第233話

「上条さん! 攻撃通らないじゃないですか! やだー!」


 軽いパニックになったようにサツキさんが叫ぶ。

 近距離から投げた苦無がサグレットの体にたどり着いたと思ったら刺さらずに蒸発してしまったのだから、それは焦るよね。


「うーん、魔王補正はサグレット本人のものだからしょうがないか、ごめんね」


 それでも苦無を投げ続けるサツキさんに向かってウィンクをしながら、ちっとも悪いことしたと思ってない顔で謝る上条さんは自身も攻撃魔法の手を緩めない。

 サグレットが召喚をしなくなったということは、触媒が尽きたのだろう。

杖が無いから両手を目の高さくらいに翳して魔法陣を描いている。そこから出てくる魔法は黒い炎。

 みんなとっくに結界の盾は壊れて、私には一人ずつ張りに行く余裕はない。


「……イケメン、許す。まあ手数が多ければ攻撃の手も減るかな、ガンガン行きます!」

「俺たちがサグレットの動きを鈍らすから、圭人頑張れ」

「了解っす!」


 勇者である圭人くんが切り掛かって行った時にはサグレットも焦るようで、防御を厚くしている。

 聖剣を使える圭人くんなら確実にサグレットにダメージを与えることが出来るから、みんな圭人くんのサポートに回っている。

 アスコットも魔獣の体のままサグレットに向かっているけれど流れた血はすぐには戻らないので動きが悪い。あと、大きめの体は的になりやすいから攻撃魔法を受けてしまっている。

 光里ちゃんが回復して治った体に、新しい怪我をしていた。


 私はストレージに入ってる回復薬を取り出して一気に飲んだ。

 エリックの使う超回復は、エリック自身のMPで足りなかったら私のMPがごっそり持っていかれるの。なのでそれを回復。


 サグレットは魔法耐性が高いようで、上条さんの氷魔法、夕彦くんの風魔法は当たっているけどよろけるだけでダメージは高くないみたい。あの魔法耐性、剥がせないかな。


 想像して創造する。

 神の鍵はスキルを剥がすんだよね、魔王であるサグレットの鑑定はできないけど魔法耐性を持っていることは確実っぽい。だったらそれだけ取り上げることはできないかしら。

 ストレージにあるもの、杉原さんから貴重な素材をたくさん貰っているからそれでなんとかならないかな。

 そうして作り出したのは魔法耐性を剥がす球。手のひらの上に3個の透明な青い球が現れた。

 ああよかったと思ったら、なぜかツーンと鼻の奥が痛くなってからの、たらっとした覚えのある何かが流れる感触。


「きゃ! 何してるのありす! 鼻血出てる!」

「うー、ちょっぴりキャパオーバーしちゃったみたい。光里ちゃん助けてー、浄化して」

「ばかばか、無理しちゃダメでしょ」


 叱りながらちゃんと浄化と回復してくれる光里ちゃんにお礼を言いながら、スリングを構えようとした。

 けれどその前に、確実にこれをサグレットに当てるには私じゃダメかもしれない。


「サツキさん、助けて〜」

 

 少し小さめの声だったけどサツキさんにはちゃんと聞こえて、すぐにそばに来てくれた。


「なになにありすちゃん、なんでも助けちゃうわよ。お姉さんに言ってごらんなさい」

「これ、サグレットにぶつけてください」

「? よくわからないけどわかったわ。お姉さん頑張るね!」


 ポンと青い球を1個サツキさんに渡したら、にっこり微笑んで受け取ってくれた。

 話が早くていいのだけど。

 これでいいのかなと思うことも多々ありますが、サツキさんは大体こんな感じと納得。

 そして私なりのミッション開始。

 サグレットの魔法防御を剥がして攻撃魔法が通るようにするぞっ。


「ジェイク、俺が切り掛かったら背後に回れ」

「おう、任せろ」


 杉原さんとジェイクさんが連携で、サグレットに隙を作ろうとしている。

 二人の剣で怯んだところを圭人くんが狙うようだ。

 





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