第239話

「どこから手をつければいいのかな」


 私が情けない声を上げるのは仕方ないと思うんだ。

 ボロボロのままの謁見の間には、私と光里ちゃん、圭人くん、夕彦くんと上条さんの五人。


 王と公爵は城にいた人たちの無事を確認しに、万が一のことを考えて杉原さんを護衛として行ってしまった。転移が使える上条さんの方がいいのではと思ったのだけど、上条さんは王と公爵の代わりに城の修復をすることを選んだ。

 それにサツキさんとジェイクさんも念の為同行するって。ある程度人手があった方がいいものね。街の様子も気になるし。


「まずは城全体がどこまで壊れているかを確認しないといけないね。修復は簡単だよ、ありすが直してくれた材料を俺と夕彦が土魔法で組み立てていく」


 上条さんは、圭人くんと光里ちゃんに、城を見回って直さなくてはいけないところをチェックするように指示を出す。


「元の設計図はあるんですか?」


 光里ちゃんが、設計図にチェックしていけばいいんじゃないかと上条さんに尋ねた。


「困ったことに、ないんだよ。もちろん作った時は設計図があっただろうけど、それを残しておくことは色々と不都合があるからね。もし現存していたとしても、その時の監督していた者の所有だろうね」

「このお城が作られたのはいつ頃なんですか? 監督ってことは当時の宰相とか?」

「ああ、そうか。もしかしたら宰相室にあるかもしれないな。そこから見てみよう」


 ゾロゾロと全員で向かっても仕方ないので、私と夕彦くんは確実に一番被害が大きいこの謁見の間を直していることにした。


「夕彦くん、この柱なんていう形式だっけ。んーと、ぐるぐるだからイオニア式?」


 私は壊れた柱の無事な部分を見て夕彦くんに聞いてみた。これはいつだったか社会の授業でやったやつ。


「そうですね。シンプルだとドーリス式で装飾が豪華だとコリント式」

「……どうして、ここだけギリシア風なの」

「神様の趣味なんじゃないですか?」

 

 一回瓦礫をストレージに入れてから同じ場所に建てるので、ポイントがわからなくならないように台座を床に設置する。何せ設計図が現時点でないから、場所を動かさないように同じように作っていくしかないのだ。


「壁が壊れてなくて良かったけど、嵌めてあるガラスは割れちゃってるね」

「ガラスをどうやって外して、再び取り付けるか。そうですね、こうしましょう。ありす、試してみるから見ていてください」

「うん」


 夕彦くんはガラスの破片を私たちの目の前に転移させた。

 粉々なガラスは元々色がついていたのかな、琥珀糖が重なっているようにも見えて綺麗。

 他の壁にある無事なガラスを見たら、磨りガラスに金と緑の蔦が這っていて赤い木の実があしらってある意匠。なかなか手の込んだ素敵なデザインだった。何枚か無事で良かった。

 それぞれ木の実の位置や色が少しずつ違っているのが可愛い。

 大きさは全て同じだからこれを作ればいいのね。


「よーし、ガラスを作るね。ふふ、材料の足りない分は勝手にストレージから補充されるって、便利だわ」

「できたら僕に渡して下さい。一枚ずつ嵌め込んで、土魔法で固定していきます」


 壁が欠けたり壊れたところは元通りに直していって、ガラスが入ったらすっかり綺麗になった。ついでに色々な付与をつけて強度も上げておいたから、ちょっとやそっとじゃ壊れないよ。

 こうして、柱と床、壊れた玉座も綺麗にした。

 入り口から玉座にまで続く赤い絨毯、縁の金糸も鮮やかに。私の想像はヨーロッパのお城にあるようなものなんだけど、その通りのものが作れるって素敵。

 夕彦くんも付与魔法を使いつつ、柱の強度をあげたり少し魔力を流したら浄化するようにしたりしている。


「ありす、趣味丸出しですね」

「えへ」


 笑って誤魔化して、この空間を元の雰囲気をなるべく変えないようにグレードアップさせていく私たち。

 やりすぎないように気をつけながらもなんとか、謁見の間は元通りの姿を取り戻した。




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