第147話 二年目:外出許可と女神達の吉報




 地下施設を後にした現在、俺とグラファルトは一階にある自室へと戻っていた。

 グラファルトとの激闘を終えて更にその後にも体を動かすことになった為、クタクタな上に汗だくだった俺は戻って来て早々お風呂場へと直行し、今は浴槽に張ったお湯に浸かって疲れを癒している。


「それにしても……まだ慣れないなぁ」


 俺達の自室は他のみんなとは違いかなり広い部屋となっていた。

 扉を開いた目の前には広々とした居間があり、部屋の中にある左手前の扉を開くと大きなベッドが置かれた寝室が、右手前の扉を開くと脱衣所兼洗面所があり、その奥には170cmを超える俺が三人は入れるくらいに大きな浴槽が備え付けられたお風呂場が造られている。奥にも扉が左右に一つずつ付けられていて、右はトイレ左はキッチンルームとなっていた。キッチンルームに置かれている冷蔵庫はどういう原理なのかは分からないけど、中の亜空間が二階にあるキッチンルームの冷蔵庫と繋がっているらしい。


「しかし、まさか結婚祝いで部屋を改築してくれるとは思わなかったなぁ」


 創世の月8日目の夜、俺とグラファルトは一緒に暮らしている六人と白色の世界に居る二人に結婚報告をした。

 いきなりの報告だったが全員が快く祝福の言葉を贈ってくれて、グラファルトと二人して泣きそうになったのをよく覚えている。


 この広々とした自室はロゼからの提案だった。

 創世の月が半分を過ぎたお昼頃にいきなりマスターキーを使い部屋に入って来たロゼは『結婚祝いー? するからー、それまでは客室を使ってねー』と言い、俺達を外へ出し勝手に改装を始めたのだ。

 途中でロゼから呼ばれて俺の自室へ入っていくミラを見つけた俺はミラを呼び出し、どういう状況なのかを聞いてみると『あなた達の為に広々とした落ち着ける空間を作るって言ってたわ。限界まで空間を拡張させられた』とのことだった。


「そうして出来上がったのが今の俺の自室な訳だけど……もう家だよねこれ。家の中に家だよ」


 シャワールームだけだったのが普通に浴槽とか付いているし、何より嬉しかったのは部屋の中にキッチンルームがあることだ。今までは二階のキッチンしかなかったからサプライズでケーキとか作ろうとしても直ぐにバレたり、新作の料理を作っていると匂いにつられた腹ペコ達が俺が味見をする前に持って行ってしまったりと、何かと創作料理を作る事が難しい状況だった。しかし、部屋の中にキッチンが出来た事でグラファルト以外にはバレることなく創作料理を作れる様になり、料理を作るのがより楽しくなっている。

 まあ、料理に没頭しすぎて、授業に遅れてミラとフィオラに怒られたりすることも増えたけど……。


「ロゼとミラには感謝しないとなぁ――――お前もそう思うだろ?」

「…………ぅるさい」


 視線を下へ移すと、首から下までを浴槽へと沈めてこちらに背を向けるグラファルトの姿があった。

 その耳が赤いのはお湯のせいでは無い事はわかっている。だって、お風呂に入る前……満足して倒れたグラファルトを抱えて自室に戻ってきた時から耳だけではなく顔までもが真っ赤だったから。


「だから後で後悔するって言ったのに」

「ッ……だってぇ……我慢できなぃ……」


 はぁ……いつものことではあるが、本当に行為をしている時とは性格がガラッと変わるよなぁ。まあ、グラファルトの場合は暴走した本能的なものからなる性欲だろうから仕方がないとは思うけど。

 これで自分自身が嫌いになったり、俺から距離を取ろうとしたりしたら何かしら対策を考えていたかもしれない。

 でも、落ち着きを取り戻したグラファルトは謝罪はするけれど特に思い詰めた様子はなく、どちらかと言えば取り乱した事が恥ずかしいと言った感じだ。結婚する前みたいに距離を取る事もなく、今だって恥じらいから背は向けてはいるがその背中を俺にくっつけ離れる様子はない。

 個人的にも別にグラファルトの事は嫌うことはありえないし、いつもとは違う子供っぽい口調になるこの時間が密かな楽しみになりつつもあった。


 そんな事を考えながら、俺は左腕で背中を向けたままのグラファルトを抱き寄せてその白銀の頭を右手で撫でる。


「なっ!? 何をするんだ!?」

「別に我慢しなくても良いよ、俺達は夫婦なんだから。俺としても別に嫌なわけじゃないしさ」

「……そ、そうか」

「まあ、流石に時と場所は考えて欲しいなとは思うけど」

「うっ……」


 グラファルトにも心当たりがあったのだろう。一瞬だけ体を跳ねさせたグラファルトは抱き寄せた俺の腕から滑り落ちる様に、そのままゆっくりと浴槽の中へと沈んでいく。

 そんなグラファルトを微笑ましく思い、俺は自室のお風呂場で夫婦のひと時を過ごすことが出来て満足していた。












 昼食を食べ終わり俺はダイニングのソファーで寛いでいた。

 グラファルトはご飯を食べて眠くなったらしく、先に自室に戻って今頃ぐっすり寝ていると思う。

 今日は珍しく二階には誰も居ないので、長ソファを一個占領して夕食の時間までゆっくりしようと考えていた……のだが。


「藍、ちょっと来なさい」

「…………え?」


 唐突に頭上に現れたミラはそう告げるとゆっくりとした足取りで移動していく。状況が全く読み込めないが、このままミラを放って寝ていたら絶対に怒られると思い俺は慌ててミラの後ろを歩き始めた。


 転移装置で三階へ移動すると、ミラは客室の一つ……グラファルトが一時期寝泊まりしていた部屋の扉を開き、俺に入る様に促した。

 俺が部屋の中に入ったのを確認した後、ミラも続いて部屋へと入り施錠をする。

 そうして俺達は前回同様にミラが椅子へ、俺はベッドの縁へと腰掛けるのだった。


「急に呼び出してごめんなさい。ちょっと伝えなきゃいけない事があったから」

「伝えなきゃいけない事?」

「そうね……まずはこっちから話そうかしら」


 いつも通りの動作で亜空間からティーセットを取り出してテーブルへと並べたミラは、二つのカップに紅茶を注ぐと一つを俺の前へと出してくれた。

 二人で紅茶に口を付け、落ち着いたところでミラは口を開く。


「まず一つ目ね。あなたの森での生活が五年から短縮できるかもしれないわ」

「え、いいの?」

「まあ、あなたは真面目に訓練をしているし、こっち世界情勢も変わりつつあるから……”三大国同盟”の事は授業で聞いたわよね?」


 ミラの言葉に俺は首を縦に振る。


 ”三大国同盟”とは、”五大国連盟”が解散した後に締結された新しい同盟の仮名称だ。

 フィオラが建国したエルヴィス、アーシェが建国したプリズデータ、ライナが建国したヴォルトレーテの三大国が互いに手を取り、助け合う協力関係を築くことが目的とされている。それ以外にも政治的な意味合いもあり様々な恩恵があるらしいのだが、その辺りは追々覚えて行けばいい為、今は三大国が仲良く手を取り合う為の同目だと覚えればいいとフィオラに説明された。


「代々受け継がれてきた同盟が無くなり、新たな同盟が締結されたことで世界はいま大混乱の中にあるの……あなたが起こした魔力の暴走が薄れて行くくらいにね?」

「ッ……なるほどね」

「流石に髪の色を変えたり、”認識阻害魔法”を使ったりはしてもらうけど、早ければ来年……遅くても再来年には自由行動を許そうと思っているわ。何なら、竜の渓谷の時みたいに事前に行きたい場所を教えて貰って、私やフィオラが許可を出せば今からでも外出許可を出せるわよ?」

「おお……!」


 これは素直に嬉しい。

 今までそんなに窮屈には感じて来なかったけど、やっぱり外の世界には興味があるし、食材とかも自分で見てみたいと思っていたから想像しただけでワクワクする。


「ちなみに、まだ行っちゃダメなところは?」

「そうねぇ……人が多い所、同盟国ではないラヴァールとヴィリアティリア、大国以外の小・中国、後は実際に聞いてから判断する事になるわ」

「うーん、それじゃあまだ市場とかは無理そうか……」

「ごめんなさいね」

「いや、ミラ達には十分良くしてもらってるから」


 申し訳なさそうにするミラに俺は首を振り、感謝を伝える。

 森を出れるまでの時間が短縮されただけでも十分嬉しいし、最悪買ってきて欲しい物は頼めばいいからね。直接見て買い物したりするのは先の楽しみとして取っておこう。


 そうして、少しの休息を兼ねて互いに紅茶を飲み干すと、次の話へと移る事になった。


「さて、それじゃあ次の話だけど……7日後にファンカレアと黒椿が来るそうよ?」

「……えっ!? そうなの!?」

「ファンカレアの準備も終わるから、7日後にこっちへ来て6、7日は様子を見るらしいわよ? それで問題が無い様なら毎日寝泊まりに来るようにするって聞いたわ」


 ええ……俺の知らない所でなんか話が進んでいる。


「俺……何も聞いてない……」


 ファンカレアと黒椿は恋人だから、真っ先に俺に連絡してくれると思っていた。

 だからか分からないけど、ミラから聞いてしまった事に少しだけ寂しさを覚えてしまう。

 そうして俺が少しだけ肩を落とし落ち込んでいると、ミラから盛大な溜息が漏れた。


「あのねぇ……なに一人で勝手に落ち込んでいるの?」

「だって……俺は何も聞いてないから」

「いや、ちゃんと言おうとしたらしいわよ? ファンカレアは真っ先にあなたに連絡を取ろうとしていたらしいから」

「……ありがとう、でもそんな嘘つかなくても大丈夫だよ」


 実際には俺の元に連絡は来ていない。

 だから、それは嘘なのではないかと思った。

 ミラが落ち込んでいる俺に気遣って、慰めてくれているのだと。

 そう思ったから慰めはいらないと口にしたのだが……ミラは俺の言葉を聞くとジト目でこちらを睨みつけてくる。


「え、なに……?」

「ファンカレアが連絡を入れようとしたのは今日……あなたが丁度グラファルトを誘って地下施設へ行ったあとの事よ」

「……え?」

「黒椿の話では、連絡を入れようとしていたファンカレアが顔を真っ赤にして急に倒れ込んだらしいのよ」

「…………」

「何事かと思って黒椿は【千里眼】を使って藍の様子を見たそうよ?」


 淡々と説明を始めるミラの背後に黒い物が見える……。

 あれ、つまり……見られていた!?


「朝から随分とお盛んなのねぇ……若いって良いわねぇ……」

「……いや、あれはその」

「ん~~? 何かしらぁ?」


 あ、これは駄目だ。

 何を言ってもお説教される未来しか見えない。


 全てを悟った俺はベッドの上で正座を組み事情を説明しながらも低姿勢で謝罪を続けた。

 そんな俺にミラは延々と『場所を考えなさい』『自重しなさい』『時間を確認しなさい』と言い聞かせるように話し続ける。



 こうして俺は外へと外出許可と女神達の来訪を知り、最後にお説教を受けて長い一日を終えるのだった。


 7日後にはファンカレアと黒椿が来る。それまでに、色々と準備をしないとな。



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 7日後に女神達が来るそうです。


 【作者からのお願い】

 ここまでお読みくださりありがとうございます!

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