第79話 一年目:シェアハウス




 初めての異世界料理は、驚くほどに美味かった……。

 最初は15cm定規くらいの長さがあるサンドイッチを二つも食べれるかと心配していたが、気づけばペロリと完食していた……流石に満腹だけどね。


 自分の食事に夢中になっていた俺は、改めてみんなの事を見回してみることにする。

 どうやらみんなが俺と同じ暴れ牛のサンドイッチという訳ではないらしい。

 俺と同じ物を食べているのはグラファルトとアーシェだけだった。


……今気づいたけどグラファルト、お前そのサンドイッチ何個食ってんだ!?

 明らかに他の全員よりも一回り程大きな紙袋が置かれていたグラファルトは暴れ牛のサンドイッチをパクパクと食べ進め、食べ終わると次のサンドイッチを紙袋から取り出している。

 俺が見ている間だけでも、もう三つは食べてるんだけど……。


 もしかして、この世界の人達は地球の人よりも多く食べるのか……?


 そう思い、恐る恐る俺の右隣りに居るリィシアの方を見ると、どうやらそういう訳ではないらしい。

 薄めの四角いパンを斜めに切った物に葉物と赤や黄色と言った野菜が挟まれた、ザ・サンドイッチがリィシアの小さな手に掴まれている。

 そのサンドイッチをリィシアは美味しそうに小さな口で食べ進めていた。

 リィシアは野菜が好きなのかな?

 円卓の上に乗ってるもう半分のサンドイッチを見てみるが、今リィシアが食べている野菜のサンドイッチと同じやつだった。


 他にもフィオラ、ミラ、ロゼがリィシアと似たようなサンドイッチを食べていた。違いとしては、リィシアが野菜だけなのに対して、他の三人の物にはハムの様な薄いお肉が数枚挟まっていることだろうか?

 ちなみにアーシェは俺と同じ物を三つ食べている。グラファルトよりは少ないけど、それでも結構食べるんだな……。


 一番意外だと思ったのはライナだろうか?

 ライナの持っているサンドイッチはどうやらフルーツサンドみたいだ。斜めに切られたパンの間には白いクリームの様な物とイチゴに似た赤い果実が挟まっている。

 こう言ってはなんだが、てっきりライナは肉系の物を食べると思っていた。

 見た目は完全に王子様スタイルだし、女性ではあるけど、異性からだけではなく同性からもモテるだろうなぁと思えるカッコよさを兼ね備えている。

 そんなライナが甘そうなフルーツサンドを小さく口を開けて食べている姿と言うのは、なんだがギャップがあって可愛らしく思えた。








 そうして全員が食べ終わった後、軽くお茶を飲んでいるとフィオラ、ミラ、ライナの三人は早々に戻るとのことだった。


「どうやら、久しぶりに表舞台に立った影響で僕の姿を見ようとヴォルトレーテで騒ぎになっているらしくてね……しばらくは慌ただしくなりそうだよ」

「なんか俺の所為で申し訳ない……」

「ははっ気にすることはないさ。それじゃあ行ってくるよ」


 謝る俺に対して爽やかな笑顔でそう言うと、ライナは稲妻の中へと姿を消した。


「ライナだけじゃなく、皆も本当にごめん。俺の所為で色々と迷惑を掛けて……」


 慌ただしくしていた所為で碌に謝る事も出来ていなかった事に気づいた俺は、ライナが去った後で皆に対して頭を下げた。


「気にしないで……お兄ちゃんはこの世界に来てまだ日が浅いからしょうがない」

「そうだよー!! それにわたし達はこれでも初代国王だかねっこれくらいは楽勝なんだよ!」

「ロゼもー、特に気にしないよー?」

「私も皆と同じです。そもそも、エルヴィス大国の場合は国王が病み上がりの状態ですからね……宰相が居るので大丈夫だと思いますが、一応様子を見に行くだけですから」


 そう言って、四人は俺に気にするなと言ってくれた。

 その優しさが嬉しくもあり、なんだかむず痒いものを感じる。


 フィオラは「それでは」と口にすると、光の中へと消えていきエルヴィス大国へと向かった。

 それに続いてミラも紫黒の空間へと姿を消していく。どうやらミラはエルヴィス大国でフィオラのサポートをしているらしい、後は宰相の人になんか用事があるとか言ってたけど……詳しくは聞いていない。そうしてエルヴィス大国での用事が終われば一度地球へと戻り、白色の世界を経由してこちらへと戻って来るらしい。


 そう言えば、ファンカレアはどうしているだろうか? また会えるとは思うけど、特に音沙汰もないし不安ではある。


 黒椿とも連絡を試みてはいるが特に反応はないし……どうなってるんだ?

 後でウルギア辺りにでも聞いてみよう。






 そうして最後にミラを見送った後、残ったのはロゼ、アーシェ、リィシア、そしてグラファルトと俺の五人である。

 話を聞くと、どうやら三人はもう仕事を終わらせたとの事だ。


「フィオ姉とラナちゃんは、どちらかと言えば人に尽くすタイプだったり断れないタイプだからねぇ~! 国王として勤めていた時も率先して仕事をしてたんだよ? わたしは遊んだりとかさぼったりとかしてたけどね!!」

「ロゼはーどちらかと言えばおまかせー?」

「……知らない人達に頼られても困る。伝えるべき事は伝えたから、もういいの」


 ……この子達ちゃんと国王として機能してたのだろうか?


 そんなことを思いつつチラリとグラファルトを見る。

 グラファルトは俺の視線に気づき、俺の顔を見た後何を思っているのかを理解してくれたのか『心配しなくても大丈夫だ』と口にする。


「こう見えてもこやつらは世界最強と謳われる存在だ。崇められ慕われている存在でもあるし、こやつらが頼めば各国の国王は即座に動き始めるだろう」


 そうか、そう言えばそうだった。

 こうして普通に会話しているからいまいちピンとこないけど、この方々は世界最強の魔法使いであり<使徒>の称号を持つ特別な存在なんだよな。


 もしかしたら俺も接し方を改めた方がいいのでは……そんな考えが一瞬過ぎったが、皆の性格を考えると全力で否定されそうだったので止めた。


 そうして円卓へと視線を移すと、正面に座るアーシェの右側でロゼが大きな紙を広げて何かを書いている所だった。


「ん? 何してるんだ、ロゼ?」

「んー、設計図書いてるー」

「設計図?」


 聞き慣れた言葉に思わず反応してしまい、ロゼが書いていると言う設計図が気になってしまう。


「それって、俺が見ても大丈夫なやつ?」

「ランならいいよー?」

「ありがとう」


 ロゼの許可をもらってから、俺は席を立ちロゼの背後へと回った。

 円卓の上に広げられた紙には家だと思われる建造物の細かな設計図が書き込まれている。


 見るからに豪邸だ……。

 詳しいことは分からないが、図を見る限り三階建てか? いや、地下室を含めると計四階建てか。

 大雑把に説明すると、横長のメインであろう大きな建物が中央に位置し、その左右には通路を繋いで一回り位小さな建物が描かれている。


「凄い家だな……これ、ロゼが作るのか?」

「そうだよー、ミーアに頼まれたー」

「ミーア?」

「常闇の事だ」


 俺が聞き慣れない名前に首を傾げていると、いつの間にか俺の右隣りに来ていたグラファルトがそう教えてくれた。

 どうやら”ミーア”とはミラのあだ名らしい。


 へぇ……ミラに頼まれたのか……うーん、嫌な予感がするのは俺だけかな……。


「……ちなみに聞くけど、これいつ頼まれたの?」

「んー、二日前ー? ランの家作ってーって言われたー」

「……」


 その返答に思わず言葉を失ってしまう。

 やっぱりだ……この豪邸ここに建てるやつだった……!?


「ちょっと待とうか、折角ここまで計画してくれて申し訳ないけどちょっとだけ待とうか!?」

「なんだ? 爆炎に家を建ててもらうのが不満なのか?」

「そうじゃない。そうじゃないんだグラファルト……」


 俺は円卓に片方の頬を付けて尚も紙に家の設計図を書こうとするロゼの手を掴み、首を傾げるグラファルトに俺はそう返した。

 正直、ロゼに家を建ててもらえるのだとしたら、それは素直に嬉しいしお願いしたいと思う。

 話に聞くところによれば、ロゼは世界的にも有名な技術者何だろう。

 そんな凄い存在に家を建ててもらえるなんて、それこそ永遠に自慢できる物だし住む事になる俺としては安心できる提案だ。


 でも、でもさ……大きすぎるよ……。

 これ何人住めるの? 少なくとも10人は余裕だよね?


 手を掴まれて何故か満更でもない笑みを浮かべるロゼに対して、俺は疑問をぶつけることにした。


「あ、あのさ、ロゼ? この家、ちょっと大きすぎないか?」

「そー? これでも小さくしたー」

「いやいや!? これより大きいもの作る予定だった事に驚きだよ!?」

「これの倍くらいー? でも、結界内に入りきらないからダメー」


 どうやら最初は今の倍……ちょっとしたお城くらいの建物を建てる予定だったらしい。しかし、それだと泉を中心に広がる結界の外へとはみ出してしまう為、書き直したのだとか。

 いや、それでこの大きさってどうなんだ……? 書き直された家でも、俺が眠る為に建てられた小屋が犬小屋に思えてしまうくらいの大きさなんだけど……。


「だって、住むのは俺とグラファルト、後は黒椿って子とミラ……はどうするか分からないけど多くても四人くらいだと思うぞ?」

「んー? 違うよー?」


 俺の言った言葉にロゼは首をグイっと上に動かして俺の方を見上げてそう口にした。


「……えっと?」

「ちょっと手ー離すねー?」


 そう言って俺の手を解き再び紙へと手を伸ばすロゼ。

 そして、今気づいたが外観だけが描かれた設計図の下にもう何枚か紙が重なっていたらしい。外観の図が描かれた紙をロゼが捲ると、そこには部屋割りが掛かれた図面が三枚程出て来た。

 それぞれの紙の右上には一階、二階、三階と小さく書かれていて、一階は広々とした玄関ホールを真ん中に左右に三部屋づつ、計六つの部屋が用意されていた。


 一階の部屋を右から指さしていき、ロゼは衝撃的な事を口にしていく。


「ここはミーア、こっちがフィーで、こっちがロゼー、玄関挟んでこっちがアーシェでー、こっちがラーナ、最後がリーアだよー」

「……え?」


 えっ!? やっぱりそういうことなの!?


 右端の部屋から順に左へと移動していくロゼの説明を聞いて、俺はようやくこんなにも家が大きい事の理由を確信する事が出来た。

 うん、予想はしてたけど、してたけどさ……。


「そっか――みんなも住むんだね……」



 異世界に来て早々、豪邸を手に入れました。


 しかもそこには、世界の頂点たる六色の魔女達も住むそうです。



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