第47話 宝探し?





 しばらくの間ミラを撫で続けていたら、「もういいわ」と言いミラは俺の胸から手を放して離れて行った。

 気のせいかもしれないが、ミラの顔は少しだけ赤かったような気がする。

 まあ、気になったとしてもそれを本人に聞くつもりはないけどね?


 言ったら何されるかわからないから……。


 そうして俺から一歩距離を置いたミラは咳払いを一つして、本来の目的であるスキル操作についての説明を始めた。


「さて、今日から時間にして三日くらいかしらね? あなたには、フィエリティーゼで生きて行くうえで必要になるであろう技術を、この短い時間で身につけてもらうことになるわ」

「え、でも覚えるまで時間は延ばせるってさっき……」

「いくら時間を止める事が出来ると言っても、早いに越したことはないでしょう? 安心しなさい、あなたと黒椿以外の三人はフィエリティーゼにおいて十分と言えるほどの強さを持っているのだから。三日もあれば十分よ」


 ミラはそう言うと、俺の返事を待つことなく素早くスキルの説明へと移るのだった。


 ちなみに、停止させている約三日分の時間はスキル・体術・魔力の三つに分割して教える事になっているらしい。

 教える側もミラ、グラファルト、ファンカレアの三人で交代して行うのだとか。

 今まで接してきた感じだとこの割り振りは適材適所に思えてしまう。

 一番心配なのは二日目だな……グラファルトがまともに教えてくれるところが全く想像できない。

 グラファルトには申し訳ないけど、他の人が掛け持ちしてくれないかな……。


 無理だろうな……。



 こうして、少しの不安を募らせながらも俺が転生するまでの長い長い三日間が始まろうとしていた。










 一日目はスキルということで、講師はフィエリティーゼ最強の魔法使いであり俺の祖母でもあるミラである。

 早速スキルに関しての授業が始まるのかと思っていたのだが、ミラは首を傾げながら困った顔をしていた。


「教えるとは言ったけれど、五年前に大体の事は教えてしまったのよね……」

「……あー、そういえば大雑把にだけど種類とか、使い方とか聞いた気がする」

「まあ、私としては楽でいいのだけれど……流石に何も教えないのはどうかと思うから、とりあえずはスキルを自在に操れる様になる為の訓練でもしましょうか」


 そう言って、ミラはスキル操作についての簡単な説明をしてくれた。


 スキルを自在に操れる様になるには、自分のスキルが何を出来るのかを完璧に理解しなければいけないらしい。

 そして、特に重要なのが回数をこなす事なのだとか。


「なんだってそうだと思うけれど、回数が増えれば増える程に慣れてくるし、そのスキルについて知る事にも繋がるのよ。あなたの【漆黒の略奪者】は私の【紫黒の魔力】と【吸収】に似ているから、多分この方法で扱える様になると思うわ」

「そうなのか……じゃあ早速、【漆黒の――「待ちなさい」……?」


 教えてもらった通りに【漆黒の略奪者】を使おうとすると、ミラは俺の口を塞ぎ制止する。

 何故止められたのかを理解できずにいると、ミラは呆れた様に俺に話し始める。


「あなたねぇ……自分がどれだけ凶悪なスキルを持っているのか、ちゃんと理解しているの?」

「ええっと……ミラ? もしかして怒ってる?」


 俺の口元から手を放したミラは、俺の頬へと両手を持っていき力強く引っ張り出す。

 そうして、俺の質問に答えるでもなく目を細めて明らかな作り笑いを浮かべる少女は淡々と語り出した。


「――黒椿から聞いたのだけれど、あなたの【漆黒の略奪者】は周囲の人間の全てを奪う事が出来るのよね? まだ完全に掌握していない【漆黒の略奪者】を使うのは、私がこの空間から出てからにして欲しいわ。それともあれかしら……あなたは私が死んでも構わないと思っているの? そこの所、く わ し く 聞いてみたいわ……?」

「ひっ……ごめんなさい……」


 怖いよ!? 全くそんなつもりはなかったんだけどそうか、思えば【漆黒の略奪者】について何も知らないんだよな……。

 そんな段階で周囲への、ミラへの配慮を考えず使おうとした俺が悪いよなこれは。



 この後、未だに怖い作り笑いを浮かべるミラに悪気が無かったことを説明して、なんと許してもらうことが出来たのは……それから約数十分ほど後の事であった。

 








 スキルを自在に操る為にミラが空間の外に出た後は、ひたすら同じことの繰り返しだった。

 拡張され広々とした結界空間の内部は、大体1000kmほどの広さがあるらしい。


 今回の訓練内容は、この広い空間内にミラが適当に置いた五つの魔道具を、【漆黒の略奪者】を使い見つけ出すというものだ。

 俺は今いる場所から動くことは禁止されていて、使えるのは【漆黒の略奪者】のみ。

 三時間ごとに休憩が許されていて、時間は去り際にミラが置いたタイマーで計っている。


 ”それじゃあ、タイマーが鳴ったら外へ出ていいわよ”


 そう言い残して、ミラが結界空間の外へ出てからもうかれこれ一時間が経過している。


「……う~ん、わからん。【漆黒の略奪者】が発動しているのは自分の格好をみればわかるけど、集中するだけじゃダメなのか?」


 俺の格好は儀式の間にてグラファルトと戦った時と同じく、漆黒の魔力が物質化した服に変わっている。

 これも【漆黒の略奪者】の力なんだろうけど……漆黒の魔力で出来ているってことは何か効果があるのだろうか?

 といっても今は攻撃される訳でもないし、いまいち効果がわからない……もう少しスキルについて理解してからミラに頼んで攻撃してもらうか。


 とりあえずスキルを使わないと訓練にならないので、俺は漆黒の魔力を広げるように意識して周囲へと放出してみる。

 すると、漆黒の魔力は俺を中心に物凄い速さで広がり続けていき、黒い霧のように結界空間の内側を染めていく。

 そうして漆黒の魔力が広がり続けるのをぼーっと眺めていると、少しだけ自分の体から何かが抜ける感覚があった。


「ん? ……なんだろう、体が少しだけ怠い気がする。もしかして体内の魔力が減ってきてるのか?」


 そう思った俺は、目を閉じて漆黒の魔力へと意識を向ける。どれくらい漆黒の魔力が広がっているのかを確認できないか考えていると、目を閉じているはずなのに上空から結界内を見ているような奇妙な感覚に襲われた。


「これってあれかな……黒椿が使ってた【千里眼】だっけ? あれに近い感じがする。漆黒の魔力が漂う空間なら、意識すれば好きな場所を見ることが出来るってことなのか?」


 【漆黒の略奪者】しか使えない俺にとってはありがたい能力だな。


「もしかして、これを使えば簡単に魔道具を見つけられるんじゃ……よし」


 そう思い、俺は休憩までの残りの時間を周囲の捜索へと費やしたのだった。














「――それで、結果はどうだったのかしら?」

「……全然ダメでした」


 三時間が経過して結界空間から外へと出た俺は、ミラが用意していたテーブル席へと腰掛けてミラへの報告を行っている。

 俺の話を聞き終えると、ミラは小さく微笑み話し始めた。


「まあ、最初の内はそんなものでしょう。そうね、まずは【漆黒の略奪者】の能力についてまとめてみたらどう?」

「能力についてねぇ……」

「大丈夫よ、あなたが結界内で訓練してる間にちゃんと黒椿に聞いてきたから」


 そう言うと、ミラは小さな紙を取り出した。そこには可愛らしい文字で【漆黒の略奪者】についての詳細が書かれている。


「これって誰が書いたの?」

「私よ」

「……可愛い文字だね」

「……」


 紙に書かれた文字を見ながら俺がそういうと、目の前に置いていたはずの紙が瞬く間に消えた。

 そうして、視線を正面へと移すと……そこには顔を赤くしてこちらを睨むミラの姿が映る。その右手にはくしゃくしゃになった紙が握られていた。


「やっぱり、私が説明するわ」

「え、でも紙があるならそれを見るから大丈――「……私が説明するから」……よ、よろしくお願いします」


 俺が話し終わるよりも前に、右手に持っていた紙を魔法で作り出した火で燃やし、ミラは鋭い目つきでこちらを見てくる。

 逆らったら殺されそうな雰囲気を放つミラに俺は激しく同意せざる終えないのであった。



 俺の反応に満足した様子のミラは、紅茶を一口飲むと俺にも分かるように【漆黒の略奪者】の能力について説明してくれた。


 まとめると。

 一、漆黒の魔力に触れている対象のスキル・ステータス・称号・レベル・魔力・記憶・肉体的経験といった全てを奪う事可能である。

 二、漆黒の魔力は……魔力が続く限り永遠とその距離を広げることが可能。(邪神を倒した俺なら100kmくらいなら余裕らしい) 

 三、物質化した服は、敵の攻撃を吸収することが出来る。(ただし、俺が意識して行わないといけないため自動的に吸収してくれるわけではない)

 四、漆黒の魔力を広げる事で空間を支配することが出来る。(視野拡張、魔力による制圧、魔力を増やせば空間を隔絶することも可能)


 そのほかにも色々と能力があるらしいのだが、ミラは自分の口から説明する事になるとは思っていなかったらしく、とりあえず重要そうな三つしか覚えていないとのこと。

 ならやっぱり紙を見たかったと思った俺だが、そんな俺の心を見透かす様にミラが冷たい笑みを浮かべた為、俺が文句を言う事はなかった。


 後で黒椿に聞こう……命を大事に。


 そうして、俺は椅子から立ち上がりミラから逃げるように空間内へと戻ることにした。


「た、助かったよミラ。ありがとう!」

「それなら良かったわ。ああ、それと……」

「な、なに?」


 俺が後退しながらそう言うと、ミラは微笑みその口を開く。


「ふふ……そんなに怖がらなくても大丈夫よ。一つだけアドバイスをしようと思っただけだから」

「……アドバイス?」

「ええ、漆黒の魔力が広がる空間内においてただ視野を広げるだけじゃなく、もう一工夫した方が良いわよ? 例えばそうね……魔力を見る様に意識してみるとかね」

「そうか……その手があった!!」


 探しているのは魔導具なんだから、もしかしたら大気中にある俺の魔力を吸っているかもしれない。その揺らぎを見ることが出来れば、見つけられるかも……。


「早速試してみる!! 本当にありがとう!!」


 そうして俺はミラにお礼を言った後、結界内へと駆けて行きミラのアドバイスを参考に魔道具の捜索へと移ったのだった。















@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@


 本日から訓練パートへと突入します。



 次回のメインは体術らしいですよ?

 ということは……あの先生の登場ですね。


@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る