第123話 閑話 異世界でクリスマスを! 中編



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 今回のお話は前編・中編・後編の三本立てで、全て今日中に投稿予定です。


 これは二話目。


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――時は戻って現在へ。


 みんなからのリクエストが書かれた紙をスッと左にスライドさせ、自分で淹れた紅茶を飲む。


 うん、紅茶美味しいなぁ。


「……現実逃避してないで、目の前のこいつと向き合わないとな」


 そうして、紅茶を飲み干してからスライドさせた紙を持ち一番上しか見ないようにしていたその内容に目を通す。

 今日、何度このリクエストを見ないでおこうかと考えたことか……。

 ちなみに白色の世界にいる面々からは『俺の手料理なら何でも良い!!』と代表して黒椿から連絡を貰っていた。

 それでは申し訳ないので、何かないかな? と聞いてみたところ『それなら、ファンカレアとカミールは甘い物が食べたいって!! 僕は藍の手料理なら本当に何でも幸せだよ!!』という、なんとも温かい言葉を頂いた。


 そんな訳で、残りの7名から受け付けたリクエストに今から目を通すわけだ……。


「まずは、グラファルトか……」


 とりあえず一番上から下に行く感じで見て行こう。

 最初はグラファルトの様だ。


『美味い肉!! 後は酒だな!!』


 うん、何だろう……アニメや漫画に出て来る想像通りの竜というか何と言うか……。


 ああ、そう言えばこれは後から知ったことなのだが、【異世界からの転生者】という称号を持っていると自身が望んだ特殊スキルに加えて【言語翻訳】という特殊スキルが付いて来るらしい。声に発せられた言葉に関しては耳に入った段階で自動で翻訳してくれるそうで、こちら側の言葉もフィエリティーゼの共通言語へ翻訳されるそうだ。だが、聴覚ではなく視覚で捉える文字は何故か別扱いらしく、それを補ってくれるのが【言語翻訳】という特殊スキルらしい。


 しかし、どういう訳か俺にはそれが無かった……。

 考えられる理由として思い浮かぶのは、選定の舞台で起きた邪神騒動。本来であれば、あの選定の舞台でファンカレアから加護とスキルを授かれる筈だったのだとか。

 だが、俺の場合ファンカレアから加護とスキルを授かる前に邪神に攫われてしまった……。それが原因で、恐らく【言語翻訳】を手に入れられなかったのだろう。


 では何故、俺はいまグラファルトのリクエストを読めているのか?

 それは至極単純な理由で……早い話、ミラに全部日本語で書いてもらいました。


 い、いや……俺だってミラとフィオラからこっちの共通言語を覚える為に勉強してるよ!? でも、一か国語をマスターするには流石に時間が足りませんでした……。一応スキルだけじゃなくて、”翻訳魔法”という便利なものもあるらしいけど……魔力制御が出来ない俺には無縁の話ですね。


 まあ、それまではミラやこの世界の住人であるみんなの補助が必須なわけで、俺の独り立ちはもう少しだけ先の話になりそうだ。そもそも、独り立ちする予定もないんだけどね?


……うん、話が飛んでしまったが、とりあえずグラファルトのリクエストは何とかなりそうだな。お酒に関してはミラが用意するって言ってたし。


 さて、次は……アーシェか。


『お肉!! ランくんが前に言ってた中が赤いお肉食べたい!!』


 ……アーシェにローストビーフの話をした過去の自分を殴りたいッ!!


 まさかここでローストビーフを所望されるとは……、いつか作れたらなぁとは思ってたけどさ……あれって準備とか寝かせ時間とか結構手間なんだよな……。

 いや、頑張れば夜には出来るかな……? 他ならぬアーシェのリクエストだし……頑張ってみるか。


 さて、お肉は冷蔵魔道具にたくさん入ってたな。

 後で確認しておかないと……冷蔵魔道具って凄いよ? 時間が止まっているから腐ることないし、冷蔵魔道具の中にある亜空間に触れると頭の中に収納リストが表示されて凄い便利。フィオラが買ってきてくれたこっちの世界の食材だったり、ミラが地球の食材を入れてたり、グラファルトが暇つぶしとか言って狩って来た魔物の肉が入ってたりする。


 確かこの前、ミラがお菓子を買いに行ってた時に牛肉を部位ごとに数キロずつ頼んだ気がする。その中にモモ肉もあったし、モモ肉はそこまで使ってなかったから何とかなるな。

 グラファルトは暴れ牛を大層気に入ってたし、それで特大ステーキでも作ってやるか。

 それ以外にも揚げ物として地球産の鶏もも肉の唐揚げ……後はチキンレッグを人数ぶ――なんか嫌な予感がするから冷蔵魔道具の中にあるだけ作ろう。鶏肉は揚げ物、煮物、焼き物と何でも使えるから丸々一匹の奴を多めに買ってきてもらってたからなぁ……まさか、それが功を奏するとは思わなんだ……。


「ええと、グラファルトはステーキ……アーシェはローストビーフっと……まあ、どうせ、大皿で出すから次からは料理名だけでいいか、次は……リィシアか。リィシアは甘いのが好きだったからなぁ、きっとデザー――」



『可愛いの』



…………え?



 嘘だろ……。

 お前か、リィシア……? お前がこの中で一番のダークホースなのか!?

 何だその曖昧なリクエストは!? こっちは甘い物とかケーキとか、そう言うのを期待してたのに!!


 どうしよう……これは完全に予想外だった……。

 いけるのか……!? 作れるのか……!? 大体可愛いってリィシアの主観じゃねぇか!!


「と、とりあえず人数分のミニ雪だるまアイスを作ろう……、それとダメ押しのウサギカットのリンゴと、ふわふわパンケーキで許してもらうしかない……」


 そうして俺は一番の難所であろうリクエストにぶつかりつつも、震える手でメモ帳に作る料理名を書いて行った。


 三人分がやっと終わり、続いてのリクエストはロゼからだった。


『ロゼねー、あんまり歯を使わない柔らかいお肉ー』


 ……え、この子は何でおばあちゃんみたいな事を言っているのだろうか?

 というかそれ単純に咀嚼が面倒だからだよな!?


「……豚の角煮でいいか」


 あれは煮込んで放置で出来るし結構好かれる味をしてると思う。ついでに卵とかも煮ちゃおう。

 さてさて、今までの子達は大変だったが、流石にここからは大丈夫だろう……。なんせ、残っているのはミラ、フィオラ、ライナの三人だからな。


『僕は甘い物は好きだけど、出来れば果物を使ったデザートなんかあれば嬉しいかな?』

『私はチョコレートを使った菓子をお願いできますか? 出来ればフィエリティーゼで流通している硬い物ではなく、柔らかい物だと嬉しいです』

『……私は特にないわ。あなたの手料理を食べたいだけだから♪』


 うん、やっぱり三人のリクエストはリィシアの様な難題ではなさそうだ。


 前々から思ってたけど、ライナはフルーツが好きなのかな?

 初めて異世界の料理を食べた時も確かフルーツサンドを食べてたし。


「とりあえず、ライナのはフルーツシャーベットとフルーツゼリーで大丈夫そうだな? 一応念のためカットフルーツもいくつか用意しておこう」


 後はフィオラのリクエストだが……そうか、フィオラはチョコレート好きか。

 まあこればっかりはフィオラの気持ちも分からなくもない。

 市販のチョコレートってパリパリとしてて少しだけ顎を使うもんな。そしてフィエリティーゼのチョコレートは信じられないくらい硬い。フィオラに普通に渡されて食べた時は歯が折れそうだった。そしてチョコレートは無傷。

 食べ方としては火で少し炙ってから食べるのがフィエリティーゼ流らしい。


 んー、となると俺が知ってる中で作れそうな柔らかいチョコレートと言えば……。


「……よしっ、ちょっと時間は掛かるがフィオラのリクエストには生チョコレートで応えよう!」


 生チョコレートは雫やお袋に頼まれて何度か作ったからなぁ……生クリームやハチミツを入れるから甘くはなるが、そこらへんは苦めのチョコレートを使うか、塗すココアパウダーの方を苦めにしてカバーしよう。


 最後はミラなんだけど……多分、みんなのリクエストを書いていたから気を使ってくれたのかな?

 そして最後の文面には少しだけ照れくささを感じてしまう。


「……これは手を抜けないな」


 そうして箇条書きでメモしていた料理名を改めて見てみる……。



           ~リクエスト料理~


・暴れ牛のステーキ(いっぱい)

・ローストビーフ(いっぱい)

・ミニ雪だるまアイス(人数分)

・カットフルーツ盛り合わせ(リンゴはうさちゃん)

・ふわふわパンケーキ(10~20枚?)

・豚の角煮(豚バラ5kg、卵20個)

・フルーツシャーベット(いっぱい)

・フルーツゼリー(いっぱい)

・生チョコレート(いっぱい)


           ~リクエスト以外~


・鶏モモ唐揚げ(いっぱい)

・チキンレッグ(いっぱい)

・サラダの盛り合わせ(大皿2枚くらい?)

・ビーフシチュー(寸胴サイズの鍋)

・フルーツケーキ(ホール)

・イチゴのケーキ(ホール)

・カットフランスパン(地球産、あるだけ)



「…………」


 どうせ余ったら、それぞれの好物を亜空間に入れて貰えばいいやと思って書いたけど、えげつない量になってしまった……。


「でも……やるしかないか……」


 そうして思い浮かべるのは、リクエストを渡してくれたミラの後方に立つみんなの笑顔だ。

 あの笑顔を思い浮かべると、もう後には引けないと思ってしまう。


「さてさて……時間もない事だし、やりますか!」


 こうなりゃもう自棄だ!!


 そうして自分の頬を軽く叩き喝を入れて、俺はキッチンへと歩き出した。

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