それからいくつか
第237話 閑話 白
「すまなかった」
真っ白な世界で、真っ白な人はまた謝っていた。
創造神エアーの目の前には砕けた水晶。始まりの聖女クリアレスの魂を閉じ込めていたもの。
白いテーブルの中央にパラパラと散らばるかけらごと無造作に置かれた透明な水晶は、謁見の間で砕かれたそのままの形でここに転移されていた。
戦闘中だと言うのに転移という手段で水晶を移動させたのはそれ以上クリアレスの依代を破壊させるには忍びないというエアーの温情だったのだが、それはあの場にいたクリアレスを思うものにとっては悪手だった。
「いいのよ、それにこうなってしまったからには貴方にだって影響はあるんでしょう?」
水晶の上にほんのりと輝く光、クリアレスの魂はもう人の形をとることができないがこの聖域では創造神の力で、魂が留まり話すことだけなら可能だ。
「魔王や邪竜が暴れたせいで、神に祈っても何もないことがバレてしまった。僕の求心力なんて初めからないようなものだけどそれにしても酷いことになってるよ」
「そうでしょうね、何もしてくれない神より近くの領主って言うし」
元々、エアーは自分の作った世界に対して基本的に無関心だった。
無関心すぎることはいけないと思ったのは100年前の勇者・杉原キリと賢者・上条静流が召喚された時。
それでも地上をピンポイントで見るというのは神にとっては難しく、力になろうとして何度か成功をして味を占め調子に乗りすぎて、最後に大きな失敗を一つしてしまった。
魔王の魂の中に強大な力の一部を残したまま世界に放置してしまったのだ。
勇者に傷つけられ弱りながらどこかに消えた魔王の魂は、エアーにとっては対してことじゃないと考え、もしまた力をつけたとしても再び召喚された勇者が倒すだろうと安易に考えてしまった。
それが原因で西の国が一つ消えて、さらに大勢の人間や魔獣が命を落とすことになったのだが。
「僕は、神殿もないから」
「そういえば見たことないわね。貴方の姿を模した像もないわ」
神は信心の強さで力を増す。
だがエアーはそれすらどうでもいいと放置して、放置した結果こうなった。
そして出来たのは真っ白い世界。
まだ信徒が備えるもの、神殿があれば飾り、花の一つもこの世界を変えただろう。
「もう少し、貴方の世界を見てあげて。じゃないと私たちが頑張って救った意味がないじゃない。貴方の力が増したら魔王が生まれる頻度だってもっと……」
クリアレスが諭す言葉を嬉しそうに聞くエアーに、光が瞬く。
「クリアレス、君はこの後どうする? また聖女にすることもできるよ。ここまで貢献してくれたのだから」
「私の望みは……。ああ、やっと来てくれたわ」
壊れた水晶の横に小さな光が寄り添うように現れた。
「……アスコット。いや、この魂は賢者・鈴木アキラだね」
「エアーか、随分とご無沙汰だったな。莉亜、もう消えたかと思った。どうして俺はここにいる?」
魔獣の姿でさえ魔王を倒すことになった最初の賢者の生まれ変わり。
今世では王子として生まれながらも親兄弟、さらには国すら失った。
恨みつらみが溢れすぎて前世の恋人すら消そうとしてそれも出来なかった悲しい男。
「私の最後のお願い。エアー聞いて」
「ああ、なんでも」
だから、さあ言って。とエアーは先を促した。アキラの魂は不安そうにゆらっと揺れたが、クリアレスは動じない。
「莉亜?」
「アキラと私を同じ歳で生まれ変わらせてほしいの普通の人間として。でも記憶はもういらない。こんなスキルもつけないで」
「それじゃあ出会ってもわからないかもしれないよ?」
困惑するエアーに、クリアレスは笑い声。
神を戸惑わせることができる人間はそういないだろう。
「そうかしら」
「俺は! 俺はきっとわかる。出会ってわからなかったらそれでいい。でももしまた一緒になれるなら今度こそ普通に幸せにする」
「わかったよ。うん、軽い祝福だけつけさせて。どうか、次の生で幸せになってください」
神の軽い祝福。
運の数値が二人とも30になっていたのだが、次の生でステータスを見られることはなかった。
クリアレスの願い通りに、二人は出会い、恋をして、幸せになったようだ。
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