第131話 五大国連盟会議⑦
難民問題について三大国が方針を固め終えた後、仕切り役を買って出ていたワダツミが次の議題へと話を移し始める。
「それでは、難民問題に関してはこのくらいでいいじゃろう。次は……今後の大国間の動きに関して、かのう……」
ワダツミの言葉にディルクとレヴィラは頷き、ユミラスは無言で口角のみを上げていた。ユミラスのそれは”話の意図を理解していない”と言う意味合いがあり、ユミラスと長い付き合いであるレヴィラはユミラスの表情を見てそれを察すると、すかさずユミラスのフォローへと回り始める。
「要はあれよね? ユミラスが今日ラヴァールとヴィリアティリアの王達に行った行動によって、もしもプリズデータ大国が二大国から宣戦布告をされた場合……エルヴィスとヴォルトレーテはどう動くべきか、それついての話し合いって事でしょ? 五大国連盟は二大国が脱退を宣言したことによって崩壊したと言ってもいい状況だし」
「ッ!? おお!! そうだな! 確かにそれは決めなければまずい……のか?」
「「……」」
分かっている様な分かっていない様な……そんな曖昧な返答をするユミラスにディルクとワダツミは苦笑を浮かべ、レヴィラは「ユミラスが馬鹿になってる!? いや、元からだったわね……」と呟いた。
そうして両手で頭を抱えたレヴィラは仕方がないと溜息を吐いてディルクとワダツミに対して話し掛ける。
「あー……悪いんだけど、ディルク王とワダツミ王で話を纏めておいてくれない? ユミラスの方は私が相手をするから……」
「え、ですが……」
「大丈夫よ。ちゃんと最終的な結論は聞かせてもらうし、とりあえずはエルヴィスとヴォルトレーテの今後の動きについてだけでも纏めておいて?」
レヴィラの言葉に渋るディルクだったが、レヴィラが目だけで『隣を見ろ』と促しているのを確認し言われた通りに視線をレヴィラの左へと移す。そこにはユミラスの姿があり、現状をいまいち理解していない……というよりも、そもそも虐殺を良しとしているユミラスは何故こんな回りくどい事を考えなければいけないのか、全く以て理解出来ておらず終始首を傾げていた。
そんなユミラスの姿を見て、ディルクはレヴィラの言葉に頷き右隣りに座るワダツミの方へと顔を動かす。ディルク同様にユミラスの事を見ていたワダツミはディルクと目が合うと数回首を縦に動かし、おもむろに立ち上がり円卓があったであろう場所まで歩き始める。ディルクもレヴィラとユミラスへ一礼した後で立ち上がりすぐさまワダツミの元へと掛けて行くのであった。
ディルクとワダツミが二人で今後の話をしている頃、レヴィラはユミラスと話し込んでいた。その内容はユミラスの心境の変化とその理由であり、当人であるユミラスは師である”氷結の魔女”アーシエルと再会を果たした日の出来事や、その後のお茶会での話などをレヴィラへ嬉々として話し続ける。
レヴィラは楽し気に話すユミラスを柔らかな表情で見守り続けて居た。
「――なるほどねぇ、あのアーシエル様が帰って来たと……」
「うむ! 我を含めた城に住む者達は大喜びだったぞっ」
「……そう、それは良かったわね」
幸せそうに笑みを浮かべるユミラスに、レヴィラも小さく微笑んだ。
それからもアーシエルの話を続けていたユミラスだったが、何かを思い出したかの様に「あっそうだ」と呟くと、話題を変えてレヴィラに質問を始める。
「なぁ、レヴィラ。お前はラン様にお会いしたことがあるか?」
「……ユミラス、ミラスティア様のお孫さんの事を様付けで呼んでるの?」
「ラン様はアーシェ様の恩人だからな! 我にとってはアーシェ様と同様に敬意を払うべき存在だ! それで、どうなのだ? お会いした事はあるのか!?」
目をキラキラとさせレヴィラに詰め寄るユミラス。そんな子供っぽい一面を持つユミラスを見て、レヴィラはどこか懐かしさを感じていた。
レヴィラは小さく溜息を吐き「わかったわかった」とユミラスを制す。そして、ユミラスの期待に応える為に長命種であるレヴィラにとってはまだ記憶に新しい一年半前の出来事を思い出す。
「あるわ。でも一度だけね? ディルク王の娘を救出する際に一度だけ見かけただけで、別に親しい訳でも多く会話をした訳でもないわ。そうね……雰囲気はミラスティア様に似ていたかも。まあ、孫なんだし当然なんだけどね。でも、その魔力量は恐ろしいモノだったわ……ワザと見せているのか、それともまだ魔力を制御しきれていないのかは分からなかったけど、その魔力の質も、色も、あれは”視える”者にとっては恐怖でしかないわ……」
そうしてレヴィラは当時の事を思い出す。
真夜中の謁見の間にて、魔女達に連れられて現れてた一人の青年。
その青年の恐ろしく強大な魔力を見たレヴィラは”今直ぐ逃げ出したい”と体を震わせていた。
抗えない死へと誘う漆黒の魔力。
その魔力は他者の潜在魔力見ることが出来る目を持つ者にとって、突如として訪れた死刑宣告と同義であった。
しかし、今のレヴィラは青年に対しての恐怖を感じていない。
青年の優しさ誠実さを知って、その温かみを知って、レヴィラの心から青年に対する恐怖は消え去り、その心は英雄となった青年に対する感謝の気持ちで溢れていた。
「――そんな訳で、いまの私がラン・セイクウに関して話せるのはこれくらいかな」
「おおぉぉ……!! いいなぁ……我も早く会いたいぞ!!」
「へぇ……ユミラスがアーシエル様以外にそんな顔をするなんて思わなかったわ」
それは憧れ抱く少女の様に、レヴィラの話を聞いたユミラスは瞳をキラキラと輝かせその頬を赤く染める。そんなユミラスの表情が意外だったのか、レヴィラは少しだけ驚きつつもそう口にした。
いつもは”我は〜〜だ””我は〜〜だぞ”と他人に対して凛とした態度で接するユミラスだが、友や師であるアーシエルの前になると子供っぽい一面を見せる事がある。
特に師であるアーシエルの前では普段の口調も変わり、自分の事を”私”と呼び子供の様に甘える。それを知っていたレヴィラは今まさにアーシエルに対して向けるのと同じ表情をしているユミラスに驚いていたのだ。
「……さっきも言ったが、ラン様はアーシェ様の心の傷を癒してくれたんだ。それはアーシェ様本人から聞いた。”感謝してもしきれない””一生を掛けてでもこの恩を返したい”と、我に何度も話してくれた。だが、アーシェ様には申し訳ないが、感謝している気持ちならば我だって負けない! ラン様のお陰でアーシェ様がまた笑顔を見せてくれた事で、我もまた……ラン様に救われたのと同義であると言えるだろう」
「……」
「だから、このご恩を少しでも早く返していきたいんだ! 雑用でも何でも良い!! と、伽を望まれるのなら、この純潔も……」
「いや、最後のそれは絶対アーシエル様の前で……いいえ、他の魔女様の前でも言っちゃダメよ?」
少しだけ赤みを帯びていたユミラスの顔は更に上気していき、少しだけ危な気を感じさせる発言までし始めた。レヴィラの注意を聞いていまいち理解を出来ていないユミラスは首を傾げていたが、思い当たる事があったのか右手で作った拳を左の掌に軽く叩きつけて口を開く。
「……ああ! レヴィラは順番の事を言っているのか!」
「…………へ?」
「安心しろ!! もちろん我は最後の方でも構わない。アーシェ様もラン様をお慕いしている様子だったし、アーシェ様の想いが成就するまでは我慢するつもりだ!!」
「どうしよう……私いま絶対に聞いちゃいけない話を聞いちゃった気がする……私はなにも悪くありません。貴女様の事になると盲目になるユミラスを叱って下さい……」
斜め上の発言を繰り返すユミラスにレヴィラは盛大に溜息を吐くと、ユミラスには聞こえないくらいの声量で小さく祈りの視線を取り、この場にはいない”氷結の魔女”へ謝罪と責任の所在を知らせるのであった。
その後は、話し合いをしていたディルクとワダツミが合流し、今後の話を詰める事となる。
結論からして、五大国連盟は崩壊した。
ラヴァール、ヴィリアティリアの二大国が脱退を宣言した以上、現在の連盟を維持するのは不可能だからである。
しかし、崩壊した五大国連盟の代わりにディルクとワダツミは新たなる連盟を組む事をユミラスへと提案した。
それは、エルヴィス、ヴォルトレーテ、プリズデータの三大国が連なる同盟。
まだ正式名称は決まっていないが、仮称するとするならば五大国連盟ならぬ三大国連盟と言ったところだろう。
その内容自体も、元来の五大国連盟と近しいものであり。
簡潔に言えば”残った三大国で仲良くしていきましょう”と言ったところだ。
連盟を組む事で、仮に一大国が宣戦布告された場合に助太刀に入る建前と体裁が持てる。この利点を利用して、可能性のある脅威を退ける為、三大国間での結束を強固にしていくのが目的だ。
話を聞いたユミラスはこれに同意し、”栄光の魔女”の弟子であるレヴィラ・ノーゼラートが証人となる事で、三大国連盟はこの時より締結された。
後に、この事実は世界を大きく変える起爆剤となり、大国間での移動や小中国家間での大きな動きが現れ、世界は漆黒の魔力に覆われてからの数年間で大きな変化を遂げ続けていた。
その事実を……変革を齎す要因となった青年はまだ知らない。
フィエリティーゼへと転生して一年と半年が過ぎた現在、漆黒の主人――制空藍は……相も変わらず、森での生活を満喫していた。
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新年あけましておめでとうございます!
2022年度も『混沌世界の漆黒の略奪者〜略奪から始まる異世界ライフ!〜』をどうぞ宜しくお願いします!!
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長くなってしまった”五大国連盟会議編”はとりあえず終わりです。
次回からは、藍くん視点での物語が始まる予定です。
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