第15話 俺のステータスがおかしい……
草原が広がる世界。
「さて、大分話がそれちゃったね。そろそろ本題に入ろう!」
「そ、そうだな……うん」
黒椿は幸せそうに艶々とした肌をして手を叩く。
そんな黒椿とは対照的に俺はげっそりとしていた。
「ど、どうしたの? 顔色悪いよ?」
「いや、その……やっぱり怒るかな?」
「……あー、女神様の事か」
俺の言葉に黒椿は全てを悟ったみたいだ。
正直、今更だけどファンカレアに怒られる気がする……。大好きと告げた後にファンカレアの返事を聞けないまま邪神に攫わちゃって相当心配かけるてるだろうし、戻ったら戻ったで大好きだと言ってくれた筈の相手から知らない女性の話を聞かされるわけだからね……怒るだろうなぁ。不安だ……すごく不安だ。
うんうん唸りながらそんな事を考えていると後ろからドンッと何かが当たる。それは背後に回り込んでいた黒椿だった。
「大丈夫だよ! 何があっても僕が守るから! これでも君の守護精霊だからね」
「黒椿……」
やばい……泣きそう。
大丈夫? 割と本気で言ってるけど、平気で助けてって呼ぶつもりけど?
「それに、女神様は許してくれると思うよ」
黒椿は俺の背中に覆いかぶさり頬ずりをしながらそう言った。
幸せそうに頬ずりして……。なんだろう、両想いとわかった途端にこの甘えよう……まぁ、可愛いからいいんだけどさ。
「どうしてそう思うんだ?」
「んー……女の勘かなっ」
「根拠があるわけじゃないのね……」
曖昧な回答を受け取り益々不安が募る。
「でも、ここで落ち込んでてもしょうがないよ! それにもう僕と約束しちゃったんだしさ」
「……それもそうか」
頬ずりを止めてぎゅーっと頬をくっつけてくる黒椿。そんな彼女を見ていると不安だ不安だと考え込んでいた自分が馬鹿らしく思えてきた。
そうだよな。それよりも今はやらなきゃいけないこともあるし、切り替えていかないと。
「それじゃあ黒椿先生、頬をくっつけるのはやめてスキルの説明をお願いします」
「え~っ僕はこの状態でも説明できるから、このまま話してもいいよ?」
「俺が落ち着かないから離れてくれ!」
頬ずりされながら聞く話じゃないと思うんだけどな……割と大事な話だよね?
俺の自我が消滅しなかった理由、それは【改変】というスキルのお陰らしい。【改変】について話すにはグラファルトの記憶を遡らなければならないわけで、さっきは邪神の影響が出ないかの確認だけで終わってしまったから、今度こそちゃんと説明してもらわないとな。
黒椿は不貞腐れながら頬ずりだけはやめてくれた。
相変わらず俺の背中には黒椿が覆いかぶさっている。
「あの……黒椿?」
「それじゃあ、説明しようかな!!」
黒椿はこっちの声など聞こえないとでも言うように元気よくそう言った。これは何を言っても背中から離れる気はなさそうだな……諦めよう。
「……はい、よろしくお願いします」
「よろしい。まずは藍のステータスを見るところから始めようかな」
「ステータス?」
そういえば、ミラスティアさんとの記憶にそんな話があったな……選定の舞台でも聞いた気がする。
「ステータスってどうやって見るの?」
「僕も藍の記憶を見てからずっと試してたんだけど、口に出して”ステータス”って言うか、心の中で”ステータス”って念じればいいみたい」
ほら、と黒椿は後ろから伸ばした左腕を俺の胸の前あたりまで持ってくる。
じっとそこを見ていると、ブンッという音と共に半透明で縦長の……所謂ステータス画面が現れた。
「おおっファンタジーだ!!」
「藍は昔からRPGゲームでよく遊んでたもんね」
「あれって一人でも出来るから楽しかったんだよなあ」
「うっ……遊んでた理由がどこか切ないよ……これからは僕がずっと一緒だからね!!」
もうRPGゲームをやる機会なんて二度と来ないと思うけどね……いや、これは一種のリアルRPGなのか……?
ていうか黒椿さん!? 首に腕を回して抱き締めるのはやめてくれないかな!?
「ちょ……黒椿、締まってる……締まってるから……」
「あっごめん、大丈夫?」
「ケホッ、ケホッ……なんとか……」
初めてチョークスリーパーを喰らったかもしれない。
こんなに苦しいのか……そりゃ映画でみんな気絶するわけだよ……。
咳が落ち着いてから改めてステータス画面を見る。さっきと同じ場所で浮かんでいるその長方形の板は何も写していない。
「これって、何か書いてあるのか?」
「うん? ここには僕のステータスが書いてあるよ」
「えっそうなの? 俺には何も見えないけど……」
白い外枠に囲まれた黒い板は表示されているけど、そこに文字なんて書いてないし……あっ、そういえばファンカレアが説明してくれてたな。
「もしかして、これがファンカレアの言ってた”自分のステータスしか確認できない”ってやつかな?」
「あ、そういえば女神様が藍にそんな説明してたね。そっかぁ……自分以外のステータスは見れないのかぁ……」
黒椿は自分のステータスが俺に見せれない事を知ると少し残念そうにそう言った。
「ん、なにか見せたいものでもあったのか?」
「ううん、特に見せたいものがあったわけじゃないけど……藍のステータスを見たり、僕のステータスを見せたり、二人の情報を共有したかったなぁ……って」
ぽそりと小さな声でそう呟く黒椿。
くっ……そういう可愛い発言は心臓に悪いからやめて欲しいな!?
思わず振り返って抱きしめそうになったが、それをなんとか理性で抑えた。
「じゃあ、お互いのステータスを言い合うとかどうだ? それならステータス画面が見えなくても問題ないだろうし」
「……そうだね! でも、全部だと時間が掛かるからとりあえずは今知っておかなきゃいけないものだけに絞って話そう」
良かった、黒椿は俺の提案に少しだけ元気を取り戻したようだ。
黒椿の言葉に頷き、さっそく俺はステータスの確認を始めた。
「……よし、”ステータス”」
黒椿を真似て左腕を前へ伸ばし俺がそう唱えると、伸ばした腕の先にステータス画面が現れる。
やった、人生初のステータス画面! RPGゲームで遊んでた人間としてはやっぱりこういうのを見れるのは嬉しいな。半透明の板には黒椿に見せてもらった時とは違い白い横書きの文字が映し出されている。
「おお……これが俺のステー……タ……」
「……藍?」
ステータス画面を見ていた俺は思わず言葉を途切れさせる。
半透明の板には上から名前、種族、レベル、状態と一行ずつ間隔を空けて書かれており、そこから数行下に行きスキル、固有スキル、特殊スキル、称号と一行ずつ間隔を空けて書かれていた。
地球にあるゲームの知識を使って作ったと言ってもそこまで細かい表示はない様子。ファンカレアも”スキルとレベルを確認する為”って言ってたっけ。
いや、そんなことよりも――。
「あのさ……黒椿」
「な、なに?」
俺が話を聞こうと黒椿を呼ぶと、さっきから様子がおかしかった俺を怪訝そうな目で左側から俺を見る。
「俺……ファンカレアから儀式の間に入る転生者っていうのは最初はレベル0だって聞いてたんだよ」
「――あっ」
黒椿には思い当たる節があるみたいだ。俺がジト目で見ていると黒椿は視線を背らして額に汗を作る。
「――黒椿」
「は、はい……」
「俺のレベルが現在進行形で上昇し続けている理由を説明して貰えるかな?」
現在、俺のステータスは変動を続けている。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
名前 制空藍
種族 人間(転生者)
レベル 152→189→206→230……
状態:自我の修復(99.9%)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
……なにこれ。
名前とか種族は普通だな。いや、括弧で転生者って書いてあるけどそれはもうわかってる事だし、こういう書かれ方するんだな~って納得できる。
問題は下の二つだよな……。
「レベル230……いや、また上がってレベル254……これって普通じゃないよな?」
「それに関しては心当たりが……ってあれ!?」
何かを言いかけて黒椿が声を張って驚愕している。
「いきなり叫んでどうしたんだ?」
「見える……! 僕、藍のステータスが見えるよ!!」
「ええ!? なんで!?」
どうやら黒椿には俺のステータス画面がちゃんと見えるようになっているらしい。
興奮した様子で目を輝かせて俺の肩を叩いている。
「うーん……やっぱり俺は見えないな」
念の為にもう一度、俺のステータス画面の左隣りに並んでいる黒椿のステータス画面を覗くが、白枠で囲んである黒い半透明の板には何も書いていなかった。
「もしかしたら、僕が藍の守護精霊だからかな? 守護する相手の事がわかるようにとか?」
「どうなんだろう……?」
そもそも俺は、ステータス画面の仕組み自体そんなに詳しく聞いたわけじゃないからな……。このことについても戻ったらファンカレアに相談してみた方がいいかもしれない。
「まあ、嬉しい誤算だと思って今は納得しておこう。あとでファンカレアに聞いてみるよ」
「そうだね!」
俺の言葉に黒椿は満面の笑みで頷いた。
嬉しそうに笑う黒椿の頭をポンポンと叩き話を戻す。
「それで? 黒椿は俺のレベルが上がり続けていることに、心当たりがあるんだっけ?」
「あー、そのことなんだけど。レベルの下に表示されてる”状態”が関係してるんだよ」
「……これか」
レベルの下に表示されている状態。
そこには”自我の修復(99.9%)”と書かれている。
「魔竜王の記憶の最後――声が聞こえなかった?」
「声?」
「そう、機械的な声で言われたはずだよ」
黒椿の言葉にグラファルトの記憶が重なる。
最後……映像が激しく乱れてノイズが入り、グラファルトの家族であるヴィドラスとアグマァルの声が途切れた瞬間。
憎悪の渦に飲み込まれた世界で、俺はその声を聞いていた。
――――――自我の崩壊を確認しました。【改変】により自動修復を始めます。
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