第132話 二年目:今すぐ作るのを止めなさい




――俺がフィエリティーゼへと転生してから一年はあっという間に終わり、二年目もあと半年で終わろうとしている。


 二回目のクリスマスパーティも無事に終わり、無事に新年である創世の月を迎える事が出来てからもうかれこれ7日目になろうとしている。


 しかし、まだ一年半しか経ってないのか……。

 フィエリティーゼに来てから……いや、そもそも転生する直前から邪悪なる神との戦いや、世界の危機を救ったりなど物凄く濃い出来事が多すぎてもう人生一回分くらいの経験はした気がする。

 だからなのかもしれないが、この世界へ来てまだ一年半しか経過していないことに驚きを隠せないでいた。


 邪悪なる神を倒し、暴徒と化した転生者を倒し、強大な力を手に入れた。

 そして、この世界の神であるファンカレアと恋人になり、守護精霊であり長年の付き合いである黒椿との恋人になった。邪悪なる神に囚われていたグラファルトとも恋人であり、彼女に関しては俺の婚約者でもある。


 そう、グラファルトは俺の婚約者であり……自惚れではなく愛されているという自覚もしている。

 自覚しては、いるのだが……。



「やっぱり、避けられてるよな……」



 創世の月7日目の今日、俺はグラファルトに避けられていた。

 思えば、去年も似たような事があった気がする。

 いきなり抱き着いて来たり、寝る時も同じベッドで寝ていたグラファルトが急に俺から一定の距離を置くようになり、寝る時のベッドの別々にするようになっていた。

 その行動が気になって、去年のクリスマスパーティーの時に聞いてみたけど……。


『すまぬ!! 訳はいずれ話すから、今はそっとしておいてくれぬか……?』


 そう言われてしまい、結局話を聞くことが出来なかったんだよな。

 いずれ話すと言われていたから、まあ大丈夫だろうと思っていたのもある。しかし、その”いずれ”の時はまだ来ておらず俺はグラファルトから何も聞けず仕舞い。


 まあ一定の距離を置かれているけど、傍に居る事に変わりはないからいいか。


 ……去年までの俺は、そんな風に考えていた。


 今年は、去年の創世の月とは比べ物にならないくらいグラファルトの様子はなんかおかしい。

 正確には去年の年末、終滅の月50日目を過ぎてくらいからあからさまに俺を避け始めたのだ。


 ベッドどころか俺は部屋を別にして、誰も使っていない三階にある客間を利用し始めたり。

 『魔力制御は粗方終わった、後はアーシェでも教えられると思うから”認識阻害魔法”と一緒に教えて貰え』と言い残し俺の鍛錬をアーシェや他の魔女に任せたり。

 食事の時間もワザと時間をずらしたり……気づけばこの所グラファルトの姿を見ていなかった。

 それとなく、鍛錬をしている時にグラファルトと仲の良いアーシェに聞いてみたんだが……。


『うーん……わたしもグラちゃんに聞いてみたんだけど、”何でもない”の一点張りで全然話してくれないんだー……ごめんね?』


 と謝られてしまった。

 どうやらアーシェにも話していないらしい。フィオラやライナ、リィシアとかにも聞いてみたが、反応はアーシェと同じでみんな特に情報を持っている訳ではなかった。

 俺は話を聞いた全員にお礼を言って謝らないで良い事と心配しているだけという旨を伝えて何か分かったら教えて欲しいとだけ言ってその場を後にする。そんな事を繰り返していた。


 グラファルトが一緒に居ない為、白色の世界へも行けない日々が続きファンカレア達とは念話だけの毎日が続いている。

 まあ、ファンカレアはもう少しで”創世”の力を完全に制御できる様になるらしく、フィエリティーゼへ降臨できる日も近いらしいからそこまで寂しがっている訳ではなさそうだった。それに終滅の月55日目の時にはグラファルトもちゃんと合流して、白色の世界でクリスマスパーティをすることが出来たし、どうやら全員参加の行事にはちゃんと来てくれる様で”何が何でも俺を避ける”という事ではない事に俺はちょっとだけ安堵している。


 とはいえ、避けられている事には変わりないけどね……。

 仮にどうしても知りたいとなったら、手段がないわけでもない。

 ファンカレアの先生として白色の世界に居る黒椿に【叡智の瞳】を使ってもらうか、俺自身が無理してでも【叡智の瞳】を使えば、グラファルトに避けられている理由を簡単に知る事は出来るからだ。


 でも、今の所はその手段を使う気はない。

 それをしてしまったら、知られたくない事を無理やり暴く様で……罪悪感で圧し潰される気がする。確かに避けられている事は寂しく思うし、その理由が分からないのは不安だけど、知人の……それも大切な婚約者の隠している事を相手の気持ちを無視してまで知りたいとは思えなかった。

 まあ、結局我慢できなくなってきてこうして周りに聞き込みし始めている訳だから、胸を張って言える事ではないんだけどね……?

 それでも【叡智の瞳】を使うという一線だけは越えない様にしている。


 そして今日も、俺はグラファルトの居ない家を歩き同居人へ聞き込み調査を開始していた。

 家族の中で聞いていないのは後二人、ミラとロゼだけ。

 ミラはグラファルトとも仲が良いみたいだし、最後の希望として残しておきたい……という訳で俺はロゼの元へ向かっている。



 ロゼが建設したこの豪邸は、真ん中に建てられた本邸とは別に通路を挟んで左右に一軒ずつ、本邸の半分程の大きさの建物が建てられている。本邸の玄関口を正面にして左側はお風呂場であり、右側がロゼの工房部屋となっていた。ロゼはこの家に暮らす様になってから直ぐに工房部屋に籠る事が多くなり、一日の大半は工房部屋で新しい魔道具の開発を行っているらしい。

 別にそれを販売する意図はなく、どうやら俺やミラが話す地球の知識が面白いらしく、話を参考に地球に存在する道具を魔道具として作れないか試行錯誤している様だ。


 そんな訳で、俺は転移装置を使い一階へと降りて工房部屋へと続く廊下へと進み、工房部屋へ向かう為の通路へと出る。

 本邸の右側に付けられている扉を開くと、そこには左右の側面が強固な”防御魔法”を付与されているガラスで出来ている通路が工房部屋まで伸びていた。

 ガラスで左右の壁を作っている為、外の景色が一望できて昼間は陽の光も届いて居心地が良い。

 通路を歩いていると左側のガラスの向こう……丁度円卓が置かれている場所付近にアーシェとリィシアの姿があった。どうやら二人で話をしている様で綺麗な花々が咲き誇る中央広場で楽しそうに微笑んでいる。


 ちなみに、フィオラとライナはそれぞれが治めていた大国へと向かっていて、ミラはフィオラの付添をしていた。

 詳しくは聞かなかったけど、ちょっと問題があった様で詳しい話を聞きに行くとのこと。俺が知っておいた方が良い話があれば、授業の時にでも話すと言っていたのでまあ後々俺も知る事になるのだろう。


 俺はアーシェとリィシアの様子を眺めつつも足を進めてそう時間も掛からない内に本邸から工房部屋へ入る専用の扉前へと辿り着き、おもむろにその扉を数回ノックする。


「ロゼー、入ってもいいか?」

『んー、いま手が離せないからー、勝手に入って来ていーよー』


 ノックの後で声を掛けると、そんなロゼの声が聞こえて来る。手が離せないという事は、また何か魔道具を開発しているという事だ。

 一体何を作っているのか……危ないモノでないことを祈りつつも俺は扉のドアノブを引き中へと入る事にした。


「ごめん、ちょっとロゼに聞き――たい事があったんだけどその前に言わせてくれ」

「んー? どうしたのー?」


 扉を開けて直ぐに見えたロゼはこちらに背を向けて開発途中であろう魔道具をいじっていた。俺はそんなロゼへと足を進めて背後から抱き上げると、ロゼの体の向きを空中で変えてこちらへと向けさせる。

 抱き上げたロゼは特に気にしない様子で首を傾げていた。


 本当は魔道具開発の邪魔をしない様に早急に要件を済ませて帰るつもりだったけど……開発している魔道具を見ていたら、そうも言っていられない。

 この工房部屋は本邸にある個室同様に”空間拡張魔法”が付与されている。そのお陰で工房部屋の内部は広々としている。

 しかし、広々としたスペースがあったはずの工房部屋は、中心に置かれた一つの魔道具によって部屋のほとんどのスペースを占領されていた。


 それがフィエリティーゼに普及していて、大切なものであれば俺は特に何も言わなかっただろう。そのままロゼを解放し、あわよくばどんな用途があるのかを聞いていたかもしれない。

 だが、いま目の前にある魔道具は違う。

 魔道具を見た俺は、抱き上げた状態のロゼを下ろしてその両肩へと手を置く、そして……なるべく優しい口調でロゼへと言うのだった。


「ロゼ、俺はロゼの作る魔道具が大好きだぞ。いつも助かってるし、キッチンの魔道具なんて地球で使っている物と形も用途も一緒だから本当に有難いと思ってる」

「えへへー、そんなに褒められるとー、照れるねー」

「だからこそ、あまりこんな事は言いたくないんだけど……」

「んー?」


 嬉しそうに首を傾げているロゼに俺は肩を落とした。

 うん、分かってる。悪気がない事も、純粋に面白そうだから作ったっていう事も分かってるけど……流石にこの”乗り物”はまずい。


「――ロゼ、とりあえずこの”デコトラ”を作るのは止めなさい」

「え~~……」


 不満そうに頬を膨らませるロゼの背後へ視線を向けると……そこには魔石や照明魔道具などが装飾され、グラファルトの竜形態らしき姿絵が荷台部分にデカデカと描かれ、その直ぐ側には何故か日本語で『爆竜!!』と書かれている……。


 デコレーショントラック――通称デコトラが俺の目の前に停車していた。





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 という訳で一週間ぶりの藍くん視点です!!



     ~ミラが適当に購入して来たとある雑誌のページ~


『今、若者の間で人気急上昇中の乗り物……それがこの”デコトラ”です!!』


――その吹き出しと共に掲載される数々のデコトラ達。


爆炎の問題児&白銀の駄竜「「おおーーーー!!」」


 こうして、デコトラ『爆竜号』の作成が決まったのであった。


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