第88話 一年目:ファンカレアの元へ
【不死】……それは死祀のメンバー全員が保有して居た特殊スキルだ。
能力としては、正直不死と呼ぶには何とも言えない効果である。
その能力は刺されたとしても、切断されたとしても、毒を盛られたとしても、生命が途絶えるその瞬間に健康時の肉体へと再生が行われて瞬く間に元通りになると言うものだ。付け加えるとするのならば、瀕死に陥った際の状況に応じて耐性スキルを獲得する事が出来る。
例えば、その原因が毒による物なら【毒耐性】が、炎に焼かれたなら【炎耐性】が、斬撃による物なら【物理耐性】が手に入るらしい。
恐らくだが、これは同じ事を繰り返さない為の対策なのではないのだろうか?
その対策を誰が行っているのかと言われれば回答に困ってしまうが、瀕死の原因となった物に対する耐性スキルが手に入る点を見るにそんな感じがする。
毒の沼に落ちて死にそうになって瞬時に再生したとしても、自分が居る場所は同じ毒の沼……耐性スキルが手に入らない場合、それは同じ苦しみ再び体験すると言う事だ。
瞬時に再生するが、それはあくまで再生するだけであり再生するまでに体験した苦痛は消えるわけではない。
耐性スキルを手に入れなければ、まさしくそれは生き地獄であり、きっと最後には死を望む事となるのは明白である。
それに、【不死】って言う程無敵って訳でも無いんだよな……。
黒椿の話では、例え【不死】であろうとも封印という手段を取れば永久にその活動を停止させることも出来るらしい。
六色の魔女達も俺が来るまでは封印する事で、敵の動きを止めていたようだ。それでも、封印を無理やり解かれて封印されていた転生者をワザと瀕死に追い込むという荒業を使われたり、上級魔法を使い封印されている転生者もろとも周囲への攻撃を始めたりと、封印対策をされて苦労した様だ。
まあだからと言って不便なスキルという訳ではないけどね?
一応、不死身である事は確かだし、もう一つのメリットとして老衰や病気などで生命の危機に陥った際、【不死】スキルを取得した当時の肉体へと戻る事が出来るらしい。
この世界――フィエリティーゼに住まう人々は生まれ持った先天的なスキルとは別に、10歳になると同時に女神ファンカレアから祝福としてスキルを授かる。
生まれ持った先天的なスキルは【赤魔力】や【青魔力】と言った魔力色のみなので、老衰や病気によって【不死】が発動した場合、最年少で10歳まで若返る事となるのだ。
周りからしたら不便と思われるかもしれないが、実はそうでもない。
【不死】スキルによって若返ったとしても、今までの人生の経験が消えることはないのだ。
流石に全部という訳ではないらしいけど、デメリットとして一度若返る度にランダムで通常スキルから一つを消失、レベルの一割とそれに伴う身体的ステータスの減少などが起こるらしい。しかし、それ以外は若返る前と変わらず引き継がれる為、全体的に少しだけ弱体化はするがそれでも死ぬよりはマシであり上場の結果と言えるだろう。
ちなみに、老衰と病気で【不死】が発動した場合は耐性スキルが与えられないらしい。老衰と病気以外で【不死】が発動する際にスキルの消失やステータスの減少が無い事と何か関係しているのだろうか?
まあとにかく、【不死】を手に入れた俺はこうして死ぬことが出来ない体になったのだった。
でも、正直安心してる自分もいる。
恋人である三人、いや……グラファルトは俺と<共命>によって魂が繋がっているから違うが、黒椿とファンカレアは間違いなく俺よりも長生きすると思っていたから、将来的に残してしまう罪悪感みたいなものがあったのだ。
人間である以上、俺は頑張って100歳くらいが限界だと思っていた。しかし、俺の恋人であるファンカレアや黒椿は神族であり、ファンカレアに至っては数億年は生き続けていると言う。
当然、【不死】を持っていない俺だったらそんなに長生きすることは出来ず、ようやく笑顔を取り戻したファンカレアを独りにしてしまうのが、どうしても不安だった。
それと、グラファルトについてもだ。
恐らくだが、グラファルトも長命種だったのだろう。ミラ達とも長い付き合いだとか言ってたし。
普通の状態なら、長生きできるはずの彼女を俺と魂が繋がってしまった事によって早死にさせるのは申し訳ないと思っていた。
まあ、グラファルトなら『気にすることは無い』とか言いそうだけど。
「ねー、さっきからどうしたの?」
「ん?」
ステータス画面に映る【不死】スキルを確認していると、背後から黒椿の声が聞こえた……というか、いつの間にか背後に移動していた。
そうして俺の背中に引っ付いて左肩から顔を覗かせて来る。
グラファルトもそうだけど、俺の恋人達はスキンシップが激しいのではないだろうか?
……いや、ファンカレアは違ったね。
「【不死】について説明してからずーっと黙り込んでたから」
「ああ、ちょっと考え事をしてただけだよ。とりあえず、皆を置いて先に死ぬことは無いってわかって安心した」
「まあ、仮に【不死】を持っていなかったとしても、創世の女神である黒椿ちゃんが何とかしたけどね!!」
冗談に聞こえないのが黒椿って感じだな……。
「そう言えば、黒椿って創世の女神なんだっけ」
「ねぇ……可笑しくない? 絶対にプレデターとか【不死】の存在を知った時の方がリアクション高かったよね? 僕、これでも神族最強の力を手にした女神様なんだけど……」
俺の反応を見て、黒椿は頬を膨らまし不満そうにそう言った。
んー……そう言われてもなぁ……。
「例え黒椿が創世の女神になったとしても、黒椿の性格とか、俺への態度が変わってしまう訳じゃないだろ?」
「まあ、それはそうだけどさぁ……僕としてはもうちょっと驚いて欲しかったかなぁって」
「驚きはプレデターが全部持って行ったからなぁ……」
「くっ……娘に美味しいところを奪われた!!」
「……」
もしかしてだけど、【漆黒の略奪者】と掛けてるのかな……あ、違うな。
どうやら黒椿が”奪われた”と言ったのは偶然だったらしく、俺の何とも言えない顔を見たのか、自分の発言を思い出したのか、黒椿は顔を赤らめ気まずそうにしていた。
「……」
「~~やめてッ!! 僕をそんな可哀そうな人を見る様な目で見ないで!!」
「……【漆黒の略奪者】に奪われた」
「言わなくていいから!? 僕の傷口を広げないでくれる!?」
俺がぼそりと呟いた言葉に、黒椿は更に顔を赤らめ俺の口を背後から伸ばした両手で塞ぎ始めた。
息苦しくなるようなら抵抗しようと思っていたが、どうやら黒椿は俺がちゃんと呼吸を出来る様に考えてくれていたらしい。
そんな訳で、口を塞がれた俺は特に抵抗するでもなく、黒椿が落ち着きを取り戻すまで待つことにした。
黒椿がようやく落ち着きを取り戻したのは、あれから十分くらい経過した後だった。
最初の数分は塞がれた状態で俺が何かを言おうとする度にあわあわと慌てだし、仕舞いには咳をしただけで慌てだす様になる始末、結局俺は黙り込むしかなく黒椿が俺の口元から手を離してくれたのが十分後だったという訳だ。
「……もう大丈夫か?」
「う、うん……お恥ずかしい所をお見せしました……」
珍しく敬語口調で話す黒椿の頬は、まだ微かに赤くなっている。
流石にここで話を蒸し返すのはどうかと思ったので、俺は気になっていたステータス画面を覗くことにした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
名前 制空藍
種族 人間(転生者)
レベル ―――
状態:”共命(グラファルト・ヴァヴィラ・ドラグニル)”
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
……うん、ここまでは問題ない。
いや、レベルが”――”の時点でおかしいと言えばおかしいんだけど、それは今に始まったことじゃないから……。
「なあ、このレベルが表示されないのって、どういう意味なんだ?」
「ん? ああ、これね……これはあれだよ、藍のレベルがステータス画面で表示できる限界を超えたんだよ」
「……レベルの表示に限界値があるのか?」
「ファンカレアが決めたらしいよ? 確か1000だったと思う」
「おお……」
と言う事は儀式の間に居た時点で、俺のレベルは1000を超えてたと……。
「それって、やっぱりこの世界では異常だよな……」
「まあ、ミラとか他の魔女達も限界値を超えてるから、特別異常って訳でも無いかな? もちろん、目立ちたくないなら人前に出るときは隠さないといけないけど……」
ですよね……俺としては、今更だとは思うがなるべく目立ちたくない。ある程度スキルとか魔法とかの訓練が終われば真っ先にステータスを隠せるようになりたい。
「自分を偽れたり、ステータスを変えたりとか、そういう事が出来るスキルや魔法ってある?」
「うーん、スキルだったら藍の持ってる特殊スキル【隠蔽】がそうじゃないかな? 能力が”他者から見られる自身のステータスを欺く事が出来る”だから、これを使えば隠したい事は隠せると思うよ? 自分よりも格上の相手に特殊スキルの【看破】を使われるとバレちゃうけど……今の藍より強い人なんていないから」
苦笑しながら告げる黒椿に、俺もなんて答えていいか分からず苦笑してしまう。
そうなんだ……やっぱり俺ってまた強くなっちゃってるのか……。
転生者たちの全てを奪ったから、ある程度予想はしてたけど……決めた、【隠蔽】は必ずマスターしよう。
そんな決意を固め頷いていると、黒椿は次に魔法についても教えてれた。
「魔法だったら”認識阻害魔法”かな〜、ちょっとコツはいるけど、慣れれば普通に街を出歩けるようになると思う。というか、藍には”認識阻害魔法”は必須かもね」
「というと?」
「ほら、今の藍って世界に混乱を招いた張本人でしょ?」
「出来れば違うと言いたいが、言えないのが悲しいな……」
黒椿の言う通り、今の俺は世界から見れば新たなる脅威以外の何者でもない。
だからこそ、この森で大人しくしている必要があるのだから。
「そこで活躍できるのが”認識阻害魔法”!! この魔法は熟練度が上がれば上がるほど出来る事の幅が増えていくんだ。例えば姿だけじゃなくて魔力の質や声なんかも欺く事が出来るよ!」
「こんな風にね」と黒椿は俺の前へ移動すると、年老いた老人の様なしわがれた低い声で話しかけてくる。
見た目は変わっていないのに、声だけが男特有の低さを持つ声質に変わっていて、何というか違和感しかない。
「”認識阻害を外す対象を決める事も出来るから、藍は練習して損はないと思うよ?”」
「な、なるほど……とりあえず理解できたから、その声を戻してくれ……」
「……”あ、忘れてた”。ごめんね?」
黒椿は途中で”認識阻害魔法”を解いたらしく、謝ってきた声はいつもの女声に戻っていた。
「しかし、魔法って凄いなぁ……明日から訓練が始まると思うし、グラファルトに頼んで”認識阻害魔法”から教えてもらおうかな?」
「あー……グラファルトは無理だと思うよ?」
俺の言葉に黒椿はばつが悪そうな顔をしてそう返した。
「ん? もしかして”認識阻害魔法”には適正みたいなものがあるのか?」
「う〜ん……適正はないけど、向き不向きはあるかな……? グラファルトってどちらかと言うと隠す気なんて全くないタイプだから、竜種が使える固有スキルに【人化】もあるし、多分”認識阻害魔法”とか使った事ないと思うよ?」
「あー……なんか想像できるな……」
確かに、黒椿の話を聞く限りだとそんな感じだよなぁ。
【人化】を使えばほぼ人間となんら変わらない見た目だし、”認識阻害魔法”を使わなくても人里に紛れ込む事は出来そう。
「うーん……そうなると黒椿が適任になるのかな?」
「出来ればそうしてあげたいけど、しばらくは無理そうなんだよね……」
「ん? 何かやることでもあるのか?」
俺が黒椿に頼もうとすると、黒椿は申し訳なさそうな顔をして両手を合わせている。どうやら、何か先約があるみたいだ。
「実は……ファンカレアに”創世”の力の使い方を教えてあげてるんだ」
「あれ、そもそもファンカレアってお前よりも前に……というか、生まれながらに”創世”の力を宿していたんじゃなかったっけ?」
「話せば長くなるんだけどね?」
そう言った黒椿から語られた話によると、どうやら、ファンカレアは未だに”創世”の力を制御できていないらしい。というのも、生まれながらに一人であった彼女に”創世”の力について教えてくれる人がいなかったのだとか。その為、ほぼ独学で力を使い続けてきたファンカレアはその強大な力を制御出来ずにいた。
そこに【叡智の瞳】や【未来視】といった権能を持つもう一人の創世の女神……黒椿が現れて、ファンカレアはようやく創世の力について知る事ができ、その力を制御する為の特訓を黒椿に頼んでいるらしい。
「本当は藍が寝ている間だけの予定だったんだけどね……どうやら、独学で使っていた期間が長かったのが影響してるのか、特訓が上手くいってないんだよ……ファンカレアも自分の出来の悪さに落ち込んじゃうし……」
「ファンカレア……」
うん。
落ち込んでるファンカレアがいま脳内で想像出来る。
「そういう訳だから、しばらくはファンカレアに専念する事になりそう……ごめんね?」
「いや、それは大丈夫だけど……ファンカレアにあまり無理をしないように伝えてくれ」
きっとファンカレアの事だから出来るまで無休で特訓し続けるに決まっている。恋人としてはあまり無茶はして欲しくないからな……。
「そうだ! 藍、明日は僕と一緒にファンカレアの所に行こうよ!! 出来ればファンカレアを励ましてあげて欲しんだ……」
「……俺は構わないけど、そもそもファンカレアの所へ行く事なんて出来るのか?」
「”転移”を使えば大丈夫だと思うよ? ファンカレアが許可しないと無理だけど、それは僕の方で話をつけておくから!」
どうやら”転移”で白色の世界に行く事が出来るらしい。
いや、よく考えればミラもちょくちょく白色の世界へ行っているらしいし、ファンカレアの許可さえあれば行けるっぽいな……。
俺は黒椿の話に承諾し、明日はファンカレアの元へ行くと約束をする。
「ありがとう!! それじゃあ僕は早速、ファンカレアに伝えてくるよ! あ、グラファルトを連れてくるのも忘れないでね? <共命>状態の二人がフィエリティーゼと白色の世界の異なる次元に居るのは流石に良くないと思うから!」
「わかった。それじゃあグラファルトと念のためにミラ達には俺から話しておくよ」
「うん! よろしくね!」
こうして、黒椿は俺に手を振りながら光の粒子となり姿を消した。
さて、まずはみんなに色々と説明しないとな……。
まずは黒椿の存在についても話して、それと俺が【不死】を持った事で死ななくなった事も話さないとな。
”認識阻害魔法”の件も、一応グラファルトに聞いてみるか。
「ふぅ……何はともあれ、ファンカレアに会えるのは楽しみだな」
そうして俺は、恋人であるファンカレアを会える喜びを胸に外へと繋がる扉へ手を掛けるのだった。
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