第146話 二年目: VS グラファルト




 創世の月はあっという間に過ぎて行き、今はもう青の月の7日目だ。


 この世界の一年は、創世の月・青の月・緑の月・黄の月・赤の月・光の月・闇の月・終滅の月と巡り、一月は60日で次の月へと変わる様になっている。


 ミラの話では一番寒い時期は終滅の月から創世の月に掛けてらしいから、今月辺りから徐々に暖かくなってくるのかな。

 まあ、常に結界内の気温は調節されているみたいだから、外にでれない俺には全く関係の無い話なんだけどさ……。


「――おい、惚けた顔をしている暇があるのならさっさと準備しろ!」


 そんな事を考えながらストレッチをしていると、後方から声が掛けられた。その声に応える様に視線を上に向けるとそこには妻であるグラファルトが見下ろしている。グラファルトの服装は上下白の半袖半ズボンの体操服で、俺の両肩に手を置いたと思ったらそのまま手を押し込み前方へと飛んだ。そうして数十メートルほど先で着地するとこちらへと振り向き、その綺麗な白銀の髪を揺らす。


「全く……今日は休日にしてやると言ったのに、”最終確認をしたいから手合わせして欲しい”と言ったのは誰だ? ぼーっとしているだけなら我は帰るぞ?」


 上の空だったのが癪に触ったのか、グラファルトは少しだけ頬を膨らませてこちらを睨んでいる。おのれ戦闘狂バトルジャンキー、ストレッチを始める前まではあんなに目を輝かせていたのに。


 そう、グラファルトの言う通り、本当は今日の訓練はお休みの予定だった。本来であれば、休みと聞いたら大喜びしてこんな頑丈な錬金素材で覆われた訓練用の地下室になんて来ずに、自室の部屋でダラダラと過ごしていただろう。

 しかし、今回ばかりは事情が違いお休みを返上してグラファルトに訓練してもらえる様に頼んだのだ。


「ごめんごめん、ちょっと考え事をしてただけだから。手合わせ、お願いします!」


 俺はその場で立ち上がりグラファルトに一礼する。

 顔をあげるとグラファルトは満足そうに一度頷き臨戦態勢をとった。


「我は【白銀の暴食者】、藍は【漆黒の略奪者】のみスキルの使用が出来る。武器等の使用は禁止。藍は【改変】や黒椿のサポートはなし。あくまで【漆黒の略奪者】を制御する為の訓練……ルールはこれで良いのか?」


 グラファルトが説明したルールは俺が魔力制御の訓練を無事合格し終えたあと、グラファルトとの戦闘訓練をする際に話し合って決めたルールだ。

 他のスキルや魔法なんかはミラとの授業で教えてもらえる為、グラファルトとの戦闘訓練では暴走したら一番厄介な事になるであろう【漆黒の略奪者】の制御を目標にしていた。グラファルトなら仮に俺が暴走したとしても【白銀の暴食者】で力尽くで制圧する事が出来るから。


 そのお陰で、今では無茶をしない限りは【漆黒の略奪者】を使っても暴走する事なく自分の思い通りに操れる様になった。

 ただ、訓練で生物の生命を奪ったりした事はない為、略奪能力を使った場合どうなるのかはまだ不明だ。グラファルトやミラからも『まだ略奪能力は使わない様に』ときつく言われている。


 しかし、今日だけはそうもいかない。


「グラファルト、ルールに追加して欲しいものがあるんだけど……」

「どんなルールだ?」

「今日だけでもいいから、グラファルトには魔力を飛ばす系統の魔法を使って欲しい。”炎の槍”とか”氷の槍”とか、なんなら”竜の息吹”も使って欲しい」

「ほう?」


 グラファルトは面白いと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべ俺を見る。


「流石に生命を奪う訳にはいかないけど、せめて魔力を奪う練習をしておきたいんだ。もちろん、訓練が終わった後で奪った魔力は返すつもりだし、俺の意思で返せないようなら【白銀の暴食者】で喰らってくれて構わない。とにかく、【漆黒の略奪者】の奪う能力を少しでも自由に使えるようにしておきたいんだ」

「なるほどな……良いだろう。我としても、来月からは魔法を加えた実践的な訓練を考えていた所だ。それを前倒しすると考えれば特に問題は無い。今回は体験学習という事でワザと魔法を発動する際に大きな魔力の波を作る。それを感知して藍は【漆黒の略奪者】で魔力を奪う訓練をすればいい。ただし、我自身も攻撃するから使う時と使わない時の切り替えも意識するのだぞ?」

「わかった」


 グラファルトの言葉に頷き、俺は自身の体に魔力を巡らせていく。


「……ルールも決まったことだし、そろそろ始めるとするか」

「ふぅ……よろしくお願いしますっ」

「行くぞ!!」

「――【漆黒の略奪者】ッ!!」

「――【白銀の暴食者】ッ!!」


 互いにスキルの名前を叫び、その力を解放する。

 片や漆黒、片や白銀と色違いではあるが同じ”魔力装甲”へと変質する服装。これは【漆黒の略奪者】を基盤として作られた影響なのだとか。


 特殊スキルを解放した俺とグラファルトは互いに一呼吸置いた後、躊躇することなく正面へと飛び込む。

 そうして、俺達の戦闘訓練は始まりを迎えたのだった。















「ッ……はぁ……はぁ……」

「ふぅ……久しぶりに人の姿で”竜の息吹”を使ってはみたが、これはこれで悪くないなっ! 我の新しい戦闘スタイルが見えた気がするぞ!!」

「お、お前なぁ……」


 一面がデコボコになってしまった地下施設で、俺は仰向けに倒れグラファルトはそんな俺に馬乗りになっている。

 どれくらい戦っていたのかは、正直分からない。体感では二時間はぶっ通しで戦っていたと思うけど……結果は、俺の敗北で幕を下ろした。


「楽しいなぁ!! やっぱり戦いは楽しい!! 藍が真剣に向き合う姿は胸躍る思いだったぞ! つい我も本気で戦いを挑んでしまった」

「はぁ……だからって、【白銀の暴食者】で俺の魔力を喰らい続ける事はないだろ!? お前だけ全力で戦いやがって!」

「何を言っておるのだ、お前があんなにも激しく求めたのであろう……?」

「誤解を招くような言い方をするのはやめろ!?」


 激しい戦闘を繰り返していたのが原因なのか、アドレナリンが出まくっているのか、グラファルトは興奮した様子で頬を赤らめ俺を見下ろしていた。

 グラファルトは【白銀の暴食者】を解除している為、汗だく体に体操着を着ている状態になり白い布地が肌に張り付いていた。

 大きく呼吸をするたびに体が上下に揺れ、その女性らしい体つきは張り付いた体操服の所為ではっきりとわかる。


 おや、グラファルトの様子が……。


「お、おい……グラファルト?」

「ふっ……んんっ……」

「変な声を出すな!? 落ち着け!!」


 まずい……これは非常にまずいことになった。


 グラファルトの発情期は通常であれば先月で終わっている。

 しかし、これは後から知ったことなのだが先月にグラファルトを襲った発情期は特殊な物であり、番の雄と雌が性行為を行わなかった場合に起こる禁断症状の様な物らしい。つまり、愛する者が居るのに手を出せないというもどかしさからくる暴走状態と言う事だ。

 通常であれば一度、性行為をしてしまえば症状は落ち着き、一年は大丈夫だという事だったのだが……グラファルトの場合はそうはいかなかった。


 生まれてから一度も番を作らなかったグラファルトの禁断症状は他の竜種達のそれとは違い非常に強力なモノだったらしい。

 初めての夜を終えてからもグラファルトの症状は収まることなく、この一か月ほどの間で夜な夜な奇襲に遭う事が数回程あった。


 そして現在……グラファルトの表情は奇襲された時と全く同じ状態になっている。

 色気を含めた甘い声を漏らし、その口元からは少しだけ涎が垂れている。呼吸は早くそして激しく乱れており俺を抑えつける両手の力は振り払えない程に強力なものだ。


「安心しろ……悪い様にはしない……」

「い、いや、落ち着こう。お前はいま禁断症状に襲われている状態なんだ、どうせこの後正気に戻ったら顔を真っ赤にして謝る事に……あの、グラファルト? 俺のはなs――」



 そうして俺は理性の壊れたグラファルトに襲われる事となった。


 せめてもの救いは、行為が行われている間に誰も地下施設に入って来なかったことだろうか?


 本当に良かった。

 リィシアに目撃されたりしていたら……後でミラとかフィオラ辺りに殺されていたかもしれない。






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 今日から女神達へのプロポーズ編に突入です!


 グラファルトとイチャイチャしていますが、今回のメインヒロインたちはファンカレアと黒椿です。本当です。


 【作者からのお願い】

 ここまでお読みくださりありがとうございます!

 作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!!


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