第138話 二年目:白銀が探し求めていた者⑤
肌寒さと少しの眩しさを感じて薄っすらと目を開く。
左向きに横になっていた俺の視界の先には、白銀の少女の姿があった。
「んぁ? グラファルト……?」
白銀の少女の名を呼ぶと、少女は嬉しそうにこちらへと近寄って来てそのまま俺にキスをする。
「チュッ……おはよう、藍」
「お、おはよう……グラファルト」
薄っすらとしていた意識がグラファルトとのキスで覚醒してきた。そうして思い出されるのは昨日の夜から朝方まで続いた出来事であり、目の前に居るグラファルトを思わず見てしまう。
幅の広いベッドの左側を占領しているグラファルト。彼女は左を向いている俺の方を四つん這いの状態で見ている。その白く張りのある肌の上には何も着ておらず、視線の先に映る大きくはないが適度に膨らんでいる二つの小山を見てしまった俺は顔が熱くなり、いつまでも見る訳にはいかないと思い慌てて俺の被っているシーツをグラファルトへと掛けた。
ちなみに、シーツで隠れていた俺の下半身にはしっかりと下着が着けられている。朝方になり先に限界を迎えたグラファルトが眠った後でフラフラになりながらも全裸はまずいと思い下着だけは魔力で作っておいたのだ。しっかりと魔力制御をマスターしておいて良かったなと思った瞬間である。
「お前なぁ……少しは恥じらいを持て」
じゃないと目のやり場に困る。
さっきも思わず胸を見てしまったし、グラファルトの白い肌を見るだけでつい数時間前までの行為を思い出してしまう為、まともにグラファルトの事を見れない。
シーツを掛けられたグラファルトは幸いなことに察してくれた様でその小さな体をシーツで覆ってくれた。
「今更、恥じらう必要などないであろう? あんなに激しく求めあったのだ」
求めあったって……いや、間違ってはないけどさ。
目の前でそう告げるグラファルトは顔を赤らめながらもにっこりと笑みを浮かべている。ていうか、顔を赤らめるくらいなら言わなきゃいいのに……。
まぁ、様子を見る限り呼吸も乱れてないし、何より苦しそうには見えない。
「元に戻った様でなによりだよ……」
とりあえず、グラファルトが元気になってくれたならそれでいいか。
そう思いながら、俺はグラファルトの頭を撫でた。変な事を言ったから力を強めにしたけどね。
さて、問題はこれからどうするかだよな……ミラには俺達が昨日何をしていたのか知られている訳で、これって説明しないといけないのかな? うーん……。
「グラファルトは、これからどうする? 何か予定があるようなら、ミラには俺から報告しに行くけど?」
何か用事があるようなら俺一人で行こうと思った為、とりあえずグラファルトに聞いてみることにした。二人で行くと……一人の時以上にからかわれそうだし。
だが、グラファルトは特に用事が無い様で、今日は俺と一緒に行動したいと言われた。
「その……ここ数日はお前の事を避けていて一緒に居れなかったからな……なるべく傍に居たいのだ」
そんなことを言われたら、一人で待っててなんて言えないよな……。
という訳で、グラファルトにこれからミラの所へ行って説明をすることを伝えるとグラファルトもそれに了承してくれた。
「それじゃ、さっさと着替えて外に行くか。ミラに説明し終えた後はどうする?」
グラファルトにそう言いながらも、俺は”魔力装甲”で作り上げた服を着る。
”魔力装甲”。
装甲なんて物騒な名前が付いてはいるが、その実は魔力を物質化させた塊で使用者の魔力量、魔力の質、魔力操作、そして想像力の固定差によってその完成度は大きく変わるらしい。
俺の場合で例えるなら、魔力量は絶大、魔力の質も良好、魔力操作も一年半かけて上達してるし、最後の想像力の固定差……つまりは物質化させた魔力の塊の形を固定する際に明確にそのイメージを想像する事が出来るのかという基準だが、これに関しては特に問題はなく思い通りに作る事が出来た。
ミラの推測ではあるが、地球に居た頃の知識が役立っているのではとのこと。地球にはゲームや漫画、映画に小説など様々な空想から生まれた産物がある。そういった娯楽から取り込まれた知識が”魔力装甲”や魔法を使う際に役立ってるのではないかと言う事だった。
まあ、洋服のセンスとかは全くないと思ってるから儀式の間で【漆黒の略奪者】を使った時に作られた服を参考にしてるけど、その所為で基本的に俺が着る服は黒で統一されてるんだよなぁ。それにいくら魔力が減らないからと言って”魔力装甲”の服以外持っていないというのは如何なものか……。今度ロゼに相談して作ってもらうか?
ちなみに【漆黒の略奪者】を使った時に作られた服は黒椿でもウルギアでも無いらしい。黒椿の話では俺の中で未だ眠り続けている娘……プレデターが作ったのではないかという事だったが、眠っている娘に聞く術はないので結局分からず仕舞いだ。
そんな訳で、”魔力装甲”を無詠唱で使い黒い長ズボンに黒い長袖の服を着て、最後に踝までの黒い靴下と黒のショートブーツを創り出す。うん、全身真っ黒!
後ろを振り返りベッドの上に座るグラファルトを確認すると、グラファルトも”魔力装甲”を使いいつもの服装へと着替えていた。グラファルトは基本的に季節に問わずダメージ加工を施された白いオーバーオールタイプのズボンを履いて、上は黒い袖なしの服を着ている。【人化】を使っているグラファルトには尻尾は生えておらず、角も髪に隠れるくらいの大きさだ。
竜の人化なのだから尻尾とか生えてる物なんじゃないのかと聞いたことはあるが『そんなの邪魔だろ』と一蹴されそれ以上特に何も言えなくなったのを覚えている。
互いに準備も出来た事だし、そろそろ行こうかと思っているとグラファルトに名前を呼ばれた。
「藍、ちょっと頼みがあるのだが……」
「頼み? 俺に出来る事なら良いよ」
俺が笑顔でそう答えると、グラファルトも小さく笑みを浮かべる。
「ありがとう――藍、お前と一緒に行きたいところがあるのだ」
報告をしに一階にあるミラの部屋へと向かったのだが、ついでにご飯を食べて行こうと思い先に二階へと降りたらミラが一人で紅茶を飲んでいるのを見つけ、ご飯を食べながら報告をすることに。
ええ、それはもう終始ニヤニヤとした顔で見られましたよ。具体的に話を聞こうとするミラを止めるのに一苦労だった……。そして、ミラにもう昼過ぎだと言われた時は何とも言えない気持ちになったよ……そんなに寝てたんだね、俺。
無事に報告も終え、ミラから結界外への外出許可を貰った俺はグラファルトに連れられるまま転移しすることになった。許可を貰えるとは思っていなかったので驚いたが、どうやら俺の魔力制御は相当上達している様で今の段階ならとりあえず魔力がだだ洩れることは無いとのこと。
久々の森の外と言う事で、グラファルトが連れて行ってくれる場所はどこなのかワクワクしていると、あっという間に転移し終わり視界の先には大きな二つの山脈が聳える山岳地帯が広がっていた。
「……寒ッ」
そう言えば、結界内は温度調節がされていて常に快適な気温を保っているんだっけ? 結界の外は良い天気ではあるのだが創世の月と言う事でまだまだ寒い。
「グラファルトは寒くないのか?」
「我は服に”付与魔法”で温度調節機能をつけているから問題ない」
「……早く魔法を覚えないと」
何それ羨ましい。
”付与魔法”はまだ教えて貰っていない為、俺は”魔力装甲”を使って新たに黒いコートを創り出した。うん、これでさっきよりは暖かいな。
「それで、ここって……竜の渓谷だよな?」
「そうだ」
俺の質問にグラファルトは頷いた。
グラファルトが邪神に囚われている時に体験した記憶に映っていた、二つの山脈の間に作られた竜種の住まう渓谷。俺にとっても大切な記憶となった竜の渓谷を俺が見間違うことは無い。
不思議な感覚だ。
俺自身の記憶ではないはずだけど、脳が無意識に”懐かしい”と感じてしまっている。一時的とはいえ精神を浸食されたのが影響しているのかもしれないな。
「始めて来た筈なんだけど……なんか、落ち着くな」
「そう言ってもらえると、我としては嬉しいな。さあ、いつまでもここに居ても意味がない。中へ入るぞ」
笑みを浮かべてそう告げたグラファルトはそのまま前へと進み、渓谷の中へと歩いて行く。俺もグラファルトの後に続いて渓谷へと足を進めた。
渓谷の内部は通路の様な道がしばらく続き、数分歩き続けると視界の先から徐々に光が漏れ出て来た。そうして光に誘われる様に足を進めて行き、光の向こうへと顔を出すと……そこには自然に包まれた暖かな空間が広がっていた。
「これは……お墓か?」
緑が地面に生い茂り、花々もしっかりと咲き誇っている。天井は山で覆われることなく開けており、陽の光が静かにこの場所を照らし続けていた。自然に生えた植物たちとは違い、人為的に建てられた数々の石碑に視線が動く。大小様々な大きさの石碑が中心から広がる様に不規則に建てられていて、中心には一際大きな石碑が二つ建てられており、石碑の正面と思われる場所には赤い花束と青い花束が綺麗に置かれていた。
「ここは、あ奴らの為に造り上げた霊園なのだ」
「ッ……そうか、あいつらの……」
グラファルトが一緒に行きたいと言った場所、そこには――ヴィドラスやアグマァル……グラファルトの家族である竜種達のお墓が建てられていた。
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