第242話
私が考えたのは澱みを吸い込んで魔素に変換する、すっごく簡単に言えば空気清浄機。
恨みつらみが集まって魔王という存在を作ってしまうなら最初から作らなければいいんじゃないかなと、かなり単純な思考という自覚はある。
なのだけど、問題があるのよね。
「人の恨みとか、淀みってどうしたら集めることができるかな」
「うーん、人の感情みたいな形に見えないものなんだったら、集めんの難しいんじゃないか?」
「そうだよね、無理なのかな」
圭人くんと話しながらメモをとる。
最初は真面目に文字を書いていたんだけど、途中からぐちゃぐちゃと人からモヤモヤが出て集まって、大きな魔王になっちゃう落書きをしてた。
私の絵は特徴的と言われるので、私と幼馴染にしか解読できない。圭人くんが私の手元を見て首を傾げたり、うんうんと頷いたりしている。
夕彦くんもメモをとっているのだけど、そちらは私たちの会話も含めてまるで議事録みたい。夕彦くんが作っているようなものが後々役に立つ資料なんだよね、わかってる。
「ありす、人から湧き出ている段階ではまだぼんやりした感情だけど、魔王を形作る時にはそれなりの塊になってるのではないでしょうか」
夕彦くんが私の落書きの魔王部分を指している。私と圭人くんも同じところを見て、夕彦くんの話を聞いた。
「うん、でもこの塊はどこに行くかわからないから」
魔王に向かって流れていくのはわかるんだけど、肝心の行き着く先がどこになるかわからない。
最初から魔王が出現するところに装置を置ければいいんだけど、目ぼしいところに片っ端から置いたとしていくつ作ることになるんだろう、百個で済めば良いけど。
旅してわかったのは、この大陸ってかなり広い。
それを全部カバーすることは難しいけど、やらないと集まって固まった淀みが魔王を生み出す。
「いや、わかるぞ」
圭人くんがちょっと考えてから口を開いた。
「どうやって?」
そして、ジェイクさんから聞いた話を教えてくれた。
「この大陸で魔の森と呼ばれているところは五箇所しかないんだ。いつからか魔の森と呼ばれているが本当は『魔王の森』なんだって。ジェイクはそこまで知らなかっただろうけど、この世界で一番人口が多いのがこの大陸だから他では魔王は生まれない。だからその五箇所に設置すればいいんじゃないか」
「それはありがたい情報ですね。僕も考えたことがあるのですが、聞いてください。」
夕彦くんが一呼吸ついて、飲み物を飲み干した。私は立ち上がり夕彦くんのカップにおかわりを注ぎ、ついでに圭人くんと私のカップにも。
そして聞く体制を整える。
夕彦くんの細くて長い指が、私の落書きをなぞる。
「淀みというのは呪いの一種なんじゃないかと思うんです。ただ一人一人の想いなら弱いし、悪意の対象がいないから結界も通り抜けてしまう」
落書きのもやもやの上に線が書き足されれて、矢印が空に向かって一つの方向に集まる様子になる。
「うんうん」
「今結界は領主が張ってそれぞれの街を維持している状態ですよね、それを村単位までありすの魔道具で張ってもらい、そこに呪いを浄化する作用を組み込んだらいいのではと……」
「!」
頭の中でイメージができた。
結界をフィルターにして淀みを捉えて魔素に変換してその場に循環させる。呪いを捉えるのは光魔法の浄化でなんとかなりそう。
「ありす、こういうイメージで作れますか?」
「バッチリ! 夕彦くん、圭人くんありがとう」
私は二人に相談しながら魔の森に設置する魔道具と、結界の改良版のガワだけを一つずつ作り上げた。
魔の森に置く方は小型の冷蔵庫くらいの大きさで、とにかく丈夫にしてある。
魔獣に悪戯されてもいいようにドラゴンに踏まれたって壊れない。フィルターを変えることができないから自動で掃除できるように夕彦くんに浄化をかけてもらった。
「僕の浄化と光里の浄化は違うんです。僕のは風魔法との複合だから呪いの浄化は難しいでしょう」
夕彦くんがそう教えてくれたので、二つとも中身の魔法は光里ちゃんが戻ってからかけてもらうことにする。
結界の改良版は、以前より一回り大きくなったけどその分少ない魔素で動くようになっている。 悪い人に使われないように街や国、冒険者ギルドとかで登録するようにして使う人を限定させた方がいいね。登録の方法も考えなきゃ。
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