第224話

 いつか、考えたことがある。

 死んでしまったら魂はどこに行くのだろうか。

 もし生まれ変わったとして、その体に元々あった魂はどうなるのか。

 自分自身に生まれ変わっても、それは本当に自分なのだろうか。

 一回途切れた命が、同じ人間になることは可能なのだろうか。


 それは、杞憂だったのかもしれない。


 だって私は一回死んで生き返り、今こうして大好きな幼馴染の腕の中にいる。

 ぎゅーっと私を抱きしめる光里ちゃんに、誰も口を出せない。と言っても今私たちを気にしてるのサツキさんだけだわ。そのワキワキとした手は何かしら。


 いや、圭人くんや杉原さんは戦闘の方が忙しくてそれどころじゃないと思うのよ。

 私たちはノイチラスの洞窟から転移して謁見の間の中央にいたはずだったのだけど、気がついたら後方にはすぐ玉座。サグレットの激しい攻撃魔法から避けている間にここまで追い詰められてしまったのね。


 私たちがいた場所にアスコットがしゃがんでいるんだけど、何をしているんだろう。小さい体が余計に小さく、子どもに見えてしまう。


 それにしても、光里ちゃんの膝に乗せられ覆い被さるように抱きしめられてるんだけど、少々力強すぎな気がするんですよね。


「光里ちゃん、苦しいよ」


モゾモゾと体勢を変えようとしたら、さらにぎゅっとされて私は違う理由で死にそうよ。大丈夫だよ、私は生きてる。そう言いながら光里ちゃんの腕をぽんぽんと叩いたら、少しだけ抱きしめる腕を緩めてくれた。


「以前、魔法をもらった時にクリアレスに教えてもらっていたの。蘇生魔法をかけるには時間制限があるって。だから私、急がなきゃって、ありすが、ちゃんと生き返れないと庇ってもらった意味がなくなっちゃう」

「意味なんて考えなくていいよ、光里ちゃんが無事でよかった」

「ありす!」

「あんまり泣くと美人さんが台無しだよ。……っ!」

「きゃっ!」


 そんな呑気なやりとりをしていた私たちの横を、炎の球が掠めた。


「光里、ありす、生き返って早々すまないが奴ら強いんだ。手を貸してくれ!」


 杉原さんが炎の球を切り、返した刃を熊の魔獣の喉元に叩き込んだ。

 また召喚魔法を唱えてるのかと思ったら、魔法陣がない。

 一体どうやってるのかとサグレットを見たら、石のようなものを撒き散らしている。そして石が地面に落ちると、そこから魔獣がまるで孵化するようにぽこんと出現した。

 幼生だったら可愛いかもしれないけど残念ながら成獣だわ。


「リジェネーション! これで疲労も少しずつ回復するから」


光里ちゃんが仲間全員に徐々に回復する魔法をかけてくれた。HPが減ると疲労も溜まってしまう。つまり疲労回復するにはHPを満タンにしたらいいってこと。


「光里ちゃん、アスコットは何をしてるの?」

「ありすに当たった魔法はアスコットの持っていた水晶にも当たったの。……クリアレスの水晶は割れてしまった。そのせいか、アスコットはさっきからあの状態」


 アスコットが私たちのいた中央付近で蹲っている。

 この機を逃しちゃいけない。私には彼に聞かないといけないことがあるんだ。

 私は自分に結界をかけてアスコットのそばに行った。


「アスコット、どうしてあなたが魔王と手を組んだの?」


 賢者だったアスコットが敵だった魔王という存在と手を組んでこうして勇者と戦うなんて、おかしすぎる。

 だから、その理由を知りたかった。


「魔王、まさか、サグレットは」


 圭人くんが驚いている。杉原さんと上条さんは予想がついていたようでやっぱりという表情。


「そう、サグレットこそ圭人くんが倒さなくちゃいけない魔王よ」


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