第234話
私はスリングを作る時に絶対に当たるようにと願いながら創造した。だからこれは当たるはず。
「よし、やるぞ」
できるだけ小さく、それでも自分には聞こえるように。
自分に気合いを入れるために声を出すのは大事。
スポーツの時だって、大きな舞台に立つ時だってそう、声が出ていないということは緊張やその他の要因があるってことだものね。
スキル剥がしの青い球をスリングにセットして、撃つ!
この球を作ってわかったんだけど、聖剣を作れたのは白い人の助けもあったみたい。
そして二本目は作れないということ。
神の力は私の手には大きすぎて、とてもじゃないけど制御しきれない。
これほど限定的な使い方をしても鼻血が出てしまうくらいだもの。
だからこの球を三つ作れたのは上出来。
「いっけぇええ!」
サグレットに向かってまっすぐ飛んでいく球は500円玉よりちょっとの重さがあって、当たったらそれなりにダメージも行くはず。
「む、小癪な。このようなものこうしてくれる」
サグレットは私が撃った球に気付いた途端、着ているローブの袖をばさっと翻して球に覆い被せてその勢いを殺した。
弾かれてしまった青い球は床に転がり、ポンという軽い音を立てて爆発霧散した。
「せめて体のどこかに当たれば、効果を発揮するのに」
体のどこかなら服の上でも大丈夫だけど、中身のない袖だけじゃダメみたい。
それより、もう一発あるなんて思わないだろうし、私がやろうとしたことを圭人くん、杉原さんとジェイクさんも気付いてくれてサグレットに切り掛かった。
「ありすのやることだ、なんか意味があるんだろう?」
圭人くんの聖剣がキラッと輝くのってまるで勇者だよね。
サグレットは圭人くんの剣をすごく警戒している、というより圭人くんだけを気にしていたのに今は私の方も気にしてて注意力が少し散漫かな。
杉原さんが右から胴を目掛けて剣を薙ぎ払い、ジェイクさんが床を蹴って上から叩きつけるように斬る。サグレットの体には傷ひとつつけることはないけれど、怯ませることは可能。
「ぐっ、貴様ら」
体のバランスを崩すサグレットに今が好機と、私は次の球をスリングにセットした。
「今度こそ!」
球の軌道は先ほどよりも低めにして、腰から下の避けられないようなところを狙ってみる。
スリングを撃ち出す時に反動はほとんどないから、私は腰を少し落としてトリガーを引いた。
「あっ!」
失敗した、ダメだ。
サグレットが、私を見てニヤリと笑った。
三人からの剣を避けながら、私を、私が撃った球の軌道を見て、難なくかわされる。
「ふっ」
「ありす、次は!」
「圭人くんごめん、もう持ってない」
「了解!」
ヘナっと座り込みそうな私を光里ちゃんが支えてくれながらこそっと囁かれる。
「ありす、そのまま情けない顔してて」
「ふえぇ?」
サグレットの後方でサツキさんがへろっとした軌跡で球を投げるのが見える。
あれ、当たったらすごいんだけど。
そのままコツンとサグレットの後頭部に当たった。
バリバリバリバリと雷がなるような嫌な音がしたと思ったら、パリパリパリと薄いガラスが割れるような、軽やかな音。
「ぐっ、貴様、貴様、何をしたぁあああ!! お前か! 錬金術師!」
サグレットは一瞬サツキさんの方に振り返ったけれど、すぐにこちらを見た球を作り出したのが私だと気づかれてしまったみたい。
しわくちゃな手が、こちらに伸びたと思ったら赤い影のようなものがググッと迫ってきた。
バリンと大きな音がして結界が割れた。
その瞬間、夕彦くんと上条さんの魔法がサグレットに当たる。
通用しなかったのが聞くようになってるということは、青い球がちゃんと効いたんだわ。
「ありすに手を出すな!」
圭人くんの剣がやっと、魔法で傷ついたサグレットを捉えた。
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