第144話 二年目:学園創設とお弁当作り④



 朝食が終わって直ぐに、全員がそれぞれの理由で二階のリビングルームから移動を始めた。

 俺もキッチンスペースへと移動して早速フィオラとロゼのお弁当作りに移ろうと思っていたのだが……。


「えっと……何で俺の後ろをついて来てるのかな? ミラ、それにグラファルト」


 何故か後ろをついて来るミラとグラファルトは、さも当然と言わんばかりの様子で片付いた長テーブルの席へと着き寛いでいた。

 フィオラとロゼは今後の打ち合わせ、ライナはヴォルトレーテ大国へ剣の指導へ、アーシェはプリズデータ大国へ遊びに、リィシアは三階の右側にある書斎部屋で読書をしている。


 今日はグラファルトによる対人戦闘訓練とミラによるスキルと魔法についての授業があったのだが、事情を話して中止にしてもらった筈……。

 だから、二人が俺の傍に居るのが不思議で仕方が無いのだが、その理由は直ぐに知る事が出来た。


「何でって……味見は必要であろう?」

「私達は誰かさんが予定をキャンセルした所為で暇なのよ。せめてもてなしなさい」

「んな、無茶苦茶な……」


 でも、実際にいきなりお休みを貰ったのは本当だから、あんまり強く反論できない自分も居る。

 邪魔するつもりは無いみたいだし、とりあえずは気にしなくても良いか……。


「別に新しい料理を作る訳じゃないぞ? 説明したと思うけど、今回はフィオラとロゼのお弁当を作るだけだから、いつも作ってるご飯の延長にするつもりだし」

「構わん!! 我は食べれればそれで良い!!」

「私はこれの当てになりそうな物があれば貰うわ」


 グラファルトは清々しいほどに食べ物目的だと告げ、ミラは亜空間から取り出したであろうワインを指さし告げた。


「……はぁ」


 ここで何を言っても絶対に動かないだろうし、料理を出せば文句も言わないだろう。

 こうして、俺のお弁当作りは始まった。








 お弁当作りは順調に進んで行った。

 お昼には一度中断してみんなのお昼ご飯を作り、またみんながそれぞれに移動したのを確認して再開する。お弁当作りの余りも出したので少しだけ豪勢になったお昼にグラファルトとミラ以外の面々は喜んでいた。まあ、お昼にデザートが出るとは思わなかったのだろう。


 午前中には主に肉系の料理を作り、フルーツの盛り合わせやポタージュスープも作って置いた。お肉料理はみんな基本的にみんな食べてくれるからで、ポタージュスープを作った理由は王宮で食べると思うけど、外で食べる事になった時の事を考えて零れにくいドロドロとしたものが良いかなと思ったから。


 午後からは魚を使った料理やサラダ、後はフィオラの好きな柔らかいチョコレート料理と、ロゼが気に入っていた角煮も作る。ロゼは角煮と地球からミラが持ってきてくれたお米を合わせて食べるのが好きで、良くリクエストしてくる。今回はお弁当だから、角煮を中身にしておにぎりでも作ろうかな?


 ちなみに、午後になってもミラとグラファルトはちゃんと居ます。そして、お昼前に帰って来たもう一人が仲間として増えていました。


「ランくんのご飯は美味しいから、楽しみだな~」


 グラファルトの隣に座り、嬉しそうにそう言ったアーシェはコップに注がれた果実水を飲みながら料理が出て来るのを待っていた。

 いや、君たちさっき食べたよね!?


 お弁当として一人前分の四角い容器に入れているから、その余りを食べてもらう事になる。でも、午前に余り物を食べて貰っていた際に”量が少ない”というクレームをグラファルトから受け、途中から作る際の量を増やしていた。まあ、だからこそお昼時にはみんなに振る舞えるくらいには余っていた訳だけど。


 流石に午後からは大丈夫だろうと思い少しだけ量を減らしている。

 いっぱい食べてくれるのは嬉しいけど、食べ過ぎは良くないからな……そもそもそんな心配がいるのかすら分からないけどさ。

 まあ、何品か作って余りを渡してるけど特に文句は言われてないから大丈夫だろう。


 料理を作っている時、俺はミラに頼み事があるのを思い出しついでに頼んでみる事にした。


「ミラ、ちょっと頼みがあるんだけど」

「……料理は無理よ」

「いや、そんな恐ろしい事を頼もうとは思ってないから」


 俺の言葉に頬を小さく膨らませるミラ。

 お袋の惨状を見て来たからな……その起源となるミラに料理を頼もうとは思わないよ。


「じゃあ、なに?」

「あからさまに不機嫌になったな……。実は、ロゼが仕事から帰って来たらちょっと作ってもらいたい物があって、それにはミラの力も必要だから手伝ってほしんだ」

「作りたい物?」

「少しだけ広いスペースが必要だから”空間拡張魔法”を使って欲しいのと、ミラって記憶を投影する魔法を使えるんだよね? できればそれも教えて欲しんだけど……」

「良いけど……なにを作るのかだけでも教えて欲しいわね」


 うーん……まあ本人にバレなければいいか。

 そう判断した俺はここだけの話にすることを三人に頼み、作って欲しい物とその理由を説明した。三人は俺が説明していくにつれてその顔をほころばせ、優しい笑みを浮かべ始める。


「ふぅ~ん……」

「ほぉ~う……」

「へぇ~……!」

「三人して同じ反応をするな!! 恥ずかしいわ!!」


 俺の言葉に三人はどっと笑い声を上げる。


「ごめんなさい、嬉しそうに語るあなたが可愛らしくて……」

「我の時もそうだったが、お前は意外とロマンチストだったのだな」

「でも、それだけ相手の事を想っているってことだよね! いいなぁ……」


 うっ……絶対に顔が赤くなってる。

 俺が作って欲しい物は、黒椿にプロポーズをする為にどうしても必要な物だった。俺個人的にもそうだけど、黒椿にとっても大切な物だと思うから。ファンカレアについてももう考えていて、その内容についても説明したのだが……その結果が今の惨状である。


 そこからは、ミラに手伝ってもらう事を了承してもらい、もう無駄話はしないと決めて料理に集中する事にした。

 無駄話はしないというのは建前で、本当は単に照れくさくてからかわれるのが嫌だったからという何とも子供っぽい理由だけど。

 料理に集中していたからか、フィオラとロゼのお弁当作りは夕方には終わり最終日のお弁当はちょっとした自信作が完成した。


 そうしてそのまま晩御飯作りへと移行し、あっという間に夕食時になる。

 みんなが帰ってきたのを確認し食事を並べてご飯を食べた。

 食後にフィオラとロゼを呼んで作って置いたお弁当を纏めて渡した。二人は早朝にはもう出掛けてしまうらしく、見送りはいらないと言われていたからだ。


「一応足りないことは無いと思うけど、大丈夫そうかな?」

「凄い量ですね……本当にありがとうございます」

「ランのご飯いっぱいー!」


 フィオラは丁寧な所作で頭を下げ、ロゼは嬉しそうにお弁当を亜空間へとしまっていく。四角い形をしたタッパ型の容器の上にはそれぞれに『〇日目』と書いてあり、分かりやすく分けてある。スープはポタージュスープしか作ってないから、日数で分ける事はせず、大き目の鍋に入れておいた。

 順々に亜空間へとしまわれていくお弁当を見て、最終日のお弁当を二人が手に持つ。


「これで最後ですね」

「最後のだけ大きいねー?」

「最終日のお弁当は少しだけ特別なヤツにしておいたから。嫌いな物はないと思うけど、もしあったら残しても良いからな?」

「ランくんのご飯は何でも美味しいですから。残したりはしませんよ」

「ロゼもー!! 特別楽しみにしてるー」


 そう言った後、二人が縦長のお弁当をしまうのを確認して、二人に気を付けてと言いながらその頭を撫でた。

 フィオラはまだ慣れていないのか少しだけ恥ずかしそうにしていたが、嬉しそうにその口元をほころばせている。ロゼはいつも通りきゃっきゃと喜んでいた。



 こうして、お弁当作りの一日が終わり自室に戻った俺は、別邸にある浴場へ行くことなく部屋に備え付けられたシャワールームで汗を流し、”魔力装甲”で半そで半ズボンに着替えるとベッドへダイブした。


 グラファルトは工房部屋へ遊びに行っている。グラファルトが言うには”爆竜号をしばらく見れなくなるから今のうちに堪能しておく!!”との事だ。

 爆竜号……と呼ばれているデコトラは場所をとる為、改造やメンテナンスをする時以外はロゼの亜空間へとしまわれているらしい。その為、ロゼがいない間はデコトラ見れないとグラファルトが嘆いていた。


 どんだけ好きなんだよ……。


 まあ、とにかく今日はもう寝る。

 明日は今日休んだ分ミラとグラファルトによる訓練がいつもよりも長い時間設けられているから休んでおかないと体が持たない。


 フィオラとロゼの為に作ったお弁当、特に最終日のヤツ……喜んでくれるといいな。






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 作者が思っていたよりも長くなってしまった学園創設とお弁当作り編ですが、明日投稿予定のフィオラ・ロゼ視点の一話で終わりの予定です。

 明後日からは恐らくファンカレアと黒椿へのプロポーズ編に移り、怒涛の結婚ラッシュを書いて行こうかなと思っています。


 【作者からのお願い】

 ここまでお読みくださりありがとうございます!

 作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!!


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