な出来事が沢山あったと思うんだが……恋は盲目という奴だろうか、当時の俺は全く気にしていなかった。
自分の中で都合よく解釈して”黒椿は何処か遠くの場所へ引っ越してしまうんだ”と想って居たんだと思う。言い訳っぽくなってしまうけど10歳だったからね、やれ延命だやれ魂だとか言われても当時はいまいちピンとこなかったんだ。
だからこそ、翌日になって連絡先を聞き忘れたことに気づいた俺は神社に行って黒椿が居ないか確認しに行ったりもしていた。
「我ながら能天気というか、なんというか……」
「んん~」
幼い頃の自分に何とも言えない気持ちを抱いていると、右隣りから可愛らしい声が漏れ聞こえる。
そこには夢に出て来た女の子――黒椿の姿があった。
夢とは違い少しだけ成長したように見える黒椿。腰よりも長い唐紅色の髪を乱れさせ、小さくもなく大きくもない適度な膨らみのある胸が呼吸をするたびに上下している。むにゃむにゃと口を動かしている黒椿の頭を撫でると、小さく笑みを見せてくれた。
もう会えないと諦めていた。
鮮明だった記憶も徐々に薄れて行き、思い出として遠い遠い記憶の底へ消えようとしていた。
でも、こうしてまた出会うことができた。
あの草原での再会は昨日の事の様に思い出すことが出来る。
それぐらい嬉しい出来事で、もう絶対に手放さないと決めた瞬間でもあった。
「んん……らぁん……」
寝言で俺の名前を呼ぶ黒椿はこっちへ体を傾けると撫でていた俺の手を白く細い両手で包む様に握り始める。
起きて顔でも洗ってこようかと思っていたが……これじゃあ、しばらくは無理そうだな。
そうして俺は起こしていた体を再びベッドへと預けてもう一度眠りにつくことにした。
次に目が覚めると、視線の先には俺の上へとまたがり笑顔でこちらを見ている黒椿が居て、彼女は優しい声音で「おはよう」と声を掛けてくれた。
朝食を食べ終えた後、俺は昨日と同じく家の玄関前に立っていた。
違う事と言えば、隣に居るのがファンカレアではなく黒椿がいることくらいだな。
目の前には俺達を見送りに来てくれた8人の姿があり、「気を付けてくださいね」と口にするファンカレア以外の面々からは昨日と同じような言葉を掛けられる。
そうしてみんなに見送られながら、俺達は家を後にした。
「さて、サプライズのお披露目には早すぎるし……黒椿は何かしたい事とか行ってみたい所とかある? あまり人が多い所とかは駄目だけど」
それはミラから釘を刺されている。
今日はフィオラからもお願いされてしまった。
おそらく、というか間違いなく昨日の死祀国の跡地へ当日に行きたいと言ってしまったのが原因だと思う。
思えば昨日の夜、フィオラは珍しくチョコレートを大量に食べていた。もしかしたら、俺の知らない所で沢山の迷惑を掛けてしまっているのかもしれないな……今度、何かチョコレートで出来たデザートを作ってあげよう。
俺がそんなことを考えていると黒椿から声が掛かる。
「うーん……それじゃあ僕もファンカレアみたいにこっちで藍が良く行く場所に案内してもらおうかな!」
「わかった、それじゃあまずは泉にでも行こうか」
そうして俺は案内する為に泉の方へと足を進めようと一歩踏み出す。しかし、そんな俺に対して黒椿が待ったをかけた。
黒椿の声に進めていた足を止め振り返ると、黒椿が頬を膨らませてこっちを見ている。
「え、なに……?」
「もう! これからデートだって言うのに何で先に行っちゃうかな!?」
「いや、案内するには前を歩いた方が良いかなって……」
「賃貸物件を紹介するんじゃないんだから、一緒に歩いたって特に変わらないでしょ!」
確かに、黒椿の言う通りかもしれない。
「えっと、じゃあ黒椿の隣を歩けばいいのか?」
「……藍って、たまにどうして?って思えるくらいに鈍いよね……ギャルゲーいっぱいやってたのに、ギャルゲーいっぱいやってたのに」
「ギャルゲーの部分を連呼するの止めてくれないかな!?」
半ば呆れた様に呟く黒椿に思わずツッコミを入れてしまう。
そんな俺に構うことなく黒椿は一歩前へと進み俺の左隣へ来ると、その両腕を俺の左腕へと絡めて抱き着いて来た。
「ッ!?」
「恋人なんだから、これくらいしてもらわないとね~」
巫女装束越しでもわかる柔らかい感触に思わず身を強張らせると、その反応が嬉しかったのか黒椿はにっこりと笑みを浮かべて更に腕に体を押し付けて来る。
微かに香るシャンプーの匂いと女の子特有の柔らかい感触にドキドキしてしまうが、それと同時に俺は今日見た夢の出来事を思い出していた。
夢の中でも半ば強引にマフラーを巻かれ体をくっつけていた黒椿。
その時の黒椿の笑顔と、いま目の前に居る黒椿の笑顔はそっくりで、段々と見ていて懐かしい気分になった。
いつの間にか激しく高鳴っていた鼓動も落ち着いて来て、べったりとくっつき甘える黒椿に自然と笑みが零れる。
「どうしたの?」
俺が笑みを浮かべている事に気が付いたのか、黒椿は顔を上げて首を傾げていた。そんな黒椿に「何でもないよ」と言い、空いている右手でその唐紅色の頭を撫でる。
撫でられた黒椿は一瞬だけ更に首を傾げたが、頭を撫でられるのが心地良いのか目を細めて幸せそうに微笑んでいた。
「それじゃあ、行こうか」
「うん!」
撫でていた手を放して俺がそう言うと、満足そうな顔をして黒椿が元気に返事をしてくれる。
そうして俺達はゆっくりとした足取りで最初の目的地である泉へと向かうのだった。
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まだ体調が万全ではない為、少し短めで申し訳ないです……。
もし、このまま体調が良くならない場合は二月ごろに数日間お休みをいただくかもしれません。その際はしっかりと事前に連絡させていただきますので、よろしくお願いします。
【作者からのお願い】
ここまでお読みくださりありがとうございます!
作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!!
ご感想もお待ちしております!!
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