第238話

 誰かが肩で息をしていることもなくしっかりと自分の足で立っている仲間たち、みんなそれほど体力的には疲れてないんだけど精神的にはかなりボロボロだろうなぁ。


 圭人くん、杉原さんは上条さんと何か話しながら眉を寄せている。

 どうやらアスコットの話をしてるのかな、圭人くんが天を仰いでいる時は辛い話がある時だから。

 夕彦くんと光里ちゃんはこの広い部屋に浄化をかけまくってる。

 浄化の魔法は広範囲には出来ないみたいで、二人で場所を決めて手分けしているの。そのおかげで酷い匂いが消えていって、次第に長かった戦いの気配も消えていくよう。

 サツキさんはジェイクさんとこの後のことを話してるようで、二人で時折目を合わせては頬を染めている。リア充ってやつですね。いいですね。

 みんな無事でここにいられることが、本当に奇跡だなって。

 私なんて一回死んでしまったしね。

 それを言うと光里ちゃんが気にしちゃうから絶対口に出さないけど。

 

 私は魔素に関することで、ちょっとした考えがあってそれを形に出来ないかなって考えている。


 魔王が消えた後に、静寂は訪れない。


 これがゲームの中だったら勇者と魔王が戦って、勇者一行の勝利のあとは王様に報告してパーティが開かれてめでたしめでたし。

 脅威から救われた民が大喜びで、勇者はお姫様と結婚して国を継いで幸せになって。

 そして大団円なエンドロールなんだけど。

 残念ながら現実はそうもいかない。


 何せこの最終決戦、戦いの場は戻るはずだった王国のお城の謁見の間。

 デンと構えて待っていてくださるはずだった王様はしっかりと戦いに巻き込まれて、そして今。

 ジュエル陛下は戦闘で疲れた体のまま、オランジェ公爵と二人でボロボロになってしまった柱や床を見ながらお城のことで頭を抱えている。


「後始末が大変だぞ、オランジェ公爵」

「税金を上げるわけに……、いかないでしょうな」


 魔素の減少や魔獣の増加で人々の生活も圧迫されている。

 私たちが北の国に入った後は魔素が足りなくてライフラインもめちゃくちゃになってしまったというから、この後、城の修復のために税金増額なんて無理なんだろう。

 私たちが魔法をバンバン使ったり旅をしたら魔素って循環されるんじゃないのって疑問が湧いたんだけど、それよりも邪竜が吸い取っていく量が多かったそうな。

 そこまで急いでいなかったけど、のんびりゆっくりしていることもなかったんだけどね。


 お城の、ううん、国の復旧か。


 ここは、私たちも手伝った方がいいよね。

 夕彦くんの肘あたりをクイっと引いて合図すると、私の言いたいことわかってくれたみたい。


「僕たちで良ければ、城の修復を手伝いますよ」

「俺たちでできることなら、遠慮なく使ってください」


 夕彦くんと圭人くんが、ジュエル陛下に向かって言うと、すぐに上条さんが満面の笑み。


「それはありがたい。俺たちそれぞれクリエイト系のスキルはあるし、材料ならありすに用意してもらえるかな。幸い瓦礫はたくさんあるからこれをそのまま使えるよ」


 前回賢者の上条さんは、ここセントリオ国では会計にも口を出す宰相でもあるから予算が気になっちゃってたみたい。

 二人の話にすごい勢いで食いついてきたぞ。


「ありがたいことです、勇者様方」

「頼む」


 公爵と王に頭を下げられてこちらが戸惑ってしまう。

 サクッと話がまとまる前に、サツキさんの疑問。それに上条さんが答えた。


「街の人へ還元しなくていいのかしら。こういう公共事業って大事な回りものではないの?」

「ん〜、平常時や小規模な修繕ならそれもいいんだけど、今回はそういうわけにいかないだろう。それに城が壊れたままというのは民衆に対して王家の権威の失墜に繋がるから、サクッと綺麗にしちゃいたいんだ」


 なるほど、王家も大変だわ。




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