第241話

 冒険者ギルドのある中心部に行くには、人通りの多い大通りを抜けていかなきゃいけない。

 街中に魔獣が出て、それが大きな被害もなくみんなが無事なのがわかって。

 ただ、結界もあるのにどうして魔獣に襲われたのかわからないから王様からのお触れを待っているところ。

 住民は情報が欲しくてそこかしこで立ち止まり、井戸端会議。

 

 この王都の喧騒の中を七人でゾロゾロと連れ立って歩くのは目立ってしまうだろうな。

 杉原さんは勇者として大人から子供まで顔を知られているから、今王都を歩いたらそれこそパレード状態になってしまいそう。

 それに冒険者ギルドに上条さんがいるのはわかってるんだけど、私たちが行ってもしょうがないかななんて思ってたら杉原さんも同じことを考えていた。


「さて、どうするかな。この人数でゾロゾロと行っても仕方ないんだが」


 うーんと顎に手を当てて考えている杉原さんの言葉に、ジェイクさんとサツキさんがそろっと手をあげる。


「俺とサツキはちと外れる。俺の身内がこの街に住んでるんで顔を見ておきたいんだ」

「おお、それは行っとかないとな」


 杉原さんがなんだか嬉しそう。

 そうなんだよね、私たちはこの世界で家族がいない。

 もちろん遠い親戚なんてものもありえないからジェイクさんがちょっとだけ羨ましいのと同時に、そんな人がいる世界を守れて嬉しくて、顔を見たいっていうジェイクさんの気持ちを大事にしてあげたい。


「ジェイクの従姉妹なんですって。結婚してお店をやってるそうだから後でみんなにも教えるね。じゃあまた後でね」


 二人は王都の西の方に寄り添いながら歩いていった。

 もしかして、ジェイクさんの親戚に結婚の挨拶をしておくのかななんて考えたけど、野暮なことは言わないようにしよう。

 二人の繋いだ手と表情を見ていたら何も言わなくてもわかっちゃった。

 圭人くんってば二人に当てられて照れちゃったのか、耳が赤い。

 一回首を振ってから私に向き直った時はいつもの顔に戻ってた。


「俺たちもこのまま移動しようか? ギルドに行くのは杉原さんだけでいいんじゃね?」

「私、作りたいものがあるから王都の外で小屋を出したいな」

「さっき陛下に言っていたやつですね。ありすが作りたいものは大体わかるから僕も手伝いますよ」

「おう、もちろん手伝う」


 夕彦くんと圭人くんに手伝ってもらったら百人力だね、私のイメージが足りないところを補足してもらうこともできるし。

 

 宿に部屋をとってもいいんだけど、作るものの大きさの見当がつかないので少し広めの場所が欲しいのよ。

 小屋のリビングはそれなりに広さもあるし、知らない人が来ることは絶対にないから安心できる。それに、もうこの世界での家という感じがしているから全く緊張しないところがいいのよね。

 キャンピングカーもあるけど、それよりも小屋がいいな。


「じゃあ私が杉原さんと行こうか。何かあったら連絡役になれるし」

「そうですね、人手が必要なことがあるかもしれないですし。光里なら僕たちのところに直に転移できます」

「ああ、光里にギルド前まで転移してもらえば楽だな。頼むわ」


三手に別れることが決まり、ここ、王都の入り口で一旦別れることになった。


 王都の外に出て、近くの森に向かう。

 結界を張って小屋を出してまずは一息つくために飲み物を出した。

 リビングのテーブルに温かいお茶とお菓子を並べると、夕彦くんと圭人くんが向かい合わせのいつもの席に着いた。圭人くんは私の右隣。

 お菓子はお芋に砂糖を絡めて作った芋けんぴ。カリカリした歯ごたえが美味しいので好き。


「すっかりここが俺たちの家だな。落ち着く」

「そうですね、城の中はどうにも」


 カリカリとお菓子をつまみながら珍しく言葉を濁す夕彦くんに、圭人くんは苦笑する。

 と、何かを思い出したように私の方を見た。


「そういえばありす、従魔のカモメはどうしたんだ?」

「エリックはちゃんとお仕事してくれてたよ。空からお城の壊れたところをチェックしてくれたり王都の外で魔獣が暴れていないか見てもらったりしていたの」


 エリックに従魔契約を解いてもいいよって言ったんだけど、一緒にいたいと言われて嬉しかった。

 私たちが王都にいる間は自由に動いてもらって、また移動することになったら着いていくって。その間のご飯はどうするのって聞いたら、川で魚を獲るそうです。

 足りなかったらもらいに行くって言われちゃった。たくましいね。


「さて、そろそろ作業するか? ありす」

 

 パンと手を叩きながら、圭人くんが立ち上がった。


「そうだね、作ろう」








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