第106話 一年目:ロゼの途中経過とお披露目会 外観
アーシェに起こされた後、嬉しそうに俺の手を引くグラファルトに引かれるままに円卓が置かれている結界中央付近へと移動する。
円卓の側には既にリィシアとライナ、そしてロゼの三人が集まっており、まだ眠っているフィオラと、フィオラを起こしに行ったアーシェを除いて全員が揃っていた。
とりあえず、みんなに挨拶をする事にしよう。
「みんな、おはよう」
「……おはよ」
「やあ、ランにグラファルト。いい朝だね」
「おはよー、朝からごめんねー?」
俺が挨拶をするとそれぞれが順番に挨拶を返してくれた。
ライナは朝早くだというのに普段と変わらず爽やかな笑顔で、リィシアはまだ眠いのか紫ウサギのぬいぐるみを胸の前で抱えて頭を乗っけて、ロゼは……あれは朝早くだからなのか、それともいつも通りなのだろうか……正直どちらかは分からないが、伸ばし口調で朝早くに呼んでしまった事について謝罪を述べながらも俺達へと声を掛けてくれる。
そうしてみんなと挨拶を交わして直ぐ、後方から二人分の足音が聞こえてきた為振り返ると、アーシェに手を引かれるフィオラの姿があった。フィオラはまだ眠そうで、結われていない月白色の髪には所々に寝癖がついていた。
「みんな、お待たせー!! フィオ姉が全然起きなくてさー」
「お、お待たせしてしまって申し訳ありません……」
少しだけ頬を膨らませているアーシェ。しかし、別に怒っている訳ではなく、どちらかと言えばしょうがないなぁと言いつつもその雰囲気を楽しんでいる様な……。
ああ、そうか。
地球に居た頃の俺と雫のやり取りに似ているんだ。
俺がまだ高校に通っていた頃、当時はバイトもしていなくて朝早くに起きる習慣なんて身につけていなかったから寝坊ばかりしてた。そんな時、いつも起こしに来るのが雫で、今のアーシェの顔は学校に遅刻しそうな俺を起こす時の雫の顔とそっくりなんだ。
血の繋がりがなくても家族か……確かに、今の二人の光景は正しく家族だと言えるだろう。
なんだが温かな気持ちになりつつも、俺はフィオラに気にしない様に声を掛ける事にした。この中では一番遅くに来たけど、別に遅刻した訳ではないからな。
「謝らないでいいよ、俺とグラファルトも今来たばかりだし」
「そう言っていただけると助かります……朝はどうも弱くて……」
「へぇ、こう言ってはなんだけど意外だな」
普段は見た目も口調もしっかりとしているフィオラ。六色の魔女であるみんなの代表としてまとめ役をしているイメージが強いからか、寝癖をつけて少しだけ服装も乱れているフィオラはどこか新鮮だった。
「幻滅しますか? 普段の私とはかけ離れた姿に……」
「そんなことはないよ。ギャップ……って言って伝わるかわからないけど、普段とは違うフィオラが見れて、また新しくフィオラの事を知れた気がして嬉しいと思う」
これから共に暮らして行く相手の事を知りたいと思う事は当然の事だ。俺としてはフィオラとは今後も仲良くしていきたいし、元々好印象だったフィオラが朝に弱かっただけで幻滅なんてしたりしない。寧ろ普段は真面目な彼女が朝だけに見せる少しだけだらしない様な姿はちょっと可愛いなとも思えた。
「……」
「フィオラ?」
「す、すみません……そんなことを言われるとは思ってもみなかったので……」
俺の言葉を聞いた後、フィオラは小さく口を開いたまま無言でこちらを見つめていた。そんなフィオラに声を掛けると、フィオラは少しだけ顔を赤らめてそう口にする。
「えっと、変だったかな?」
「い、いえ! そんなことは無いです……ありがとうございます」
気を害してしまったなら申し訳ないと思い聞いてみたが、どうやらそういう訳ではない様だ。俺に感謝の言葉を述べた後、フィオラは”顔を洗ってきますね”と言い泉の方へと向かってしまった。
泉へ向かったフィオラに手を振っていると、俺の隣に居たグラファルトといつの間にかグラファルトの背後に居たアーシェが何やら会話をしているのが聞こえた。
「やはり……」
「まさか……」
そんな風に何かを話していたのだが、声が小さすぎてどんな内容なのかは分からなかったが、グラファルトがニヤニヤとこちらを見ていて何となくイラっとした。
そんなグラファルトの隣では、アーシェが険しい顔をして小さく唸っている。
……一体、どんな会話をしていたのだろうか?
しばらくすると、フィオラはスッキリした様な顔をして戻って来た。
乱れていた服装や寝癖のついた髪もしっかりと整えられている。顔を洗いに行ったついでに身だしなみを整えてたらしい。
こうして全員が揃ったところで、ロゼが右手を上げて全員の視線を集める。
「それじゃー、これからお家を見に行こー」
「そう言えばそれで集まったんだったな……ちなみにどれくらい出来てるんだ?」
グラファルトとアーシェのやり取りや、フィオラの意外な一面を目撃した事で本来の目的を忘れかけていた。
俺は視線を泉を背にして右側にある巨大な建物らしき物へと移してロゼに進捗状況を聞いみる。
昨日の夜から気になっていた大きな布で覆われた建造物。恐らくこれが俺達が暮らして行く家なのだろう。高さ的にも10mは軽く超えている建造物をたった一日で建てたと言うのだから、ロゼの物作りにおける技術は本当に凄いと思う。
「んーとねー、中央はほぼ完成してるー。後はみんなの希望を聞いてーそれにそって物を増やしていくだけだよー。通路を挟んで左のお風呂場もー、今日中に出来ると思うー」
「……本当に無理はしてないんだよな?」
ロゼの話を聞いて思わず心配になってしまった俺は、ロゼの前にしゃがみ込みロゼの瞳しっかりと見ながら聞いてみる。薄い桃色の瞳を数回瞬かせた後、ロゼはその頬を緩ませて笑みを作った。
「大丈夫だよー? 約束だからー、ちゃんと休んでるー」
「そうか、なら良いんだ。疑ってごめんな?」
微笑みながらもしっかりと俺の目を見て答えるロゼを見て、俺はほっと一息ついた後、僅かにも疑ってしまった事に対して謝罪をした。
ロゼと知り合ってまだ短いと言うのもあるんだけど、地球で暮らしていた俺にとってロゼの建築スピードは異常としか思えないものであり、どうしても心配になってしまったのだ。
でも、それは結果的には約束を破ったのではと疑いの念を抱いた事と同義であり、ロゼの事を信用できなかったと言う事でもある。
そう言った思いから申し訳なくなり謝罪をしたのだが、俺の言葉を聞いたロゼは首を左右に振った後、そのまま俺に近づいてぎゅっと抱きしめて来た。
「謝らなくていいよー? ランはー、ロゼを心配してくれたんでしょー?」
「……ああ」
「ロゼねー、それが凄く嬉しかったー」
そうしてロゼは、抱きしめていた腕の力を少しだけ強めて耳元で囁き続ける。
「ロゼはねー、そんな優しいランがー、大好きだよー」
「……ありがとう。俺も、みんなの為に頑張るロゼが好きだぞ」
真っ直ぐに好意を伝えてくれるロゼに、俺も好意で返し茜色の後頭部を優しく撫でた。
撫でられたロゼは”うむうむ”と嬉しそうに呟き、数分したら満足したのか俺から離れて布で覆われた建造物へと歩き出した。
「それじゃあー、そろそろお披露目しようかなー」
楽しそうに軽快な足取りで進んで行ったロゼは、みんなに聞こえる様に大きな声でそう言うと、建物を覆っていた布へと手を掛ける。
そして、”行くよー?”と言った数秒後に勢いよくその布を引っ張るのだった。
「……綺麗な白」
「これはまた、見事だね……」
「わー!! 見た事ない形してるー!!」
ロゼが展開した亜空間へと布が収納された後、そこに現れた純白の建物を眺めてリィシアとライナがそんな声を漏らす。
無駄なでっぱりなどがないシンプルな横長のブロックが三つほど別角度に重なった様な家。三階建てであるその家は全体が純白で統一されており、緑が多い森の中で非常に目立っていた。
てっきり全部が木造の家なんかを想像していたから最初から良い意味で期待を裏切られた。確かに、これは夜よりも陽が出ている時に見た方が良い。
……というか、似た構造の建物を地球で見た事があるぞ?
地球で見たのはもうちょっと複雑で色んな長さのブロックを重ねた様な構造だったけど。アーシェが言うにはこういった形の家はフィエリティーゼでは見ないみたいだし、ロゼが地球の家なんて知っているとは思えない。となると、絶対にミラの差し金だよな……。
「しっかりと”状態保存魔法””自動修復魔法”などが施されているようですね」
「別に小屋でもいいかと思っていたが、こうして見るとちゃんとした家とは良い物なのだな……」
壁に手を触れさせてフィオラは施されている魔法について感想を述べ、グラファルトは興奮した様子で様々な角度から家を眺めていた。
そうして各々が感想を述べつつも家の周囲を歩き回っている中、建設者であるロゼが俺の所へとやって来て、満面の笑みを浮かべている。
「どおー? 凄いでしょー?」
「ああ……本当に凄いよ……。家の形はミラから聞いたのか?」
「そうだよー。ミーアがねー、ランが見慣れた家の方が良いと思うからってー、何枚か地球の家の資料を見せてくれたのー」
予想通り、家の形についてはミラが提案した様だ。まあ、俺の事を考えての提案みたいだしその気持ちには感謝しかないんだけど……この異世界なのに見慣れた家がある違和感は何だろうな……。
内心複雑な思いで出来上がった家を眺めていると、ロゼは俺の手を引っ張り家の方へと足を進めて行った。
「外側はねー【錬金】で作った合成素材なんだー! 凄く丈夫でねー、幾つも魔法を付与出来るからー、便利なんだよー?」
「へぇ……よくわからないけど、ロゼは錬金術なんかも使えるのか?」
「魔法じゃなくてー、【錬金】っていうスキルなんだよー? ロゼはねー、物作りの為になるスキルや魔法を沢山持ってるからー」
”えっへん”と声に出し、凄いでしょう? とアピールをしてくるロゼ。そんな彼女の事を凄いと思いつつも同時に可愛らしくも思えてしまい、握っていた手を解きそのままロゼの頭へと持って行く。
「沢山の事が出来て、ロゼは凄いな」
「むふふ~、欲しい物があったらー、ロゼを頼るといーよーっ」
俺に頭を撫でられたと気づいたロゼはまたもや嬉しそうに笑みを浮かべる。
その後も建築者であるロゼに手を引かれ、ひとしきり家の周囲を歩き終えるとロゼが家の正面についている扉へと手を掛けた。
「さてさてー、それじゃあ次は家の中へ入ろ~!」
ロゼがそう言うと、家の周囲で話していた全員が扉の前へと集まる。
こうして、ロゼよる住宅のお披露目会は、外観から内装へと場所を変えるのだった。
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