第25話 嘆きの竜は、真実を知る。
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炬燵猫です。
今更ながらに「そうせい」が「創生』となっている事に気づきました。
今後は「創世」となり、過去の話に出てきた文字も修正しますのでご了承ください。
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目の前に居るのは、フィエリティーゼへ降り立つ為に創世の女神から連れ去った転生者の男だ。
見るからに脆弱そうな人間。
我よりも劣る存在。
女神の加護を受ける前に攫ったその男は、心が弱い人間だった。
我の記憶を覗き、邪神の欠片に取り込まれ自我の崩壊を引き起こす。
そうして、空っぽの器になった時――邪神である我がその体を使いフィエリティーゼを滅ぼす。そういう計画だった。
それなのに、我は揺れ動いてしまった。
楽しそうに笑う男が、過去に重なって眩しく見えたんだ……。
それが、何百年も封印された影響なのかはわからない。会話をしたのが久しいからそう感じたのか、それとも……この男に何か理由があるのか。我は、いつの間にかこの男に興味を持つようになっていた。
しかし、邪悪なる神格がそんな我を拒絶する。
あの時、同胞たちが殺されたあの瞬間に感じた憎悪が強く思い出される。
憎い……あの世界が、そして世界を創り出した創世の女神が……邪悪なる神格はそんな我を利用しているのかもしれない。だが、もうどうしようもない事だ。
体は既に自由を失い、破滅と混沌を望んでいる。
薄れていく自我の中で思い出すのは愛しい同胞たちとの日々だった。
『魔竜王様……ど――し――』
ああ……ヴィドラス。
『――あなた様と――せ―――』
なんだ? お前はなんと言っているんだ?
『あな――こ――みち――――』
……安心しろヴィドラスよ。必ず世界は滅ぼしてみせる。
だから――。
「――聞こえているかグラファルト」
……この声は、あの男か。
そうか、生きていたのだな。
我は、いまどうなっているのだろうか? このまま、消えてしまうのだろうか……。
「――お前の記憶を見て、過去に何があったのかを知った」
そうか――お前は我の過去を知ってしまったんだな。
全ては邪悪なる神格の思惑なのだろう。しかし、お前がこうして話しているということは邪悪なる神格は失敗したのだな……。
「――ヴィドラスの出会いを知った、アグマァルとの出会いを知った、お前が愛した同胞との毎日を知った」
――楽しい日々だったんだ。
同胞とは……家族とは……こんなにも温かいものだったんだと、我の心が満たされていくのを感じたんだ……。
だが、もう取り戻すことは出来ない……この世界は、創世の女神の手によって操られているのだからな……だから、我が滅ぼすのだ……この世界を、創世の女神を……。
「――だからこそ、俺はお前の事を止めてみせる。世界を滅ぼすなんて絶対にさせない!!」
――な、んで……何故、何故だ……。
お前は我の記憶を見たのであろう? 我の苦しみを、嘆きを知ったのであろう?
もう動かせないと思っていた体が我の意思で動かせる。
邪悪なる神格が深い傷を負っているのか……だが、そんなことはどうでもいい。
立ち上がれ……この愚か者に言ってやらねばならぬ。
お前は、我の記憶を見ておいてそれでも世界を守ると言うのか……!!
『何故だ……何故なんだ!!!!』
そこから我は語り続けた。
怒りを、憎しみを、悔しさを、悲しさを、全てを目の前の男にぶつけて我が正しい事を証明するように……いや、違うな。
きっと、こやつにだけは分かって欲しかったんだ。
我の過去を知ったこやつにだけは、我の味方でいて欲しかったんだ。
そうか……我は理解してほしかったんだ。
頼む……わかってくれ……。
『――我は……我はただ、同胞たちの願いを……この世界を滅ぼすことを……』
「違う」
ああ……やはりダメなのか。
お前は、我の理解者にはなってくれぬのだな。
「お前は間違っている」
やめてくれ……。
お前に拒絶されたら……過去を知ったお前にそんな事を言われたら……我は、我の選んだこの道が……。
「――忘れてしまったんだな」
忘れるわけがないだろう!! 同胞の死も、転生者たちの憎き顔も!!
全てが我の心に深く刻まれている……!!
あの日の事を、忘れるわけが――
「――お前は忘れてしまったんだよグラファルト……忘れてしまったんだ。大事なことを……同胞たちの最後の言葉を……!!」
『――何を言っている……我が、忘れることなど……』
「思い出せよ!! お前が最後に見た光景を!! その言葉を!! 一言一句、違えることなく思い出せ!!」
『ッ!! 嘘だ……そんなわけがないだろう!? 忘れてなんかいない!!』
そうだ、絶対に忘れるわけがない。
忘れてはいけない。
同胞の死を、転生者の顔を、あの時の憎悪を……!!
「お前は自ら復讐することを望んだんだ!! あいつらの言葉を、想いを忘れてしまう程の怒りと、そして憎しみに飲み込まれて……」
『……違う』
「――家族を失った悲しみを埋めるために、お前は悪に身を委ねた」
『……違う』
「家族のいない現実を受け入れられなくて……お前は、世界を破壊することをその力に誓ったんだ!!」
『違う!! 違う違う違う!! お前は嘘つきだ!! これは、我ら竜種の願いなんだ!!!! お前は我を説得する為だけにそんな嘘をついているのだろう!? そんな薄っぺらい言葉に騙されてたまるか!!』
「思い出せよ!! あいつらが最後、お前になんて言ったのか!! ちゃんと思い出せよ!! ヴィドラスが、アグマァルが望んだのは……世界の滅亡なんかじゃないはずだ!!」
『お前に……!! お前に何が分かるんだ!!!! お前なんかにヴィドラスとアグマァルの気持ちが分かってたまるか!! たかが記憶を覗いただけの分際で、あやつらのこと理解したつもりか!? お前にはあやつらの気持ちを理解することは出来ない!! あやつらは、世界の滅亡を望むに決まって――「ふざけるな!!!!」……ッ!!』
儀式の間へと響き渡る怒号に、思わず体が反応する。
「ふざけんじゃねぇぞ……!! お前は家族の事をなんにもわかっちゃいない!! 最後の願いが”世界の滅亡”だと? そんなことをあいつらが望むわけないだろうが!! 家族っていうのはな……大切な存在なんだよ!! 家族の為なら命すら懸ける事が出来るくらい、すげぇ存在なんだよ!! 家族を守ることで、例え自分が死ぬことになろうとも……家族さえ生き続けてくれれば、幸せな毎日を過ごしてくれれば……それだけで、それを思うだけで、自分の人生が決して無駄なモノじゃなかったって誇りに思えるんだよ!!!!」
涙を流して、目の前の男は我に語り続ける。
何で……お前はこんなにも怒っているんだ……。
たかが今日出会っただけの他者の話に、どうしてそこまで怒れる?
そして――どうして我は、こやつの話に、こんなにも胸が苦しくなるんだ……。
「思い出せよグラファルト!! お前の大切な家族はお前に世界を滅ぼすことなんて望んじゃいないはずだ!! お前自身が家族の価値を、ヴィドラスたちのその生き様を汚すなよ!!!!」
我が……我があやつらの生き様を……?
そんなはずは……違う……我は……。
――魔竜王様。
ヴィ……ドラス……。
――どうか――どう、か――悲しまないで――。
ッ……嫌だ……。
――あなた様と私達が、笑顔で過ごしたこの世界を――どうか守ってください。
嗚呼……そんな……嘘だ……。
――あなた様と過ごせた日々……本当に、幸せ――でした。
嗚呼……すまない……みんな……ッ。
――魔竜王様、どうか……どうか、幸せに満ち溢れた毎日を……。
嗚呼ァァァァァッ!!!!!!!!
『嗚呼……嗚呼ァ!!!! 我は……我は一体……どうして……どうして忘れていたんだ……!? 我は……嗚呼ァァァッ!!!!』
「グラファルト!?」
我は……どうして……。
黒い影に染まっていく。
もう、何も見えなくなる……かけがえのない大切なことを思い出させてくれたあの男の顔が薄れていく……。
「しっかりしろ!!」
嗚呼……思い出せて良かった。
ヴィドラス……アグマァル……同胞たちよ……。
すまぬ……我は間違ってしまったのだな……。
最後に、最後に願う……。
我はどうなってもいい、消えてなくなろうと……魂が消え去ろうとて構わぬ。
だから、強き意思を持つ者よ……。
『――頼む……あやつらの……あやつらの愛した世界を……救ってくれ……』
……我の言葉は届いただろうか?
もう、何も聞こえない。
みんな……我は、我はな。
お前たちとの毎日が、楽しくて、幸せだったことを。
最後に、お前たちが何を望んでいたのかを。
ちゃんと、ちゃんと思い出したぞ……。
「安心しろグラファルト、お前の罪も、憎悪も、復讐も、願いも、想いも、全て俺が引き受ける……だから、もう少しだけ待っていてくれ。いま助けるからな……力をよこせ――【漆黒の略奪者】ッ!!」
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