第107話 一年目:ロゼの途中経過とお披露目会 一階
ロゼが建設した住宅を見学していた俺達は、現段階で完成している中央部分の中へと足を運ぶ。
「ここが玄関だよー」
「おお……」
扉を開けた先には、同じ長さの正方形で切り取った様な石のタイルが敷き詰められており、視線を奥へとやると石の床より数十cm程高さのある場所に木材で作られた床が設置されていた。
「この石床で靴を脱いでー、木材の所へはー、みんな用にうち履きを用意したよー」
「どうして靴を脱ぐのー?」
「なんかねー、それがランの暮らしていた場所では当たり前だったんだってー」
ロゼが指をさしていた木製の床の端っこには綺麗にうち履き……というかスリッパだよねあれ……。色は清潔感のある白で統一されていて、見た目からしてもこもこしていて柔らかそうだ。
アーシェの質問からして、どうやらフィエリティーゼでは靴のまま家に入るのが当たり前なんだろうな。小屋で暮らしてた時もベッド以外はそんな感じだったし。日本で暮らしていた俺としてはやっぱり家の中で靴を履くのは違和感が凄くあったから、正直これは有難い。
アーシェもそれ以上は特に追及することなく石の床から木製の床へと足を付ける瞬間に魔力で作られている靴を消し、用意されていたスリッパを履いていた。
「ふわぁ……!! これ凄い……ふわふわ……!!」
「……ふわふわして気持ちいい」
「これって、エンシェントシープの素材だよね……」
「ライナ、エンシェントシープって?」
スリッパを履いた途端、その履き心地の柔らかさに驚き興奮した様子のアーシェとリィシア、その隣でスリッパを履いていたライナが足元を見つめながら聞いたことのない単語を口にして苦笑を浮かべていた。
文面的に名称だとは思うけど、シープっていう位だから羊かな?
「エンシェントシープは、野生でしか出会えないとされている魔物だね。大きさは最大でも全長2m、高さは1mくらいだと思う。臆病な性格で滅多に現れないし、現れたとしても逃げ足が早いからエンシェントシープの素材は中々手に入らない貴重な物なんだ……」
「そんな貴重な物を内履きにしたりは……」
「普通しないね。この内履き用の靴を人数分作っているのだとしたら、貴族向けの洋服とか作れただろうし、それを売れば白金貨を出す人もいるだろうね……」
おかしいな……、白金貨って確か一番価値のある硬貨じゃなかったっけ?
うーん、羊の毛で出来た服に白金貨を出す人ってどんな人だろう。貴族って言ってたし、やっぱり見栄とか裕福さをアピールする為とか、そう言った負けられない戦いみたいなものがあるのだろうか? まあ、俺には縁のない話だな。
そう考えをまとめた俺はライナにお礼を言った後、ライナと二人で他のみんなに囲まれているロゼの所へと向かった。どうやらロゼが履き心地などを製作者として聞き込みしていた様だ。履いてみた感想は納得のいくものだったのだろう、みんなから感想を聞いていたロゼの笑顔を見て、俺はそう思った。
そうして、そのまま内装の説明は続いていくのだが……正直、俺はここまで理解していなかった。というよりも、外観や玄関口を見て一瞬だけ忘れかけていたのだ。
ここが科学分野のみが発展していった地球ではなく、非科学的な分野である魔法やスキルが存在する異世界であるという事を……。
「これがねー、転移装置でー」
「……ん?」
「左右の壁際には扉が六枚ずつ設置されててー、扉の向こうは空間を拡張しておいたからー」
「…………」
うん、やっぱりそうだよね……俺の知ってる家な訳が無いよね。
木製の床へと上り真っ直ぐ進むとそこには大きな円が描かれていて、円の中は木材ではなく、何かは分からない銀色の素材で出来ていた。どうやらこれが転送装置らしい。
仕組みは簡単で、装置の上に乗った後で行きたい階層を口にするだけ。
魔力による識別登録を終えた人物のみが使えるらしいので、後で各階の見学をする際に登録を行うとのことだった。
左右の壁には扉が六枚ずつ、計十二枚の扉が設置されていて玄関を中心に左側がミラ達六人が、右側には俺やグラファルト、そして黒椿の三人が使い後は空き部屋とするらしい。
ここら辺は設計図の段階で修正してもらった。
当初、俺達右側のメンバーは三階に大部屋を作ってもらう予定だったのだが、みんな同じ階層の方が何かと便利なんじゃないか? という話になり、そこからロゼが最案してくれたらしい。部屋が狭くなったら申し訳ないと思っていたけど、どうやら俺の杞憂だったらしい。
「各部屋もー場所が決まり次第魔力の登録をするからねー」
「そうなの?」
「ランくんランくん、この世界にはこの家みたいな魔技術式居住区っていう建物があってね? 特殊な付与技術が必要だから建設出来る人は少ないけど、高度な防御術式だったり個人を識別する魔法が施された扉だったり、安全性が高い事で有名なんだー!」
「近年にロゼが開発した新しい技術です。ラヴァール大国の魔道具協会に発表されたばかりの技術ですので、まだ完璧に扱えるものはロゼ以外に居ません」
アーシェとフィオラは知識のない俺の為に、この家の仕組みとその技術の素晴らしさについて説明をしてくれた。
魔法に関してはまだまだ分からない事が多いけど、とりあえずこの家に使われている技術は最新の物であり、その技術を開発した人物であるロゼが建設した最高傑作という事か。
ロゼがさっき言っていた魔力の登録って言うのは、所謂この家を自由に使えるようにする為の鍵みたいなもので、登録をしておかないと階層を移動したり、扉を自由に開け閉め出来なくなるらしい。
この家についてある程度理解し納得した後、説明をしてくれた二人にお礼を言い、この場に居る全員はロゼの指示で魔力の個別登録を行う事となる。
ロゼは一人に一枚ずつ角ついた白い模様が描かれた黒いカードを手渡していき、そこに魔力を流す様に促した。
「そのカードはアダマンタイト鉱石とー、ミスリル鉱石を【錬金】で合成したこの家の鍵だよー」
「これはまた希少な鉱石を易々と……」
「……豪勢」
「うん、もう驚かない……流石異世界だなー……」
ロゼの説明を聞いていたライナは、カードの角度を変えて見ながら溜息を溢してそう言った。その隣でリィシアは淡々と感想を述べている。
うん、漫画やゲームの知識で名前くらいは聞いたことがあるな。そしてこれが凄く高価な素材なんだろうと言うのも、ライナの顔を見ればわかる……。
「なあロゼ、内履きに使われてるエンシェントシープとか、このアダマンタイト鉱石とミスリル鉱石とか、この家に使っちゃって良かったのか? 希少な素材なんだろう?」
「もちろんだよー! ここはねー、ロゼとー、ロゼの家族が住む家だからー、ロゼの最高傑作にするんだー」
そう話すロゼの笑顔を見て、俺だけではなくみんなが笑顔になっていた。
そう言えば、みんなの家を一から建てるのはロゼの夢だったんだっけ……。だからこそ、希少で手に入らない素材であっても、惜しみなく使うのかもしれないな。
「それにー、エンシェントシープの素材もー、アダマンタイト鉱石もー、ミスリル鉱石もー、まだまだいっぱいー」
「ああ、そうなんだ……」
ロゼが開いた亜空間からは、貴重な鉱石やエンシェントシープのらしき毛の山が大量に現れた。それを嬉々とした顔で見せびらかしてくるロゼを見て、先程までの感動的な気持ちが少しだけ薄れて行くのを感じた。
そっか、いっぱいあるんだね……希少な素材。
こうしてロゼに渡されたカードに全員が魔力を流していき、カードに魔力が登録された。
登録が終わったカードはお披露目会が終わった後、ひとまずロゼが全てを預かりそれをマスターキーとしてロゼが管理をするらしい。俺達用の鍵は家が完成した後に、複製したスペアキーを渡してくれる事になっている。スペアキーは紛失した際の対策として、所有者以外が触れた場合即座に消失するように術式を刻み込むらしい。マスターキーさえあればロゼに頼んでいつでも作り直してくれるそうだ。
こうして、各自がマスターキーを作り終えた頃、部屋割りについてはミラが帰って来てからと言う事になり、俺達はロゼに連れられて各階へと行ける転送装置の上へと乗った。ロゼの指示に従い魔力を解放すると、解放した魔力は銀色の素材に吸収され、吸収された際に一瞬だけ白い光を発した。
「これはねー、【錬金】スキルを持ってる人にしか作れない合成金属だよー。様々な魔法式を登録できるからー、魔法武器とか作るのに向いてるんだー」
俺が床を見つめていたのに気が付いたのか、ロゼが説明をしてくれた。
正直、説明されてもいまいち分からないから何とも言えないけど、俺もこの世界の知識を身につけて行けば分かってくるのかもしれないな。
ロゼの説明を聞きつつ、俺達は転移装置で二階へと移動した。
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お披露目会は各階ずつ書いていくか、それともある程度まとめて書くか検討中です。
とりあえず、各話の最後に階層を書くことにしました。
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