第151話 二年目:君と、君の世界へ祝福を①




――ファンカレアと黒椿が無事フィエリティーゼへと降り立つ事ができたのを確認した俺たちは、円卓が置かれた中央広場から家の中へと移動する事にした。


 二階にあるダイニングルーム到着して俺は直ぐに朝食の準備をする。

 キッチンの目の前に置かれている大きな長テーブルに座るみんなに”和と洋どっち?”と聞くと、ファンカレアと黒椿以外の全員は笑顔で”和”と答えた。

 首を傾げている黒椿とファンカレアに声を掛ける。


「ああ、そうか。ファンカレア、黒椿。うちでは朝食はお米かパン選んでもらう様にしてるんだ。おかずもそれに合わせて変えてるから、二人も選んでくれ」

「そうなんだ、じゃあ僕は和かな!」

「私もみんなと同じ物で大丈夫です」


 二人の要望を聞き終えた俺は料理作りを始めた。

 朝は魚料理と決めているけど、まだフィエリティーゼの魚は完璧に捌く事は出来ないので、とりあえずは地球で買ってきてもらった骨の少ないぶりを照り焼きにする。


 あ、いっぱい食べる組アーシェとグラファルトの為にお肉も用意しないと。


 椅子に腰掛けてからというもの、ファンカレアはみんなの会話に混じることなくキョロキョロと周囲を見渡して楽しそうにしていた。

 黒椿はいつの間にか仲良くなっていたアーシェとグラファルトを交えて話し込んでいる。

 俺は食器類をテーブルへと運ぶついでにファンカレアの元へと近づいて耳元で話しかけてみた。


「……何か珍しいものでもあったの?」

「ふぇっ!?」


 いきなり話し掛けたのがまずかったのか、ファンカレアは顔を赤面させて俺が囁いた方の耳を両手で抑えてしまう。


「ご、ごめん、驚かせちゃったか」

「い、いえ!! 私が勝手に驚いてしまっただけですから」


 まだ少しだけ赤いがファンカレアは気にしないでくださいと耳元から手を離し胸の前で振り始める。

 次からは気を付けないとな。


「それで、さっきから周囲を見渡していたけど、何かあったの?」


 俺の質問にファンカレアはその首を左右に振った。


「いいえ、気になる物があったわけではありません。ただ……確認していたんです」

「確認?」

「……私が、ずっと憧れていた場所……それがいま、私の目の前にある。この嬉しさを、私は確認していたんです」


 テーブルに手を添えて優しく撫でるファンカレアは穏やかな笑みを浮かべてそう話す。

 そっか……ずっと見ていたんだもんな。


「……朝食と今後の生活について話がまとまったら、一緒に家の中とか見に行こうか」

「ッ!! ぜ、是非お願いします!!」


 嬉しそうに笑みを浮かべるファンカレアにつられて、俺も自然に笑みが零れる。気づけば他のみんなも俺達の会話を聞いていた様で、その顔には優し気な笑みが浮かべられていた。


 今までファンカレアは沢山の事を我慢して来たんだと思う。

 出来れば、俺達と暮らして行く彼女には遠慮することなく楽しい毎日を送って欲しいな……。


 そんな事を考えながらも、俺はキッチンへと戻り朝食の準備を進めるのだった。









「とりあえず、一段落だな」

「ふふ、お疲れ様です」


 ふぅっと一息ついた俺に、ファンカレアが紅茶の入ったカップを渡してくれた。

 俺はファンカレアと黒椿の間に座り、渡された紅茶を飲み干す。


「本当にお疲れ! でも、やっぱり藍の料理は美味しいねぇ!」

「そうですね、クリスマスパーティーの時以来でしたがとっても美味しかったです!」


 黒椿とファンカレアが俺を挟んで楽しそうに会話を始めた。


「クリスマスパーティーの時みたいに豪勢な食事ではないけど、気に入ってくれたなら良かったよ」

「これからは、毎日食べれるんだね!」

「し、幸せです……!」


 うん、これは手を抜けないな……まだまだ作りたい地球の料理とかもあるし、料理の研究頑張ろう。


 そうして他愛のない会話を数回挟んだ後、話題は今後の二人の生活についてへ移り始めた。

 俺の召喚スキルを使い呼び出した二人は今の所際立った不調は無いらしい。まあ、元々フィエリティーゼに呼ぶ為だけに作ったスキルではあるし、魔法陣はフィエリティーゼと白色の世界を一時的につなぎ合わせる扉替わりだからそこまで心配していた訳じゃないけど。


 ちなみに、これはさっき知った事実なのだが……黒椿は【精霊召喚】のスキルを使わなくても、もう自由にフィエリティーゼに出入りできるらしい。


「前にもちょっとだけ話したことあると思うけど、この世界には既に僕という個人を認識する為の純粋な魔力を流し続けていたから、いきなり僕が白色の世界からフィエリティーゼに転移した所で、世界に影響を及ぼすことは無いんだ。ミラが白色の世界から戻って来ても特に問題はないでしょ? それと一緒だよ」


 フィエリティーゼで生まれ長い間暮らし続けていたミラは、体内に宿る純粋な魔力が既にフィエリティーゼに認識されている状態らしい。だからこそ白色の世界から転移したとしても”イレギュラー”として認識されることなく、フィエリティーゼにとって無害な者であると認識される様になっているのだとか。


「つまり、自分の魔力を世界へ流していく事で慣らしているってこと?」

「そんな感じかな?」


 暑い所にずっといると段々と暑く感じなくなって、それが普通になっていく様な……多分そんな感じなんだと思う。


「ちなみに、それはファンカレアも同じなのか?」

「うーん、とりあえずここでの数日間で様子見かな? ファンカレアにはフィエリティーゼに滞在している間は魔力を外へ流し続けて貰ってる」

「え、今も?」

「はい、私の場合はあまり勢いよく流し続けると森に張られている結界を通り抜けて誰かに気づかれてしまう可能性があるので、黒椿よりも少ない誰にも気づかれないくらいの量ですが」


 黒椿との会話にファンカレアも入って来て、俺に説明してくれた。

 ファンカレアの事を見てみるが……いまいちわからない。


「あ、あの……?」


 本当に魔力が流れているのかな?

 うーん、これは【神眼】とか【万物鑑定】でもわからない。そもそもこの二つスキルで魔力が漏れ出ているかどうか確認できるのかな。


「ら、藍くん……」


 もし、仮に俺が敵に襲われる事態に陥った時……いまのファンカレアの様にごく僅かな魔力で攻撃されたら気づけないかも……後でウルギアに僅かな魔力も視認できる様なスキルを作れないか相談してみるか。


(――直ぐに【魔力察知】をお作り致します)

(……相変わらず凄いね、いつもありがとう)


 俺の心声を聞いていたのか、ウルギアが丁寧な口調で作ると言ってくれた。そんなウルギアにお礼を言いつつ、俺はファンカレアの顔を見る。


「うぅ……は、恥ずかしいです……」

「え……あっごめん!」


 そこでようやく、俺は顔を赤面させて俯くファンカレアに気が付いた。

 どうやらずっとファンカレアの顔を見つめたまま考え事をしてしまっていたらしい。

 気づけば近づけていた自分の顔をファンカレアから慌てて離し、俺はファンカレアに謝罪した。


「魔力が本当に流れているのか気になっちゃって……」

「い、いえ……私としては嬉しかったと言うか……」

「ん?」

「な、なんでもありませんっ」


 何かを口にしていたファンカレアだったが、後半部分が良く聞き取れなかった。

 でも、掘り返すのもどうかと思ったのでわかったと言った後で、話を元に戻すことにする。


「えーっと、話を戻すけど……結局、ファンカレアはこれから自由にフィエリティーゼと白色の世界を行き来できる様になるのか?」

「さっきも言ったけど今は様子見だね。2.3日様子を見てある程度フィエリティーゼにファンカレアの魔力が馴染んでいる様なら大丈夫。まあ仮に馴染んでいなかったとしても、また数日間同じように魔力を流し続ければいいだけだから、今後は自由に行き来できると思うよ」

「そっか……良かったね、ファンカレア」

「ッ……はいっ!」


 黒椿の話を聞いて、俺は少しだけほっとしていた。

 俺がスキルを使えば確実に来れるようにはなっているけど、それは本当の意味で”自由に”ではないからな。俺が今後、何か大変な事に巻き込まれている時とか、手が離せないくらい忙しい事態に陥っている可能性だってある訳だし。

 数日は掛かるみたいだけど、ファンカレアが自由に行き来できるようになるのなら、本当に喜ばしい事だと思う。


 その証拠に……俺の言葉に返事をするファンカレアは、今日一番の笑顔をみせていた。





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 昨日はすみませんでした……!

 今日から【プロポーズ大作戦~ファンカレア編~】の始まりです!


 【作者からのお願い】

 ここまでお読みくださりありがとうございます!

 作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!!


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