第157話 二年目:結婚指輪とデート前夜
泣き止んでくれたファンカレアと共に結界が張られた森の中へと”転移”した。
「あっ」
そうして家がある中央付近へと足を進めていたのだが、俺はある事を思い出して足を止める。俺が足を止めると、ファンカレアも続いてその場に立ち止まった。
「どうかしましたか?」
「いや、色々と想定外ですっかり渡しそびれてた物があって……」
俺の言葉に首を傾げるファンカレア。
そんな彼女に微笑みながらも、俺は亜空間から小さな正方形の箱を一つ取り出した。そして、その箱を開き中身が見える様にファンカレアへと差し出す。
「これは……ッ!」
一瞬の硬直の後、中身を確認したファンカレアは物凄い速さでこちらへと顔を向けた。うん、そりゃグラファルトと俺の手にはめられてるのを見ていただろうから、分かるよね。
「もうわかっちゃってると思うけど、これはファンカレアの結婚指輪だよ」
そうしてクッション材に差し込まれていた指輪を取り出して、ファンカレアへと手渡した。
ファンカレアの指輪は銀色の腕部分に光の当たり方によってその輝きを変化させると言う特殊な魔鉱石を中石として使って貰っている。本当は腕部分をファンカレアの髪色と同じ金色にしようか悩んだけど、他の二人と俺の指輪が銀色なのにファンカレアだけ金色にするのは仲間外れみたいで違うかなと思い、最終的に銀色で統一する事にした。
ちなみに、俺の指輪にはグラファルトの時と同様に小さな魔鉱石が埋め込まれている。
流石に指輪を三つ付けるのはちょっと……、そう思いロゼに相談した結果、それぞれの妻に贈る指輪の宝石だけを埋め込む形で付ければいいのではと言う結論に至った。
「一応、俺の指輪にも同じ魔鉱石が埋め込まれてるんだ」
そうしてファンカレアに左手を差し出し薬指にはめられている指輪を見せる。ファンカレアは手に持っている渡したばかりの指輪と、俺の左手を交互に見るとその顔を綻ばせて「お揃いですね」と嬉しそうにしている。
くっ……この笑顔は反則だと思う。
「それじゃあ、俺が付けても良いかな?」
「あ、はい……お願いします……」
俺の言葉にファンカレアは顔を赤らめながらも嬉しそうに笑み浮かべて指輪を渡してくれた。ファンカレアから指輪を受け取った俺は、少しだけ考えた後でその場に片膝を立ててしゃがみ込み、見上げる形でファンカレアへと笑みを向ける。
「もう婚姻の儀は終わった後だけど改めて――ファンカレア、俺の妻になってくれますか?」
「はいっ! 私を藍くんのお嫁さんにしてください」
その瞳に少しの涙を浮かべながらも、ファンカレアは満面の笑みでその左手を差し出してくれた。
その左手を優しくしたから支えて、グラファルトにした様に手順を踏んで指輪を細く綺麗な薬指へとはめる。指輪もはめ終わりその場で立ち上がると、ファンカレアは自分の左手にはめられている指輪は空へと掲げて嬉しそうに目を輝かせていた。
グラファルトの時とは順番が異なってしまったけど、ちゃんと渡せたし、何よりファンカレアが喜んでくれて良かったな。
その後も嬉しそうに「えへへ」と微笑むファンカレアの手を引き、俺達はみんなが待っている家へと足を進めた。
家に帰ったらみんながファンカレアの指輪を見た後でジーッとこっちを見てきたので、気のせいだと自分に言い聞かせてそっぽを向き続ける事にした。
みんなから何とも言えない視線を送られつつも、無事夕食を終えていまは自室のお風呂から上がり居間で寛いでいるところだ。
今日は自室にグラファルトは居ない。
どうやら黒椿に気を使ってくれたみたいで、いま自室にはグラファルトと入れ替わる様に黒椿が居る。
ちなみに今はお風呂に入っています。
「ふぅ、さっぱりした!」
「……」
お風呂場の扉が開かれると、奥から黒椿が姿を見せる。
普段着である巫女装束ではなく、大き目の黒いTシャツ一枚だけを着ている黒椿に思わず頬が熱くなった。大きいTシャツと言えども、その丈では隠しきれない華奢な両足は湯上りだからか微かに赤みを帯びている。
そうしてジーっと黒椿の足を眺めていると、「おやおや~?」と言う黒椿の声が耳に入って来た。
「これは新事実!! 藍は脚フェチだったんだね!!」
「い、いや、そういう訳じゃ……」
「え~? あんなに情熱的に僕の両足を見てたのに~?」
「ばっ!? シャツを上げるな!!」
ニヤニヤと笑みを浮かべながらTシャツで隠れていた太ももを見せようする黒椿に、俺は慌てて視線を逸らした。
そんな俺の態度が不服だったのか、黒椿は「むぅ」と小さく唸ると俺が座っていた二人掛けのソファへと近づき隣へと腰掛け始める。
まだ少しだけ湿っている唐紅色の髪からはシャンプーの良い匂いがした。
「……えいっ」
「ッ!?」
黒椿が隣に座った後も頑なに視線を逸らし続けていると、唐突に太ももに柔らかい感触が伝わる。その感触に思わず視線を下げると、俺の太ももに頭を乗せた黒椿と目が合った。
「えへへ」
無邪気に微笑みながらも俺の視線を遮らせまいと両手で頬を抑えて来る黒椿。
顔を動かすことが出来ない為、視線は黒椿へと釘付けになり、お風呂上りで上気した白い肌がいつもとは違う色っぽさを演出している。
「……さっきまではファンカレアと二人っきりだったけど、今からは僕と二人っきりだね」
くっ……無駄に色気のある声で囁くのはやめてくれないかな!?
こっちがこんなにドキドキしているにも関わらず、黒椿は特に気にするそぶりを見せずに……いや、違う!? こいつ俺がドキドキしているのを分かっててやってるのか!
その証拠によく見ると時より無邪気な笑みとはかけ離れた含みのある笑みが顔を覗かせる瞬間があった。
多分、動揺している俺の反応を見て楽しんでいるのだろう。
そうかそうか……それならば俺にも考えがある。
黒椿の思惑を理解した俺は直ぐに落ち着きを取り戻し、油断している黒椿を抱きかかえる。
「――――へっ?」
ソファに腰掛けた状態で突如お姫様抱っこをされた黒椿は、状況が呑み込めていないのか素っ頓狂な声を上げている。
そんな黒椿にお構いなしに、俺はそっと耳元に近づき囁いた。
「知ってるか黒椿……こっちの世界だとお姫様抱っこは”貴女の全てを私にください”って言う意味があるらしいぞ?」
「へっ!? そ、そうにゃんだ!?」
明らかに動揺していらっしゃる。
その顔は先程までの湯上りとは無関係に真っ赤に染め上がり、お姫様抱っこされている事に気づいてから口調もおかしなものになっていた。
「実はさ……今日ファンカレアにプロポーズしたのはタイミングが良かったからとか、そんな理由じゃなくて二人が来る日時が決まった時からずっと計画してたものなんだ」
「えっ……そ、それって……」
「ん~? どうした?」
顔を赤らめたまま期待するような視線を送る黒椿に対して、わざとらしくとぼけてみると、黒椿は頬を膨らまして不服そうに唸り声を上げた。
「むぅ〜!!」
「ぷっ……ははは!」
「もうっ! ひどいよ! プロポーズしてもらえると思ったのに……乙女の純情を弄んだんだ!!」
コロコロと表情が変わる様が面白くてつい笑い声をあげてしまった。俺が笑っているのを見て、黒椿はさらに頬を膨らませた後ジタバタと暴れて両手で俺の胸元を叩き始める。
今までの流れからして俺がプロポーズをする気がないと勘違いさせちゃったのかな?
「ごめんごめん、そんなに怒らないでくれ」
「ふんっ! 僕の心を弄んでおいてよく言うよ! どうせ僕は恋人止まりの存在なんだ……」
完全に拗ねてしまった様子の黒椿は口を尖らせ俺から顔を背けてしまった。
「悪かったって、黒椿にかわかわれてると思ったから俺もやり返しただけなんだ」
「……」
「あと……プロポーズはちゃんとするつもりだったぞ?」
黒椿の体が一瞬だけビクリと反応した。
「グラファルトやファンカレアみたいに、ちゃんと黒椿の結婚指輪も作ってあるぞ?」
「……ふ、ふ〜ん?」
うーん、これは半信半疑って感じだな。
相変わらず口を尖らせてはいるが、その視線はチラチラとこっちの様子を伺っている。
「……はぁ、わかった。証拠を見せるよ」
信じてもらう為に、俺は亜空間に右手をつっこみ一つと箱を取り出した。それはグラファルトやファンカレアにも渡してある指輪を収納していた箱であり、黒椿がミラたちと一緒に箱を見せてもらっていたのを俺は知っている。
案の定、箱を目にした黒椿は先ほどとは打って変わって花が咲いた様に笑顔を見せると箱へと手を伸ばし始めた。
そんな黒椿の動作に慌てて箱を亜空間へと戻す。
「あー!!」
亜空間へ箱を戻すと、黒椿から悲しげな声が漏れた。
「どうしてしまっちゃったの!? それ、僕の指輪が入ってるんでしょ!?」
「俺の話聞いてたか? 明日ちゃんとプロポーズするつもりなんだから、指輪を見る感動は明日まで取っておきなさい」
「そんなー!! 目の前に指輪があるのにぃ……」
「ちゃんと黒椿の為にサプライズも用意してるから、とにかく今日はもう寝るぞ」
どうしても指輪が見たいのか、俺の腕の中で「見せて」と懇願する黒椿を抱えて居間から寝室へと移動する。
そうして広々としたベッドへ黒椿を寝かせた後、俺も黒椿の隣へ横になった。
こうしてファンカレアとのデートは無事終わり、明日の黒椿とのデートの為に俺は瞳を閉じた。
なお、俺が瞳を閉じてから三時間以上、黒椿は隣で「指輪を見せろー!」と騒ぎ続けた。勘弁してくれ……。
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ファンカレア編は無事に終わり、明日からは黒椿編へと突入します!
黒椿編はファンカレア編よりも短い構成にする予定です。
そしてそして、黒椿編が終わり次第……次章へと突入しようかなとも考えています。ぜひ、お楽しみに!
それと、ただいま簡易的な人物紹介を作成中です。
本当に簡易的なもので、名前を覚えてもらう為に作りますのでメモ代わりにみてやってください。通常話とは別で完成次第の投稿となります。
【作者からのお願い】
ここまでお読みくださりありがとうございます!
作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!!
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