第153話 二年目:君と、君の世界へ祝福を③




 一階に転移して気づいたが、もしかしなくても紹介するべきところは少ないかもしれない。よく考えてみればわかる話だったと思うが、一階はみんなの個室しかないわけで、そこに恋人でもなければ夫婦でもない俺が勝手に入る訳にはいかない。


「ごめん、今更気づいたけど一階って俺の部屋くらいしか紹介するところが無いや……」


 とりあえず、二人に謝罪をしてから今後の事を考える。

 後は二人の個室についてミラにも聞かないとな……念話で連絡しておくか。


(ミラ、ちょっといい?)

(家の案内は終わったの?)

(いや、今一階を見て回るんだけど……俺の部屋くらいしか紹介するところが無いから直ぐにお風呂場と工房部屋に移動する予定。だから、早めに二人の部屋について決めて貰おうと思って)

(ああ、なるほどね。ロゼには私から伝えておくわ)


 ミラにお礼を言って念話を終了する。

 個室の鍵の登録にはロゼが造るマスターキーが必要になる為、部屋の増築で”空間拡張魔法”を使うであろうミラにロゼも一緒に呼んできてもらう様に頼んだ。工房部屋の説明でもロゼが必要になるだろうし。


「よし、とりあえずミラに連絡したから二人の部屋は後で――ん?」

「……そうだよね、いずれは――なんだから、今の内から確認をしないとね」

「うぅ……ま、まだ駄目ですよ……で、でも私達はこ、恋人同士ですし……これからのことを考えれば、今から……」


 連絡もし終えて二人の方へ顔を向けると、何やら真剣な顔で考え事する黒椿と顔を赤面させ小さな声で呟いているファンカレアの姿があった。一応二人に声を掛けてはみたけど、二人の様子を見るに聞こえていない様子。


「おーい、二人とも?」

「んぇ?」

「ひゃい!」

「えっと、これから俺の部屋を案内して、その後にお風呂場に行こうと思うんだけど……大丈夫?」


 俺の言葉に二人は言葉ではなく首を縦に振る事で答える。

 なんだか二人の様子がおかしいとは思うが、具合が悪い訳ではないみたいなのでそこまで心配することなく自室の部屋へと向かう事にした。




「ここが居間で、右手前がお風呂になってる」

「「……」」

「右奥がトイレになってて、左手前がベッドルームだ」

「「……」」

「左奥がキッチンルームになってて、基本的にここで新しい料理とか作ってる。二階のキッチンだとみんなに食べられて味見どころじゃないからさ、いやぁ本当に助かって――「おかしいでしょ!?」――ん?」


 二人を連れて自室の紹介をしていると、さっきから黙り込んでいた二人の内の一人、黒椿はそんな叫び声を上げ始めた。


「どうして家の中の一室が”小さな家”になってるの!? ファンカレア……これがフィエリティーゼでは常識なのかな……?」

「い、いえ……私もこれまで長い間世界を眺めていましたが、これは個室と呼ぶにはちょっと……」

「あー……やっぱりそうだよな……」


 そっか、慣れつつあったけどやっぱりおかしいよな。

 他のみんなの部屋に遊びに行った事がないから分からなかったけど、二人の反応を見てようやく確信することが出来た。


 やっぱり、この家は普通じゃないんだね……。


「ま、まあ、別に不便って訳じゃないから……グラファルトと住んでるけど特に問題もないし」

「ああ、そっか。二人は夫婦だから一緒に暮らしてるんだっけ?」

「いや、俺は部屋を分けるべきって何度も言ったんだが、あっちが聞かなくて……」


 そうして俺はこの家の部屋割りを決めた際の話を二人にする。

 二人の反応は似たようなもので「グラファルトらしいね」と苦笑を浮かべていた。


「あーあ、僕も藍と同じ部屋にしようかな?」

「ッ!? だ、ダメですよ!! く、黒椿はまだそのふ、夫婦ではないのですから!!」

「えー? グラファルトだって藍と恋人の段階で一緒の部屋で暮らしてたんだよ? なら、僕だって一緒の部屋に泊まる権利はあると思うけどなー」

「で、ですが! そもそも恋人同士と言っても色々と手順というものがですね!? ま、まずは手を繋ぎ、そしてお出掛けを数度繰り返し……と、とにかく!! 結婚に至るまでその純潔を保っていなくては!!」


 物凄い剣幕で黒椿に捲し立てるファンカレアは息を荒くして黒椿の肩へと手を置いている。そんな様子のファンカレアに黒椿は若干引いていた。

 というか……これ、グラファルトが聞いたらどんな顔するかな? 泣いちゃうんじゃないか?


「二人とも、個室の件はその辺で……とりあえず、次のお風呂場へ移動しよう」


 しばらく様子を見ていようかとも考えたのだが、黒椿からアイコンタクトで”助けて”と言われている気がしたので声を掛ける。

 そうして二人を連れてお風呂場へと移動する事になった。








 お風呂場の紹介が終わり、今は本邸の廊下を進んでロゼの工房部屋へと向かう途中だ。

 広々とした大浴場を見た黒椿が「入りたい!!」と懇願して来た為、黒椿に連れられてファンカレアもお風呂に入る事になった。まあ、ファンカレアも気にはなっていた様だし、特に問題は無かったと思う。あ、もちろん俺は外で待ってたよ? 黒椿からは一緒に入ろうと誘われたけど、流石にね? ファンカレアなんて顔を真っ赤にしていたし、折角のお風呂なんだからゆっくり入ってもらいたいと思い黒椿の誘いは断った。


 二人がお風呂から上がる頃にはミラも合流し、先に工房部屋に向かったと言うロゼの元へ四人で向かう。

 工房部屋に辿り着いてからはロゼが案内役を代わってくれて最後にはマスターキーから作ったスペアキーを二人に渡して終わった。

 途中で制作したデコトラを自慢し始めた時はどうしようかと思ったけど……まあ、ミラから諫められて止めてくれたし、無事家の紹介は終わったと思う。


 そう言えば、二人の個室はしばらくの間は客室を使う事になった。

 二人がまだどこにするか決めかねていると言っていたのもそうだが、仮に部屋を決めたとしても家具も何もない状態なので、全てが揃っている客室で過ごしてもらう方が良いだろうとミラと相談した結果である。

 二人も快諾してくれていて、この数日の滞在で部屋を決めると言っていた。


 家の紹介が終わり二階へと戻った後は自由に過ごしてもらうようにしている。

 俺はキッチンで昼食作りだ。

 途中でリィシアがやって来て十冊を超える絵本を持ってきた時は流石に驚いたけど……基本的にリィシアは絵本を呼んでいる途中で眠ってしまうので今日も2,3冊で眠ってしまうだろう。リィシアはダイニングルームの奥にある一人掛け用ソファに腰掛け嬉しそうに絵本を開いている。

 その直ぐ側にはグラファルトが四人掛け用のソファで横になり昼寝をしていた。


 そう言えば、これは少し前に聞いた話だがグラファルトはリィシアに避けられている事を気にしていたらしい。それは俺と出会う前からであり、まだ魔竜王としてヴィドラス達と渓谷で暮らしている頃、ミラからリィシアの面倒を一日だけ見てくれと頼まれて見ていてたらしいが……一言も会話をすることなく終わったのだとか。

 それ以来グラファルトはリィシアに対してぎこちなくなっていて、俺と共にフィエリティーゼに降り立ってからも特に会話をする様子はなかった。


 だが、ロゼの建てたこの家で過ごすうちにリィシアの態度は少しづつ変わっていったらしい。今までリィシアから話し掛けられることのなかったグラファルトだったが、最近は頻繁にグラファルトの元へと赴き遊びやお茶に誘うようになったのだとか。グラファルトに詳しい話を聞いてみると……。


『なんでも、最近の我は”丸くなった”らしいぞ? お前と同じ雰囲気を感じるとも言っておった。前とは違いもう怖くないらしい』


 と、嬉しそうに言っていたのを覚えている。

 なんだかんだで、グラファルトはリィシアの事を気に入っていたのかもしれないな。


 グラファルトとリィシア以外の面々は長テーブルの席について談笑している。クリスマスパーティーをしてからというものみんなはすっかり打ち解けている様だ。

 最初の頃なんてファンカレアと会話をする時に一々畏まった口上を述べたりしてたっけ。それが今では普通に会話をできるようになっていて、嬉しい限りだ。

 出来れば、知り合い間で距離が出来る様な事態はなるべく避けたかったから。


 そんな事を考えながらも、昼食はみるみる内に完成していく。

 匂いにつられて起きて来たグラファルトに運ぶように頼み、全てを運び終えて昼食をみんなで囲んだ。


 昼食が終わりいつもの様にフィオラとライナが洗い物をしてくれている中、俺はファンカレアと黒椿の前に座り今後の予定について話を詰める事にする。


「さて、二人はこれからどう過ごす予定なの?」

「んー……僕は特にないかな? 藍と一緒に過ごせればそれで」

「私もフィエリティーゼへ降り立ち、こうして普通に過ごせるだけで幸せですから」


 どうやら二人は特にやりたい事がある訳じゃないみたいだな。


 これなら……安心して行動に移せる。


「それなら――俺から提案があるんだけど」

「「……?」」



 こうして、俺は二人にある提案をすることにした。



「――明日と明後日の二日間……一日ずつ使ってしようと思うんだけど、どうかな?」

「賛成!! 喜んで提案を受け入れるよ!」

「わ、私もです!! とっても嬉しいです!!」


 俺の話を聞いてくれた二人は嬉しそうに笑みを溢している。

 良かった……断られたらどうしようかと思った。


「それじゃあまずは明日だけど……どっちからにする?」


 こうして、俺達三人は明日と明後日の話を詰めて行く。


 明日からの二日間――俺は二人とデートする。



@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@


 果たして、藍くんの言う”提案”とは一体……!?(デートです)

 二人っきりの時間を作る為にはどうしても強引になってしまいました……。


 【作者からのお願い】

 ここまでお読みくださりありがとうございます!

 作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!!


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