第149話 二年目:いらっしゃい、黒椿
――青の月14日目、早朝。
俺を含めた八人全員は円卓が置かれている中央広場へと集まっていた。
リィシアとグラファルトはまだ少し眠そうで、アーシェはワクワクとした感じで目を輝かせている。
「流石に早すぎるんじゃない?」
そんな中、俺の隣に立つミラは朝早くに起こされたのを不満そうにしながらそう口にした。
いや、俺に言われてもな……。
「黒椿からの要望なんだ。なるべく朝食前の早くから行きたいって」
「……やっぱり朝ごはん狙いなんじゃないの?」
「…………さっ、始めるか」
ミラの言葉に俺は思わず視線を逸らす。そして、そのまま前方へと進み黒椿とファンカレアを呼ぶ為の準備に取り掛かるのだった。
一歩前へ踏み出した俺は心の中で”ステータス”と念じる。そうすると、俺の目の前に半透明の板が現れ俺の詳細なステータスを映し出していた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
名前 制空藍
種族 人間(転生者)
レベル ―――
状態:”共命(グラファルト・ヴァヴィラ・ドラグニル)”
妻 グラファルト・ヴァヴィラ・ドラグニル
スキル:~非表示(10983)~
固有スキル:【竜の息吹】【竜の咆哮】【人化】【竜化】【眷属創造】【地脈操作】【水流操作】【火炎操作】
特殊スキル:【改変】【漆黒の略奪者(一部制限中)】【白銀の暴食者(使用不可)】【魔法属性:全】【スキル合成】【スキル復元】【創造魔法(神属性の魔力が不足しています)】【神性魔法(神属性の魔力が不足しています)】【神眼】【千里眼】【隠密S】【隠蔽S】【不老不死】【精霊召喚(黒椿)】【女神召喚(黒椿・ファンカレア)】【状態異常無効】【精神汚染耐性S】【物理耐性S】【神速】【神装武具】【全域転移】【万物鑑定S】【武術の心得S】【家事の心得EX】【浮遊】【空歩】【錬金の心得S】【鍛冶の心得S】【魔導の心得S】【審判の瞳EX】【スキル封印】【詠唱破棄】【並列思考】【封印耐性S】【威圧S】【冷静沈着】【スキル複製】【気配察知S】【ステータス隠蔽EX】
称号 【精霊に愛されし者】【黒椿の加護】【異世界からの転生者】【女神の寵愛を受けし者】【魔法を極めし者】【魔竜王の主】【略奪の主】【運命を共にする者】【厄災を打ち砕く者】【超越者】【料理の達人】【カミールの加護】【魔竜王の伴侶】
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
……うん、我ながら恐ろしい事になっていると思う。
フィオラとミラには一度だけステータスに載っているスキルについて説明したことがあるけど、『私より持っている』『普通の人は一つでも特殊スキルを持っていれば人々から称賛される』と遠回しに”お前は異常だ”と言われた。
でも、違うんだ……これ全部ウルギアが勝手にやっちゃってるだけなんだ……。
ウルギアは転生者達から奪った通常スキルを【改変】し度々特殊スキルへと変換しているらしい。
それでも余りある通常スキルは表示するとえらいことになるので、どうにか出来ないかとファンカレアに相談して非表示に出来る事を教えて貰った。
これからもウルギアが定期的に【改変】してくれるらしいので、その内表示できるようになればいいなぁと、気長に待つことにしている。
さて、今回使うのは特殊スキル欄にある【精霊召喚】【女神召喚】だ。
とりあえず、一度呼び出せば詠唱を省略できるらしい【精霊召喚】から試すことにする。
「うーん……とりあえず、省略って言うくらいだからスキルの名前でも言えばいいのかな? 【精霊召喚】――黒椿」
省略って言う意味が良く分からなかった為、スキル名と召喚する対象である黒椿の名前を呼んでみた。
しかし、目の前には初めて黒椿を召喚した時みたいな魔法陣は現れず、特に黒椿が現れる様子もない。
うーん……やっぱり、あの詠唱を口にしないとダメなのかな?
「恥ずかしいけど、しょうがないか……我が求め――いでででッ!?」
覚悟を決めて詠唱を口にしようとした時、おもむろに後ろから誰かに視界を塞がれた。
しかし、相手の背が低いのだろう。両手で一生懸命に目を塞ごうと引っ張って来る為、俺の頭が必然的に上へと向き後方へ力強く引っ張られる。
後頭部に相手の額が当たる感触があり、俺の目元を覆っている相手は額を左右に振り俺の後頭部に擦りつけるようにしていた。
「えへへ~!! 久しぶり~~!!」
「黒椿!?」
どうやら、後ろで俺を殺そうとしているのは黒椿らしい。
嬉しそうな声を出しながらも、力いっぱいに俺の頭を後ろへ引っ張る黒椿は、俺の声に気づくことなく騒ぎ続ける。
「ちょっ黒椿!! 折れる!! 俺の首が折れるから!!」
「あ~~藍だ~~!! 本当に藍だよ~~!! 年に数回しか会えなかったから寂しかった~~」
「わかったから……とりあえずこの手を離せぇ!!」
「でも、もう良いんだ~~ファンカレアも強くなったし、これからはい~~っぱい遊ぼうね!!」
「ワザとだろ!? もう絶対ワザとだろ!?」
いくら大声で声を掛けようとも全く反応を返してくれる様子はない。
ダメだ……このままだと確実に首を折られる……。
生命の危険を感じた俺は打開策を必死に考え、ある解決策を思いつきそれを行使する事にした。
「て、”転移”!!」
「おわっ!?」
”転移”を使い今自分が立っている場所から少しだけ前方へと瞬時に移動する。そこで俺は何とか助かったのだが、後方へのけ反った状態だった為、力を抜いた途端勢いよく後方へ倒れてしまった。
ぶつけた頭を抑えつつ視線を後方へと向けると、そこには驚いた様子で自分の胸元を抱きしめている黒椿の姿が見える。多分、力いっぱいに俺の目を抑えていたから”転移”した後に勢いを殺しきれなかったんだろう。
そうして俺が”転移”したことに気づいた黒椿は慌ててこちらへと駆け寄って来る。その後ろにはミラ達も居て、焦ったように駆けつけて来る黒椿とは違いゆっくりとこちらへ向かっていた。
「ご、ごめんね……大丈夫?」
「なんとかね」
こちらに前かがみになり申し訳なさそうに苦笑する黒椿。
その顔を見て、悪気があった訳ではないと分かった俺は仕方がないと思う事にして起き上がった。
そうして黒椿と向き合うと、黒椿は一歩前へ近づくが直ぐに後ろへ下がってしまう。その顔は何かを悩んでいる様子で、その後も何回か前後に移動し続ける黒椿を見て、俺は何となく察することが出来た。
「……黒椿」
落ち着きのない黒椿の名前を呼んで、そのレモンイエローの瞳を見つめながら俺は両手を広げて見せる。
俺の行動に一瞬固まってしまう黒椿だったが、その意味を理解するや否やパァっと満面の笑みを浮かべてこちらへと駆け寄り。その勢いを止める事無く俺の体に抱き着いて来た。身構えていた俺は抱き着いて来た黒椿をしっかりと受け止めてその華奢な背中に手を回しギュッと抱きしめ返す。
「久しぶり、会いたかったよ黒椿」
「うん……僕もすっごく会いたかったぁ」
俺の胸辺りに顔を擦りつけてくる黒椿の頭を撫でる。
気づけば黒椿の後ろにはミラ達が立っていて、俺と黒椿の様子を優しく見守ってくれていた。
「ほら、黒椿……みんなも居るぞ?」
「…………」
後ろに立つみんなにも挨拶をする様に促してみるが、黒椿は俺から離れようとせず更に抱きしめる力を強くする。
うーん……無理やり引き剥がすのもちょっとなぁ……。
そうして苦笑を浮かべていると不意にミラと目が合った。
視線の先に居るミラは同じく苦笑を浮かべていて首を左右に振ると俺と黒椿には届かないくらいの声量でフィオラ達に話し掛け始める。ミラの話を聞き終わったフィオラ達は、おもむろに後方へと下がり始めるとそのまま右奥にある円卓へと向かいそれぞれが椅子に座り始めた。
どうやら、俺と黒椿に気を使ってくれたらしい。
ミラ達の気遣いに感謝しつつ俺は目下の唐紅色の頭を撫でて……その温もりと、黒椿の確かな感触を噛みしめるのだった。
「いらっしゃい、黒椿」
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
久しぶりにステータスを載せましたが、何かおかしな点があれば遠慮なく言ってください。
【作者からのお願い】
ここまでお読みくださりありがとうございます!
作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!!
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます