第122話 閑話 異世界でクリスマスを! 前編
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今回のお話は前編・中編・後編の三本立てで、全て今日中に投稿予定です。
これは一話目。
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俺がフィエリティーゼへ転生してから、早いものでもう175日が経過していた。
地球で言えばもうすぐで6ヶ月目に突入するというこの日、俺は森に建てられた豪邸の二階にあるダイニングルームのソファで、首を捻り唸っていた。
「うーん……どうしたものかなぁ……」
そう呟いた後で、俺を悩ませる原因となっている一枚の紙を手に持ち、本日何度目になるか分からない溜息を吐く。
手に持った紙には横書きで文字が書かれていて、一番上には”みんなのリクエスト”と大きく書かれていた。
「まさか、こんな難題を突き付けられるとは……」
それは少し前、いつも通りの朝を迎えていた時に起こった。
――数時間前。
リビングで朝食を食べ終わり六色の魔女とグラファルト、そして俺の8人は長テーブルを囲んで紅茶を飲みながら雑談をしていた。そうして紅茶を飲み終わり、この数か月で日課となっている地獄の鍛錬へ向かおうとみんなの紅茶のカップを回収していると、「そう言えば……」とミラがある話を始めた。
「フィエリティーゼも、もう少しで年の終わりね」
「え、そうなの?」
「……そう言えば、フィエリティーゼの一年についてちゃんと説明していなかったわね? 良いわ、今教えてしまいましょう」
あれ、これ授業始まる感じか……。
実は……新居への引越し祝いをしてからというもの、フィエリティーゼの常識や魔法の基礎などを教えてくれるのはミラとフィオラの担当だった。基本的には二人とロゼに作ってもらったと言う移動式の黒板を前に俺が座り、ミラとフィオラが丁寧に重要な要点は黒板に書きながら教えてくれると言う……さながら学校の授業の様な状態。
唐突に授業が始まった事で、俺の回収していたカップは笑顔のフィオラに取られて、抵抗を諦めた俺はミラと向かい合う様にソファへと腰掛けた。
「……」
「な、なんでしょう……?」
おかしいな……授業かと思ってちゃんと正面に座ったんだけど……。
何故か不服そうに頬を膨らましてるミラを見て、首を傾げる。
どうしたんだろうと思っていると、おもむろに立ち上がったミラはこれまたおもむろに俺の右隣へ……それも体が密着する程に近づいて腰掛けた。
「えっと……ミラ?」
「……別に授業の時間じゃないんだから、隣でもいいの」
どうやら授業の一環ではなかった様だ。
隣で俺にしか聞こえないくらいの声量で話すミラに苦笑しつつも頷く。
まあ、ミラが右隣りでくっついたのを見て、ロゼだったりリィシアだったりがくっついて来るんだけど……ていうかロゼ、膝上は止めろ!!
そう言えば、この数か月が変わったことがあった。
それは、いつもくっついて来ていたグラファルトが俺と一定の距離を置くようになったことだ。あ、別に嫌われた訳ではないよ? ちゃんと本人からもその旨は聞いているし。理由までは話してくれなかったけど、もしかしたら余裕みたいなのが生まれたのかな? 婚約者の余裕というか、分かり合っている者同士の余裕というか。
今までがくっつきすぎていたと思うから、まあこれが普通なんだろうけど……ベッドも別々にするようになったのはちょっと寂しいかも。
「――聞いているの?」
「あ、ごめん……」
「あなたねぇ……」
……と、今はミラの話に集中しないとな。
ミラに謝罪をした後、もう一度説明して貰う様に頼んだ。
「ふぅ、良い? 次はちゃんと聞いているのよ?」
「はい……」
「フィエリティーゼでは8つの月を通して一年を表しているわ。順番で言うと――創世の月・青の月・緑の月・黄の月・赤の月・光の月・闇の月・終滅の月って所かしらね? 一月が60日だから、合計で480日よ」
「おお……月の数は少ないけど、日数的には地球よりも多いんだな……」
ミラの話では俺がフィエリティーゼへ来たのは赤の月の初めで、今は終滅の月の55日目なんだそうだ。
「一年の始まりが創世の月で、終わりが終滅の月よ。一番暑いのが黄の月から赤の月にかけてで、一番寒いのが終滅の月から創世の月にかけてかしら?」
「あれ……今の話が本当なら、赤の月から俺はフィエリティーゼに居る訳で……今の今まで特に気温差を感じた覚えがないんだけど……」
「この森の結界内は常時適温にしてあるのよ。後は、あなたが結界外へ出ている時は体感温度を変える”変温魔法”を掛けていたから。今の結界外は雪も降っているでしょうし、外の気温もそれなりに寒いはずよ」
俺の知らない所で結構気を使ってくれてたんだな……。
ミラの気遣いに感謝しつつも、ミラの話を聞いていて俺はある事が頭の中に思い浮かんでいた。
「……という事は、今は時期的に地球で言う所のクリスマスなのか?」
「まあ、日数は違うけれどそう言えばそうとも言えるのかしら?」
「「くりすますー??」」
俺の呟きに答えるミラの声。結構小さかったと思うけど、まあ俺にくっついているロゼとリィシアには聞こえるよね……。
という訳で、二人にざっくりだけどクリスマスについて説明した。
説明と言っても、やれサンタさんだ神様の降誕祭だと異世界にしか存在しない話をしてもしょうがないと思い、俺は”家族とか親しい仲の人達で集まって、美味しいご飯やケーキ、お酒なんかを用意してみんなで飲み食いしながら親睦を深める特別な日だよ”と説明しておいた。
「「「「おおー……!!」」」」
あれ、二人に説明していた筈なのに四人分の声が……。
そう思いロゼとリィシアに向けていた視線を上げると、そこには目を輝かせるアーシェとグラファルトの姿があった。二人は向かいのソファに座っていたのだが、目の前のテーブルに手をつき前のめりになって俺の方を見ている。
「聞いたよね? 聞いたよね、グラちゃん!!」
「うむ!! 我は聞いたぞ!! 上手い飯に酒だ!!」
「ケーキー、みんな一緒~!!」
「お祝い……楽しいの、好き」
うん、これは……もしかしなくても”あれ”だな。
そう思い首を右へと動かすと、同じことを思っていたのかミラもこちらを向いていて、思わず二人で苦笑してしまう。
「あー……やるか、クリスマスパーティー」
「そうね……どうせなら引越し祝いの時に参加できなかったファンカレア達の為に、白色の世界でやりましょう?」
「ッ!? フィオ姉ーーーー!!」
「ライナお姉ちゃん!!」
俺とミラの会話を聞いた途端に駆け出し、キッチンで洗い物をしてるフィオラとライナの所へ向かうアーシェとリィシア。
キッチンからは「もうっ!! 洗い物の途中に抱き着かないでください!!」というフィオラの声や「おやおや、これはもしかしなくてもランの所為かな?」と俺が元凶であることを言い当てるライナの声が聞こえて来る。
そうして洗い物を中断したフィオラとライナも加わり、全員で再び話し合う事に……。
「時間帯は夕刻くらいで良いのか?」
「そうね、その方があなたにとってはいいんじゃない?」
「ん……?」
とりあえずクリスマスパーティーをすることは決定として、時刻から決めようと思ったのだが……俺にとってはいい……?
「えっと、それはどういう意味で……?」
「あら、だってパーティーの食事は藍が作るんでしょう? 発案者だから」
「えっ……」
そういう事なの!? いや、そもそもそれを言うならミラだってそうだろうが!! あ、そうだった……この人、料理出来ないんだ……何で紅茶を淹れるのは俺より上手いのに、料理は全く以て出来ないんだ……。
うーん、一応2、3ヶ月の間にこっちでも家庭料理くらいは作れる様になったけどさ、流石にパーティー用の料理は作れるか分からないぞ?
「……俺、最近になってようやくキッチンを使いこなせる様になった所だし……みんなだって、俺の料理より引越し祝いの時みたいな外食の方が良いよな?」
豪華な食事の方が良いだろう? 頼むから同意してくれ!!
そう思って、みんなに助けを求めたのだが……。
「我は好きだぞ? 藍の料理」
「わたしもー!! ランくんの料理でパーティーしたい!!」
「ランの料理は十分美味しいと思うから、みんな反対しないんじゃないかな?」
「…………そ、そうかぁ」
あ、これ無理ですね……。みんなが期待する様な目で見てくる……。
こうして、俺が料理を担当する事になりました。
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