第124話 閑話 異世界でクリスマスを! 後編



@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@


 本日最後の投稿です!

 もう少しで終わってしまいますが……良いクリスマスをお過ごしください!!


@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@









「――おお、随分と良い匂いがするな」


 自分に喝を入れたあの朝の時間からどれくらい経っただろうか?

 窓の外をチラリとみると、既に夕焼けが辺りを照らしていた。


「おかえり、グラファルト」

「う、うむ……ただいま」


 暴れ牛の下ごしらえを止めて顔を上げ笑顔でそう言うと、グラファルトはこちらから視線を逸らし頬を赤らめて返事をしてくれた。

 うーん……やっぱりちょっと様子が変だよな?


「あのさ、どうかしたのか?」

「な、何故だ?」

「いや、急に距離を置き始めたし、あまり目も合わせようともしないし、少し気になってな……」


 そう言うとグラファルトしばらく悩むような仕草をした後、急に両手を合わせ始めて軽く頭を下げて来た。


「すまぬ!! 訳はいずれ話すから、今はそっとしておいてくれぬか……?」

「え、あ、ああ……まあ、言いたくない事だったら無理に聞こうとも思わないし、嫌われた訳ではないんだろう?」

「当たり前だ!! 我はお前の事を心から愛している」


 お、おお……ストレートに言われると流石に照れるな……。


「な、なら問題ないよ。とりあえず、この話は終わりにして……そこの長テーブルにある料理は白色の世界へ持って行くやつだから亜空間にしまってくれるか?」

「うむ! わかった!!」


 まあ、気にならないと言ったら嘘になるけど……無理して聞く事ではない。

 とりあえず、いずれ話してくれるらしいし、その時まで待つことにした。


 そうして、長テーブルの上がグラファルトのお陰で綺麗になっていくのを確認した後、俺は一番楽であろう暴れ牛のステーキとカットフルーツの調理へと移る。

 ちなみに、ほぼ盛り付けるだけのサラダは最初の方にちゃっちゃと作って冷蔵魔道具の中へ入れてある。後でグラファルトにでも亜空間に入れて貰えるように頼むか。


 そうして、俺は下味をつけた暴れ牛のステーキカット肉をフライパンで焼き始める。

 暴れ牛が全部そうなのかは分からないが……俺が今扱っている部位は物凄く脂身と赤みのバランスが良く、フライパンで適当に焼いたとしても程よい歯ごたえで噛み切れる為、非常に扱いやすいお肉だ。そして何より美味い。


 忽ちキッチンスペースには焼いた暴れ牛の良い匂いが立ち込めて行った。


「…………」


 どうしよう、凄い見られてる……。

 気づいた時には長テーブル側の椅子に腰掛けているグラファルトがこっちを見ていた。その目ははっきりとこう訴えている……”食べたい”と……。


「…………」

「……味見する?」

「ッ!? うむ!!」


 良いんだ、俺は恋人や婚約者には甘い人間でありたい。

 そうして焼き上がった暴れ牛のステーキを味見と称してグラファルトへと渡した。


 ……まさか、切り分ける前に一枚丸ごと持って行かれるとは思わなかったよ。

 幸いな事に下ごしらえしていたステーキ肉は山ほどあるから良いけど……。


 それからは機械の様に暴れ牛を焼き続け、全て焼き終わった後で大皿に山の様に積まれたそれを、食べたそうにしているグラファルトに耐えて貰い亜空間へとしまって貰った。


 後はカットフルーツを手早く準備して……寝かせているローストビーフの具合を確認して……冷やしている生チョコレートをカット&ココアパウダーでコーティングして……。


「お、終わった……」


 全ての調理を終えた俺は、長い方のソファへと倒れ込んだ。ソファの柔らかな感触と、今まで休むことなく動いていた所為で次第にあくびが出始めた。

 あ、やばい……これは寝れる……。

 そうしてウトウトとしていると、後方から聞き慣れた声がすることに気が付いた。


「あらあら、随分とお疲れの様ね?」

「……まあね」


 うつ伏せだった体を仰向けにすると、ソファの背もたれに手を置きこちらを見下ろすミラの姿があった。ミラは俺の顔を見て苦笑すると、人差し指を下唇に当ててある提案をしてくる。


「そうね……一時間くらいなら眠っていても大丈夫よ? パーティーの前にはちゃんと起こしてあげるから」

「あー……それは、助かるかも……」


 正直、今から起き上がるのはキツイ……、結構疲れてたみたいだな。それもそうか、えげつない量を休みなく作ってたんだから……。


「それじゃあ……少しだけ眠らせてもらうよ」

「ええ、おやすみなさい」

「おや……すみ……」


 そうして、ミラの提案を受け入れて俺は眠りについた。

 眠りにつく直前でミラの顔が近づいていた様な気がしたけど……あれは何だったんだろうか……?


 尚、一時間後にミラに起こされた俺が、ミラに膝枕をされていた事に驚いてソファから転げ落ちたのは、ミラとの二人だけの内緒だ……。











 一時間の仮眠を経てミラに起こしてもらった俺は、自室で休んでいると言うグラファルトを呼びに行き、三人で白色の世界へと転移する。

 転移してた白色の世界には既に俺とミラ、グラファルト以外の面々が集まっており、どうやら俺達が来るのを待っていてくれたようだ。


 いや、それよりも……気になる事があるんだけど……。


「あっ、ランくーん!! 待ってたよ~」


 俺の存在に気づいて元気よく手を振りながらを駆けて来るアーシェ……その上空には夜空が広がり、白い雪が静かにゆっくりと降り続けている。

 いつも真っ白だった白色の世界が……今は綺麗な雪景色へとその姿を変えていた。


「アーシェ……これは一体……」

「あ、気づいた!?」

「いや、そりゃ気づくだろう……」

「実はねー! ファンカレア様に、クリスマスパーティーだからそれっぽい雰囲気を作りたいってお願いしたら叶えてくれたの!!」


 そんなことできるのか? いや、そう言えばベッドとか椅子とか創造してたし、景色を変えたりするのも造作もないのか……創造神様だもんね。


 俺が頭の中でそう思っていると、ゆっくりとした足取りでファンカレアがやって来た。どうやらファンカレアは雪の地面に慣れていない様で、今にも転びそうで少しだけハラハラとする。


「こ、こんばんは、藍くん」

「こんばんは、ファンカレア……大丈夫?」

「お、お恥ずかしい所を……実は、雪の上を歩くのにまだ慣れていなくて……」


 顔を赤らめて恥ずかしそうにしているファンカレアは、とても可愛い。

 俺は「気にしないで」と言い、ファンカレアに右腕に掴まる様に促して、ファンカレアを連れてそのままみんなの元へと移動した。


 そうして瞬く間に料理を預けていたグラファルトやミラによって、空っぽだった二列に並んでいる長テーブルの上は自画自賛にはなるが、豪華な食事でいっぱいになった。

 うん、作った料理を見て喜ぶみんなの顔は良いね。この笑顔を見れただけでも頑張った甲斐があったよ。

 ただ、どうやら予想よりも料理の数が多かったらしくて、飲料を置いておくスペースがない事が判明する。まあその問題はファンカレアが料理が乗っているテーブルよりも少し小さめのテーブルを出してくれた為、直ぐに解決したんだけどね。


 そうして、各々が並べられた飲料の中からお酒だったり、果実水だったりを選んで手に取り、飲料が置かれているテーブルを囲んだ。


「あれ、なんかこの感じ見覚えが……」


 そう……例えるのなら、引越し祝いの時の様な……。


「あら、察しが良いわね?」


 俺の呟きを聞いていたミラが右隣りで微笑んでいる。

 気づけば周囲の視線は全て俺に集まっていて……。


「もしかしなくても、また俺が乾杯の挨拶をしなくちゃいけないのか!?」

「だってー、料理作ってくれたのランだしー」

「……主催」

「まあ、元を辿ればランの発言が発端だったのは確かだからね……みんなも異論はないよね?」


 ライナの問いかけに、俺以外の全員が頷いた。


「そういう訳だから……ね?」

「…………まあ、いいけどさ」


 ライナのウインクに俺は諦めて乾杯の挨拶を請け負う事にした。

 まあ、引越し祝いの時みたいに簡素なもので良いよな……。


「えー……まずは急遽決まった事にも関わらず、こうして無事に開催出来て良かったと思う。場所を提供してくれたファンカレアに感謝を」


 そうして俺がグラスをファンカレアに傾けると、全員が同じ様にファンカレアへと傾けた。急にグラスを自分へと傾けられたファンカレアは少しだけアワアワとしていたが、隣に立つ黒椿に何かを耳打ちされた後、少しの照れを見せながらもこちらへとグラスを傾けてくれた。

 その様子を見て、この際だからと思い俺は黒椿とカミールの紹介を済ませることにした。


「フィエリティーゼに住むみんなに紹介をしようと思う、ファンカレアの右隣りに立っているのが俺の恋人の黒椿、そしてファンカレアの左隣りに立っているのが地球の管理者のカミールだ。二人の細かなプロフィールについては後々ご飯を食べながら聞いて行ってくれ」


 俺の言葉に続くように、黒椿とカミールがみんなに向かって笑みを浮かべる。それに対して、他の面々も二人に微笑み返した。

 正直、黒椿の素性とか説明して良いのか分からないし、カミールに関しては俺もそこまで詳しい訳じゃない。俺が説明するよりも本人達と直接話して知っていく方が早いだろう。


「それじゃあ、あまり長くなっても良くないと思うから……最後はクリスマスを祝う時に地球で使う言葉を乾杯の代わりに言おうと思う。みんなは俺の後に続いて言ってくれ」


 そうして一拍置いた後……俺はグラスを持った右手を高く掲げた。


「――メリークリスマス!!」

「「「「「「「「「「メリークリスマス!!」」」」」」」」」」


 みんなの楽し気な声と共に、グラスが重なり合う軽快な音が夜空に響く。


 リクエストした料理を楽しむ人、数人で会話を交わしながら楽しむ人、雪景色を眺めてお酒を飲み楽しむ人。

 それぞれが、それぞれの楽しみ方を見つけて過ごしている。



 こうして俺は、地球ではない異世界でもクリスマスを楽しむ事が出来たのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る