第141話 二年目:学園創設とお弁当作り①


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 炬燵猫です。

 小さな報告ですが、章の見出しである「変わりゆく世界と、森での五年」の部分を「変わりゆく世界と、森での生活」に変更させていただきました。

 よろしくお願いします。


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 グラファルトと婚姻の儀を終えてから翌日の事。

 俺は頼んでいたファンカレアと黒椿の指輪を受け取りに行くのと、ちょっとした頼みごとをしに行く為に、どうせ徹夜してデコトラを作っているであろうロゼの元へ向かう事にした。


 あの後、竜の渓谷から帰って来た時には既に夕暮れ時で急いでみんなのご飯を作った。そうして全員が揃って食事を始めたのだが……そこではロゼとグラファルトが楽しそうにデコトラについて語り続けていた。デコトラを知らないフィオラ、アーシェ、ライナにリィシアの四人は興味深そうに話を聞き、俺とミラは頭を抱えた。

 食後にロゼが『明日には出来るんだ~』と嬉しそうに言っていたから、多分仕上げの為にまだやってると思う。ちなみにグラファルトはロゼの後ろをついて行き工房部屋へ見に行っていた。夜中にこっそり帰って来たのを俺は知っている……。


 そんな訳で寝ているグラファルトは起こさないで自室を後にした。

 早朝と言える時間帯なので外はまだ薄暗いが、周囲が見えない程ではない。


 別にこんな朝早くに行くほど急ぐ必要はなかったんだけどな……昨日の夜までは。



(――藍くん藍くん、聞いて下さい!! 私、ようやく力の完全制御に成功したんです!!)

(そうなの? おめでとう、ファンカレア!)



 昨日の夜、ファンカレアが嬉しそうに念話をしてきた。

 ”創世”の力の制御訓練を始めて一年半、遂に力の完全制御に成功したらしい。この一年半でファンカレアがどれだけ努力を重ねて来たかはよく知っているから、自分の事のように嬉しかったのを覚えている。

 その後も嬉しそうに”早く会いたい””一緒にお出掛けもしたい”と俺と一緒にしたい事を話すファンカレアの話を聞きつつも、俺はいつ頃フィエリティーゼへ来るのかを聞いてみる事にしたのだが、直ぐに来れる訳では無いらしい。


(本当は直ぐにでも行きたかったのですが、黒椿が”完全制御に成功したからと言って油断は禁物だよ!”って言うんです……酷いですよね?)


 ファンカレアの話では、完全に制御する事が出来たとしてもその力の使い方をしっかりと理解する必要があるらしく、”力を制御下に置く事”と”力を使いこなす事”は別なんだそうだ。特に”創世”の力は神々の頂点に君臨する程に強力な力……その力を使い熟す事は、ファンカレアの為にもなると黒椿が言ったらしい。

 まあ、直ぐにでもフィエリティーゼへ降り立ちたいと思っているファンカレアにとっては、望んでいない結末ではあるんだろうな……。

 しかし、俺はそれに関して特に口を出すことは無かった。


 だって……。


(――へぇ、ファンカレアは僕の事をそんな風に思っていたんだねぇ?)


 俺とファンカレアの念話に割り込んできた黒椿が、わざとらしく語尾を伸ばしてそう言っていたから。

 すごかった……姿は見えないのに禍々しいオーラみたいなものを感じた……。


 そこからはもうファンカレアが黒椿に委縮しまくり、最終的にはファンカレアの念話が途切れた。多分、向こうでこっぴどく怒られていたんだと思う。

 その後は黒椿と他愛もない雑談をして、最後にいつ頃フィエリティーゼに来れるのかを聞いた。


(うーん……多分、来月くらいかな? でも、ちょ~っとやる事が増えたから、もしかしたらそれよりも少し後になるかも……ごめんね?)


 増えたやる事とは何なのかは察しがついたので、心の中でファンカレアに敬礼をして、会えるのを楽しみにしていると伝えた。


 ファンカレアがフィエリティーゼに降り立つまでは自分も我慢すると言い、ファンカレアの訓練が始まってから白色の世界に残り続けている黒椿。

 そんな友達思いの優しい恋人に、思わず笑みが零れる。そうして、黒椿との念話も終わり……俺は二人に求婚するための準備を早める事を決定したのだった。







 昨日の出来事を振り返りつつ足を進めていると工房部屋へと辿り着いた。


「ロゼー、ちょっと話が――フィオラ?」

「おはようございます、ランくん。随分と早い起床ですね」


 扉を開き中へ入るとそこにはフィオラの姿があった。

 どうやらロゼと二人で何かを話していた様で、俺の声に気づいたフィオラがこちらへと振り返り笑顔で挨拶をしてくれる。


「おはよう、フィオラ。珍しいね、フィオラが工房部屋に居るなんて」

「ええ、ちょっとローゼにお願いしたい依頼がありまして……」

「依頼?」


 ロゼを愛称で呼ぶフィオラは少しだけ申し訳なさそうにしながら答えてくれた。

 小さく溜息も吐いているし、もしかして厄介ごとだったりするのかな?

 そう思って聞いてみると、フィオラは事の経緯を話してくれた。


「実は、エルヴィス大国の北部にある広大な土地に新たに学園を創設する事になりまして、その建設をローゼにお願いしたいと思いここに来たのです」

「あれ、確かそこってファンカレアの像が祀られている神殿があったんじゃなかったっけ?」


 確か授業でそう教わった気がする。

 俺の言葉にフィオラは嬉しそうに微笑みながら首を縦に振った。


「その通りです。ちゃんと授業の成果が出ているようで安心しました」

「時間を掛けて教えて貰っているからね。それにフィオラ先生との授業は楽しいから」

「ふふふ、そう言ってもらえると嬉しいです」


 フィオラとはもうかれこれ一年以上にわたって先生と生徒の関係を続けているけど、資料とかを作ってくれるから分かりやすいし、丁寧に教えてくれるから自然と頭に残るんだよな。

 いかんいかん、話が逸れてしまった……。


「それで、どうして神殿がある場所に学園を?」

「……そうですね。ランくんのこれからを考えると、先に説明しておいた方が良いかもしれません。少しだけ長くなってしまいますが構いませんか?」


 少しだけ考える素振りを見せたフィオラだったが、何かを決意したかのように俺にそう聞いてきた。

 その真剣な表情に俺も身を引き締めて頷く。

 俺が頷いたのを確認して、フィオラは学園を創設するに至った経緯について話し始めた。


「ランくんは”五大国連盟”という条約を覚えていますか?」

「えっと、フィオラ達が建国した五つの大国が協力関係を築く為に結んだ条約だっけ?」

「条約が結ばれた当時とこの数百年ではその意味合いが大きく変わり、細かな事をここで説明すると授業になってしまいますので、復習を含めてそれはまた今度にしましょう♪」

「あ、はい……」


 あれ、これ知らぬ間に授業量を増やされたのか?


 フィオラ先生はもしかしたら授業をするのが好きなのかもしれない。

 だって、凄い上機嫌だもん。

 こんなに嬉しそうにしているフィオラに「いや、大丈夫です」なんて言えない……。

 俺がそんなことを考えている間にも話は続いて行く。


「これはまだ国民にも知らされたばかりの事実なのですが――創世の月5日目、ラヴァール大国とヴィリアティリア大国の二大国が連盟からの脱退を宣言しました」

「ッ!?」


 その言葉に思わず目を見開く。

 俺が森で隠れている間に、世界はどうやら大きく動き始めていたらしい。


「ラヴァールとヴィリアティリアって……ロゼとリィシアが建国した国だよな? その、二人は……?」

「今回の一件に二人は何も関わっていません。それに、元々ローゼとリアの二人は自国に対してそこまで執着していませんでしたから。ミラスティアに頼まれたから建国をして地盤を固めただけで、ミラスティアが地球へと赴いた際には直ぐ様その王位を放棄しました。あの時はもう大変でしたよ……二人の弟子は既に亡くなっていたので王族たる人物を厳選して欲しかったのですが、事もあろうに二人は適当に選んで任命してしまったのでその後の事後処理がもう――」


 前々から思ってはいた事なんだが、六色の魔女の苦労人枠は間違いなくフィオラだよな……。当時の事を思い出したのか、瞳のハイライトが消え虚空を見つめて愚痴り始めてしまった。一応、声を掛けてみたのだが反応は返って来ることはなく、フィオラは延々とロゼとリィシアの愚痴を続けている。


 結局、十分くらい経っても止まる気配が無かったので肩を揺らして虚空から帰ってきてもらう事にした。

 当の本人は愚痴を溢していた自覚は無く、唯々申し訳なさそうに謝罪を繰り返している。


 本当に苦労しているんだな……今度美味しいチョコレート菓子でも作ってあげよう。




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