第46話 『創世』の女神
ミラスティアにスキルの扱い方を教えてもらう事になった俺は、白色の世界に作られた結界空間と呼ばれる場所へとやってきた。
結界の内部は外から見たよりもかなり広い構造になっていて、不思議な事に内部には青空と土壌の大地が広がっている。
「これが結界空間ってやつなのか……」
「結界空間とは呼んでいるけれど、仕組み的には世界の創造に近いわね」
「世界の創造?」
「ええ、”創世”の名を持つ神が得意とする権能の一つね。あなたはいまいち理解していないと思うから教えておくわね? フィエリティーゼの創造神であるファンカレアは、神々の中でも頂点に位置するくらいの力の持ち主よ?」
「そうなの!?」
ファンカレアってそんなに凄い存在だったのか……。
女神様だから凄い存在だと言うのはなんとなく理解しているつもりだったけど、神々の頂点って……だめだ、俺にとっては恥ずかしがり屋の可愛い恋人でしかないないから全くイメージが湧かない。
衝撃的な事実に混乱していると、ミラは俺の顔を見て微笑み話し始める。
「あらあら、これはちゃんと説明してあげた方がいいかしら? と言っても、私もあの子から直接聞いたことしか教えてあげられないけれど。あの子はね、フィエリティーゼを守護するようになってから、自らに制約をかけて、その力を封印している状態なのよ」
「え、それって大丈夫なの? 邪神なんているくらいだから、ファンカレアを狙う神々もいるんじゃ……」
「大丈夫よ。さっきも言った通り、あの子の本質は”創世”を司る最強の女神様だから、封印していると言ってもその力はそこら辺の神様よりも強いままなのよ」
「そうなんだ……でも、どうして封印なんてことを……」
俺がそう聞くと、ミラは少しだけ困ったような表情を浮かべ語り始める。
「……そうしないと、”誰もあの子の前に立つことが出来ないから”、としか言えないわね。そもそも、ファンカレアと言う存在は他の神々とは全くもって違う存在なのよ」
「えっと……?」
「例えばあなたの世界を管理している管理者がいるでしょう? あなたの住む地球には八百万の神々が存在していて、その中で一番力を持つ神が代表として地球を管理している……それが地球の管理者と呼ばれる存在よ。それを聞いて、あなたはどう思った?」
「……正直漠然にとしか答えられないけど、八百万の神々の頂点って言う事は、想像も出来ないくらいに強い存在なんだろうなあって」
そう答えると、ミラは小さく頷き再びその口を開く。
「そうね、私が全力で戦ったとしても勝てる気はしないわ……でもね、ファンカレアにとってはそうではないのよ」
「戦ったとしても余裕で勝てるっていうこと……?」
「違うわ」
「え?」
俺の言葉をミラは間髪入れずに否定する。
そして、真剣な眼差しで俺を見ると、重々しい空気を纏わせながら語り出す。
「――”戦っても勝てる”じゃないの、”戦わなくても勝っている”の。”創世”の力を持つファンカレアが、その封印を解いて立つだけで地球の管理者はその場に平伏する」
「ッ!?」
「出会ったら終わりなのよ。神である管理者が同じ神であるはずのファンカレアを前にするだけで、それだけで負けを認めて平伏するの。”どうか、存在を消すことだけはお許しください”ってね」
「……」
語られる事実に思わず黙り込んでしまう。
あんなにも慈愛に溢れた優しい笑みを浮かべる女性が、そんな力を持っているなんて……想像も出来なかった。
「それ程に強大な力を持って……あの子は酷く傷ついたわ。もし、あの子に感情がなかったとしたら傷つくことはなかったのかもしれない。神様ってね、感情を持っている存在が少数で、大多数は感情を持ち合わせていないの」
「……でも、ファンカレアは感情を持っていた」
「そう……あの子は生まれながらに感情と、全てを超越する”創世”の力をその身に宿していた。それがあの子にとっての不幸でもあった……生まれたてのあの子の力を狙って多くの神々がファンカレアの命を狙って来たらしいわ」
生まれたばかりのファンカレアは、”創世”の力を理解できず扱いきれていない状態だったらしい。そんな事情を知った数多の神々は、幼いファンカレアが持つ絶大な力を求めて力を奪う為にファンカレアへと牙を向けた。
しかし、神々に襲われたはずのファンカレアは生きている。
それはつまり――自分を殺そうと襲って来た多くの神々を、生まれたてのファンカレアが返り討ちにしたと言う証明でもあった。
「あの子は生まれながらに戦いを強いられてきた。そうして幾億年の月日を戦い続けて、あの子の周りには誰も寄り付かなくなっていた。気づいた時にはたった一人……時空を超えて彷徨う存在となったファンカレアはそこで孤独を知ったのよ」
「……」
「そうしてあの子は理解したの、自分という存在がどれだけ異質なモノなのかを……”創世”の力を持つ自分が、その他の神々にとっての本当の神様であるのだと。だからこそあの子は自らの力を封印して求めたの、自分を分かってくれる存在を、前ではなく隣に立つことを認めてくれる存在を」
そんな存在を求めて、世界を作り守護してきた。
それでも求めた存在は現れることなく、また月日は流れ……ミラという友が出来て、そして俺が現れた。
そこまで話すと、ミラは俺に頭を下げ始める。
ミラの行動に驚き慌てて顔を上げさせようとするが、ミラは顔を上げることなく謝罪の言葉を口にする。
「ごめんなさい……あなたがフィエリティーゼに行くことになった原因は、私にあるの」
「……それって、ミラが五年前に話していた”私達の罪”ってやつのこと?」
「そうよ。私は夫であった蓮太郎と地球へ行く為に、未来の子孫であるあなたの運命を決めてしまったの……地球の管理者と契約を交わしてね」
そうして、ミラは俺に聞かせてくれた。
祖父である蓮太郎さんとミラが地球へ向かうときに交わされた契約について、そして、ミラがファンカレアの事を思って、自らの子孫を転生させる決断したという事実を。
ファンカレアからも聞いた気がするな……地球の管理者とミラの間で決まってしまったって。そのことについて、ファンカレアからも沢山謝られた気がする。
「顔を上げてよ、ミラ」
「……」
「俺はさ、地球での人生に後悔はしていないんだ。ファンカレアにも言ったんだけど、俺は幸せだったよ。妹を救えて、家族に愛されて……本当に幸せな人生だった。まあ、精神世界でグラファルトには”やっぱり寂しい”なんて愚痴っちゃったけどね」
でもそれは、ヴィドラス達の事を妹と重ねてしまっただけであり、いまは本当に満足している。
「どうしようもなかったんだよ。地球の管理者も、ミラも、そしてファンカレアも、沢山悩んで苦しんで……そうして出した決断でたまたま俺が選ばれただけなんだから」
「……怒ってもいいのよ? その権利があなたにはあるのだから」
「いらないよ、そんな権利。むしろ感謝したいくらいだよ」
俺がそう口にすると、ミラは顔を上げて首を傾げる。
そんなミラに俺は笑みを浮かべ、感謝の気持ちを伝えるのだった。
「ミラが決断してくれたおかげで、俺はファンカレアに出会えた。ミラが決断してくれたおかげで、俺は黒椿に再会できた。ミラがしてくれた決断が、俺に多くの幸せを運んできてくれたんだ」
「……ッ」
「ありがとう、ミラ。ミラが決断してくれたおかげで……俺はいま、幸せだよ」
そうして、俺はミラの頭を撫でる。
俺よりも拳一つ分くらい背丈の低いミラを撫でていると、目線よりも少し下に映るミラの瞳からは静かに涙が零れていた。それに気づいた俺はミラの後頭部を軽く押して、その顔を俺の肩へと埋める。
「……あなたは、優しすぎるわ」
「そうかな?」
「ええ、そうよ……怒ってもいいのに、恨んでもいいのに、ありがとうなんて……そんなの、ずるいわ」
そうして、ミラは俺の胸に手を置いて嗚咽を漏らす。
俺はそんなミラの頭を撫で続けて、ミラが泣き止むその時を静かに待ち続けるのだった。
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本作を読んでくださっている皆様。
いつも本当にありがとうございます。
そして、主人公である藍くんが中々異世界へと転生することが出来ず申し訳ございません。
本作を書いている私自身、ここまで転生するまでのお話が続くとは想像しておりませんでした。
では、いつ転生するのか?
作者の予定としましては、この後に訓練をする描写を数話書いてからと考えています。そして、異世界へと向かう描写を描いた後にフィエリティーゼでのお話になるかと……。
毎日投稿がこんなにも大変だとは……もしかしたら、適度にお休みをいただくことになるかもしれません……。
最近はスランプ気味で中々筆が進みませんが、書きあがり次第投稿し続けますので、これからも本作をよろしくお願いいたします。
また、質問等ございましたら是非是非ご感想お聞かせください。
時間があるときに答えられる範囲でとなりますが、真摯にお答えさせていただきます。
長くなりましたが、本作を見てくださっている皆様本当にありがとうございます。
炬燵猫
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