第232話

 私の従魔エリックの種族イエローシーガルは、見た目は私たちのよく知る海のそばで群れをなすカモメにそっくり。

 まあ、名前のシーガルは元々カモメのことだもんね、これは白い人か転生者がそう名付けたんだろう。

 そして、白い美しいフォルム、流線型の体型に似つかわしくなく地球のカモメは飛ぶのが遅い。

 どのくらい遅いかというとその辺のカラスやスズメより遅い。カラスと飛び比べをしたらきっと負けちゃう。

 異世界のカモメはどうかなって思ったんだけど、どうやらエリックは無意識に身体強化の魔法を使っている節があって時々すごく早い。

 だから、私は希望を込めてエリックにお願いした。

 せめてあの魔道具の杖をサグレットから離すことができたら、この膠着した戦況に大きな変化が訪れるんじゃないだろうかと思って。


『いくよ!』


 エリックは天井の一番高いところから流星のようなとてつもない速さで、杖で魔法陣を描くように踊らせているサグレットの腕を目掛けて落ちていった。


 その速さではエリックも無事じゃ済まない!

 私のバカ、エリックの献身を甘く見ていた。まさか、自分を犠牲にしてまで私の願いを叶えようとするなんて。

 あの子はあの子なりにどうしたらそれを叶えられるか、それに辿り着く最短距離を導き出してこうしたんだろう。


ドン! と大きな音がした後、カラカラカラという何かが転がる乾いた音がした。


「っ、この、魔獣風情がぁああああ!」


 杖を取り落として焦ったサグレットはその勢いのまま腕を振り払い、それはエリックの体を床に叩き落とした。腕が相当痺れているのか、エリックの勢いが強かったのだろう、杖を拾いにいけないようだ。


 クゥ、クゥー


 ボロボロの床で大きく羽根を広げたエリックは、すぐに羽根を畳みその場から飛ぼうとした。


「逃すか!」


 サグレットの炎魔法が、エリックを襲う。

 魔法の赤い炎が、エリックを包み炎の中からクゥという切ない声が聞こえた。


「させるか!」


 上条さんの氷魔法が炎に重ねられ、ジュワッと蒸発する。

 その間に落ちた長杖を圭人くんが素早くストレージに回収した。手を触れずにできることがありがたい。

サグレットの長杖にどんな効果があるのかわからないけど、魔法の威力が落ちるならいい。


 クゥ

 ボロボロになったエリックが水蒸気の中から現れる。


『エリック! 超回復を使うのよ!』

『……うん』


 私からごそっと魔力が抜けた感覚がする。

 エリックの体が柔らかい光に包まれて、焼け焦げた羽根なんて一枚もない、いつもの可愛い姿に戻った。


 竜のヨアヒムさんがくれた私と従魔の間で使える超回復スキル、これがなかったらエリックは死んでいた。

 本当に、ありがとうございます。

 この戦いが終わったら、またお礼に、会いに行きます。


 私はエリックに、天窓から外に出てここから逃げ出すように伝えた。

 これ以上は私たちのやることだから、エリックはもう十分。それよりも怖かっただろうから少し休んでほしい。


『ありす、また呼んでね』

『うん、いつ呼んでも大丈夫なようにちゃんと回復しててね』


 私が念話でそう言うと、エリックはわかったよと言うようにクゥと鳴いて飛び立った。


「エリック、すごいね。本当に助かったわ」

「後で褒めてやろうぜ」


 光里ちゃんと杉原さんに褒められて、自分のことのように嬉しくなる。

 たくさん褒めてあげよう。光里ちゃんに頼んで海のそばに転移して、新鮮なお魚をいっぱい食べさせてあげるのもいいね。

 さて、気を引き締めないとね。


「杖を失ったサグレットは、ちょっと強い魔法使いくらいだから倒せるよ。みんな、突撃だ」


上条さんの合図で、総攻撃。







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