第69話 婚姻の儀





 異世界転生して初日。


 フィエリティーゼへ転生する前から激動のスタートを切ったセカンドライフではあったが、前世では恋愛とは無縁であった俺が今では恋人が三人もいて(三人とも普通の人とは言えないけど……)、その内の一人とこうして夫婦として生きる約束をする事になるとは……人生何があるかわからない。


「――そう言えば、この世界では結婚ってどうやって証明するんだ?」


 グラファルトをお姫様抱っこした状態でふとそんな疑問が浮かび俺は口に出していた。

 そもそもこの世界の結婚ってどんな感じなんだ?

 一夫多妻が普通だと言うのは白色の世界で聞いたけど、具体的な内容については知らないんだよなぁ……。


「結婚か……我も詳しくはないが、この世界では一つだけ決まりがあるな」

「決まり?」


 俺が口にした疑問に、グラファルトはうずくめていた顔を上げそう答えてくれた。

 どうやらこの世界にも結婚における決まりごとがあるらしい。


「この世界で結婚をするには教会へ赴く必要があるとされている。そこで二人は聖職者を前に永遠の愛を誓うのだ」

「おお……こっちの世界でいう結婚式に似てるな。でも、なんで場所が教会だけなんだ? 聖職者の人がいればどこでもいい気がするけど?」


 現にこっちの世界では特に縛りはなかったと思う。

 いや、結婚なんてしたことないから詳しくは知らないけどさ。そもそも結婚式をしないって人もいるだろうし、婚姻届を出しさえすればいい世界だからなぁ……。


「ああ、別に教会でなくても良いのだぞ? それに聖職者も必ず必要と言う訳ではない。我ら竜種も婚姻を結ぶ際は、教会ではなく竜の渓谷で行ったからな。それに聖職者を呼べないからそのまま我が婚姻の儀を取り仕切っていた」

「ん? どういうこと?」

「この世界でいう婚姻の儀はそう軽々と出来るものではないのだ。なんせ、互いの愛を創世の女神に誓わねばならぬからな」


 そうしてグラファルトはこの世界の結婚について教えてくれた。


 まず第一に、男女は創世の女神に誓いの言葉を宣言しなければいけないらしい。グラファルトが教会に行く必要があるといった理由はこれで、教会には創世の女神を祀る為の像が必ず設置されているからだ。

 創世の女神像に誓いを宣言する事で、創世の女神からの祝福を受ける事が出来るのだとか。


「我らの時はそこまで強い祝福は受ける事が出来なかった。それは創世の女神像が簡易的であり創世の女神の加護を持たぬ我が婚姻の儀を取り仕切っていたからだな。まあ、だからと言って祝福を受ける事が必ずしも良いとは言えぬのだが……」

「と言うと?」

「確かに、創世の女神の祝福とは絶大な物だ。例えば創世の女神ファンカレアを見た事のある六色の魔女が作った像が一体だけある。それを祀る神殿で創世の女神と対話をする事のできる【神託】を持つ者が永遠の愛を誓う二人の婚姻を認めた場合、その夫婦は子宝に恵まれ病にかからず生涯を通して幸せに過ごせるとされている」


 それだけ聞くとやっぱりちゃんとした教会で婚姻の儀を行った方が良いと思うけど……俺がそう言うとグラファルトは少しだけ困った様な顔をして説明を続けた。


「確かにそれだけを聞くとそう思えるかもしれないが……それはあくまでその先の婚姻生活に何も問題がなかった場合だ」

「もしかして……」

「……創世の女神像を前に永遠の愛を誓った男女は確かに幸せになれる。しかし、結婚後にもし別れる様な事があれば、それは誓いを破ったという事だ。女神の加護は失われ誓いを破りし者として体に刻印を刻まれる」


 刻印の形は人によって様々らしい。

 その大きさも大小様々なものではあるが、殆どの人が顔や腕などといった目立つ所に現れるのだとか。刻印の事はこの世界では周知の事実であり、刻まれた者は女神の制約を破ったとして聖職者から嫌われてしまうのだとか。

 それ以外にも、女神を崇める宗教団体に目をつけられ危険な目に遭うケースもあるらしい。


「だが、その刻印が片方にしか現れない場合もある。その場合、原因は刻印が刻まれた方のみであり刻印が刻まれなかった方には何の罪もないという事だ。まあ、そんな感じで大きな恩恵を授かるという事はそう簡単な事ではないという事だな、教会で【神託】を持つ者に儀式を執り行ってもらう場合、それ相応の金も掛かる」

「なるほどな……この世界での結婚は重大な決断っていう訳だ」

「ふふっ怖気付いたか?」


 俺の言葉にグラファルトはニヤニヤと笑みを浮かべてそう返してくる。

 こいつ、わかってて言ってるだろ……。

 まあ、グラファルトがお望みとあらば、ちゃんと答えてやるか。


「そんな訳ないだろう? 俺は君を愛し続けると誓った。その気持ちに嘘はないし、これからも変わる事はない。そもそも俺はお前の事を大事にしようとは思っているが蔑ろにするつもりはないし命を預ける相手としても信用している。それに、ヴィドラス達にもお前を守ると約束したんだ。だから、俺のこの気持ちは永遠の物であり違える事は決してないと言えむぐ~~ッ!?」

「もう良い……我が悪かった……」


 俺がグラファルトの事をどれだけ思っているか延々と語り続けようとすると、抱えていたグラファルトによって口を塞がれてしまう。

 両手で俺の口元を抑えていたグラファルトの顔は湯気が出るのではないかと思える程に真っ赤になり、しばらくの間絶対に顔を合わせようとはしなかった。














 グラファルトは相変わらず恥ずかしそうにはしているが、ようやく俺の口元から手を離してくれた。

 素直な気持ちを隠すことなく告げただけだと言うのにこの仕打ち……まあ半分はグラファルトの挑発に乗る様な形ではあったが。


 それよりも……。


「なあ、グラファルト」

「な、なんだ?」


 おい、あれから何分経ったと思ってるんだ……。

 相変わらずこちらに視線を合わせようとしないグラファルトに呆れつつも俺は話を続けることにした。


「いや、さっきグラファルトが教えてくれた婚姻の儀について少し気になる事があったんだけど……婚姻の儀では創世の女神――つまりはファンカレアに二人の永遠の愛を誓うんだよな?」

「そうだ、我ら二人で創世の女神を象徴とする像に永遠の愛を誓う。それを通してファンカレア本人に我らの愛の誓いを届けるのだ」

「その理論だと俺の場合……恋人であるファンカレアに対して”俺、この人と結婚するからよろしくね!”って発言する様なものだよね?」


 ダメだ、想像しただけで頭のおかしい奴としか思えない……。

 恋人に対して他の女性と結婚しますとか言う奴がどこに居るんだよ……とはいえ、この世界には創造神であるファンカレアしか神様が存在しないから仕方がないんだけどさ……。

 こんな悩みを抱える事になるとは思いもしなかったよ。


 俺がそんな事を考えていると、ようやくこちらを見たグラファルトは俺の顔を見て納得した様な顔をしてある提案をしてくる。


「あー……確かに、お前の場合は特殊ではあるな。そうだな……いっそのこと、ファンカレアに直接話すか?」

「……それ修羅場にならない?」

「我とファンカレアが? それはないだろう……。まあ違う世界に居たお前には理解し難い事かもしれないが、こちらの世界では男が何人もの妻を持つのが当然なのだ。ファンカレアもそれを十分に理解しておるだろう」


 いや、そうだろうけどさ……。


「ファンカレアとはまだ恋人なんだぞ? それなのにグラファルトと先に結婚だなんて……何か言われないか?」

「むっ……それは分からぬな。順列にこだわる様な性格ではないと思うが……ならば――同時に婚姻の儀を行うか?」


 とんでもないことを言いだしたぞこの子……。

 そんな俺の内心を知る由もなく、グラファルトはキラキラとした目で思いついたであろう計画を嬉々として語り出す。


「我とファンカレア、それに黒椿を含めた三人と同時に儀式を行えばいい! それならば順列を気にするような者が居たとしても問題なく行えるし、皆も幸せになれるであろう? 何度も行う手間も省けるしな。どうだ!? これを思いついた我は天さ――むぐぅッ!? な、なにを!?」

「うん、ちょっと静かにしようか」


 物凄く興奮した様子でこちらに顔を近づけて来るグラファルト。

 そんなグラファルトを黙らせるべく、両手が塞がっていた俺はタイミングよく近づけてくれていたグラファルトの顔に近づいて、その口を自分の口と重ねて黙らせることにした。


 最初は抵抗していたグラファルトではあったが、次第に抵抗が弱まりその顔を上気させて大人しくなる。

 こうして俺は、興奮冷めやらぬ状態であったグラファルトを黙らせることに成功した。












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 シリアスな展開が続いていたので、ここらでこういった話も挟もうかと……。

 次回を含めた数話で第二章も終わります。

 次章からはシリアスは控えめにする予定……(作者的にはそうしたいと思っていますが、物語の進行具合でどうなるかわかりません……)。


 これからも本作をどうぞよろしくお願いします!


                              炬燵猫

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