第18話 儀式の間にて ②
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名前 制空藍
種族 人間(転生者)
レベル 156
状態:自我の修復(83.7%)
スキル:
固有スキル:
特殊スキル:【改変】【漆黒の魔力】【(改変中)】【悪食】【魔法属性:全】
称号 【精霊に愛されし者】【黒椿の加護】【異世界からの転生者】【女神の寵愛を受けし者】
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儀式の間を出て直ぐの選定の舞台。
ステータス画面を見てファンカレアとミラスティアは思わずその情報量に呆れ驚いていた。
「えっと……言いたい事が沢山あるのですが……とりあえず、レベルが上がったことで魂がこの世界に固定されたのは事実みたいですね」
「……そうね。それよりも気になる情報が沢山あるけれど、とりあえずあの子はもうフィエリティーゼに転生することが出来るわ」
儀式の間では通常、低レベルの魔物狩ることでレベル0から1でも上げれば魂の情報がフィエリティーゼに登録される。そうして転生者への試練は終了しフィエリティーゼに転生していくことになるのだが、藍の場合そうはいかなかった。
ファンカレアからの説明を受ける前に邪神により連れ去られて儀式の間へと足を踏み入れた藍は、ファンカレアの加護を受けることが出来なかった為ファンカレアから与えられるスキルに頼ることなくレベルを上げなければならなかった。
普通では、到底成し得る事の出来ない試練。
魔物と認定された邪神にダメージを与えて、その経験からレベルを上昇させなければならない。スキルを持っていたとしても難しいこの試練を藍はいとも容易く成功させた。それも、ミラスティアから与えられてた【吸収】と【闇魔力】を使わずに自らが持っていたとされる未知のスキルを使うことによって。
藍の魂が世界に固定されたことに安堵し、二人はステータス画面を上からなぞるように見ていく。
「レベルは……まぁいいわ。邪神を攻撃したことで急激に上がったとして置いておきましょう。状態――これはどういうことかしら?」
レベルに関してそこまで考える必要はないと判断し、ミラスティアはその下に表示されている状態について話始める。ファンカレアは少しの沈黙の後に口を開いた。
「言葉通りに捉えるとするならば、邪神によって崩壊した自我を治しているという事ではないでしょうか? 括弧の中に書いてあるのは修復が完了するまでのパーセンテージと考えるのが妥当かと」
「……そうね。そうだとしたら、あの子はとりあえず無事ということになるのかしら」
ミラスティアの言葉に強く頷くファンカレア。その心は高鳴り、藍の帰還を心から待ち望んでいた。そんなファンカレアに応える様に自我の修復も83.7%から89.6%へと上昇していく。
「ふふふ。さて、問題はここからね……」
少しづつ増えていくパーセンテージを、落ち着きのない様子で見ているファンカレアに、ミラスティアは笑みを溢しステータス画面の下へと視線を向ける。
「【改変】ねぇ……そんなスキル聞いたこともないわ」
顎に手を置き考えるミラスティア。彼女はフィエリティーゼで暮らしていた頃、多くのスキルをその目で見て来た。正直、彼女を覗いてスキルの知識に関して右に出る者はファンカレアが保有する世界の情報が記録されている黄金色のステータス画面くらいだろう。
「特殊スキルは希少スキルですからね。ミラがフィエリティーゼに居た頃に出会わなかったという可能性がないとは言い切れませんが……どうやら、今回は違うようです」
目の前にある黄金色のステータス画面を操作してファンカレアはそう言った。
「藍くんの保有しているスキルの内、【改変】と【漆黒の魔力】はこの世界には存在しないスキルです。おそらく、藍くんがこちらに来る前から保有していたスキルではないでしょうか?」
「……【改変】に関してはそう考えるのが妥当かしらね。【漆黒の魔力】については……少し、心当たりがあるわ」
そう言いミラスティアは儀式の間に漂う紫黒の魔力を見る。それはミラスティアが【闇魔力】の派生系として手に入れた【紫黒の魔力】というスキルによって生み出されたモノだった。
「その心当たりとはなんですか?」
「あの子に渡したのは昔戦った魔法使いから奪った【闇魔力】なの。私の【闇魔力】は【紫黒の魔力】に変化してしまったから。つまり、あの子のスキル欄に【闇魔力】がないということは……私と同じと言う事よ」
溜息混じりにミラスティアはそう答えた。藍の【闇魔力】が変化したその先にあるのが【漆黒の魔力】だと。
「……そんなことが可能なんですか? 女神である私でも、スキルを一度も使っていないはずの人間がそのスキルを変化させるなんて聞いたことも見たこともありません……」
「私も同じよ。まあ、大方予想はついているけれど……それに関しては――私達を見ている本人に聞いた方が早いかもしれないわね」
「答えてくれればだけれど」と、ミラスティアは鋭い視線で儀式の間を見つめる。 ミラスティアの視線を追うようにファンカレアもそこへ視線を移すと……そこには、話の題材である黒髪の青年がこちらを見ていた。
「……」
何も話すことなくただこちらを見続けている藍を操る【改変】。その奥の壁でミラスティアの”支配”と黒い魔力に貫かれ身動きが取れない邪神の姿が小さく呻き続けている。
「さて、私達を見て何を考えているのかしらね……」
「わかりません……ただ、敵意や殺意といったモノは感じませんが……」
そうして二人が話していると、【改変】が二人の元へと足を進め始めた。
一歩、また一歩とゆっくり進み中央を超えて選定の舞台へ続く扉までやって来る。そして、あと一歩進めば儀式の間から選定の舞台へと移るという所でその足を止めた。
選定の舞台で立つ二人は警戒を緩めることなくその動向を伺う。
「――ミラスティア・イル・アルヴィス」
「……何かしら?」
【改変】が抑揚のない声音でミラスティアの名を呼んだ。その瞳には光が宿っておらず、何処までも暗い漆黒が二人の事を見つめていた。
「主である制空藍の魂の固定が完了しました。よって、この場に滞在する時間を停止させている魔力は不要と判断します」
「……驚いたわ。それに気づいていたなんて」
ミラスティアは【改変】の言葉に驚きを隠すことなくそう告げた。ミラスティアが得意とする固有魔法”空間支配”は、紫黒の魔力を周囲に拡散することによって、その空間内のすべての事象に干渉することが出来るという驚異の魔法だ。それは形あるものに限られず、魔力の量さえ増やせば空気、時間、感情なども支配することが出来る。
【改変】はミラスティアの”空間支配”を瞬時に見抜き、能力を言い当てたのだ。
「以前に主である制空藍が貴女と出会った際、体感した”空間支配”を解析しました」
「そう易々と解析できる魔法ではないのだけれど……まあいいわ。それで? あなたの要望は、私に”空間支配”を解除させる事なのかしら?」
淡々と”空間支配”を解析したと告げる【改変】に、若干の不満を募らせるミラスティアであったが話を戻し【改変】の目的を尋ねた。
ミラスティアの問いに【改変】はゆっくりと首を振る。
「否定します」
「……なら、あなたは私に何を望むのかしら?」
「この場に滞在している魔力の使用許可を要請します」
【改変】は後ろに視線を動かしそう答えた。そこには儀式の間に漂う紫黒の魔力が溢れている。
「魔力を使いたいっていうことは、あなたのスキルに関係があるのかしら?」
「肯定します。魔力が足りず改変を中断しているスキルが存在しています。そのスキルの改変を終わらせる為にも、この場に漂う膨大な魔力の持ち主である貴女に使用許可を申請します」
【改変】の言葉に、ミラスティアは思考する。
(わざわざ許可を取るのは要らぬ争いを避けるためかしら……? それとも、”空間支配”を無理やり解除することで発生するアクシデントを懸念して? まあ、どちらにしても敵意はなさそうね)
「……いいわ。あなたのご主人様が無事に戻ってくるのなら好きにして頂戴」
「感謝します、ミラスティア・イル・アルヴィス」
ミラスティアに感謝し頭を下げた後、【改変】は後ろへ振り返り進もうとする。
「待ってください!!」
【改変】の足を止めたのは、今までのやり取りを黙って聞いていたファンカレアであった。ファンカレアはこちらに振り返り自分を見つめる【改変】に静かに語りかける。
「教えてください……藍くんは、無事なんでしょうか? 藍くんのその心は、その魂はいま……その体に宿っているのですか?」
【改変】は数秒の沈黙の後、悲痛な面持ちのファンカレアに淡々と答えた。
「……主である制空藍の魂はこの体に滞在しています。しかし、自我の崩壊を確認した為、崩壊を始めた制空藍の魂を治療するべく、制空藍の体内に宿る守護精霊が創造した精神世界へと送還しました」
「藍くんの守護精霊、ですか?」
「私も初耳ね……」
ミラスティアとファンカレアは【改変】の口から語られる真実に驚愕する。【改変】の言う事が事実なら、藍には世界を創造する神の如き力を有する大精霊が宿っていることになるからだ。
「……ステータス画面、称号の欄を閲覧することを推奨します」
「あっ……」
そう言い残し【改変】は再び儀式の間へと歩みを進めた。
ファンカレアは【改変】の言葉に従いステータス画面へと視線を移す。称号の欄には【異世界からの転生者】【女神の寵愛を受けし者】の他に、ファンカレアにとっては見慣れない称号が書かれていた。
「【精霊に愛されし者】と【黒椿の加護】ですか……。黒椿、これが藍くんが送還された精神世界を創り出した精霊さんの名前ですかね」
「そうね。精霊は名前を与えられることによってその力を大きく増幅させるわ。相性にもよるけれど、この黒椿と言う精霊はどうやら名前との相性がかなり良かったみたいね」
ミラスティアの言葉を聞き、ファンカレアは小さく頷いた。
「そうですか……あなたが藍くんを治してくれているのですね……ありがとうございます……」
ファンカレアはその両手を胸の前で絡ませる。
そして、この場にいない精霊に最大限の感謝を送るのだった。
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