第108話 一年目:ロゼの途中経過とお披露目会 二階と三階




 転移装置によって俺達は一瞬にして二階へと移動することが出来た。


「……本当に転移した」

「一応動作確認はしたけどー、みんな問題ないみたいだねー」


 全員の様子を伺っていたロゼは、異常がないことを確認し終えると転移装置から木材の床へと歩き出した。


 どうやら転移装置は長方形の中央に設置されているらしい。右側に体を向けると、そこには広いスペースがあった。壁は外と同じ素材なのか白で統一されていて、左右には所々に間隔を空けて小窓が設置されており奥の壁にはテラスタイプの引違い窓が設置されている。


「このスペースには何が?」

「んーとねー、みんなで集まってご飯食べたりするところー」

「なるほど……じゃあ、左にはキッチンを作るのか」


 ロゼの言葉を聞いて俺は左へと視線を移した。そこには右側と同じく広いスペースがあり、窓の配置も同じようだ。

 まだ建設途中だって話だったし、家具や設備はこれから配置するのかな?


 地球に居た頃は家庭の家事全般を俺と親父がやっていた。お袋と妹の雫は掃除や料理をやりたがっているのだが、そのやる気とは裏腹に結果は悲惨な物で、お袋達に一日家事を任せた時は……消防車が駆け付ける事態にまで発展した事がある。この事件以降、お袋達は勝手に家事をすることを禁じられ、俺達の目の届く範囲でのみ行う事が家族の暗黙の了解だった。

 その影響で俺は家事……特に料理が好きになった。料理をするのもそうだが、作ったご飯を食べて”美味しい”と言ってもらえるのが嬉しかったんだ。

 キッチンが出来たら、みんなにも地球の料理を再現して振る舞ってみようかな。


 そうしてロゼに話を振ったのだが、ロゼは俺の顔を不思議そうに眺めて首を傾げた。


「んー? ここにキッチンは作らないよー?」

「あれ、それじゃあ三階か? でも、三階で作った料理を一々二階へ持って行くのは面倒じゃないか?」

「んんー? 三階にもキッチンは作らないよー?」

「……え? じゃあキッチンはどこに――」


 そこまで言いかけて、俺はフィエリティーゼでの生活を思い出す。

 フィエリティーゼに来てからというもの、俺はこの森に張られた結界の外へ出る事を止められていた。その為、食事は外へと自由に出る事が出来るミラ達に任せていて、ミラ達は外から食事を持ってきてくれていたんだ……出来上がった料理を。


 俺はみんなの方へと顔を向けて、確認の為にある質問をすることにした。


「なあ……この中で料理が出来る人は?」

「「「「「「……」」」」」」


 まじか……。

 俺が質問をした途端、全員がその口を閉ざし顔を逸らし始めた。誰かが話すのを待っていたのだが、誰一人としてこちらを見ようともしない。


 どうやら、この中で料理が出来るのは俺だけの様だった……。


「――ロゼ、頼むから左側にはキッチンを作ってくれ……俺が使うから」

「わ、わかったー……」


 誰も使わないとしても、遠出をしない限りは必ず毎日使う自信があった俺は、ロゼにキッチンスペースを作る事を頼んだ。

 ロゼは驚きながらも文句一つ言わずに頷いてくれた。両肩を掴んで真剣に頼んだのが効いたみたいだな。


「……今までの人生で料理をした事は無いのか?」


 ロゼへキッチン増設を頼んだ後、未だに黙り続ける面々に疑問をぶつけてみる。すると、恐る恐るといった感じにアーシェが手を上げて話し始めた。


「あ、あのね……? かなり昔の話になっちゃうんだけど、みんなで一緒に暮らしてた頃に当番制で料理係を決めていた時があって……」

「ほう……?」

「全員が一度料理をしてみたんだけど……なぜか爆発したり、変な色した煙が出たり、食べたら10日くらい味を感じなくなったり……」

「……特にミラお姉ちゃんのは酷かった」


 アーシェが遠い目をしながら話す横で、リィシアが小さく呟いた。リィシアは何かを思い出したのか、呟いた後で一度だけ身震いをして抱いていたぬいぐるみを更に強く抱きしめる。


 まさか……制空家の女性陣が家事全般出来ないのって、ミラの遺伝なのか!?

 ひょっとしたら、祖父である制空蓮太郎も親父と俺の様に家事全般をこなしていたのかもしれないな……話してくれるかはわからないけど、今度ミラに聞いてみるか。


 フィエリティーゼにて、制空家の女性達が家事全般を出来ない要因を知ってしまったかもしれない俺は、衝撃を受けつつもその事実を一旦頭の隅に置きグラファルトへと顔を向ける。

 もしかしたら、グラファルトは隠しているだけで料理ができるかも……そんな幻想にも近い僅かな希望を胸に料理経験の有無を確認する事にした。


「ちなみに、グラファルトは?」

「……お前、我の種族を忘れたのか?」

「ああ、そうか……竜だもんな……」


 そりゃあ、料理なんてしないよな……。


 こうして全員が料理をしないことを確認した後、俺達は再び転移装置の上へと乗って三階へ転移した。











 三階へ転移した俺達だったが、ここはどうやら未完成の状態らしい。壁には窓もなく、床も転移装置以外には何もない。


「ここはどうする予定なんだ?」

「んー、まだ決まってないんだー。本当ならー、ここ全部をラン達専用の部屋にする予定だったからー」

「……この広さは流石にいらないかな」


 実際に入ってみて思ったが、各階共に広すぎる。壁を隔ててその内の一部屋だとかなら分かるけど、三階を丸々一部屋使うなんて正直持て余す自信しかない。


「俺としてはみんなの家な訳だし、使いたい人に使って欲しいと思うんだけど、誰かいないか?」

「うーん、ロゼはー、屋外に作業場を作るからー、みんなにあげるー」


 ああ、そう言えば設計図に書かれていた気がする。

 左がお風呂場って事は、右の建物がロゼの作業場って事か。


 ロゼが他のみんなへ判断を委ねた後、グラファルトとアーシェは特にないと言い、ライナは剣の手入れが出来る設備を、フィオラとリィシアは書斎を希望した。


「自分の部屋に作っても良かったけど、スペースを貰えるのなら広い方が良いからね。僕の所有している武器には大きい物もあるから」

「私とリアは昔から本を集めるのが趣味でして……」

「……コレクター」

「出来ればそれを置いておける場所を作って頂ければ幸いです。もちろん、ここに住む人であれば誰でも読んで頂いて構いません」


 三人の要望に反対意見は出なかった為、三階には書斎と武器庫を作る事になった。あと見ていない場所は地下のみだが、地下はもう少しだけ見せれるようなるまで時間が掛かるらしい。

 ロゼの話では、地下には訓練施設を作っている様だ。最初は俺の訓練は森の中で行う予定だったのだが、力を抑えきれない俺が森を破壊する懸念があった為、グラファルトとミラの提案で地下に訓練施設を作り、戦闘訓練はそこで行う事になっている。


「ランの魔力に耐えられる素材を【錬金】で作ってるけどー、完璧に耐えられる素材が作れなかったからー、今は発想を変えて再生する素材を作ってる所ー」

「……迷惑を掛けて申し訳ない」

「気にしないで―、作るのは好きだから―」


 俺が原因で、苦戦している様子だったロゼに謝罪すると、彼女は笑顔を向けて平気だと言ってくれた。

 ロゼの手には小さな紙の束が握られており、みんなから聞いた希望を基に改善点が書き記されている。それを嬉しそうに眺めるていたロゼは、ペンを動かす手を止めるとペンと紙の束を亜空間へとしまって俺達へと声を掛ける。


「それじゃあーみんなの希望も聞けたしー、あと2日で完成できると思うー」

「ロゼ、何度も言うが無理だけはしないでな? 手伝えることがあったら何でも言ってくれ」

「わかったー。心配してくれてありがとー」


 こうして、ロゼによる途中経過のお披露目会は終わりを迎えた。

 新居が完成するのは2日後の様で、完成してミラが戻って来たら新築祝いをする予定だ。


「さて、ミラはいつ頃戻るのかな」


 地球へと帰省したミラがいつ戻るのかは聞いていない。

 違う次元上にある世界間の行き来にはタイムラグが生じる様で、正確な日時は不明だそうだ。


 まあ、でも地球上でミラに危害を加えられる者なんて存在しないだろうし、直ぐに戻るとも言っていたから、今はその言葉を信じるとしよう。




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各階層の広さは150平米~200平米を想定しています。

しかし、これはあくまで外観の大きさから推定される広さであり、空間拡張魔法で扉を隔てた先にある各部屋は拡張されています。

結構な豪邸です。


あまり家の細かい構造を説明しても面白くないかなと思い、簡潔にまとめました。

次回は藍の過去に関するお話です。


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