第87話 一年目:あの子は、何処の子?
プレデターと言う小さな女の子。
その正体は、俺の特殊スキルである【漆黒の略奪者】だ。
漆黒の光を宿した黒い瞳に、唐紅色のセミショート。服装は黒椿の服の色違いで、白が黒、赤が灰色に変わった巫女装束に似た服だった。
初めて会った時は俺の姿に偽装していて、正直写し鏡のような存在だと思っていた。よく漫画とかである”もう一人の自分”みたいな……うん、憧れていなかったと言えば嘘になる。俺そっくりな姿でプレデターが現れた時は、内心ちょっとワクワクしてた。
しかし、実際は”もう一人の自分”などではなく、偽装を解除してたプレデターは別れ際にこう言ったのだ。
『ちなみに黒椿は俺のママだから。娘がよろしくって言ってたってちゃんと伝えておけよ』
『それじゃあまたね……パパ♪』
娘と名乗ったプレデターとその母親だと言う黒椿、そして……パパと呼ばれる俺。
これが何を意味するかと言えばそれは親子関係と言う事であり、プレデターの言葉を信じるとするのならばそう言う事になるのだろう。
知らぬ内に娘が誕生していたという訳だ……。
「――という事で、説明を求める」
「……はい」
いま俺の目の前には黒椿が正座している。
最初は不満そうにしていたのだが、俺が長々とプレデターについての話を始めると全てを察してその身を小さくしていく。
いや、別にそこまで怒っているわけではないのだが……何だろう、黒椿は全部知っていたと思うんだよな。
【叡智の瞳】という知る事に特化したスキル……権能? もあるし。全てを知っていた上で俺に黙っていたんだと思う。
状況も状況だったし、これから転生者と戦う!! って時に余計な混乱を与えない様にしていたのかもしれないけど……それでも、何か釈然としないし、黒椿が現れた時のすました顔を見て若干イラっとしたのもあって、つい頬を抓ってしまった。
「うぅ……」
「……」
流石に再会して直ぐに頬を抓るのは良くなかったかもしれない……黒椿は下を向いて嗚咽に似た声を漏らしていた。
「あーその、黒椿……?」
「うっ……三日ぶり……三日ぶりの再会なのに……」
「ッ!? わかった!! わかったよ!! 俺が悪かったから!!」
とうとう我慢できなくなったのか、黒椿は正座をした状態で泣いてしまった。
俺としても泣かせるつもりは全くなかったので、慌てて黒椿に近づきその涙を拭う。
「いきなり抓ったりして悪かった。もう怒ったりしないから……」
「うっ……ほんと?」
「本当だ」
「……わかった」
俺が真面目に答えると、黒椿は泣き止んでくれた。いや、まだその目には涙を溜めていたけど、それは俺が優しく拭っていった。
そうして黒椿が落ち着きを取り戻したところで話を再開する。内容は当然ながらプレデターに関してだ。
「それで、黒椿はプレデターに関して何処まで知っているんだ?」
俺がそう聞くと、黒椿は申し訳なさそうな顔をする。
その顔を見て、俺は自分の予想が外れたのだと理解した。
「ごめんね? 実は僕にも詳しい事は分からないんだ……【叡智の瞳】を使ってプレデターッていう存在が居る事は知っていたけど、それがどうやって、いつ生まれたのかは分からなかった。でも、あの子が僕たちの娘と言っている以上、推測は出来るけどね」
「そうか……じゃあ、その推測でも良いから聞かせてくれないか?」
正直何も分からないよりは、例えそれが黒椿の推測だとしても可能性の一つとして知っておきたい。
そう言った意図もあり黒椿に推測を話してもらう様にお願いすると、黒椿は一度頷いて話してくれた。
「わかった。しつこい様だけどこれはあくまで僕の推測だから、曖昧な話しだしちょっと理解できない話かもしれないっていう事は念頭に入れておいてね?」
「ああ」
「それじゃあ……僕の考えが正しければ、プレデターちゃんは僕達の子供でもあるし、そうでもない」
「いきなり曖昧な入り方だな……」
俺がそう突っ込むと黒椿もそう思っていたのか苦笑を浮かべている。
「まあ、僕と藍にとっては微妙なところだと思う。フィエリティーゼにとっては子供と言えなくもないって感じかな?」
「えーっと? それはつまり、俺たち……地球人にとってはプレデターは娘とは言い難いって事か?」
「うーん……ちょっと難しい話になるかもよ?」
そうして黒椿が話してくれたのは、この世界においての子供、つまりは親子関係の定義と地球との定義の違いだ。
俺と黒椿は、元々は地球で生まれた存在だ。
俺は人間として、黒椿は精霊として地球で生まれ、そしてフィエリティーゼへとやって来た。
まず初めに俺……つまりは地球で生まれた人間にとっての親子とは何かについて。それはまあ今更説明する事でもないが、基本となるのはやはり血縁関係だろう。
母親と父親が所謂子作りという行程を行う事で、母と父の遺伝子が混ざり合った赤子が生まれる。
他にも養子縁組であったり扶養であったり、色々あるとは思うが……今回の話では特に関係のない内容なので置いておく事としよう。とりあえず俺にとっての親子とは、基本的には血縁関係の有無が重要になって来るのだ。
次に黒椿にとっての親子とは何かについて……なのだが、これに関しては正直未だに理解が出来ずにいる。
そもそも、精霊や妖精には親と呼べる存在が居ること自体が稀であるとのこと。どうやら黒椿にも親と呼べる者は存在せず気づいたらあの神社に居たらしい。だからと言って全員がそうという訳でも無いと言う。
ここでは精霊を題材に例えるが、親となる精霊の核の一部を分け与え、その核に自然界、もしくは親の魔力を大量に流し込む事で新たなる存在を生み出すことが出来るらしい。
しかし、それを出来るのは上位精霊と呼ばれる強大な力を有している存在だけであり、そこまでの力を有している存在は地球には居ない為、事実上地球で生まれる精霊や妖精に親は存在しないのだとか。
「まあ、ある程度は予想していたけど、精霊とか妖精って本当にファンタジーだよな」
「う~ん、というより、大昔の地球人たちは本当に精霊とか妖精が見えていたんじゃないかな? だからこそ、おとぎ話とかがあったり精霊や妖精と遭遇したなんて逸話も生まれたんだと思う」
どうなんだろうか……いや、ここで幾ら考えたとしても想像の域を超えることはないだろうけど。【叡智の瞳】を使えばわかるか……? でもそこまでして知りたい訳でも無いし、別にいいか。
「……っと、話が逸れちゃったね、何処まで話したっけ?」
「えーっと、俺と黒椿にとっての親子とは何を示すのかっていう所までかな?」
「あーそっかそっか、じゃあ次の話に移るね?」
そうして黒椿が話してくれたのは、プレデターと言う存在についての推測だ。
ここからの話はあくまで黒椿の推測であり、事実ではない。まあ、これは黒椿本人からも数回言われているし理解していると思うが念のため。
そもそも、プレデターとは生まれる事のない存在……否、生まれる筈のない存在なのだとか。
スキルには自我を持つ物がある。
しかし、その大多数が呪われたスキルとして知られており、宿主に寄生するタイプなのだとか。
黒椿の話ではそれはフィエリティーゼのみの話ではなく、多次元上に存在する世界でも共通の認識らしい。というか、多次元上の世界って……まあ大方【叡智の瞳】で知ったんだろうけど。
そして、そう言った自我を持つスキルや権能は元々は異なる生命体である事が必然……つまり、俺の中に居る【改変】もといウルギアの様な存在であるらしい。
「藍の場合、悪意を持たない自我を宿したスキルと権能を二つも宿してるから実感が湧かないと思うけど……これって異常事態だからね? 【漆黒の略奪者】に関しては僕にも責任はあるんだろうけどさ……」
苦笑を浮かべて黒椿にそう言われた。
うん、大丈夫……俺もそう思うから。
そうして二人で苦笑し合った後、黒椿が説明を続けた。
さっきの話通りなら、プレデターはウルギアの様に元神である存在なのかと思ったのだが、黒椿の考えは違うらしい。
黒椿の推測では、プレデターは俺と黒椿の魔力が混じり合った事で生まれた存在だと言う事だ。それは俺が魂の回廊から現実世界へ戻っている際に考えていた事と似ていて、納得のいく説明でもあった。
俺の魔力と、黒椿の魔力……その二つが混じり合い二つの魔力によって統合されたスキルが【漆黒の略奪者】だ。
そうしてそれが何等かの作用を生み出した結果、プレデターという存在……本人が言う所の俺達の娘が誕生したと。
「うーん……」
「やっぱり、最後の方が曖昧だよねー……」
黒椿の言葉に俺は静かに頷く。
黒椿の推測はあながち間違ってはいないと思っている。
【漆黒の略奪者】が生まれて、その直ぐ後に姿を現したプレデター。【漆黒の略奪者】が作られた際に使われた俺達の魔力には遺伝子に似た情報体でも入っていたのだろうか……?
唐紅色の髪に黒い瞳、黒椿と似た服装をしている点を見てもやっぱり、俺と黒椿の遺伝子を受け継いでるようにしか思えないんだよな……。
だとしても、最終的な生まれるまでのプロセスや、何がきっかけで生まれたのかはさっぱりわからない。
「できれば、本人に直接聞きたい所ではあるんだが……」
「休眠状態に入っちゃったからねぇ……今は無理だと思うよ?」
「だよなぁ……結局のところ”分からない”って言うのが現状か……」
まあ、それでも予想が建てられたのは良い事だ。
ただ分からないと言うよりも、仮説は建てたけど一部に疑問が残る……という風にしていた方がもやもや度が違ってくる気がする。あくまで個人的な意見だけどね。
「まあ、分からないことは仕方がない。それに、色々と助けて貰ってもいるからな」
「今のところ藍に悪さをするつもりはないみたいだし、良い子だと思うよ? ちょっと悪戯が好きみたいだけど……」
「……確かに」
俺達はここに居ないプレデターを思い浮かべて笑い合う。
そうして互いに見つめ合った時、俺は黒椿に微笑みある提案をすることにした。
「とりあえず、真実がどうあれ俺はプレデターを黒椿と俺の娘として接していこうと思う」
「……それには、僕も賛成かな。多分、僕は子供を作れないと思うから」
「そうなのか?」
さらっと話す黒椿に俺は思わずそう聞き返してしまう。
「多分ね? 僕ってほら、一応精霊……今は女神か。そういう訳で人間ではないから……そういう行為自体は出来ると思うけど、子供を作れるかと言われれば何とも言えないね。当然だけど経験もないし」
少しだけ照れたように言う黒椿に、俺まで恥ずかしくなってしまう。
でも、そうだよな……見た目は人間に近いとしても、相手は神族であり、俺は人間、異なる種族間で子供を作れるかと言われれば微妙なところか。
「そう言う事を【叡智の瞳】で知る事は出来ないのか?」
「ううん、そんなことは無いよ? 【叡智の瞳】は”使用者が知りたいと思った事”なら大体の事を知る事が出来るから。でも、使うつもりはないけどね~」
どうやら【叡智の瞳】を使えば知る事が出来るらしい、しかし黒椿はそれをする気はないと俺に対して宣言した。
そう宣言する黒椿の顔は何処か楽し気であり、そして……生き生きとしている様に見える。
そんな様子の黒椿に俺が首を傾げていると、黒椿は優し気に微笑み俺の目を見て話し始める。
「不思議そうだね? どうして知る事が出来るのに、知ろうとしないのか」
「ちょっとだけ……」
「あははっまあ、でもそう思うのは当たり前だと思うよ? 知れるのに知ろうとしないなんて普通は可笑しなことだと思うし……僕はね、楽しみにしてるんだ」
「……楽しみに?」
「そう、楽しみにっ。藍と恋人として、夫婦として、これから先を生きて行く上で何が待ち受けているのか……それが楽しみで楽しみで仕方がない。それなのに、ズルして未来を見ちゃうのは勿体ないでしょ?」
黒椿はそう言うと俺の右手を自分の左手で掴み、指を絡め始めた。そうして恋人繋ぎをした手を上げて、にっこりと笑みを浮かべる。
「もちろん、藍に危険が及ぶことに関しては遠慮なく【叡智の瞳】を使うよ? 藍が知りたいと思った事に関してもね? でも二人の未来は、先に一人で見るんじゃなくて……ちゃんと、藍と二人で見たい」
「黒椿……」
「僕はね、今がすっごく幸せなんだ……。こうして藍と恋人同士になれて、触れ合う事が出来て、沢山好きって言って貰えて……本当に幸せ。この気持ちは、藍と一緒に共有したいんだ」
黒椿の言葉を聞いて、俺は本当に幸せ者だと思えた。
こんなにも俺の事を好きでいてくれる恋人が居て、俺と一緒に居る事を楽しいって幸せだって言ってくれる恋人が居て、俺自身も楽しいと、幸せだと思えた。
「でも、藍がもし知りたいって言うのなら……二人の間に子供が出来るのか、調べてみる?」
俺が幸せな感情に浸っていると、目の前で頬を染める黒椿が首を傾げてそう聞いて来た。
そんな黒椿の質問に、俺はしばらく考えた後……
「……いや、止めておこう」
その提案を断る事にした。
「俺としても、出来ればネタバレ……先に知ってしまうのは勿体ないって思う。なんて言っていいのかわからないけど、二人で積み重ねていくモノは、二人で体験していきたいって思うから」
「……わかった。それじゃあ、二人で知っていこう。これから、ゆっくり……何年も時間を掛けて」
「ああ、これからもよろしくな」
そうして、二人で見つめ合い……自然と顔を近づけた俺達は引き寄せられる様に唇を重ね合った。
しばらくの間、唇を重ね合わせた後、俺と黒椿は顔を見合わせ静かに微笑み合う。
「えへへ、これで二回目だね! これからもいっぱいしてもらうんだ~何年も、何十年も、何百年も!!」
幸せそうに笑い、黒椿は恋人繋ぎの状態の片手を左右に揺らしてそう語る。
「いやいや、盛り上がってるところ申し訳ないけど、俺は黒椿とは違って普通の人間だから、何百年も生きられないぞ……」
「え?」
「……え?」
いや、何でそんな”何言ってんの?”みたいな顔をしてるんだ?
俺、間違ったこと言ってないよな?
「いや、俺は普通の人間だろ?」
「え、いや、だって……あっ」
改めて、普通の人間だと告げる俺を見て、黒椿は明らかに混乱している様子。
そうしてしばらく首を左右に傾けていた黒椿は、何かを思い出したのか小さく声を漏らした。
「え、何?」
「いや、その……もしかしてだけど、忘れてる?」
「忘れてる? 一体何のことだ?」
「……ほら、転生者達のスキルを奪ったでしょ」
「ん? 確かに奪ったけど……ッ!?」
そこで、俺はある事実を思い出し、慌ててステータス画面を表示する。
そうして、膨大なスキル欄を素早く流し読みしていき……特殊スキル欄にある項目を見つけてしまった。
「あー……そう言えば、藍は転生者達からスキルを奪った時、邪神の瘴気に浸食されてたんだった……ごめんね、もっと早くに教えてあげれば良かったよ」
「そっか俺……」
――俺、【不死】なんだ……。
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さあ、イチャイチャ回で終わると思った矢先に、藍くんが【不死】であることが判明しました。
そして、これはちょっとした疑問なのですが、ステータス画面の詳細は必要ですか? 必要であれば、お話の中で表示させようかと思います。
必要でなければ、さらっと触れて細かい表示はしない様に書いていきます。
正直、物語の構成上、戦闘シーンが過激化するか未定なので、詳細なステータスが必要かと言われれば微妙なところなんですよね……。
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