第99話 逆境で生まれた小さな神様②




 地球の管理層でカミールから話を聞いていたミラスティアとファンカレア。

 二人は話を途中で中断させて頭を抱えていた。


「……ちょっと休憩しましょうか」

「賛成です。色々と、思考が追いつかない話が続いていますので……」


 突然のカミールから聞かされた過去の話。

 そのどれもが衝撃的な内容であり、管理層のデータベースに残っていた記録を映像として見せて貰っていた二人はその光景に戦慄し、驚愕し、友の見た事もない形相に寒気を感じていた。

 そして最終的には良い話となり、しんみりとし始めていたのだが……休憩する直前の映像で感動していた二人の表情は困惑へと様変わりする。


「これってつまり……全部丸投げしたって事よね?」

「そうだと思います……生まれたばかりの精霊に、地球の管理を任せるなんて……」


 そうして二人は眉を顰めながら目の前で二つ目のショートケーキを食べている幼い神様へと視線を移した。


「――はむっ……はむっ……」


 体が小さい為フォークを動かしている回数と減っているケーキの量は比例しておらず、小さい口にパクパクと忙しなく運ぶカミールを見て二人は苦笑を浮かべていた。


「ほら、クリームが付いてるわよ」

「――ありがとうございます!!」

「ふふ、どういたしまして」


 カミールの口元に付いていたクリームをミラスティアが紙ナプキンで拭うと、カミールは笑顔でミラスティアにお礼を言い、再びケーキへと集中する。折角綺麗にした口元はまたケーキの食べカスで汚れていき、そんな様子を見てミラスティアは子育てをしていた昔の記憶を思い出し懐かしむのであった。


「雪野にもこんな時期があったわ。見る物全てが珍しいって感じで、美味しい物を見つけるとそれに夢中になってしまうの」

「……生まれて間もない精霊だったカミールは、まだ精神面も未熟な筈ですから。どうやら知識も偏りがあるようですし、任された仕事以外の感情面においては子供と変わりないのでしょう」


 そうしてファンカレアはケーキをはむはむと食べ続けるカミールの頭を軽く撫でる。撫でられたカミールは一度だけファンカレアの顔を見上げると、気持ちよさそうに笑みを溢し、撫でられていた手が離れるとまたケーキを食べ始めた。

 そんな二人の様子を見ていたミラスティアは、ファンカレアの言葉に頷き幼いカミールがケーキを食べ終わるまで優しい笑みを浮かべて見守り続けるのだった。






 数十分が経過して、空となった皿の上にフォークを置いて、カミールは皿をミラスティアへと渡す。その顔にはべったりとクリームが付いているのだが、カミールは特に気にした様子もなく、満面の笑みを浮かべていた。


「――美味しかったです!」

「そう、なら良かったわ。顔を拭くからこっちにいらっしゃい」

「ふふふ……ミラったら、お母さんみたいですね」


 カミールは椅子から降りてミラスティアの元へと歩いて行き、カミールが目の前に来た事を確認したミラスティアはカミールを軽々と抱き上げ再び紙ナプキンで顔を拭い始める。

 その光景を眺めていたファンカレアは小さな声で笑みを溢しミラスティアとカミールが親子の様だと口にした。


「実際に子育てをしていたからかしらねぇ……このくらいの背丈の子を見ると色々と世話したくなるのよ」

「――何の話ですか?」

「何でもないわ。それよりも、休憩は終わりにしてあなたの話を聞かせてちょうだい?」


 綺麗になった顔で首を傾げたカミールの頭を撫でてミラスティアは休憩の終わりを告げた。管理者が代替わりした際の話の次は、カミールが生まれた時の話を聞くことになる。


「――あの、ミラスティア・イル・アルヴィス?」


 話をする為に自分の席へ戻ろうとしたカミールの体をミラスティアは離そうとせず、カミールの腰元をしっかりと抱えて膝上に留めさせていた。

 動かない体に首を傾げたカミールは、自分の腰にそえられていた手が原因だと気づいてミラスティアへと声を掛ける。


「このままでも話せるでしょう? あと、私の事はミラスティアで良いわ」

「ふふふ、どうやらミラはあなたの事が気に入ったみたいですね。カミール、私の事もファンカレアと呼んでください。これからは互いに良い関係を築いていきましょう?」


 離れようとしたカミールを抱いて離そうとしないミラスティアに、ファンカレアは再び笑みを溢す。そうして、自らも二人の傍へと椅子を近づけて小さな神様の黄色い頭を撫でてそう言った。


「――ミラスティア、ファンカレア」

「ええ」

「はい」


 不思議そうに首を傾げつつ名前を呼びながらそれぞれの事を指さすカミール。そんなカミールに指をさされ名前を呼ばれた二人は笑顔で返事をしてカミールの頭を優しく撫でた。

 その反応が嬉しかったのか、カミールは無邪気な笑みを溢して再び指をさした。


「――ミラスティアに! ファンカレア!」


 突如として生まれた小さな精霊。

 精霊は自らの意思とは関係なくその存在を神へと変えられた。

 使命を果たすための存在である創られた神は二人と出会い、初めて感情に包まれる。

 それは喜び。

 初めての美味、初めての温かさ、そして……初めての友。


 大きな宇宙を管理する小さな神は、優しき女神と魔女と友になる。






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少しスランプ気味で、短くて申し訳ありません……。

それと、カクヨムコンテストに応募させていただきました。

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次回は明日、遅くても明後日には投稿します!

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